鈴鳴カフェ

ポケモンの二次創作とオリキャラの小説を連載しています。

last soul 第30話

《この物語には死ネタ、暴力表現等の描写があります。閲覧する際はご注意ください》





~危機~


「にゃ~にゃ~にゃにゃ~♪」
歩き始めて、一、二分くらいが経った。マリちゃんが私に襲いかかることもなく、優しく道案内をしてくれていた。暗くなったから気を付けて、とか、歩くスピードは平気かどうか、とか。普段の先輩より優しいエスコートを受けていた。
……本来なら、敵なんだろう。ギルドが敵と判断するような、裏組織の人なんだろう。コウくんが反応したということは、そういうことなのだから。でも、全くそんな風に見えないのは、優しくされて情が移ったからなのか、マリちゃんの本心なのか。
「にゃ~……にゃっ?」
「マリちゃん……?」
楽しそうに鼻歌を歌っていたのに、ぴたりと歩みと共に止まった。見るからに不機嫌になっていくのも分かる。
「みられてるのだ。そのめ、やなのだー!」
ふっと目の前から消えたと思ったら、右の方からどんっと衝撃が伝わってきた。それと同時にマリちゃんが何かに突っ込んだ音だと気付いた。
「マ、マリちゃーん! あんまり物は壊しちゃ駄目だよ! 物って言うか……自然! 大切に!」
「はーい、なのだよー!」
ひょっこりと草むらから出てきたマリちゃんはずるずる何かを引っ張りながら戻ってきた。それがなんなのか、嫌でも分かる。人の死体だ。ぴくりともしないそれに目を合わせることが出来ず、反射的に目を逸らしてしまった。
「……あの、マリちゃん? それって」
「てき、なのだ。うーん。なんだか、おおいきがする。おーえん、されたのだ??」
「応援……?」
「なかま、よばれたのだよ。たぶん、きっと、そーなのだよー! めーんどーは、たいちょーもふくたいちょーもふくふくたいちょーも……あ、みーもきらいなのにゃ」
嫌がるような表情をした後、ぽいっとゴミでも捨てるように敵だったものを放った。草むらの影に隠れて、私からは見えなくなる。
「おねーさん、みーから、はなれるの、だめだめなのね」
「分かった……」
コウくんを探しに来たときに、嗅いだ嫌な臭いの正体が分かった。血の臭いだったのだ。それも大量に流れすぎていて、生臭く、腐敗したような臭いがしていた。先輩はそれを私に見せないようにしていたのか。……耐性がないから、見せられないと判断してくれたのだ。
優しくないなんて思ったこと、撤回しますね、先輩……!
「うり?」
「今度はどうし……あ」
数人、私達の方に向かってきている。遠目だけれど、武器を持っているのも確認出来た。つまり、マリちゃんの言う、応援、つまり援軍だろう。
「なんだかおーいのにゃ? そんなにいたのだ?」
「いやいや、呑気過ぎるよ!? どこかに隠れないと……あーでも、そんなとこしても無駄、なのかな?」
「かくれんぼのひつようはないのだ♪ みーがころころすれば、ばんばんじーなのだ!」
えっと……ころころ? ばんばんじー? あ、棒々鶏……? いや、そんなのはどうでもよくって!
「危ないことはしちゃ駄目だから!」
「あぶぅ? らいじょーぶい♪」
わ、分かってない! 分かってないよ、マリちゃん! いや、さっきの行動でマリちゃんが強いんだろうなってのは分かったし、木もへし折っちゃうくらい強いのも承知だけど!
「マリちゃんが危ない……怪我するところは見たくないよ。私じゃどうすることも出来ないから、余計に申し訳ないと言うか……あう。その、私の自己満足なんだけど、危険なことはしないで欲しい」
「うにゅ……おねーさん、みーがいたいいたいするの、やなの?」
「うん。嫌だ」
「うー……うーうー……うん。わかった。ころころしない! いたいいたいならないよーにがんばる!」
一頻り悩んだ後、パッと顔を明るくさせながら、私と約束してくれた。
「だから、みー、おねーさんまもるのだ。あんぜん、あんしんに、じっこーするのだ!」
「うん。ありがとう」
……あれ、なんで私、こんなことしてるんだったっけ。敵とも味方とも言えない子と命の危機に晒されてるんだろうか。

危険なことはしないでくれと言ったはいいが、結論から言えば危険なことにはならなかった。マリちゃんは、前から横から襲いかかる敵達を片っ端から倒していた。武器なんて持たず、素手で千切っては投げ、千切っては投げの繰り返し。もちろん、実際に千切ってはないんだけれど、そんな風に思うくらい華麗な手さばきだった。私の心配なんていらないくらい、彼女は強いということなのだ。
「ここに来て、私、なんにもしてないなぁ……」
「にゃーはっはー! おまえたちが、みーにかてるわけないんじゃー♪」
あぁ……めっちゃ笑ってる。楽しそう……
私はというと、マリちゃんから離れた位置にいた。被害が飛んでこないくらい離れている。敵はどこから出てくるのか分からないが減る気配はない。
「ゲームの敵キャラが無限湧きしてるみたいだ……そんなに大きな組織だったのかな……?」
それとも、小さな組織が手を組んでここまでやっている、とか? いや、それはどうなんだろう。そこまでする意味はなんだろう。そこまでする理由なんてないように思える。私の乏しい知識では想像することすら困難だ。考えるための材料がない。
「! おねーさん! うしろ!」
「えっ」
そして、私は気付いた。離れていたとはいえ、ここは戦場であったことを。安全地帯なんてないことを。それに私が気付いたのは、愚かにも事が始まってからだった。
私の背後に二人、剣を構えた敵がいた。恐らく、私の後ろにそっと回ってきたのだ。そして、私はマリちゃんに言われるまで全く気付かなかった。ここから短剣を抜いたとしても対応なんて出来る気がしない。そもそも、対応なんて出来るはずもない。避けようにも、体が反応してくれなかった。
これは……私、どうなるんだ……? 分からないけど、大変なことになるのは確かで……いや、理解してても、信じたくないんだ。
襲いかかるであろう痛みを想像して、思わずぎゅっと目を閉じた。



~あとがき~
もしかしたら、いつもより短いかもしれませぬ。
でもきりがいいので、ここまでです(笑)

次回、背後から襲われたサファの運命は!?

書いてて思ったけど、マリとサファのコンビがなかなかいいですね。サファは普段から紅火相手にお姉さんしてるので、そのノリでマリにも接してます。まだ経験も戦いの知識もないので弱いサファ。誰かに守られるポジションです。お姫様かな?
まあ、本当はマリはもう少し後に出す予定だったんですけどね。出したくなっちゃった☆

敵が誰とか描写しないのは考えるのが面倒なのと、すぐにさよならするモブさんなので、描写していません。その他大勢、みたいな感じなので、読んでる人にお任せします。私も大して考えてませんし。
逆に言えば、描写しているってことは、それなりの役割を持ってるってことですね。きっと、多分、恐らく。

ではでは。

last soul 第29話

《この物語には死ネタ、暴力表現等の描写があります。閲覧する際はご注意ください》





~一時的協定~


コウくんに渡されたピンバッジはスカーフの裏にとりあえず着けておく。なんの意味があるのか知らないけれど、渡したからには必要になるんだろう。短剣は装備する用のベルトなんか持っていないので、胸の高さに両手で持っていた。
「ど、ど、どうしたらいいんだ!!」
訳もわからず走っているけれど、どうしたらいいのかさっぱりだ。どこかに隠れてコウくんを待つ方がいいのか、一人で別の出口を探して大通りに出た方がいいのか。全く分からなかった。さっきまでは、逃げた方がいいと思っていたけれど、コウくんと別れた今、待つか逃げるか、正解が分からない。
「先輩、助けてぇぇ!!」
なんでいないの、あの人!! なんでいないんじゃあぁぁぁ!!!
どれくらい走ったのか分からない。コウくんとどれくらい離れたのか分からない。ただ闇雲に走っていたせいで、出口もよく分からない。日も暮れてきたんだから、あとは真っ暗になってしまう。そうなったら、何も出来ない。野宿するしかない……敵の襲撃を警戒しながら、一人で夜が明けるのを待つしかない。……いや、そんなの無理。出来っこないよ!
「うぅぅうっ」
なんだか分からないけど、泣けてきた。なんでこんなことになってるの? どうしてこんなに悪い状況に? 先輩と別れた後、状況が悪い方へと転がり過ぎじゃない? 私、何か悪いことしましたか!?
気を落ち着かせるために、草むらに入って、草影に隠れる。浅い呼吸を整えるために、何度も深呼吸をした。
「落ち着け落ち着け……いつかはこんな日来るんだって知っていたんだから、焦るな……落ち着け」
頭の中は混乱しているけれど、とにかく落ち着かなければ。テンパって、大事なことを見落としては先輩に笑われるだけだ。
「コウくんには逃げろって言われた……けど、あんな状態のコウくんを置いて行けない、よね……」
しかし、戻るにしても元の場所なんて分かりっこなかった。闇雲に走ったせいで自分がどこにいるのかさえ、はっきりしていない。
「……一日くらい、寝なくても大丈夫……というか、怖くて寝てなんていられない。……身を隠せるところを探して、じっとしてよう」
敵がうろうろしているかもしれない所に、実力も経験もない私が対応出来るはずもない。それならじっと待って、味方の援護でも待っている方が得策だ。しかし、こんな森の中に隠れられる場所なんてあるのだろうか。……まあ、探してみるしかないか。
そう思って、辺りを見回していたとき。
「におーうー! おねーさん、どこだー!」
!? 誰だ。迷子……なわけないよね。この状況で迷子の女の子がいるなんてあり得ない。十中八九敵、だろう。
咄嗟に近くの木に身を隠した。幸いなことに、女の子の姿は私から確認出来なかった。となれば、あちらも確認出来ていないだろう。
「声からして、女の子なんだけど……なんで私を追いかけてきたんだろう……いや、逃げたから追ったんだろうけど」
息を殺し、なるべく居場所を悟られないようにする。上手く出来ているか分からないが、教わったようにやるだけ。
「うにゅう~……いないのだ、いないのだ!」
まだ私のことを探している? そっと逃げ出そうか……いや、そんな技術、私にはない。じっと動かず、去るのを待った方がいい。
「…………うりゅりゅ? あやしーぞー? あやしーぞー!」
怪しいと言った瞬間。
私が身を隠していた木が一瞬にしてなくなった。何が起こったのか理解出来なかった。いや、理解は出来なくとも、どうしてこうなったかは客観的に分析は出来た。
木を女の子が倒してしまったのだ。道具なんて使わず、生身の力のみで。しかし、それが分かったとして、私に出来ることなんて何もない。恐怖することしか出来ない。
「っ!?」
「みつけたのだっ! でもでも、つかまえないとおにごっこは、おわらない。だから、おねーさんに、たっちするのだぁ~♪」
フードを被っていたせいで、種族は分からないけれど、口元は見えた。彼女は満面の笑みを浮かべていた。淀みのない笑顔。何もなければ可愛らしい笑顔だなという感想で終わる。しかし、今は異常事態だ。この状況で笑顔を見せられて、恐怖しない方がおかしい。
「にげ、なきゃ……」
震える声で自分のやるべきことを確認する。倒せるわけがない。相手は素手で木を倒すくらいの怪力を見せているのだ。しかし、体は正直なものだ。全く動こうとしてくれない。完全に足が竦んでしまっている。
「おーりょりょ? ありゃりゃ? おねーさん、こわい?? みー、こわいことしないよ??」
もう、してるから!! しちゃってるから! 思いっきり目の前でしてる!
「みーね、おねーさん、にげるから、おいかけたの! それだけだよ?」
「そりゃ、逃げるよ! だって敵なんでしょ!?」
「てき?? みー、てきじゃない。たいちょーも、てきじゃないのだ。ふくたいちょーも、ふくふくたいちょーも、てきじゃないのだ」
……ノイズさんを襲った人達とは関係ないらしい?
女の子は私のことは気にせずに話を進める。
「みー、めーれーでうごくのだ。めーれー、みはりだったのだ」
「み、見張り?」
「みはりなのだ。みるのだ。それがしごとなのだ。でもでも、たまたま、おねーさん、みかけたのだ。で、かんちがいされた」
早とちりってこと? いや、でも、一般人ならコウくんがあそこまで反応なんてしない。コウくんが反応したということは、普通の人ではない……まあ、木を軽々折る人は普通の人ではないけれど。
「かこのことねちねちするの、よくないことだって。だから、ばいばいしたの」
「……どういうこと?」
「ううー……みー、むずかしーこと、わからにゃいのら~? みーはいわれたことをやるだけなの!」
ゆらゆらと体を揺らしながら、楽しそうに話してくれた。今日あった出来事を話す子供のように、至極当たり前のことをするように。
「ここ、ひろいのだ。まぐー、いっぱいやっつけたけど、にげたやつもいる。だから、あぶないの」
まぐー、とはコウくんのことだろうか。マグマラシだから、まぐー……?
コウくんが倒した敵が全員でなかったということだろうか。けれど、処理班とやらがやって来たのではなかったか。
「しょりはん、いなくなったあと、またうごきはじめた。だから、みー、さがしてたの。みはりだったから」
つまり、この子は少なくとも私達の敵ではないのか……? むしろ、ノイズさんと敵対している人達をどうにかしようとしている?
「あ、あの! あなたは、私をどうこうしようとしてない、の? その、殺したり、しない?」
「しないのだ。たいちょーもふくたいちょーもふくふくたいちょーも、そんなこと、いってないもん」
とりあえず、安心していいのだろうか。まあ、ある程度の警戒はしておくべきなのだろうが、今は命を狙われるようなことはない、と判断していいのか。
「おねーさん、もう、こわくない?」
「う、うん……まあ、少しは平気になった」
「わーい! よかったのだー!」
くるくると嬉しそうに回る。欲しいものを買って貰った子供のように、はしゃいでいた。
「おねーさん、おなまえは? みー、みんなに『マリ』ってよばれてるのだー」
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自己紹介をしながら、被っていたフードを脱いでくれた。幼さの残るイーブイの女の子だった。歳は私と同じくらいか下に見えるけれど、実際はよく分からなかった。
本名じゃないし、教えても問題はない、よな。相手も名乗ったんだ。こちらも名乗るべきだ。
「えっと、サファだよ。……あの、マリちゃん。森の出口、知らない?」
「おねーさん、ここからでたいの? なら、みーがあんないするのだー」
くるりと方向転換をして、私の前を歩き出した。その数歩後ろをついていく。
なんだか、変なことになってきた……



~あとがき~
紅火は一話で終わりましたが、サファは一話で終わりません。

次回、マリと行動することになったサファ、無事に森を脱出することが出来るのか!?

マリちゃん、台詞が全部平仮名なので読みにくいかもしれませんが、仕方ないね。そういう子なの。謎が多いし、完全に味方という訳ではないけれど、とりあえず危険はないです。多分。はい。

挿し絵を久しぶりに描いていたら、週一更新途切れましたね。ごめんなさい! 小説のストックはあるんだけども、絵が出来ないという……これからもそんなことあると思います。はい。まあ、絵が出来なくても、話が書けないことは大いにあり得ますけどね(笑)

ではでは。

last soul 第28話

《この物語には死ネタ、暴力表現等の描写があります。閲覧する際はご注意ください》





~選択~


サファを逃がした後、改めて敵の観察をした。種族、性別等は分からないが、一人は自分より少しだけ背が低く、もう一人は自分より高かった。敵の外見情報はそんなところであった。
気配を察知するのが遅れて、ここまで接近されたのだと思うと悔しくて仕方がない。
「……紅の一族の一人。紅火・フレイヤくん……で、合ってるかな?」
背が高い方が紅火に話しかけてきた。声からして男だろう。首を少しだけ傾げ、警戒心のない声で問う。
「一緒にいたのは……君のお姉さん? でも、種族違うけどなぁ」
「……それを教えて、何になる?」
「ん? 特には?」
表情は読めないが、恐らくは笑っているのだ。声でなんとなく察していた。そして、雰囲気からして、今の紅火では倒せるか怪しいところであった。一人ならともかく、二人相手は正直なところ厳しい。雑魚ならまだしも、目の前の二人はそうではないのははっきりと感じ取れたのだ。
「んううぅっ!! たいちょー! ふくたいちょー! ふくふくたいちょぉぉぉ!!」
男の隣に立っていた人がいきなり叫び始めた。声は高く、普通に話していれば可愛らしい声である。このことから、男女のペアであることが分かる。男が隊長なのか、副隊長なのか、副々隊長なのかは分からないが。男が女の方を少しだけ見て、たしなめるように言う。
「あーはいはいはい? えっと、ちょーっと静かにしようねぇ?」
「ひまなのだ! おいかけるのだ!!」
「はあ? そんなことさせないけど」
女の言動に紅火はより一層警戒心を強くする。しかし、そのせいで、ぐらりと視界が揺れた。警戒するほど、目眩がしてくる。集中すればするほど、思考が働かなくなっていた。“探知”したせいで、頭が上手く働いていないのだ。しかし、それを悟られれば終わり。紅火は悟られないように気丈に振る舞う。
「お前達は何。さっきの奴らの仲間? 助太刀にでも来たの? それにしては遅すぎるけど」
「ん? んん? いやいや、違う。そいつらとは無関係……いや、無関係ではないけど、組織は全く別物だからね」
つまり、ノイズを拐ったと思われる奴と目の前の奴らは別組織の人であるということだろう。しかし、無関係ではないとするなら、それは同盟でも組んでいたのか、協力関係にあったのか、そのどちらかであることは確かだ。
「おじさん達の目的は別にあるんだよー」
「別のって……」
「むー! むーむー! ひーまーなーのーだー! がまんできないのだ! おねーさん、おいかけるんじゃー♪」
またいきなり大声で叫ぶと、女は助走なしで紅火の頭上を軽々と飛び越えた。その際にフードが脱げ、顔が露になったにも関わらず、くるりとこちらを振り返った。彼女はイーブイだった。しかし、瞳は光なんてものはなく、漆黒に染まっている。見ているだけで飲まれそうになるほどの、黒。そんな死んだ目をしているが、口はにっこりと笑っていた。そんな彼女に紅火は不覚にも恐怖を覚える。死体以外でこんな目をする人を見たことがなかったから。
「あははっ! おいかけっこ! たのしーたのしーおにごっこ! おには、みー、なのだ!」
それだけ紅火に向かって言うと、サファが走っていった方向へ行ってしまった。
「あっ……こら! フード被り直していけ!」
「……逃がすかっ!」
腰のホルダーから銃を取り出し、イーブイに向けて撃つ。……正確には撃とうとしたのだが、銃は弾切れをしていて、使い物にならなかった。先程の戦いで全て使い果たしていたのだ。
「くそっ!」
紅火は銃をホルダーに仕舞うと、イーブイの後を追おうとしたが、それは男に立ち塞がれてしまう。
「退け」
「待てって。俺達、敵意はないんだ。いや、あのアホは走ってたから説得力ねぇんだけど」
「退けって言ってるんだ」
「じゃあ、取引しよう! お前は逃がしてやる。元々、どっか行く予定だったんだろう? 別に邪魔したい訳じゃないから、行っていい。代わりに、俺はアホ追いかける。あの青エーフィちゃんの無事は保証するから」
「……お互いがお互いを見逃せって?」
「そうそう。話が分かるねぇ」
この話を飲んで、サファが無事に帰ってくる保証はどこにもなかった。男は命は保証すると言っていたが、信用に値するかと問われれば、答えはNOである。
「リスクが大きすぎる。お前の方が得するんじゃないか? 姉ちゃんが戻ってくるなんて証明出来やしない」
「そうねぇ……おじさん、あれなのよ。戦闘民族? じゃないんだよ。だから、あれこれ言ってるけど、要するにお前とやり合いたくないだけ」
「条件飲んだとしても、俺が姉ちゃんを追いかけるかもよ?」
「それはそれで構いませんぜ~……けど、それは得策でないことくらい、自分自身が分かってるんじゃないか?」
確かにそうだ。ラグとの約束もあるし、一人の人命もかかっている。紅火がここで後戻りすればするほど、場所を伝える時間が遅れる。遅れれば紅火が得た情報は古いものになり、使い物にならなくなるかもしれない。そうなれば、ここまでしてきた意味もない。
つまり、初めから、紅火の選択肢は一つしか許されていないのだ。仕事として、一人の暗殺者として、ここはサファを置いて行くしかない。今の紅火には、目の前の男を倒し、サファを追いかけて助ける力はないのだから。
「……チッ」
「理解したかい? あーっと……さっき言いかけたけど、俺達の目的は君達の殺しじゃない。だから、殺すことはしないし、傷付けるようなこともしない。無駄な殺生はしたくない主義なの」
「あのイーブイも同じだと?」
「馬鹿だけどね、言われたことはきちんと守るタイプだから大丈夫。鬼ごっこって言ってたから、青エーフィちゃんを捕まえはするだろうけど、傷付けはしない」
嘘をついているようには聞こえなかった。表情は読めないし、心を読むことは出来ないが、声だけ聞くと全て本当のことを言っていると判断出来た。それは、紅火の暗殺者としての勘でもあった。
だから、今はその勘を信じるしかなかった。
紅火は持っていた剣を鞘に収め、森の出口へと走っていった。男は言った通り、紅火の後を追いかけることはせず、自分の仲間を追うために紅火から遠ざかった。
「くそ……俺はまた、こんな選択しか……逃げる選択しか取れないのか……っ!」
走りながら、自分の弱さを悲観した。計画の甘さを痛感した。ラグならもっと上手くやるだろう。両親ならもっと早く判断出来るのだろう。自分はまだ子供で、非力なのだと、思い知らされた。



~あとがき~
紅火、離脱です。こうするしかなかったんや。
それと、新キャラ登場ですね。今回の事件には関係ないと言うけれど、どれくらい関わっていないんでしょうかね?

次回、紅火と別れたサファはどうなる!

新キャラさんの片割れは顔見せてないですが、イーブイちゃんは出ましたね。名前はちゃんとあるんですけど、それは次回以降で。男の人……たいちょー(仮)でいいか。まあ、「ふくたいちょー」でも「ふくふくたいちょー」でもいいんですけどね。どれがいいですかね(笑)
彼らの目的なんかも分かるかな……分かったとしてもまだまだ先だと思います。

ではでは。

last soul 第27話

《この物語には死ネタ、暴力表現等の描写があります。閲覧する際はご注意ください》





~新たな試練~


先輩の遠ざかる背中を見送ると、へなへなっとコウくんが座り込んでしまった。
「コ、コウくん!? 大丈夫?」
「うん……ちょっと、久し振りにやって疲れただけだから」
「あっと……あのね、先輩から聞いたの。コウくんの能力のこと」
そう言うと、コウくんはそっかと困ったように笑った。先輩の言う通り、私には知られたくなかったんだろうか。知ったところで、私は私でコウくんはコウくんなのに。
「……別にね、能力のことはいつか知られるって分かってたんだ。でも、やっぱり姉ちゃんに何も知られたくはなくて……知って欲しくなかったよ」
「私がここに来ちゃったの……この世界に来たの、嫌だった?」
頷くことはしなかったけれど、なんとなく伝わってきた。コウくんは先輩と同じように、私がギルドに入ってブラックに入ることは反対していたのだ。今まで何も言わなかったのは、マスターを説得出来ないことを分かっていたから。あるいは、話を聞いたときに覚悟していたのか。
「姉ちゃんには、何も知らないで普通にいて欲しかったんだ。……なんて、俺の我が儘だけどさ。……今、こんなこと言ってる場合じゃないよね。ごめんね?」
コウくんは生まれたときからずっと、この世界で生きていくことが当然で、当たり前で。それ以外の道なんて示されていなくて。
だから、せめて私だけは、普通でいて欲しかったんだろうか。自分の分まで、普通に暮らして欲しかったのかもしれない。それでも、私は踏み込んでしまった。踏み込んでしまった私に出来ることは……
「コウくん。私は変わらないよ? 今まで通りコウくんのお姉ちゃんなんだから」
笑って、コウくんを安心させることだけだ。今の私にはこれしか出来ない。けれど、これが一番いい方法でもあるのは過去の経験から知っていた。
「……うん。ありがと、姉ちゃん。そうしてくれると、俺も嬉しいな」
いつもより大人っぽく見えたのは、こんな状況からか。仕事モードのスイッチが入ったままなのか。しかし、今はどっちでもいい。
「とりあえず、私達は家に帰ろう。ちゃんと言われたことしないと、先輩に怒られちゃうよ!」
「そーだね! 俺らがやることやらないと、ラグさんも困っちゃう」
私が手を差し出すと、コウくんは素直に手を取って立ち上がった。そして、ずっと出しっぱなしだった剣も鞘に収めた。
「コウくん、歩ける?」
「むー? そこまで弱ってないよ。まあ、流石にもう戦いたくはないけどぉ……集中力持たな~い」
なんて言いながら、手をひらひらさせ、笑顔を浮かべる。いつもの子供っぽくてお気楽なコウくんだ。
「ラグさんが転送装置を使わず、徒歩で向かったんなら、三十分以内には戻るだろうな~……二十分、早くて十五分、かな?」
「えっ!? 三十分以上かけてコウくんのとこまで来たのに、先輩そんなに早く着くの?」
……というか、転送装置ってなんだろう? 名前からして、好きな場所にテレポートすることが出来るんだろうか。
「あは~♪ ラグさんが本気で走れば余裕だよ。ってことで、俺らも走ろう! ラグさんより早く家に着いてなくちゃ。走れば十五分くらいで家に着くよ!」
「えぇっ? 走って大丈夫なの、コウくん?」
「だーかーらー! そんなに弱ってないってば!」
前を走るコウくんは、確かに弱っている人の早さではない。むしろ、体力が有り余っているであろう私の方が遅い。これが基礎体力の違いか……!

そろそろ森に出るであろう地点まで来たところで、前を走っていたコウくんがぴたりと止まった。
「どうしたの? 何か見つけた?」
「……んんっ……んー? ちょっと、静かに……」
辺りを探るように見回しながら、周りを警戒していた。そんな様子で普通ではないと悟る。
「! 姉ちゃん!」
呼ばれたと思ったら、私は後方へと飛んでいた。否、飛ばされていた。コウくんが突き飛ばしたのだ。突き飛ばした当人は素早く剣を抜いて、その剣を振るっていた。それを確認出来たのは、私が空中に浮いているほんの僅かな時間だけ。数秒後には地面に転がりながらスライディングしていた。
「いっつぅ……!」
コウくんとの距離は約十メートルくらいだろうか。地面を滑った痛みに耐えつつ、そちらを見ると二つの影を確認した。どちらも私からは種族、性別、年齢もろもろは分からなかった。理由として、彼らはマントを羽織り、フードを目深く被っていたからだ。対峙しているコウくんでさえ、確認は難しいかもしれない。分かっていることと言えば、また敵に襲われていて、状況はかなり悪いということだ。疲弊しているコウくんとバトル知識の乏しい私では、この場を無傷で乗り切る自信はない。
だから、ここで取るべき手段は……
「逃げなきゃ……!」
戦うことは出来なくても、サポートくらいは出来るだろう。倒せなくとも、この場から離脱することは可能かもしれない。せめて、どちらか片方でも、逃げ切れば、可能性はある。
「コウくん、私も手伝う!」
「駄目! 言いたくないけど、姉ちゃん邪魔!」
「ストレート過ぎる!!! 心が痛い!」
さっきまでのほのぼの会話はなんだったんだ! コウくんの馬鹿! お姉ちゃんの心は君の一言でボロボロだよ!?
「これ持って走って!」
コウくんから投げられたのは、短剣とピンバッジのようなものだ。あの距離から私のところまで投げられるのは、やっぱり修行のお陰なんだろう……けど。走れと言われても、私の知っている出入り口は敵が塞いでしまっているため、新しく探す必要がある。それに、コウくんしかノイズさんの居場所は知らないのに、どうしろと。
「姉ちゃんがある程度ここから離れたら俺も後を追うから! だから、今は走って!!」
切羽詰まったコウくんの声。その気迫に駄目だとは言えなくて、別の案を考える時間もなく、余裕もなく、私は奥に向かって走っていく。
な、なんでこんなことになっているんだ……!? どこから、こんなことになっているんだろうか。最初はノイズさんに、危険があるかもしれないと伝えるためにここを訪れたのではなかったか。それなのにコウくんはここで剣を振るっていて、私は出なきゃいけないのに、逆方向へと走っている。
なんで、こういうときに先輩はいないんだぁぁ!?



~あとがき~
サファと紅火、大変なことになってますね(笑)

次回、サファを逃がした紅火の運命は……!
大丈夫。流石にここでメインキャラを死なせるようなことはしませんから!

さて、少し紅火の話をしましょう。サファが自分と同じ世界に来ることをどのように思っていたのか、語りたいと思います。なんでかって? 本編じゃやらない(予定)からだよ!
紅火は姉として慕うサファには、暗い世界に来て欲しくはありませんでした。当然ですね。どんな世界なのか知っていて、大好きなお姉ちゃんにさせたいなんて思いません。けどまあ、運命は残酷ですね。というか、親が残酷です。親が決めたことに逆らうことも出来ない紅火は、早々に開き直って、なるべくサファに危険が及ばないようにしようと決めたのでした。あまり裏事情を知って欲しくないってのも、危険があるかもしれないからです。
まあ、こんな感じです。要約すると、お姉ちゃんに危険なことはして欲しくない。これに尽きます。

ではでは!

last soul 第26話

《この物語には死ネタ、暴力表現等の描写があります。閲覧の際はご注意ください》





~考えるあれこれ~


とりあえず、何がどうなっているのか聞いてみようか。未だに私の知らない単語が出ている中、そろりと口を開いた。
「あ、あの~……一体、何が起こって……」
「今のこの状況を例えるとだね、あれだよ! バラバラになったぬいぐるみが散乱してるの! だから見ない方がいいよっ!」
「潰れてクリームが飛び散ったシュークリームみたいなもんだな。……あー、無性にクリーム食べたくなってきた」
……えーっと? どういう、ことなんだろう。
「とにかく! 姉ちゃんは何も考えなくていいよ! えっと……あっ、ショートケーキのことでも考えてて。ラグさんと!」
えぇ!? なんで私がそんなこと……
「よぉっし! 紅火のリクエストだ。ケーキのことについて語ってやろうっ!」
なんでいつもよりテンション高いんですか!? ケーキか、ケーキのせいか!!
そこから先輩は私の手を引いて、コウくんと出会った場所から距離をとる。ちなみにこの間の会話はなかった。何を話すのか考えているのだろうか。
「ちょ、先輩?」
「“探知”ってのは、紅の一族の……紅火の持つ能力だ。前に言ったろう? 本家の人は能力を一つ持っているって」
んんっ!? いきなり何?
「……え? あ、ケーキは……?」
「はぁ? 本気でして欲しいわけ?」
先輩の声からして、馬鹿かお前はって雰囲気だな。分かるぞ!
「いえ。でもさっき、ケーキのこと話すって」
「紅火に合わせただけだからな。……多分、あいつ
は知られたくないんじゃないか? お前には普通の姉貴でいて欲しいから」
……え? それってどういう……
「でもまあ、そんなことしても、お前は知りたいって顔をされるから話すぞ」
ぴたりと歩くのをやめると、すっと目の圧迫感が消えた。先輩が目隠しのスカーフをほどいたのだとすぐに気付く。ゆっくり目を開けると、辺りはもう暗くなってきていて、星がちらほら見え始めていた。
「目隠し、もういいんですか?」
「あそこから離れたからいらない」
壊れたぬいぐるみとクリーム散乱、でしたっけね。意味わかんないけど。
先輩は“探知”という能力について話してくれた。
「紅火はまだガキだから、不安定なところはあるが、それでも紅珠さんとメイズさんの子だよ。“探知”はある一定範囲内にいる人物がどこで何をしているのかってのを感知する能力だ」
それだけなら、先輩もやってそうですね?
「気配察知だけなら俺の方が上だ。でも、紅火の能力とは次元が違う。例えば、俺が目視で探しているなら、紅火は監視カメラで全体を見張っているようなもんだよ」
規模が違う……!?
「紅火はこの町圏内なら誰がどこで何をしているのかハッキリと探せるぞ。マスターはもっと広いけど、それは今はいい」
「それなら、初めから能力でノイズさんの居場所を探せばよかったのでは?」
「それが出来るなら紅火もそうしてる。けれど、考えてもみろ。何万人と暮らすこの町からたった一人を探し出すってのは並みの集中力じゃ出来ない。精神力も持たないしな」
……そうか。負担が大きすぎるのか。コウくんはまだ子供なんだもん。
「だから、紅火は許可なく使うことはしない。自分の意思で使うことをしないとマスターと決めてるんだ」
そうか。先輩から許可が出たとき、少し嬉しそうにしていたのはそういう理由か。多分、その許可を出すのも限られた人からじゃないと、コウくんは使うことはしないんだろう。
「まだこの町にノイズさんがいるのなら、紅火が探し出せる……寮に帰ってるならそれはそれでいいし、無事が確認出来るならよし……だが」
「先輩の予想では、何かあった、ということですね」
「あれを見る限りじゃ、何もなかったとは言えないからな。意味もなく組織の者がここにいるとは思えない」
コウくんの持つ“探知”能力の話が一段落したところで、ノイズさんの話が気になってきた。何だか、話が大きくなってきている気がしたからだ。その整理のためにも、私は先輩に質問を投げ掛けてみる。
「ところで、敵達はなんでここにいるって分かったんでしょう? 張り込みですか?」
「多分。でも、この状況は先手を打たれまくっている。……大した規模もない組織がここまでやるものか? 何か裏にいるとしたら、どこが……」
そういえば、私達が練習をしているところにコウくんが来て、敵の動きが怪しくなっているって。ノイズさんを襲ったなんて話はなかった……
「そうだ。捕まったなんて話になっているなら紅火はそう言うし、“探知”の許可を申し出るはず。が、そうしなかったのは、あくまで動いたと言う確証のない話だったから」
とりあえず、ノイズさんに伝えに行こうとコウくんは探しに出た。そして、敵の襲撃に遭った。
「あー……紅火からちらっと話聞いたけど、襲撃に遭うと言うよりは、挑発に乗って来た敵を迎え撃ったらしいぞ」
わあ……流石、コウくん……
「簡単に挑発に乗るってことは、雑魚もいいところだ。……紅火の尋問にも口を割らなかったし、知らないのは明白……くそ。踊らされてるな、俺達は」
こっちが動きを察知したと思ったら、相手は欲しいものを手に入れていたかもしれない。敵に先手を打たれていた……か。なんだか、誘い出されたみたいですね。
「……誘い?」
「あ、えっと。なんとなくですけど、そんな感じがするんです。ノイズさんがここに来ることは分かるかもしれないけど、その、ノイズさんの目指す目的地までのルートはいくらでもあるじゃないですか。よく待ち伏せなんて出来たなって」
ここは町外れの森の中だ。整備された道なんてなく、人が何度も通った跡はあるけれど、それはいくつもあった。ノイズさんがどこから森に入って、どう通ってきたのかなんて分かるものか。
「……確かに、そうだよな。まあ、毎年この時期はここに来ているが、今になって復讐しに来たってことになる……最初からつけられていたってのもなくはない、が……」
それこそ、この森で撒こうと思えば撒けますよね。きっと、だけど。
ここまで考えてきて、二人同時にため息をついた。果てし無い話にお互い疲れてきたのだ。
「……いくつもある、可能性の話をしても仕方ないな。どれもこれも紅火の結果次第だ」
「そうですね。話していて、意味が分からなくなりました……けど、今の話、ノイズさんに何かあったらの話ですもんね」
「だな。何もない可能性だってある……」
そうであって欲しいという願いはある。けれど、それは振り出しに戻ってしまうのだ。何もない可能性はあるが、それは先輩が、何もないなんてことはないと何かあったと予測したのだから。
「ラグさん! 姉ちゃん! ノイズさんの居場所分かった!」
私と先輩とで話している間、コウくんのお仕事は終わったようだ。コウくんの手には用心のためか剣が抜かれたままだった。
「ギルドにも家にも帰ってません……だから、多分……俺達、出遅れてます。この後、どうするんですか?」
「どうするって、それはお前が一番よく分かっているんじゃないか?」
「そう、ですね。では、俺達はどうしたらいいですか。ラグさんに従います」
俺達ってことは私も含まれているのか。
先輩は少しだけ黙って考える。恐らく、どう動くのがいいのか、なんてことを考えているのかもしれない。どちらにせよ、私には予想が出来ないくらい、先輩は思考を巡らせているのだろう。
数十秒の沈黙の後、ふっと短く息を吐いた。
「俺は一度、ギルドに戻る。お前らは家に帰って待機してろ。紅火、家に帰ったら、俺の携帯にマップ送ってくれ」
「了解。何かあれば動けるようにしておきますね」
「そうだな。そうしてくれ。……リアル達はまだいるか?」
「俺が“探知”したときはギルドにいましたよ。待てって言われたから待ってるんだと」
「……なるほど。マスターには言ってない?」
「言ってません。まだ確証がなかったので。父さんも知らないと思うけれど、勘がいいから家帰ったらバレるかも」
「メイズさんには別に……知ってくれてた方が力になってくれるだろう。……よし、行動開始だ」
「はい」
……流れるように色々決まってしまった。コウくんと先輩の間に全く入る余地がなかった。経験もない私は黙ってコウくんに従うしかないか。



~あとがき~
動き出した感ありますね……!
なんだか色々謎がありますね。どうなることやら?

次回、一度、家に帰ることになった紅火とサファに……?

ラグとサファが話しているとき、結構慣れている感じがしましたね。ラグはともかく、サファも普通に話してます。まあ、情報整理ですから、お互いの考えを交換し合っているもんですが。

紅火の能力、“探知”能力です! 紅の一族はこの力を受け継いで、守ってきているということになります。力を持つ者が次期頭首なんですね。それはどこの名家、本家も変わりません。

シリアスな話のときは挿し絵ない方がいいのかなと思って、描いてませんが、あった方がいいんだろうか。バトルシーンは描けないから、あれですけど。
あと、最近投稿しまくっている(?)のはこの小説を書くモチベーションが上がってるだけです。話に詰まれば、また亀さんペースに戻ります(笑)

ではでは。

last soul 第25話

《この物語には死ネタ、暴力表現等の描写があります。閲覧の際はご注意ください》





~見えぬ景色~


先輩の背中を追って、だんだんと人気のない場所へと移ってきた。町外れの森の中。誰もいない、自然の中。
「ここに、コウくんが?」
辺りを見回してもコウくんの気配どころか、人の気配なんてしない。こんなところにいるのだろうか。
「あそこからかなり離れていたからな。……でも、音が聞こえた」
「音、ですか?」
「町の音と紛れてはいたけどな。あれは銃を撃った音だった。恐らく、紅火が威嚇かなんかで撃ったんだろう」
私には全く聞こえなかったな。……仮に、銃の音だとして、それがコウくんが撃ったとは限らないんじゃ……? 敵かもしれないんですよね。
私がそう言うと先輩は困ったように頷く。
「まあ、それはそうなんだが」
根拠のない自信、勘というやつらしい。先輩にしては、珍しい。こういうときこそ、理論的に、現実的に動きそうなものなのに。
「……俺にだって感情はあるし、予測もする。勘にもすがるときもあるよ」
不満げな私にラグ先輩も不満な顔を浮かべつつ答える。なぜそんな表情を浮かべたのか、理由は私には分からなかった。
「それに……臭いもする」
「におい??」
なんだろ? 何かするかな?
すんすんと周りの臭いを嗅いでみるけど、自然の草の臭いしかしない。普段、町にいるとこんな臭いはしないし、意識もしないから物珍しくはあるけれど。
「あぁ、分かんないのね。なら、いいよ」
え、なんでそんなに残念そうな目で見るんです!? なんで!?
「こんなときに何だけど……お前、なんでこんなとこにいんの。マジ使えねぇな」
「そ、そんなこと言われても分からないんですもん! 私、平均的な能力しかありませんもん!」
「そう。……じゃあ、バトルも平均的な能力あればもっとよかったのに」
はあ、とあからさまに大きなため息をついた。私に分かるようにわざと大袈裟にやっていることも察した。それを見てしまったら嫌でも腹が立つというもので。
「悪かったですね……! でも、これからもっと勉強して先輩をあっと言わせます!」
「えっ? ま、そんな日が来ることを楽しみにしてるわ」
今、一瞬、お前には一生無理だろって思いましたね。絶対思った……!
もう。さっきまで気不味い雰囲気だったのに、今のこれはなんなのか。……先輩が、わざとそんな雰囲気にしているのか、分からないけれど少なくとも話しにくさは完全に消えた。先輩が考えて発言をしていたのなら、それは少しだけ尊敬する、かもしれない。私のことをバカにしたのは許さないけれど、正論なのも事実なんだ。弱さをここで痛感することになるなんて。弱いということがどんなに不幸なことなのか、知っていたはずなのに。
いきなり黙る私に先輩は少しだけ首を傾げ、怪訝な顔を向ける。
「なんか急に黙りこくって怖いんだけど……っ! サファ!」
「え、わっ!? 何ですか!」
私の名前を呼んだかと思ったら、ぐるっと後ろを向かされた。振り返ろうと首をひねろうと思ったけれど、先輩の手によって完全に固定されてしまう。先輩の顔は全く見えない。私の視界に映るのは、今まで先輩と歩いてきた道だけ。
「あー……とりあえず、もっかい聞くわ。この先、俺についてくるんだな?」
「? は、はい……」
今更何を聞いているんだろう。ここまで来たら、帰るなんて選択するはずがないのは、分かっていそうだけれど。
「そうか。俺は帰ることをお勧めするけれど、ついてくるんだな?」
「先輩、しつこいですよ。ついていきます!」
「……ところで、お前は今までにスプラッター映画とか観たことある?」
すぷらったぁ? 新しいスイーツの名前ですか? それとも飲み物の名前っぽいかも? でも、いきなりそんなことを言うなんてどうかしたのだろうか。甘いもの食べたくなった、とか?
「あぁ、そういう反応なのな。……じゃあ、ついてくるなら、目を塞げ」
「え、なんでですか?」
「いいから、ついてくるなら黙って従え」
むう……ここで嫌だなんて言ったら、家に帰れと言われそう。今度こそ、突き返される気がする。それなら、従う方が無難かな。
「はぁい」
そう言って私は両手で目を覆った。いざとなれば見れちゃうけど、まあ塞いでるしいいよね。
なんて思っていたのは甘過ぎた。先輩は私のスカーフを勝手に外すとそれで私の両目を完全に塞いでしまった。
「え、えぇぇ!? 暗い!!」
「塞ぐってことはそういうことだろ。ほら、手」
「え、あ、はい……」
先輩に手を引かれ、この先に進むことになった。全く見えない。音と鼻などの感覚だけが敏感に働く。視界が奪われただけでこんな気分なんだな。

しばらく歩いていると少しずつ嫌な臭いがしてきた。何がとは言えないけれど、説明が出来ない臭い。私が今までに体験したことのない臭いがする。さっき、先輩の言っていた臭いとはこれのことなのだろうか。
「あ、あの、先輩……なんか、変な臭い……」
「そうだろうな」
先輩はそれだけしか言ってくれず、詳しい説明はしてくれない。変わらないスピードで歩くだけ。しかし、突然ふと先輩の手が離れる。私が離したのかと焦ったけれど、恐らく先輩自ら離したのだ。
「な、なんで離すんですか!? 先輩、どこ!」
「お前の斜め前だよ。そこにいろ」
えぇぇ!? なんで!
とりあえず、先輩の言う斜め前を手でぶんぶん叩いてみる。何かに当たることはなく、空しく空を切る。先輩、当たらないように避けているのか。それとも私の側を離れたのか。
「……紅火、これまた派手にやったもんだな?」
「あ……ラグ、さん」
遠くの方でコウくんと先輩の声が聞こえる。周りが静かなせいか聞こえない距離ではない。
「ごめんなさい。なんにも知らなかったみたいです。……俺が聞き出すの失敗したのかもしれないけど」
「あ? んん……いや、本当に知らないんじゃないか? こんなんされてまだ割らないんなら、もっとでかい組織にいるだろ」
「そういうもの?」
「だってお前、ちゃんとしたんだろ?」
「しました……」
な、なんの会話なんだろう。
「じゃ、間違いなく知らないんだ。俺の予想だけど、したっぱは何も知らされずにやらされていたんだろうな。俺達に喧嘩売るってことは、そういうことだ」
「……そうですね。ところで、ラグさんはなんでここにいるんですか? 俺の心配?」
「んなわけねぇだろ。お前を心配する必要がない。ノイズさんの心配しかしてないぞ」
「……あはは♪ そーだよねぇ。……って、え? 姉ちゃん!? なんでいるの!?」
ずっと先輩と話をしていて気付かなかったらしい。まあ、私はコウくんがどこにいるのは全く分からないけれど。
「帰れって言ってもついてくるもんで、連れてきた」
「えぇ……姉ちゃん来るって知ってたらもっと上手くやってたのに。大暴れしちゃった~」
「いつもこんなんだろ、お前は。……で、処理班に連絡は?」
「あ、それはもうしてあります。勝手にやってくれると思います」
処理班……?
「そうか。……ノイズさんはここにいなかったみたいだし、ギルドに戻るか。……紅火はサファ連れて一旦帰る? 日も暮れたし」
えっ!? 結局、お家に帰れと。何が起こっているのか把握出来ないまま、帰るの?
「俺はまだいけますよ?……でも、この件に姉ちゃんを巻き込みたくはないので、帰ります! それに夜目も利きませんし」
えぇぇ!? ちょ、コウくん!?
私の知らないところで、どんどん話が進んでいく。会話に参加しようにも二人がどこにいるのかも分からない。目隠しを取ればいいのだろうけれど、そんなことをしたら、先輩に何されるのかたまったもんじゃない。そもそも、結び目が固すぎて解くことが出来ない。
「懸命な判断だな。じゃ、帰る前に“探知”してくんない? 俺が許可するから」
「! よっしゃ! 了解っす!」
う、うん? なんだか意味が分からなくなってきた。というか、話についていけない……
先輩の言う、“探知”ってなんだろう?



~あとがき~
後半、サファが目隠しされているので描写がありません。が、予想はつくよね?
前回の次回予告と違う? 知らない知らない((

次回、紅火の“探知”の説明!
きっとね! 多分ね!!!

L.Sの小説を書くのが久しぶり過ぎて皆の口調、性格を忘れてます。しんどい……まあ、大丈夫。前の読み返してきたから!
あの、ラグってこんな人だったっけ(汗)

そして今回からってか、冒頭に注意書を載せておきました。そもそもダークな話が多くなる予定なのに載せるのを私が忘れていました(汗)
過去に出した話については編集して付け足しておきます。まあ、今後の話が全てそうだとは言いませんが、一応ね! ジャンルがあれだから!

ではでは。

last soul 第24話

《この物語には死ネタ、暴力表現等の描写があります。閲覧する際はご注意ください》





~紅き炎~


周りに人の気配はせず、誰かいるように思えない道を紅火は一人進む。仕事を一人でこなすことも多い紅火にとってこの様な状況は珍しくもない。その場に立ち止まり、ぐるりと辺りを見回すが、人影はなかった。
「………なめやがって」
ぽつりと呟くと、素早くホルダーから銃を取り出し、天に向け発砲する。夕暮れの森の中。他に音を立てるものなどない空間で乾いた音だけが響く。
「隠しきれてない。そして今、俺は機嫌悪い。とっとと出てこいよ。俺みたいな子ども相手に臆してるのか? あぁ、もしかして、お兄さん達は雑魚なのかな?」
普段仲間に見せるようなことはないであろう笑みを浮かべ、挑発を仕掛ける。基本的にこんなものに引っ掛かる敵もいないのだが、今回はそうではないことを紅火は感じていた。
「誰が来るのかと思っていたら自分から死にに来るとはね。あんたらのギルドも落ちたもんだな」
紅火の斜め後ろの茂みから姿を表した。それに続くようにガサガサと草を掻き分けて姿を表す。種族はまちまちでそれをいちいち確認することは紅火はしなかった。どうせしたところで、すぐに消える相手。覚えたとしても意味はないのだ。
「ノイズさんはどこだ。あんたらの目的は?」
「目的? 殺された仲間の復讐かな?」
「は? ちっさ……そんなんで罪重ねるとか馬鹿なんじゃないの? あんたらの仲間は悪いことしたから消されただけだ。そんなことでノイズさんを巻き込むなよ」
「そんなこと? お前に何がわかる!? お前らもやってることは同じだ!」
敵の言葉を聞いた紅火の心は静かに深く沈んでいく。頭の中がしんと冷たくなっていく感覚。紅火にスイッチが入る。
「だから、何? 別にあんたらみたいに私利私欲で消してない。俺も能力は使ってない。俺達がいるのはあんたらがいるからだ。存在が迷惑なんだよ。分かってる? いなかったら、俺達はいない。存在しなくていい。普通に過ごせるのに……!」
ギルドの仲間達も好きでこんな仕事なんてしていないのに、と心の中で叫ぶ。しかし、そんなことを目の前にいる人達に言ったところで何も変わりはしない。紅火はやるべきことをするために剣を抜く。
「ノイズさんの居場所、吐け。ここにいないことは分かる。吐いてくれた方が楽だから、吐くまで俺は止まんないぞ」
冷たい思考の中で気付いたときには自分以外、誰も立っていないかもしれない、と冷静に分析する。寸前で止められるほど、紅火もお人好しではないのだ。周りにいる敵達がどうしようかと戸惑っているのが手に取るように分かった。そして、いきなり突っ込むようなことは紅火もしない。
「来いよ! 生意気言うお子様の俺を倒してみれば? まあ……あんたらに俺が倒せる可能性はないけどね。理由なんて決まってるじゃん……俺の方が強いから」
最初のやり取りで相手の戦術が甘いことは読めている。恐らくだが、実践経験も紅火の方が圧倒的に多いだろう。人数に頼る戦い方はしてこないと踏んだのだ。正面にいた敵に銃口を向け、最後の挑発を仕掛けた。
「俺はラストソウル、ブラック所属の紅火だ。…………こんなガキに殺られて、地獄で自慢出来るね。お兄さん達?」
「後悔すんなよ、ガキが!」
紅火に向かって一斉に飛びかかる者、警戒してその場から動かない者、遠距離攻撃をしかけようとする者……反応は様々だった。しかし、誰一人逃げ出すような者はいない。ここにいる敵は紅火に負けることは頭にないのだろう。
その選択がどんなに愚かなことなのか知らずに。
「はあ……………どんな敵相手でも、舐めてかかると痛い目見るんだよ。知らないの?」
持っていた銃をホルダーに素早くしまい、剣を両手で構えた。
「………後悔すんのは、どっちだろうね?」

気まずいです。誰かタスケテクダサイ。
確かに先輩の言うことを守らなかった私が悪いんだろうけど、でもでも、私だってギルドのメンバーなんだよ。それだけは分かって欲しい。
私の少し前を歩く先輩は私の方を気にするでもなく、スタスタと歩いている。しかし、不意に先輩が立ち止まり、ある一点を見つめて動かなくなってしまった。
「…………紅火…」
「せ、先輩? コウくんが何か……?」
「何でもない」
先輩はそう言うと再び歩き出す。
まただ。また、残される。
「嘘。こんなに訳の分からないことが起こっているのに、何でもなくないですよ」
「…………仮に何かあったとして、今のお前に何が出来る?」
私の数歩先で立ち止まり、振り返った先輩は冷たい目をしていた。ノイズさんに何かあったと分かってからずっと同じ目を私に向ける。
今の先輩はきっと、裏のお仕事の先輩なのだ。未熟な私を巻き込まないようにしてくれているのだろうか。それとも単純に私が邪魔なのか。その両方なのか。……いずれにせよ、ここで簡単に頷いて帰るわけにはいかない。
「今の私には戦うことは出来ません。……危ないことがあっても、身を守ることも出来ないです。でも、コウくんは私の弟です。気になっちゃ駄目ですか? 心配しちゃ、いけませんか? 何かあったら……嫌…だから……」
だから、私にも背負わせてくれ、と願った。こんなよわっちい奴が何言ってるんだと自覚しつつも思った。それを口には出せなかったけれど。
先輩はしばらく黙っていたけれど、諦めたかのようにふいっと私から目線をはずし、ため息をこぼした。
「………あーもう。じゃあ、もう好きにしろよ。どうなっても知らないからな、俺は」
え、やった……? いいってことだよね!?
「ここでお前に何かあっても知らないから。あいにく、今の俺は手ぶらなんでね。お前を守りきれると断言出来ない。死んだって文句は言えないから」
それだけ言って、それでもいいならついてくれば、と小さく呟いた。諦めた感じの先輩の声は先程の冷たい感じはなく、いつもの先輩の声で。そして私の方を振り向きもせず、また先を歩き始めた。その足が向く方向は私の家ではなく、別の道に逸れている。
「……もう、ここに入った時点でいつかはこうなるって知ってたんだもん。覚悟決めなきゃね」
ぐっと拳を握って気合いを入れ直すと、先輩の背中を追う。何が起こっているのかはよくわからないけれど、よくないことが起こっているのは理解出来る。私の力はまだ小さいから、何が出来るわけではない。それでも、私は……!



~あとがき~
まず始めに。

ほんっっっっとうに、お久しぶりです!!!!!

いやぁ……一年もほったらかしててすいません。見ている人もいないと思うんですけど、一年以上更新していなくてこっちもびっくりだよ。見てなかった私が悪いんだけども。
きまぐれ日記はちょこちょこやってたんですが……こっちは意識が向かなくて。ごめんなさい!
せめて、一年に一回は更新しろよって感じですよね。ごめんなさい……
何か深刻な事情があったとか、そういうわけではなく、単純に時間なくて続きが書けなかっただけですね。時間がねなかったの!! ごめんなさい!
これからは気を付けます(フラグ)

さて、次回は、紅火のいるであろうところに向かったラグとサファの見たものとは!

多分、そんな感じでやっていきます。はい。

今回はあれね。紅火の覚醒(?)が見せられて満足です。普段はアホっぽい子がキリッとなると変な感じがしますね。ギャップかな?
ラグも言うことを聞かないサファにずっとイライラしてましたが、完全に開き直って、勝手にしろ、と言った具合になりましたね。サファを守ると言っていたのにこの適当さはなんなのか(笑)
頑なにサファを巻き込まんと奮闘していたラグもサファに押し負けたって感じなのかね。それとも、今後避けられるものじゃないから今のうちにってことなのかもしれません。多分、後者の理由でしょうか。その判断に悩まされていたのかもですね。
わからんけどね!!

ではでは。