last soul 第49話
《この物語は死ネタ、暴力表現等の描写があります。閲覧の際はご注意ください》
~ノイズによる独白~
メイズの優しさ(?)を痛感しつつ、これからのことを考えた。もう暗殺者として働けないならどうするべきなのか。
「カイン、これからどうしようか悩んでるでしょ」
「え? あ、顔に出てた?」
「いや、出てないよ。でも、今まで通りに働けませんよって言われれば誰だって考える。大丈夫大丈夫。L.Sで働けるように俺が鍛えてあげる~♪」
「はあ? どうするかなんて決めてな……」
「俺が今までやってきたことを叩き込んであげる。戦えなくても裏方なら問題ないだろ? お前の仕事は俺がやってやるからさ」
「お前のって……情報管理? 待て待て……俺っちに務まらなくない? そんなにやったことないのに」
「じゃあ、お前は逃げるの? ライラは見えなくても逃げなかったぞ」
「……あーそういうこと言っちゃうのか。悪魔め」
「飴と鞭だよ。喜びな~♪」
言いたいことだけ言うと、丸椅子から立ち上がる。そして一度も振り返ることなく出ていった。勝手な奴だと言えばそれまでなんだけども、これがメイズなんだと言えばそういうことになる。
あいつはあいつなりに気遣ってくれているんだって分かる。必要以上に気遣うんじゃなくて、いつも通りに……普段と同じような雰囲気で話しかけてくれた。それだけでなんとなく安心出来たんだ。
でも、一人になった途端、紅珠とメイズに言われたことを少しずつ噛み砕いて理解していった。一人になったんだって感じた。いや、仲間はいるんだけど、そうじゃなくって……一番親しい人をなくすとここまで孤独感を感じるんだなって。
メイズから言われたときはなんとも思わなかったのに。分かっていたから、知っていたから大丈夫だろうって思っていたのに。
「……大丈夫なんかじゃないんだなぁ」
ぱたぱたと目から涙が落ちる。誰もいないその場所で一人静かに泣いた。慰めとかそういうのはいらなかった。されたって止まるもんじゃないし、むしろして欲しくなかった。それが当時の思いだった。
今考えると、メイズはそんなところも分かってて、接してくれていたのかもしれないんだなんて思うんだ。
目が覚めて、一思いに泣いた後はうじうじなんてしてられなかった。メイズが言うようにするなら、ある程度動けなきゃいけなかった。
二人には言われなかったけども、リハビリしていく中でなかなか危ない状況と言うか、それなりに苦労しなきゃ生活出来ないんじゃないかってくらいにやられていた。こういうことこそ、言っておくべきだと思うんだよね。紅珠はタイミングなくなったかもだからいいとして、メイズが言うべき案件だよね。違う? こっちが間違ってんのかね? まあ、今更だけど。
リハビリしていく日々で仲間が見舞いに来ることもあって、それがまた冷やかしなのでは思うくらいに騒いでいく。が、そこにラグが来ることはなかった。理由は分からないでもない。きっと来にくいんだろうな。それが分かっていたから、俺っちも何も言わなかった。時折、どうしてるかは周りに聞いてはいたけど、本人と直接話すことはしばらくしなかったっけか。
「やっほー! 無茶してるー?」
「ロス。相変わらず騒がしいな」
「やな顔するなって! 来てあげたんだからさっ」
そんなことを考えていた頃。ロスが変わらない笑顔を携えて、顔を覗かせに来た。
俺っちの仕事を押し付けられている(らしい)ロスは、なかなか病院に顔を出すことはなくて。それを責めるつもりも……つーか、うるさいから来なくてもいいやと思うくらいだったから、こいつの訪問はなんというか……いらない訪問だった。うん。
ちなみに、メイズは結構、頻繁に来てくれていた。まあ、心配で来てくれていたわけじゃなくて、仕事を教えてやるっていう勉強会のためだけに来てたから、容赦なかった。労る気持ちってのを忘れてきただろってくらいには。
「何しに来たの? 冷やかし? 説教?」
「なんでそんなマイナス表現ばっかりなのさ。ノイズ、入院で心が荒んでるの? よしよししてあげようか?」
「結構、普通だよ! いつもこんなんだろ、お前の相手は」
「そうかなぁ? もう少し優しいよ。ほれほれー」
うっとうしいな。こいつ。
一通り、目の前でうざったい動きをして、満足したのかすっと姿勢を正した。
「まあ、いいや。こんなことしに来た訳じゃないからさ」
「え、違ったの?」
「違うよ! ほーら、さっさと入ってきたらー?」
病室の入口に声をかける。しかし、誰かが入ってくる様子はなかった。ロスがしびれを切らして、入口に近づくと、ぐいっと腕を引っ張って無理矢理、病室へと入れさせた。引っ張ったせいで、バランスを崩し、転けそうになっていたけれど、それはロスがしっかりと支えていた。
「あう。力、強いよ。兄さん」
「おー……ラグか。久し振り」
「……う」
ラグは気まずそうに目線を合わせてくれない。ところどころ真っ白な包帯が巻かれていて、少し痛々しくみえるけど、思いの外、元気そうでよかった。
「んじゃ、俺、仕事あるから! ラグ、一人で帰れるよな? 兄ちゃんいなくても大丈夫だもんなー? じゃあねー!」
「ちょ、ロス!?」
言うだけ言って、勝手に出ていった。俺の知り合いは皆、こんなんばっかだ。このやろうめ…
気まずい気まずい! ラグも居心地悪そうだもの。そりゃそうだよな!? 俺っちもそうだもん。ごめんなー! こんな先輩でー!
と、色々思っていたけれど、口にはしなかった。隅っこに立って、居場所がなさそうにしているラグに何かを投げ掛けることもしなかった。かける言葉もなかったからだ。ラグはライラに懐いていた。初めに心を開いた相手が、彼女だったのは知っていたから。……こいつから、そんな大好きな姉さんを奪ったのは俺っちだったから。ごめんも、大丈夫も、何も言えなくて。
「……そっち、行ってもいい?」
沈黙を破ったのは、ラグだった。本当なら、こっちがやらなきゃいけないはずなのにな。
~あとがき~
めっちゃ久しぶり。
まあ、誰も見てないっしょ~
次回、気まずい二人が交わすものとは……
メイズとノイズはなんだかんだ言って、いいコンビだと思っています。ふわふわっとしているメイズに突っ込みを入れるノイズ……そんな二人の関係はお互いを信頼しているからこそなんでしょうね。信頼してるから、悪ふざけもするし、下手に言葉にしなくても通じるところがある……んだろうなって。
まあ、メイズが優秀なだけかもしれませんけどー!
ではでは。
last soul 第48話
《この物語には死ネタ、暴力表現等の描写があります。閲覧する際はご注意ください》
~ノイズによる独白~
「はあっ……はっ……はっ…」
「ははっ……そろそろヤバそうだな?」
なんでこんな目に遭っているのかも謎だし、こんな奴にやられるのも意味が分からない。反撃したいけど、思うように体は動かないし、そんな状態で動いてライラに何かあっても嫌だ。……八方塞がりとはこの事だよ。
願わくば、ライラが起きてこっそりと抜け出してくれればいいんだけど、そうもいかない。いっそ、ラグが誰か連れてくるなりしてくれるのを願うしかない。
あいつと連絡を取ったとき、全部聞こえていると答えた。つまり、このリングマとの会話も聞こえていたということになる。だからこそ、準備をするなんて言ってきたのだ。……あいつは状況をある程度把握しているのだろう。把握していたとしても、今の状況が改善することはないんだけどな。幾らかましなだけ。……というか、ラグの準備が終わるまで、耐えられるのかも微妙なラインだよ。
浅くなっていく呼吸に急激に下がっていく体温。これは完全に死ぬ手前だ。視界も狭くなっていくし、いよいよ死ぬんじゃないか。
そんなことを考えていたら、頭に銃を突き付けられた。引き金に手を掛ける気配も感じ取れる。
「……じゃあな」
その一言で引き金が引かれて、脳天に弾丸が撃ち込まれる……と思ったけど、いつまで待っても痛みがやってこなかった。閉じていた目を開け、凝らして見てみると自分の目の前に誰かが立っているのが見えた。リングマと俺っちの間に割って入ってきたのは、ずっと気絶していたライラだった。
「ノルン……?」
「大丈夫。ノイズは私が守ってみせる。大丈夫だからねっ!」
ほとんど見えていなかったけれど、ライラの笑顔だけははっきりと見えた。人を安心させるための優しい笑顔がそこにあった。それを見上げることしか出来なくて。……何も出来ない自分が不甲斐なくて。この場面を思い出す度、自分の無能さを痛感する。力のない自分が嫌になるくらいに。
「じゃあ、お前が先に死ね」
「まっ……!」
言うことを利かない体じゃあ、庇うことなんて出来るはずもない。避けることも出来たはずなのに、ライラはそうしなかった。避けたら俺っちに当たるって知っていたらだと思う。
崩れ落ちる彼女を何もしてあげられないまま見ていることしか出来なかった。
「あっははははっ!! あっけねぇなぁ? こんな死にかけ助けたところで、二人とも死んじまうっつうのに!」
狂ったように笑い続けるリングマは無視して、倒れたライラになんとか近付いた。少しでも動けば激痛が走るがそんなことも気にしていられなかった。
「……なん、で……こんなこと」
「私……こうなるとき、きたら、こうしようって。皆の足手まといになりたくないから……」
「足手まといなんて思ったことない。……ないからな」
「ノイズ、いっぱいけが、しちゃった……いたいよね、ごめんね……? わたしの、せいだね」
こんなときでも他人の心配しかしないんだな。優しすぎるんだよ、お前は……
ライラに覆い被さるように、抱き寄せる。応急手当なんてこんな状態で出来るわけもないし、そんな道具も持ち合わせていなかった。本当に何も出来ない。悔しくて悔しくて、涙が溢れてきて。一度流れてしまえば、それは止まらなくなって。
「ごめん……俺の、せいだ。ごめん、ライラ」
「なかないで、カイン……私、カインが、みんなとたのしそうにしてるの……みえなくても、こえで、わかるんだよ……そんなカインが、だぁいすき…」
ライラが俺っちの頬に流れる涙をそっと手で拭うとその手は力なく落ちる。
ごめん。ごめんな。弱かったせいで、お前をこんな目に遭わせてしまった。ごめん。……ごめん。
そんな謝罪の言葉しか出てこない俺を許して。
ううん。許さなくていい。許さなくてもいいから、生きて欲しかった。
ライラの命の糸が切れた途端に自分の力が抜けるのを感じた。火事場の馬鹿力って奴だったんだな、多分。
この後のことはあんまり覚えていない。でも、うっすらだけど、リングマとラグが言い争っているのが遠くで聞こえた。何を言っているのか、ラグが何をしたのか。あるいはさせられたのかもしれないけど……そこら辺のことは何も見てないし、聞こえなかった。
次に俺っちが見たものは真っ白な天井だ。自分のいた場所は薬品の匂いがする病室だった。お花畑や川を見ることはなかったみたい。
覚醒するにも時間がかかり、どういう状況なのかもよく分からないままだったけど、息を吸って吐いてを繰り返す度に生きてるんだってことを実感した。
「ノイズ? 起きたの……?」
「……んっ」
声をかけてきた人物に答えようとしたけれど、全く声帯が機能してくれなくて激しく咳き込んでしまう。それのせいで全身が痛むし、相手を心配させるしで踏んだり蹴ったりだ。
「んっ……けほ。紅珠、ごめん。もう大丈夫」
「こっちもごめんなさい。急に話しかけて。ここがどこだか分かる?」
「まあ、うん。病院……だよな。あはは。生きてることが不思議なんだけど、死ななかったんだ」
「……そうね」
ここは本当に意地悪なことしたなって思う。こんなこと返されても何も言えないのに。本当にごめんなさい、紅珠さん。今だから謝れるわ。マジごめん。嫌味な奴だったわ……や、本当に。
病室には俺っちと紅珠しかいなくて、他のメンバーは流石にいなかった。あれからどれくらいたったのかも分からないけど。
「あのね……色々言いたいことはあるんだけれど、何から言えばいいか分からないの。だから、ノイズが聞きたいことから言う。何から聞きたい?」
「まずはあれからどんくらい経った?」
「一週間」
そんなものかと納得してしまう期間ではあった。それくらいだよな、みたいな。
「……組織はどうなった」
「ボス以外は拘束済み。情報回収は完了してるわ。でも、ボスには逃げられたみたい。あそこ、爆破されちゃったのよ」
「爆破ぁ!? っいってぇぇ!」
「叫ばないで。傷に響くわよ」
痛みに悶絶していると、冷めた紅珠の声が聞こえてきた。いや、遅い……忠告遅い……
「爆破って……それなら、ラグは? 巻き込まれたんじゃないか?」
「まあね。あの子もそれなりに怪我してたから検査も兼ねて入院はしてたわ。もう退院してるけれど」
「そっか……無事ならいいや」
「……無事、なのかしら」
「えっ!? なんかあった?」
「あぁっと……今後に支障はないわ。そこだけは保証する」
紅珠のこの態度は何かあるときなんだけども、追及しても仕方ないかと思って、何も言わなかった。
そこでノックもなしにがらがらっと扉が開けられた。そこに立っていたのはばっちり目が合ったメイズだ。
「やっほ。起きたんだ。気分はどう?」
「最悪」
「だよねぇ♪ おめでとう。まだ最悪で最低な世の中を体験出来るぞ」
「ははっ……笑えんわ」
「俺は最高に笑えるけどね。……紅珠、どこまで話した?」
「まだ大したこと話していない。どれくらい経ったのかと組織のこととラグのことくらい」
「ほーん。安全に聞くね。何? 嫌なことは後回し? 俺は嫌なことから聞くタイプなんだけどね」
にこにこと笑顔を崩すことなく言ってきた。聞かなくても分かるようなことをわざわざ聞くか。紅珠だって言いたくないだろうに。けどまあ、お前らしいと言えばらしいなんて今では思うよ。
「まず一つ。ライラは死んだよ。これはお前の予想通りだろう?」
「ちょっと! サン!」
「二つ。お前はもう現役じゃいられなくなった。感覚、鈍ってるのも感じ取れるだろ。片目も片耳も元に戻らないよ。ご愁傷さまです」
「サン! もっと言い方ってものが……!」
「じゃあ、何て言うの? 遠回りに言って、希望を持たせるような言い回ししちゃった方が残酷ってものじゃない? そこまで責任取りたくないよ」
ばんばん悪いお知らせを端的に伝えてきたメイズにそれはよくないと止める紅珠。どちらもこちらを気遣ってくれているんだなってのは伝わってきた。
「紅珠。ありがとう。大丈夫だから……続けてくれ、サン」
「あは。そう来ると思った~♪」
「……もう。馬鹿なんだからっ」
紅珠はふいっとそっぽ向くとそのまま病室を出ていってしまった。残されたのは、メイズと俺っちだけ。
「んで、三つ目はあるの?」
「ん? そうだね。お前の仕事が俺とロスに流れてるって話でもする?」
「それは悪いと思ってる」
「その声のトーンは思ってないやつだ。はぁー……お前らは狡いなぁ。勝手に二人ともリタイアしちゃってぇ」
さっきまで紅珠がすわっていた丸椅子に腰かけると勝手に愚痴り始めた。なんなんだ、こいつ。
「リタイア?」
「そ。ライラはこの世からさよならしちゃって。お前は血生臭い世界から引退! 俺、ちゃんと二人を待ってたのにさ~」
「待つ? なんか言って……あ」
「ライラに置いていかれるとは思わなかったよ。不覚でーす……ほんとに」
子供の頃の話だ。ギルドに入る前、環境が変わることでライラは俺っち達に置いていかれるんじゃないかって話をしたことがあった。そこでこいつはそんなことしないと。ライラのことは待つだなんて言っていた……なるほどね。
「もしかして、ランクアップ試験を断ってたのは待ってたわけ?」
「そだよ。言ったからね」
「……俺っちも含まれてたんだ?」
「腐れ縁は永遠だから。ここまで付き合うのもないでしょ? これでも大切にしてたんだけど、カインは違った?」
「んなことねぇよ。……メイズがそういうキャラに見えなかっただけ」
「心外だな。慈愛の精神の下で生きてるって言ったじゃん。嘘はつきませーん」
「なんだそれ」
いつも通りのメイズに救われた部分はある。変に気遣われるよりずっといい。……こいつが幼馴染みでよかったと思った瞬間だ。
~あとがき~
な、長い……今回はいつもより長いです。申し訳ない。ぐわーっと展開が早かったけども、もうそろそろ終わります。
次回、もう少し続きます。
ノルンことライラちゃんは退場です……ありがとう、ライラちゃん。また誰かの過去編で会おうぞ……っていうか、私は幸せなカップルをぶち壊したい願望でもあるのかってくらいに不幸せにしてません? 気のせいか。うん!
皆さんはどちらがいいですかね。よくないことを遠回しにダメージが少ないように配慮されるのと、ズバッと言われるのと。紅珠は前者の対応でメイズは後者の対応です。私はどっちかなぁ……なるべくダメージは負いたくないけれど、ズバッと言われたい気もします。でも、悪いことはズバッと言われなきゃ伝わらない気もしますけどね。
ラグとリングマは何を話していたんでしょうね。謎が謎を呼びますね。これはあくまでノイズ主観なので彼の知らないことは話せないのです。
ではでは。
last soul 第47話
《この物語には死ネタ、暴力表現等の描写があります。閲覧する際はご注意ください》
~ノイズによる独白~
「もう、なんでもいいか。お前はここで殺されるんだ。覚悟してもらおうか」
考えるのが面倒になって、剣を相手に向ける。これだけでリングマの後ろにいた二人は怯えたように小さな悲鳴をあげる。が、リングマだけはその様子を気にすることはなく、俺っちの言葉にも動じることはない。動じるどころか、勝手に話を進めていく。
「アンタ、二人で来たんだな? あのイーブイのガキ、なかなかやるじゃねぇか。オレの部下も何人か殺られたみてぇだしなぁ」
「そりゃ、出来た後輩なんで」
「じゃあ、アンタはどうなんだろうなぁ?」
「何が言いたい」
すっと片手を挙げると控えていた部下が近くにあった部屋の扉を開け、どこかへと行ってしまう。一体、何がしたいんだろうか。そういえば、ここの監視カメラは切られているって言っていたから、ラグには見えていないのか、これ。何がどうなっているかも見えないんだ。
そんなことを考えつつ、ラグに連絡を取ることもしなかった。ラグからの連絡もなかったから、情報回収がまだ終わっていないんだろうなって勝手に思っていた。実際は待機しているだけかもしんないんだけど、まあ、こちらが知る手立てはないわけだ。
部下らしき二人が台車を押して出てきた。台車の上には麻袋のようなものが乗っていて、それは何か入っているらしく不自然に膨れていた。
「お前、婚約者がいるだろう?」
「……ははっ。そういうことかよ」
このリングマが何が言いたいのか理解してしまった。そこまで調べあげていたことにもビックリなんだけど、当時はビックリというよりは冷や汗が止まらなかった。だって、予測が正しければその袋の中には俺っちの愛する人が入っているんだから。
こればっかりは外れていて欲しいと思った。そんなことないと、言い聞かせて、安心したかった。けれど、冷静な部分がもちろんあって、そいつは覚悟を決めろと囁く。
「さあ、感動のご対面といこうか? お前達にとってはいつも通り、かもな?」
麻袋の結び目が解かれ、中身が露わになる。そこには予想通り、ライラの姿があった。相手に暴行でも受けたのだろう。体は傷だらけだし、本人は気絶しているらしかった。痛々しく、見ているのも嫌になるくらいだ。
「なかなか、強情でなぁ……流石は元暗殺者って言ったところか。それでも見えないってのは大きなハンデだ。簡単だったぜ?」
「言いたいことはそれだけか? 仲間に手ぇ出したこと、後悔させてやんよ」
武器を構えて、すぐにでも動けるように体制を整える。ボスを含めた三人をさっさと倒して、ライラを助けなければならない。俺っちの頭にはそれしかなかった。
「あっはははっ!! 分かってねぇなぁ? こいつの命は俺達のもんだぜ? 生かすも殺すも俺次第だ! いい気になるな。まあ? この女の命なんて惜しくないって言うなら構わねぇけどな?」
ここで仕事を選ぶなら、ライラは見捨ててでも全うすべきなんだろう。仕事に情を挟むな、なんてのは常識なんだよな。けれど、そこまで非道になんてなれなかった。だって、今までずっと隣にいて、傍にいてくれて、支えてくれた。捨てられるわけない。
ここで攻撃することを選んでいたら、どうなってしまうんだろう。一人で、三人を倒すのにどれ程の時間がかかるのか。普段なら一分もあればなんとかなりそうだ。が、今回はライラを人質に取られている。そして、ライラは意識がないから逃げることも出来ない。……必ず、ライラを助けられる自信は残念ながら、なかった。
「武器を下ろして、こっちに寄越しな」
リングマはライラの首元にナイフを当てて脅している。変な動きをすれば殺してやるなんて言っているのは見て分かる。俺っちは構えていた武器を下ろし、リングマの足元へと投げ捨てる。自分の武器を仕舞うと、俺っちの捨てた武器をリングマは拾い上げた。くるくると弄ばれ、ニヤリと嫌らしい笑顔を浮かべながら次の指示を飛ばす。
「素直でいいねぇ?……仲間に連絡しな。お前は帰っていいって」
「……あいつが素直に応じるわけないだろ」
「応じさせろ。お前を一人にしたいだけなんだよ」
「一人……ね。……ラグ?」
『はい。聞こえてます』
「こっちもそろそろ終わりそうなんだ。……で、集めた情報、サンに早く渡してやりたいからさ……先戻っててくれるか? ってかさ、こっちの言うこと、聞こえてる?」
『うん……全部聞こえてる』
「ははっ……だよなぁ」
『……準備、します』
「ほーい。安全にちゃあんと帰んなさいよ」
『了解』
ラグとの通信はぷつりと途切れた。リングマにはきっとラグの言葉は流石に聞こえていないだろう。にしても、ラグの初敬語をこんな場面で聞くことになろうとは思わなかったなぁ……
「帰るって。よかったな。これでお前の望む通りになったわけだ」
「聞き分けのいい後輩だな。これであんたとサシで話せるって訳だ……お前ら、下がれ」
部下に向かって指示を出すと、二人は素直に部屋を出ていく。残ったのは気絶した状態のライラと何も手出しが出来ない俺っち。そして、圧倒的優位なリングマの三人だ。
リングマは俺っちの武器をこちらに向けるとなんの躊躇もなく撃ってきた。致命傷になるような場所は狙ってこなかったが、間違いなく被弾したのは確かで、撃たれた勢いで地面に倒れる。
「かはっ……一思いに、殺せばいいのに……」
「それじゃあ、面白くねぇだろ?」
ライラをその場に放り投げて、こちらへと歩いてきた。そして足元に転がっている俺っちを煙草の火でも消すように踏み躙る。それもご丁寧に撃たれた箇所を重点的に。これで叫ばない方がおかしい。どこからこんな声が出るんだってくらいに叫んだ。
こんな仕事をしているんだ。まともな死に方は出来ないって思っていた。けどまあ、こんなことになるなんて思ってなかったわ。流石に。
「いいねぇ……もっと叫んでくれよ。そっちの方がこっちも楽しいから……よっ!」
俺っちの腕を目掛けて真っ直ぐに剣を突き立てる。避けることも出来ずに深々と刺さった。痛みで叫ぶ中、このまま出血性ショックで死んでしまうかもなんて客観的に考えていた。頭の片隅でどこまでも冷静な自分がいるんだから恐ろしいもんだよ。
動けない上にリングマにボコられるんだから、たまったもんじゃない。いっそのこと、意識を飛ばしてしまった方が楽なんだろうが、そこまで相手はお優しくなかった。傷口を抉るように剣を突き立てるもんだから、飛ばせるものも飛ばせないってもんだよ。いやはや、今思い出しても鳥肌もんだよ? ほんとに。
~あとがき~
うぐぐぐ……辛いぃぃぃ!!!
次回、大ピンチのノイズは一体どうなる……?
もうさ、見ている皆様は未来が見えているわけですよね。これは過去編です。どうなるかは分かりきっているわけだよな……うん。そういうことだよ!
もう話すことはない……ノイズの過去編終了まで走り抜けるのみ……つってももう少しかかると思いますけど……はい。
ではでは。
last soul 第46話
《この物語には死ネタ、暴力表現等の描写があります。閲覧する際にはご注意ください》
~ノイズによる独白~
目が見えなくなっても、ライラはライラのままだった。明るくて芯の強いライラのまま。マスターの好意もあって、ライラは現場には出ないものの、周りのお世話係としてギルドに身をおくことになった。ハンディキャップなんて感じさせないくらいで。もしかしたら、暗殺者やってたときよりも、生き生きしていたかもしれない。
「ラグ、仕事行くぞー」
「ノイズさんと、二人? やだ……」
本気で嫌な顔を見せ、さっとメイズの後ろに隠れる。そんなラグを不思議そうに見るメイズは特に何もしなかった。
「やだじゃありません。前々から言ってあっただろ? 我儘言うな」
「えー……聞いてない」
「嘘つけ!」
「あは♪ 嫌われてるなぁ、ノイズは」
「サンは黙ってろ」
「はぁい♪」
面白そうに笑うと、目の前に広げてあった書類に戻る。次の新しい仕事だろうけど、大して興味もなかった。そんなことに興味を持つ前に、嫌がるラグを連れ出すことが最優先なのだから。
「ほら。お仕事は嫌がらずにやる! 基本だろ」
「んぅー……だって、なんかやなんだもん」
「せめて明確な理由が聞きたかったなぁ!? なんかって何! なんかって!?」
「わかんない、けど」
何て言いつつも、メイズの影からそっと出てきた。このままじゃ、なんにもならないことが分かっていたからかもしれない。どこか不安げなラグに俺っちは詳しく聞こうなんてしなかった。こういうときのラグは感覚で物を言うものだから、こちらは何も分からないことが多かった。つまり、ラグにしか分からない何かがあるってことだ。
今思えば、ラグのこの勘はばっちり当たっていたわけで、このとき、もっと何か出来ていれば未来も変わっていたのかもしれないと、考えてしまう。……が、当時は深く考えず、いつも通りにこなせばよいと思っていた。
この仕事が、俺っちとライラを引き離す原因となってしまったのだ。
「あー! ノイズにラグくんだっ」
「おー……ノルン。どっか行くの? 一人で?」
ギルドを出る直前、ライラと会った。小さな鞄を手にしていたから、どこかへ買い物にでも出るのだろうと質問をした。
「うん。物資の調達だよ~♪ すぐそこの道具屋さんに頼んであるらしいから、取りに行ってくるの。……ノイズとラグくんはお仕事だよね? 気を付けていってらっしゃいっ!」
「うん。姉さんも、気を付けてね」
「わーいっ! ラグくんは優しいなぁ♪」
「物欲しそうに見るんじゃない! あーもう! ノルン、いってらっしゃいっ!」
「えへへっ♪ ありがとう。いってきます」
どうやらノルンは逆方向のようで、こちらに手を振ると背を向けて歩いて行ってしまった。それを見届けた後、俺っち達も仕事へと向かったのだ。
現場についたのは日が傾き始めた頃だったろうか。暗躍するには丁度いい時間帯ではある。
「今日はおれ、何するの?」
「サンがいないからなぁ……お前には敵の情報回収して欲しいんだよね」
「分かった」
「まだ、やな予感してる?」
「ずっとしてる」
ラグの言うずっとってのは、いつからなのかは聞かなかった。聞いても仕方ないかなってのが当時の考えだったからだ。
「ま、なんもないよ。敵も情報見た感じ、大したことないし。二人でちゃんとこなせるさ」
「……そうだね」
敵のアジトへと難なく潜入すると、ラグとはそこで別れて行動をした。ぶっちゃけて言うと、敵の強さはなんてことはなく、聞いていた情報通りの小規模の組織だった。今回の任務は単純で、この組織にある情報回収とボス暗殺である。他の手下達の相手はついでだ。
「はー……張り合いないな。ま、単騎攻めなんてこんなもんか」
『ノイズさん』
「お、ラグ。どした」
粗方、周りを片付け終わった頃にラグからの通信が入った。幼さを感じさせない淡々とした声が響く。
『重要かわからないんだけど……一応、報告。ボスの部屋? かな。そこだけ意図的に監視カメラが切られてる……他はちゃんと作動してて、ボス部屋にもカメラあるのに、こっちの画面真っ暗で』
「ふーん? まあ、ボスさんがプライベートなこと写したくなかったんじゃない? よくあるぞ」
『なら、いいけど。……回収は八割くらい完了。あと、十分くらい時間くれれば終わる、と思う』
「仕事早いなぁ。誰に似たんだか……ラグは仕事終わったら待機してて」
『はい』
短い返事の後、ぷつりと通信が切れる。一呼吸置いて、また歩き始める。ラグにはああ言ったけれど、一台だけカメラを切るなんてことがありえるのだろうかと考える。もちろん、ボスが見せたくないと形だけ置いておくことはあるにはあるけれど、それなら初めから置く必要はない。ボスがいないときにだけ電源を入れている可能性も大いにあるのだが。
そうだと仮定すると、今、部屋にここのボスがいるということにもなる。
ここまで考えたものの、そこら辺の事情を考えても仕方がないとすぐに頭をきりかえた。
「ラグも仕事終わりそうだし、こっちもさっさと終わらせないと」
部屋の潜入方法について、少しだけ思考を巡らせる。が、目の前に扉はあるし、正面突破でも構わないだろう。そもそも、下の方でどたばたしていたんだし、今更こそこそするのもおかしな話だよな。ボスに話がいっていないなんてことは、普通ではあり得ないだろう。
「……よし。突撃だっ」
武器をしっかり構えつつ、扉を普通に開ける。これが紅珠なら銃で吹っ飛ばしているだろうし、ロスならダッシュで扉をぶち壊すところか。生憎、そんなことはするような性格ではないから、何でもないように開ける。
「ちはーっす。ブラック所属、暗殺者のノイズでーす。俺が来た意味、分かるよな」
「ふん。……殺人集団が何の用だ?」
「そんなこと言うんだ。なら、そっくりそのまま返すぞ。殺人、違法薬物所持……あとは人体実験にも関わっているらしいな。ってことで、取り締まらせてもらうぜ」
ボスと思われるリングマの周りに二人ほど控えていた。側近なのか、たまたまそこにいただけなのかは分からないが、見た目で大したことはないと感じ取れる。ボスも部下よりはやるだろうが、あくまでそれまでだ。これなら、ロスやメイズの方が絶対に強い。要は、そんなレベルでどこにでもいる小悪党って感じ。しかし、相手はどこか余裕で負けるなんて、ましてや殺されるなんて考えていないらしい。
「アンタ、エレクト家だろ?」
「は……? いきなり何?」
「違ってもいいんだがな。そんときゃ、アンタらを餌にして引っ張り出すまでだからよぉ」
今になっても、どうしてここまで突っかかれたのか分からない。多分、親世代に何かされたのだろうとは見当はつくんだけれど。
……当時はもっと混乱してて、何を言っているのかさっぱりだったし、それ以前に本名がバレていることにも焦りを感じた。相手は本人だって気づいていないし家を知られたくらいなんだけど、普段の自分は見失っていた。……これが一人じゃなきゃまた違っていたんだろうなぁ。
~あとがき~
あ、このあと書くの辛い。
次回、ノイズを目の前にして敵の取った行動とは?
そういえば、ラグの言葉遣いについてちゃんと触れてないですね。前回のあとがきでなんとなく触れたけど。
今のラグはノイズ達に敬語を使っていますが、今はまだタメ口で話しています。話にはちゃんと出てきてませんが、ノイズだけでなくメイズや紅珠、ノルンにもタメ口でした。が、さん付けはしてますね。これが敬語になるのは結構すぐなんだけれども、まだ先です。
例のごとく、モブ敵さんは種族とか考えるの面倒なので何も書いていません。適当に思い浮かべてくれればいいと思います……
ではでは。
last soul 第45話
《この物語には死ネタ、暴力表現等の描写があります。閲覧する際にはご注意ください》
~ノイズによる独白~
こちらとしてはしばらくは大きな事件らしい事件はなく……つっても、個人個人はあったんだけど。それは俺っちが語ることじゃないから、ざっとだけ。ラグが見習いから殺し屋へとランクを上げた頃、さらりとメイズから紅珠との婚約を聞かされた。「俺達、結婚するみたい~」って、他人事のように言ってきた。何がきっかけとか根掘り葉掘り聞いたけど……まあ、うん。ここじゃ、割愛しよう。
あとは……なんだろう。特には? なかったか?
うん、ない……かな。
この頃、花嫁修業だなんだと理由をつけて、ライラと紅珠が料理に挑戦することが多かった。元々、ライラはラグが来た辺りからちょこちょこやってはいたんだけど、そこに紅珠が加わった形だ。
これから話すのは初めてライラと紅珠が料理した話だ。ギルドに備えてあるキッチンにライラと紅珠。それとラグが並び、観客(?)の男達は近くの椅子に座って見ていた。
「ノルンのお料理教室ー! アシスタントはラグくんだよ! よろしくぅ~♪」
「えーっと、姉さんのテンション、おれ、ついてけない……うー」
「ここはよろしくって言うんだよ、ラグくん!」
「よ、よろしく……? って誰に言って?」
「今日は紅珠ちゃんもいまーす! よろしくね」
「あんた、いつもこんなんにラグ巻き込んでたの? ラグも嫌なら嫌って言いなさい?」
「やじゃない……でも、ついてけない」
とりあえず、意思を持つようにはなってきたラグだったけれど、ライラの言うことに嫌だとは言ったことはなかった。ロスや俺っちには文句を言うようになってきてたし、成長はしたんだろうけど……なんで俺っちには文句言うんだ? メイズと紅珠には言わないのに。まあ、うん。序列かな……
「今日はね、オムライス作るぞー!」
「え、待って? 今からご飯なの!? さっき食べたぞ!」
「私の手料理だよ? ノイズ、食べられない?」
「違う! そうじゃなくて!」
さっき昼飯一緒に食べたの忘れないでほしい。なんでまたオムライスだよ! せめて軽食にしよう!? 変なところでこだわり見せなくてもいいのに、謎のチョイスをしてきたものだ。
「ラグくん、ご飯と一緒に炒める野菜とか切ってくれる? 紅珠ちゃんも」
「ん」
「え、私も?」
ライラの指揮下のもと、着々と作業が進んでいく。思いの外、ラグの手際がよく、普段からライラの料理に付き合っていたから上達したんだろう。紅珠は経験したことがないのが丸分かりで、見ているこっちがはらはらするような手つきだ。
ま、なんやかんやあって、俺っち達の前にオムライスが並べられたわけだけど、メイズの前には紅珠が作ったもの。ロスの前にはラグが作ったもの。俺っちの前にはライラが作ったものが出された。まあ、当然こういう並びになるわけだ。
ライラとラグのものは綺麗な形になっているが、紅珠のは酷かった。何て言うんだろう。卵で包まれてないし、そもそも黄色くない。なんでだろう。見ていた限り、同じ材料のはずなんだけれど。
「紅珠、俺は何を食べさせられるのかな?」
「見ての通りよ。オムライスじゃない」
「へえ? これ、オムライスって言うんだ~? 俺の知ってるオムライスとは別物だね」
「悪かったわね、下手くそで!」
「そう言うけど、食べろって威圧凄いなぁ」
うん、気持ち分かる。けどまあ、普段の仕返しだ。助けは出さん。
「え、マジ!? 俺食べていいの!!」
「うん。消去法。仕方なく」
「可愛い弟の手料理とか幸せすぎ! ありがとう! とりあえず、保存しとくね!」
「今、ここで、食べて」
ロスはなんか変な方に進んだ気がする。大丈夫なんだろうか。
「へへーんっ! 彼女の手料理だぞ~♪」
「こういうときのお前に戸惑ってる」
「ごめんね? 楽しくって♪」
「……そうかぁ」
まあ、楽しそうで何よりだけども。
このあと、三人で色んな意味でひーひー言いながら完食したわけだ。今度からは時間を考えてやってもらったのは言うまでもない。
「んぅ……ノイズ……?」
「? 何? どした」
ライラが異変を訴えたのは特に何でもない日だったと思う。仕事もなく、俺っちの家でのんびりしていたとき。突然、きょろきょろと辺りを見回し始めたのだ。
「探しもん? 何がいるの。ペン? 本とか?」
「ううん。違う」
「じゃあ、どした」
「…………ノイズ、探してた」
「はい? え、精神的に弱ってるとかそういうこと? 珍しいな」
「うーん。案外遠くないかも。最近ね、景色が霞むって言うか、見えにくくて」
ライラが言うには、不意に不安になり、俺っちを探したってことらしい。さっきまで傍にいたのに、いきなりそんなことするものだろうか。なんて不審に思って、ライラを連れて、そのままの足で病院へと向かったのを覚えている。
そこで言われたのは、ライラの視力が急激に下がっていることと、この低下がいつ止まるのか分からないこと。そして、原因は分からないということだった。分かってからは視力低下も早かった。……なんて、こちらが意識してなかっただけで、本人にとっては早いとも思わなかったかもしれないけれど。
結局、ライラの目はほとんど見えなくなるまでになってしまい、必然的に仕事の方も引退せざるを得なかった。仲間はもちろん、この件に関して少なからずショックを受けたものだけれど、ラグも例外ではなかった。
「姉さん、見えないの?」
「うん、そうなの。……あ、でも大丈夫!」
不安げなラグの声を察したらしい、ライラがラグの頭を撫でた。その事が不思議だったようで、ラグは撫でられつつ首を傾げた。
「見えなくても、ラグくんのことは見えてるから! 心の目で見てるから、ばっちりだよ~」
「? こころのめ?」
「ノルン、ラグが戸惑ってるから変なこと言うなっての……気にせんでいいぞ? 単純に今までの経験が役に立ってるだけだから」
「あははっ♪ ノルンってば、面白いこと言うねぇ? そういうの好き~」
「その声はサンだねっ! お仕事行ったのかと思ってたよ~」
「ノルンが心配で行けなかったんだよ?」
「んなこと言って、紅珠に怒られても知らないからな?」
「ありがと、サン。私は大丈夫だよ。今まで通り、生活は出来ると思うし、なんなら、ノイズが助けてくれるもん。ねっ?」
「お、おう」
急に同意を求められて、適当に答えてしまった。間違いではないから、いいけど。
目が見えなくなっても、ライラはライラのままだった。変な行動をするわけでもなく、辺りに怒鳴り散らすなんて、取り乱すようなこともなくて。そこら辺は、ライラ自身の心の強さなんだろうな。
~あとがき~
ワイワイしてたのに、ちょっと暗くなりましたかね。そんなことないのかな?
次回、やっと! 核心をつけそう!
ラグの言葉使いが幼さ(?)を残しつつも、ちゃんとしたものになってきました。成長したんやで!
あと、最後の方さらりときてしまったけれども、まあ、うん……いいか…
ではでは。
last soul 第44話
《この物語には死ネタ、暴力表現等の描写があります。閲覧する際にはご注意ください》
~ノイズによる独白~
「じゃあ、しっかりやんなさいよ。二人とも」
「ノイズ! ラグくんのこと守らなきゃ怒るからね! 絶対だよ!」
「危険を感じたら逃げてね、ラグくーん。そこのアホ達は捨て置いていいから~♪」
紅珠、ライラ、メイズの三人からの有難い(?)お言葉を背に別行動へと移る。目立たないところから中へと侵入するんだろう。前線の役目はそれがスムーズに行くように目一杯暴れることだ。……というか、メイズの奴は一度酷い目に遭ってもいいんじゃなかろうか。
「さてさぁって! 俺達はいつも通りにやるか。気合い入れて行くぞー!」
「なんでそんなに元気なんでしょうかねぇ……? こっちは気が重いんだけど?」
「そりゃ、可愛い弟がいるんだよ!? 張り切るでしょ?」
「アーハイ。ソーデスネ」
「あー……おと」
「お。どーした、ラグ?」
答えを聞く前に俺っちのマフラーを引っ張られ、バランスを崩して思わず転んでしまう。こういうことをする性格ではないから、何事かとラグを見ると隣で同じように伏せていた。ラグを挟んだ方には同じようにラグにやられたらしいロスが大の字になって寝ていた。
「……あの、ラグ? 何し」
言い終わる前に頭上に何か通る音が微かに聞こえる。目線を通ったであろう終着点まで移すと、銃弾の痕が見えた。ラグが教えてくれなければ、殺られていたかもしれない。
「……マジか。なんで分かった?」
「おと、きこえた。でも、さい…さいれんさ? だったとおもうけど」
サイレンサー付きのライフル銃の音を聞き分けた、と言うのだろうか。いやいや、そんなのあり得るのか。サイレンサーの意味は!? 全く音がないわけではないけれど、離れているはずの音を聞き分けられるもんなのか?
「守る側なのに、守られちゃったなぁ……ありがとな、ラグ~♪」
大したことを考えていないらしい、ロスがよしよしとラグの頭を撫でていた。くっそ、呑気め。
「ノイズ、こっから狙えるか?」
「問題ない。ロスは本拠地突入しとけ。後から追いかけるから……ラグは、どうしようか」
「ノイズが連れてきて。ってことでおっ先ー!」
体勢を整えると、メイン武器である長刀を鞘から抜きつつ正面突破していく。毎回思っていたけれど、正面突破以外の方法はなかったんだろうか。
遠くから狙ってきた敵は銃剣の餌食になってもらって、ロスの後を追った。後ろにはちゃんとラグもついてきている。すぐに合流をするとロスの正面には何十人もの敵がわらわらと群がっていた。こういうのを見ると、一体どこにこんなにいたんだろうと考えてしまう。
「おーおー! 助けて、ノイズ~」
全くそんなことを思っていないロスがヘルプを出す。冷ややかな目線を送ってから、ロスの隣に立つ。そして、最小限の確認だけを取った。
「ロス、ここに来るまでに何人始末した?」
「十もないねぇ……ここ、規模ちっさいから、五十人もいないと思う。他と手を組んでなければ!」
「やっぱそうなるか」
「さっさと全員やっつけて、帰ろうかっ」
「そうだな……ラグ、隅っこにいろよ? あ、あと危なくなったら容赦なくいけ、なっ?」
「すみっこ。よーしゃなく。うん。分かった」
ラグの移動を確認してから、本格的に仕事に取りかかった。ここからは片っ端から斬るのみ。ロス達と五年は仕事をしてきて、お互い邪魔しないように立ち回ることは簡単に出来た。ま、たまに流れ弾みたく敵が飛んできたり、仲間が飛んできたりすることはあったけどさ。
それでも、今回は二人だけじゃないことが仇になった。普段なら二人のうちどちらかを狙ってくれるけれど、今は後ろにラグもいた。だから、敵の勢力もラグに向けられるものがあったわけで。……もちろん、そうならないようにロスと全力でやっていたわけだけど、一瞬の隙を突かれた。
俺っちとロスの間を縫って、ラグに一直線に駆け寄る敵がいた。手には剣。腰には抜かれていない拳銃。そんな武装をしているのが見えた。
「やっば! ラグ!」
ぼんやりこっちを見ていたラグは、目の前に迫る敵を見ても動じなかった。それどころかじっと観察するように目線を離さず、その場を動かない。
「死ね、ガキ!」
「それは、きけない。……よーしゃなく、そう言われた」
振りかぶった剣を避けて、相手の頭上へと跳躍。肩車されるように覆い被さると何の迷いもなく、相手の首の骨を折ってしまった。どさりと崩れ落ちた敵の上に着地をすると、落ちていた剣を拾って、心臓を一突き。ここまでの一連の流れに無駄な動きはなく、ものの数秒で片付けてしまう。
「……うわーお」
そんなこと、こちらは全く教えてないはずなんだけどねぇ……? どこで覚えてきたの、ラグ。
こちらの困惑なんて知るはずもなく、何事もなかったようにまた隅っこの方で大人しくなる。
これを見て、ラグはただの子供じゃないって確信をした。今までも疑ってなかった訳じゃない。けれど、確信が持てなかったんだ。あどけない仕草だってするし、感情の起伏がないだけで子供っぽいところはちゃんとあったと思う。……あった、よな?
とにかく、鮮やかな手さばきで軽々と敵を処理してしまったラグを見て、ロスが何を思ったのかは知らない。聞こうとも思わなかったし、そんな気は回らなかった。ただ、思ったのは、そこら辺にいる子供とは全く違う道をラグは来てしまったってことだけ。……今でも何も言わないけれど、いやまあ、言えるわけないんだけど。人体実験なんてろくなもんじゃない。そんなものを短い期間とはいえ、受けてきた可能性があるのだと、思った。
~あとがき~
ここまできて、この話は必要なのかと疑問になってきました。謎。
次回、やっと! 今回に関係ある話をします!
おっせぇぇぇーー!!!
ラグくんはね、天才なんだよ。
……なーんて言葉で納得はしないでしょうが、理由うんぬんはまた今度。まあ、躊躇せずに剣をぐさーなんて子供はできないよなぁ……このときのラグは五歳なんだけども……五歳児怖いね((違う
次回からはラグも成長してますんで、言葉は多くなりますよ。はい。
ではでは。
last soul 第43話
《この物語には死ネタ、暴力表現等の描写があります。閲覧する際はご注意ください》
~ノイズによる独白~
怪我もすっかり治り、ライラの頑張りもあってかラグは少しずつ話せるようになった。その頃にはラグがやって来て一年は経とうとしていた。
「ラグ、マスターが呼んでる」
「……ますたぁ」
ピンと来ていないようで、ロスの言葉を繰り返した。ロスはラグに不安を与えないように優しく笑いながら、少しずつ状況を飲み込ませてやる。
「そう。何回か会ったろ? あー……バクフーンのおじさん。俺達のマスター……偉い人なんだ」
「うん」
「そのマスターがお前と話したいって」
「うん」
分かっているのか分かっていないのか見当もつかないような返事を繰り返し、ラグは立ち上がるとてとてとと部屋を出ていった。
「あいつ、分かってんのかね、マスターに呼ばれた意味」
なんて言ってみたけれど、きっと分かっていないんだろうと思う。まだ三才くらいの年で聞かされる話ではないし。きっと、ラグは周りの大人達が……とは言え、俺っち達はまだ未成年だけれども、何をしているのか聞かされるんだろう。
「あうぅう……俺はそんなことさせたくないんだよ。ごめんねぇ、ラグゥ~」
「マスター、結構思い切りよくない? 俺、もっと後だと思ってたんだけどなぁ?」
「父様の考えは『使えるものは使う』だもの。別に不思議じゃないわよ……父様から見て、ラグは才能があったってことでしょ」
わざとらしく泣き真似をするロスの隣で、メイズと紅珠はラグの呼ばれた理由について考えていた。ライラも不安そうにしていた。
「今までのこと知って、嫌にならないかな。私達のこと……」
「あの年で理解するかも怪しいけど。ま、ラグは賢いから……引きはするかもねぇ」
「う。ノイズの意地悪」
「えぇ? なんでぇ?」
それぞれ考えることは違っても、どこか不安には思っていたと思う。幼いラグが自分達をどう思うんだろうって気になることだから。まだ一年くらいだけど、ラグはもう仲間だったんだと思う。少なくとも、俺っちはそう感じていた。
しばらくして帰ってきたラグは当たり前のようにこちらに寄ってきて、ロスを見上げる。まだ小さいラグには皆の座る椅子は高い。だから、いつも近くにいる人を見上げて座らせてもらうのだ。
「おかえり、ラグ~」
そう言いながらラグを持ち上げて、ロスとメイズの間に座らせてやる。そしてテーブルに体重を乗せ、目一杯背伸びをして周りを見渡す。何か言い出すのかと思ったが、そんなことはなく、テーブルに置いてあったお菓子の中からクッキーを手に取るとちまちま食べ始めた。どうやら、食べるものを探したかっただけらしい。メイズがお菓子の入ったお皿を寄せながらラグに話しかける。
「難しい話だった?」
「……? むずかし?」
「お仕事の話とかそんなん」
「ん……じゃ、むずかし、だった」
「素直な感想は?」
ド直球な質問を子供にするものだ。もっとよく考えればいいのに、メイズは臆せずに聞いてしまう。
「? なにもない。もうちょっとしたら、やってって。みんなのおしごと」
あー、うん。やっぱりそうなんだ、なんて空気が五人の間に流れる。それぞれが何を思ったかは知らないけれど、俺っちはまあ、予想通りってのと、こんな子供にする話ではないなって感じだった。
マスターの言うもうちょっとというのはどれくらいなのか分からなかった。本当にすぐなのか、二、三年後なのか。この場いる全員が入ったくらいの年になってからなのか。
「ラグくんは嫌じゃないの?」
「? や、じゃないよ」
ライラの問いに何でもないように答えた。
ラグは多分、命が大切だとか、自分の身が大切だとかそういう生に対する思いがないんだろう。それは拾われる前の環境が影響しているのかもしれない。今はそんなことないけど、それでも時々、自分を下に見るような、自身の命を無下にするようなそんな言動をする。
当時は子供だし、理解は難しかったのかもしれないと思った。そうじゃないって知るのは、二年後、ラグが見習いとして仕事についてきたときだった。
仕事に行く数ヵ月前から、全員の得意分野をラグに教えてやることになった。大体はロスが教えることになったんだけど、あいつも仕事があるから、そんなときに暇な奴が教えてやろうなんて話になった。ラグは嫌だとも言わずに、黙って従っていたもんだ。……今じゃ考えられない素直さだな。
そこで驚いたのは、ラグの覚えのよさ。なんでも自分のものにしてしまい、習得していった。もちろん基礎的なことしか教えていなかったけれど、それでも尋常じゃない速さで、色んなものを覚えた。メイズもなんでも出来るタイプではあったけれど、それ以上の力をラグは持っていたんだと思う。
なんでも出来るというのは強みだったけれど、ラグの弱味は意思がないことだった。当時は自分で物事を決めて行動することが出来なかった。例えば、剣の手合わせをしたとして、防御を学べと言えば、反撃せずに防御のみに徹する。反撃してもいいと言われないと、動かないのだ。これも多分、命の価値観と同じで、子供の頃に言われたことしかやるなと教えられてしまったのだろう。自分で考えろと言っても、首を捻るばかりのあいつに、こちらはどうすることも出来なかった。だから、こちらの言うことは一つ。ラグ自身が怪我をしないように最善の手を尽くせ、である。こう言っておけば、攻撃を受けないように立ち回るし、相手を倒せば怪我をしないことも分かっているから反撃もする。
そして、ラグの初仕事の日。初仕事って言ってもいきなりやれとは言えないから、見学させるって話になった。この方針を決めたのはマスター。今でも、あの人がどうしてここまでラグを使いたがったのかが分からない。紅珠の言う通り、早く才能を開花させたかったんだろうか。……どうにも、違う気もするんだけど、これはマスターにしか分からんか。まあ、当事者であるラグには分かるかもしれないんだけどさ。
この日はせっかくだから全員参加して組織単位で相手をしようなんてことになった。ランクはロスだけが始末屋だった気がする。ランクで仕事内容を仕切られてはいたけれど、それは個人で行う場合に適応されるルール。だから、チーム単位の場合はそれに当てはまらない。ま、一人より信頼出来る仲間と一緒にいた方が効率もいいし、賢明だと思う。
「ラグはサンといてもらった方が安全なんだけど、それじゃあ勉強にならないから、俺とノイズとで前衛な!」
ロスの提案に紅珠は首を傾げる。嫌になるほどラグに過保護の癖に、こういうときだけ厳しく出るんだよな。なんでだろう。強くなってほしいからなんだろうか。
「サンと監視カメラ使って見学でもよくない?」
「そうだよ。いきなりは……刺激が強いというか、ラグくんの教育にもよくないというか……」
「リアルで見た方が力になるって♪ ノイズ、死ぬ気で守れよ!」
「あのなぁ……そー言うなら、カメラ使って見学させろっつーの」
この五人で仕事をするとき、大体の役割が決まっていた。ロスと俺っちで前線に出て、その間にメイズが敵地にある情報を収集、処理を行う。必要があれば、こっちに指示を送る。紅珠とライラは機械を相手にしているメイズの守り。こんな感じ。ぶっちゃけ、メイズを守る必要なんて全くないんだけれど、機械相手にしていると、それに集中して周りが見えなくなるのも事実。だからこその措置だ。
結局、ロスの言う通りになって、ラグを加えた三人で敵を手当たり次第に相手することになった。
~あとがき~
ノイズの過去編、結構長い。このラグの初仕事が終わったら、今回の事件の原因である話をやります。
次回、ノイズから見た、幼いラグの実力とは。
本編じゃ可愛くないラグですが、小さいと可愛いですね。話し方の問題でしょうかね。今じゃそんな雰囲気ありませんけどね!
情報管理っていうか、監視カメラを見られるような部屋を占拠するのはメイズの仕事です。たまにノイズもやります。多分、そういうときはメイズが暴れたいって言ったときですね!(笑)
ではでは。