鈴鳴カフェ

ポケモンの二次創作とオリキャラの小説を連載しています。

last soul 第28話

《この物語には死ネタ、暴力表現等の描写があります。閲覧する際はご注意ください》





~選択~


サファを逃がした後、改めて敵の観察をした。種族、性別等は分からないが、一人は自分より少しだけ背が低く、もう一人は自分より高かった。敵の外見情報はそんなところであった。
気配を察知するのが遅れて、ここまで接近されたのだと思うと悔しくて仕方がない。
「……紅の一族の一人。紅火・フレイヤくん……で、合ってるかな?」
背が高い方が紅火に話しかけてきた。声からして男だろう。首を少しだけ傾げ、警戒心のない声で問う。
「一緒にいたのは……君のお姉さん? でも、種族違うけどなぁ」
「……それを教えて、何になる?」
「ん? 特には?」
表情は読めないが、恐らくは笑っているのだ。声でなんとなく察していた。そして、雰囲気からして、今の紅火では倒せるか怪しいところであった。一人ならともかく、二人相手は正直なところ厳しい。雑魚ならまだしも、目の前の二人はそうではないのははっきりと感じ取れたのだ。
「んううぅっ!! たいちょー! ふくたいちょー! ふくふくたいちょぉぉぉ!!」
男の隣に立っていた人がいきなり叫び始めた。声は高く、普通に話していれば可愛らしい声である。このことから、男女のペアであることが分かる。男が隊長なのか、副隊長なのか、副々隊長なのかは分からないが。男が女の方を少しだけ見て、たしなめるように言う。
「あーはいはいはい? えっと、ちょーっと静かにしようねぇ?」
「ひまなのだ! おいかけるのだ!!」
「はあ? そんなことさせないけど」
女の言動に紅火はより一層警戒心を強くする。しかし、そのせいで、ぐらりと視界が揺れた。警戒するほど、目眩がしてくる。集中すればするほど、思考が働かなくなっていた。“探知”したせいで、頭が上手く働いていないのだ。しかし、それを悟られれば終わり。紅火は悟られないように気丈に振る舞う。
「お前達は何。さっきの奴らの仲間? 助太刀にでも来たの? それにしては遅すぎるけど」
「ん? んん? いやいや、違う。そいつらとは無関係……いや、無関係ではないけど、組織は全く別物だからね」
つまり、ノイズを拐ったと思われる奴と目の前の奴らは別組織の人であるということだろう。しかし、無関係ではないとするなら、それは同盟でも組んでいたのか、協力関係にあったのか、そのどちらかであることは確かだ。
「おじさん達の目的は別にあるんだよー」
「別のって……」
「むー! むーむー! ひーまーなーのーだー! がまんできないのだ! おねーさん、おいかけるんじゃー♪」
またいきなり大声で叫ぶと、女は助走なしで紅火の頭上を軽々と飛び越えた。その際にフードが脱げ、顔が露になったにも関わらず、くるりとこちらを振り返った。彼女はイーブイだった。しかし、瞳は光なんてものはなく、漆黒に染まっている。見ているだけで飲まれそうになるほどの、黒。そんな死んだ目をしているが、口はにっこりと笑っていた。そんな彼女に紅火は不覚にも恐怖を覚える。死体以外でこんな目をする人を見たことがなかったから。
「あははっ! おいかけっこ! たのしーたのしーおにごっこ! おには、みー、なのだ!」
それだけ紅火に向かって言うと、サファが走っていった方向へ行ってしまった。
「あっ……こら! フード被り直していけ!」
「……逃がすかっ!」
腰のホルダーから銃を取り出し、イーブイに向けて撃つ。……正確には撃とうとしたのだが、銃は弾切れをしていて、使い物にならなかった。先程の戦いで全て使い果たしていたのだ。
「くそっ!」
紅火は銃をホルダーに仕舞うと、イーブイの後を追おうとしたが、それは男に立ち塞がれてしまう。
「退け」
「待てって。俺達、敵意はないんだ。いや、あのアホは走ってたから説得力ねぇんだけど」
「退けって言ってるんだ」
「じゃあ、取引しよう! お前は逃がしてやる。元々、どっか行く予定だったんだろう? 別に邪魔したい訳じゃないから、行っていい。代わりに、俺はアホ追いかける。あの青エーフィちゃんの無事は保証するから」
「……お互いがお互いを見逃せって?」
「そうそう。話が分かるねぇ」
この話を飲んで、サファが無事に帰ってくる保証はどこにもなかった。男は命は保証すると言っていたが、信用に値するかと問われれば、答えはNOである。
「リスクが大きすぎる。お前の方が得するんじゃないか? 姉ちゃんが戻ってくるなんて証明出来やしない」
「そうねぇ……おじさん、あれなのよ。戦闘民族? じゃないんだよ。だから、あれこれ言ってるけど、要するにお前とやり合いたくないだけ」
「条件飲んだとしても、俺が姉ちゃんを追いかけるかもよ?」
「それはそれで構いませんぜ~……けど、それは得策でないことくらい、自分自身が分かってるんじゃないか?」
確かにそうだ。ラグとの約束もあるし、一人の人命もかかっている。紅火がここで後戻りすればするほど、場所を伝える時間が遅れる。遅れれば紅火が得た情報は古いものになり、使い物にならなくなるかもしれない。そうなれば、ここまでしてきた意味もない。
つまり、初めから、紅火の選択肢は一つしか許されていないのだ。仕事として、一人の暗殺者として、ここはサファを置いて行くしかない。今の紅火には、目の前の男を倒し、サファを追いかけて助ける力はないのだから。
「……チッ」
「理解したかい? あーっと……さっき言いかけたけど、俺達の目的は君達の殺しじゃない。だから、殺すことはしないし、傷付けるようなこともしない。無駄な殺生はしたくない主義なの」
「あのイーブイも同じだと?」
「馬鹿だけどね、言われたことはきちんと守るタイプだから大丈夫。鬼ごっこって言ってたから、青エーフィちゃんを捕まえはするだろうけど、傷付けはしない」
嘘をついているようには聞こえなかった。表情は読めないし、心を読むことは出来ないが、声だけ聞くと全て本当のことを言っていると判断出来た。それは、紅火の暗殺者としての勘でもあった。
だから、今はその勘を信じるしかなかった。
紅火は持っていた剣を鞘に収め、森の出口へと走っていった。男は言った通り、紅火の後を追いかけることはせず、自分の仲間を追うために紅火から遠ざかった。
「くそ……俺はまた、こんな選択しか……逃げる選択しか取れないのか……っ!」
走りながら、自分の弱さを悲観した。計画の甘さを痛感した。ラグならもっと上手くやるだろう。両親ならもっと早く判断出来るのだろう。自分はまだ子供で、非力なのだと、思い知らされた。



~あとがき~
紅火、離脱です。こうするしかなかったんや。
それと、新キャラ登場ですね。今回の事件には関係ないと言うけれど、どれくらい関わっていないんでしょうかね?

次回、紅火と別れたサファはどうなる!

新キャラさんの片割れは顔見せてないですが、イーブイちゃんは出ましたね。名前はちゃんとあるんですけど、それは次回以降で。男の人……たいちょー(仮)でいいか。まあ、「ふくたいちょー」でも「ふくふくたいちょー」でもいいんですけどね。どれがいいですかね(笑)
彼らの目的なんかも分かるかな……分かったとしてもまだまだ先だと思います。

ではでは。

last soul 第27話

《この物語には死ネタ、暴力表現等の描写があります。閲覧する際はご注意ください》





~新たな試練~


先輩の遠ざかる背中を見送ると、へなへなっとコウくんが座り込んでしまった。
「コ、コウくん!? 大丈夫?」
「うん……ちょっと、久し振りにやって疲れただけだから」
「あっと……あのね、先輩から聞いたの。コウくんの能力のこと」
そう言うと、コウくんはそっかと困ったように笑った。先輩の言う通り、私には知られたくなかったんだろうか。知ったところで、私は私でコウくんはコウくんなのに。
「……別にね、能力のことはいつか知られるって分かってたんだ。でも、やっぱり姉ちゃんに何も知られたくはなくて……知って欲しくなかったよ」
「私がここに来ちゃったの……この世界に来たの、嫌だった?」
頷くことはしなかったけれど、なんとなく伝わってきた。コウくんは先輩と同じように、私がギルドに入ってブラックに入ることは反対していたのだ。今まで何も言わなかったのは、マスターを説得出来ないことを分かっていたから。あるいは、話を聞いたときに覚悟していたのか。
「姉ちゃんには、何も知らないで普通にいて欲しかったんだ。……なんて、俺の我が儘だけどさ。……今、こんなこと言ってる場合じゃないよね。ごめんね?」
コウくんは生まれたときからずっと、この世界で生きていくことが当然で、当たり前で。それ以外の道なんて示されていなくて。
だから、せめて私だけは、普通でいて欲しかったんだろうか。自分の分まで、普通に暮らして欲しかったのかもしれない。それでも、私は踏み込んでしまった。踏み込んでしまった私に出来ることは……
「コウくん。私は変わらないよ? 今まで通りコウくんのお姉ちゃんなんだから」
笑って、コウくんを安心させることだけだ。今の私にはこれしか出来ない。けれど、これが一番いい方法でもあるのは過去の経験から知っていた。
「……うん。ありがと、姉ちゃん。そうしてくれると、俺も嬉しいな」
いつもより大人っぽく見えたのは、こんな状況からか。仕事モードのスイッチが入ったままなのか。しかし、今はどっちでもいい。
「とりあえず、私達は家に帰ろう。ちゃんと言われたことしないと、先輩に怒られちゃうよ!」
「そーだね! 俺らがやることやらないと、ラグさんも困っちゃう」
私が手を差し出すと、コウくんは素直に手を取って立ち上がった。そして、ずっと出しっぱなしだった剣も鞘に収めた。
「コウくん、歩ける?」
「むー? そこまで弱ってないよ。まあ、流石にもう戦いたくはないけどぉ……集中力持たな~い」
なんて言いながら、手をひらひらさせ、笑顔を浮かべる。いつもの子供っぽくてお気楽なコウくんだ。
「ラグさんが転送装置を使わず、徒歩で向かったんなら、三十分以内には戻るだろうな~……二十分、早くて十五分、かな?」
「えっ!? 三十分以上かけてコウくんのとこまで来たのに、先輩そんなに早く着くの?」
……というか、転送装置ってなんだろう? 名前からして、好きな場所にテレポートすることが出来るんだろうか。
「あは~♪ ラグさんが本気で走れば余裕だよ。ってことで、俺らも走ろう! ラグさんより早く家に着いてなくちゃ。走れば十五分くらいで家に着くよ!」
「えぇっ? 走って大丈夫なの、コウくん?」
「だーかーらー! そんなに弱ってないってば!」
前を走るコウくんは、確かに弱っている人の早さではない。むしろ、体力が有り余っているであろう私の方が遅い。これが基礎体力の違いか……!

そろそろ森に出るであろう地点まで来たところで、前を走っていたコウくんがぴたりと止まった。
「どうしたの? 何か見つけた?」
「……んんっ……んー? ちょっと、静かに……」
辺りを探るように見回しながら、周りを警戒していた。そんな様子で普通ではないと悟る。
「! 姉ちゃん!」
呼ばれたと思ったら、私は後方へと飛んでいた。否、飛ばされていた。コウくんが突き飛ばしたのだ。突き飛ばした当人は素早く剣を抜いて、その剣を振るっていた。それを確認出来たのは、私が空中に浮いているほんの僅かな時間だけ。数秒後には地面に転がりながらスライディングしていた。
「いっつぅ……!」
コウくんとの距離は約十メートルくらいだろうか。地面を滑った痛みに耐えつつ、そちらを見ると二つの影を確認した。どちらも私からは種族、性別、年齢もろもろは分からなかった。理由として、彼らはマントを羽織り、フードを目深く被っていたからだ。対峙しているコウくんでさえ、確認は難しいかもしれない。分かっていることと言えば、また敵に襲われていて、状況はかなり悪いということだ。疲弊しているコウくんとバトル知識の乏しい私では、この場を無傷で乗り切る自信はない。
だから、ここで取るべき手段は……
「逃げなきゃ……!」
戦うことは出来なくても、サポートくらいは出来るだろう。倒せなくとも、この場から離脱することは可能かもしれない。せめて、どちらか片方でも、逃げ切れば、可能性はある。
「コウくん、私も手伝う!」
「駄目! 言いたくないけど、姉ちゃん邪魔!」
「ストレート過ぎる!!! 心が痛い!」
さっきまでのほのぼの会話はなんだったんだ! コウくんの馬鹿! お姉ちゃんの心は君の一言でボロボロだよ!?
「これ持って走って!」
コウくんから投げられたのは、短剣とピンバッジのようなものだ。あの距離から私のところまで投げられるのは、やっぱり修行のお陰なんだろう……けど。走れと言われても、私の知っている出入り口は敵が塞いでしまっているため、新しく探す必要がある。それに、コウくんしかノイズさんの居場所は知らないのに、どうしろと。
「姉ちゃんがある程度ここから離れたら俺も後を追うから! だから、今は走って!!」
切羽詰まったコウくんの声。その気迫に駄目だとは言えなくて、別の案を考える時間もなく、余裕もなく、私は奥に向かって走っていく。
な、なんでこんなことになっているんだ……!? どこから、こんなことになっているんだろうか。最初はノイズさんに、危険があるかもしれないと伝えるためにここを訪れたのではなかったか。それなのにコウくんはここで剣を振るっていて、私は出なきゃいけないのに、逆方向へと走っている。
なんで、こういうときに先輩はいないんだぁぁ!?



~あとがき~
サファと紅火、大変なことになってますね(笑)

次回、サファを逃がした紅火の運命は……!
大丈夫。流石にここでメインキャラを死なせるようなことはしませんから!

さて、少し紅火の話をしましょう。サファが自分と同じ世界に来ることをどのように思っていたのか、語りたいと思います。なんでかって? 本編じゃやらない(予定)からだよ!
紅火は姉として慕うサファには、暗い世界に来て欲しくはありませんでした。当然ですね。どんな世界なのか知っていて、大好きなお姉ちゃんにさせたいなんて思いません。けどまあ、運命は残酷ですね。というか、親が残酷です。親が決めたことに逆らうことも出来ない紅火は、早々に開き直って、なるべくサファに危険が及ばないようにしようと決めたのでした。あまり裏事情を知って欲しくないってのも、危険があるかもしれないからです。
まあ、こんな感じです。要約すると、お姉ちゃんに危険なことはして欲しくない。これに尽きます。

ではでは!

last soul 第26話

《この物語には死ネタ、暴力表現等の描写があります。閲覧の際はご注意ください》





~考えるあれこれ~


とりあえず、何がどうなっているのか聞いてみようか。未だに私の知らない単語が出ている中、そろりと口を開いた。
「あ、あの~……一体、何が起こって……」
「今のこの状況を例えるとだね、あれだよ! バラバラになったぬいぐるみが散乱してるの! だから見ない方がいいよっ!」
「潰れてクリームが飛び散ったシュークリームみたいなもんだな。……あー、無性にクリーム食べたくなってきた」
……えーっと? どういう、ことなんだろう。
「とにかく! 姉ちゃんは何も考えなくていいよ! えっと……あっ、ショートケーキのことでも考えてて。ラグさんと!」
えぇ!? なんで私がそんなこと……
「よぉっし! 紅火のリクエストだ。ケーキのことについて語ってやろうっ!」
なんでいつもよりテンション高いんですか!? ケーキか、ケーキのせいか!!
そこから先輩は私の手を引いて、コウくんと出会った場所から距離をとる。ちなみにこの間の会話はなかった。何を話すのか考えているのだろうか。
「ちょ、先輩?」
「“探知”ってのは、紅の一族の……紅火の持つ能力だ。前に言ったろう? 本家の人は能力を一つ持っているって」
んんっ!? いきなり何?
「……え? あ、ケーキは……?」
「はぁ? 本気でして欲しいわけ?」
先輩の声からして、馬鹿かお前はって雰囲気だな。分かるぞ!
「いえ。でもさっき、ケーキのこと話すって」
「紅火に合わせただけだからな。……多分、あいつ
は知られたくないんじゃないか? お前には普通の姉貴でいて欲しいから」
……え? それってどういう……
「でもまあ、そんなことしても、お前は知りたいって顔をされるから話すぞ」
ぴたりと歩くのをやめると、すっと目の圧迫感が消えた。先輩が目隠しのスカーフをほどいたのだとすぐに気付く。ゆっくり目を開けると、辺りはもう暗くなってきていて、星がちらほら見え始めていた。
「目隠し、もういいんですか?」
「あそこから離れたからいらない」
壊れたぬいぐるみとクリーム散乱、でしたっけね。意味わかんないけど。
先輩は“探知”という能力について話してくれた。
「紅火はまだガキだから、不安定なところはあるが、それでも紅珠さんとメイズさんの子だよ。“探知”はある一定範囲内にいる人物がどこで何をしているのかってのを感知する能力だ」
それだけなら、先輩もやってそうですね?
「気配察知だけなら俺の方が上だ。でも、紅火の能力とは次元が違う。例えば、俺が目視で探しているなら、紅火は監視カメラで全体を見張っているようなもんだよ」
規模が違う……!?
「紅火はこの町圏内なら誰がどこで何をしているのかハッキリと探せるぞ。マスターはもっと広いけど、それは今はいい」
「それなら、初めから能力でノイズさんの居場所を探せばよかったのでは?」
「それが出来るなら紅火もそうしてる。けれど、考えてもみろ。何万人と暮らすこの町からたった一人を探し出すってのは並みの集中力じゃ出来ない。精神力も持たないしな」
……そうか。負担が大きすぎるのか。コウくんはまだ子供なんだもん。
「だから、紅火は許可なく使うことはしない。自分の意思で使うことをしないとマスターと決めてるんだ」
そうか。先輩から許可が出たとき、少し嬉しそうにしていたのはそういう理由か。多分、その許可を出すのも限られた人からじゃないと、コウくんは使うことはしないんだろう。
「まだこの町にノイズさんがいるのなら、紅火が探し出せる……寮に帰ってるならそれはそれでいいし、無事が確認出来るならよし……だが」
「先輩の予想では、何かあった、ということですね」
「あれを見る限りじゃ、何もなかったとは言えないからな。意味もなく組織の者がここにいるとは思えない」
コウくんの持つ“探知”能力の話が一段落したところで、ノイズさんの話が気になってきた。何だか、話が大きくなってきている気がしたからだ。その整理のためにも、私は先輩に質問を投げ掛けてみる。
「ところで、敵達はなんでここにいるって分かったんでしょう? 張り込みですか?」
「多分。でも、この状況は先手を打たれまくっている。……大した規模もない組織がここまでやるものか? 何か裏にいるとしたら、どこが……」
そういえば、私達が練習をしているところにコウくんが来て、敵の動きが怪しくなっているって。ノイズさんを襲ったなんて話はなかった……
「そうだ。捕まったなんて話になっているなら紅火はそう言うし、“探知”の許可を申し出るはず。が、そうしなかったのは、あくまで動いたと言う確証のない話だったから」
とりあえず、ノイズさんに伝えに行こうとコウくんは探しに出た。そして、敵の襲撃に遭った。
「あー……紅火からちらっと話聞いたけど、襲撃に遭うと言うよりは、挑発に乗って来た敵を迎え撃ったらしいぞ」
わあ……流石、コウくん……
「簡単に挑発に乗るってことは、雑魚もいいところだ。……紅火の尋問にも口を割らなかったし、知らないのは明白……くそ。踊らされてるな、俺達は」
こっちが動きを察知したと思ったら、相手は欲しいものを手に入れていたかもしれない。敵に先手を打たれていた……か。なんだか、誘い出されたみたいですね。
「……誘い?」
「あ、えっと。なんとなくですけど、そんな感じがするんです。ノイズさんがここに来ることは分かるかもしれないけど、その、ノイズさんの目指す目的地までのルートはいくらでもあるじゃないですか。よく待ち伏せなんて出来たなって」
ここは町外れの森の中だ。整備された道なんてなく、人が何度も通った跡はあるけれど、それはいくつもあった。ノイズさんがどこから森に入って、どう通ってきたのかなんて分かるものか。
「……確かに、そうだよな。まあ、毎年この時期はここに来ているが、今になって復讐しに来たってことになる……最初からつけられていたってのもなくはない、が……」
それこそ、この森で撒こうと思えば撒けますよね。きっと、だけど。
ここまで考えてきて、二人同時にため息をついた。果てし無い話にお互い疲れてきたのだ。
「……いくつもある、可能性の話をしても仕方ないな。どれもこれも紅火の結果次第だ」
「そうですね。話していて、意味が分からなくなりました……けど、今の話、ノイズさんに何かあったらの話ですもんね」
「だな。何もない可能性だってある……」
そうであって欲しいという願いはある。けれど、それは振り出しに戻ってしまうのだ。何もない可能性はあるが、それは先輩が、何もないなんてことはないと何かあったと予測したのだから。
「ラグさん! 姉ちゃん! ノイズさんの居場所分かった!」
私と先輩とで話している間、コウくんのお仕事は終わったようだ。コウくんの手には用心のためか剣が抜かれたままだった。
「ギルドにも家にも帰ってません……だから、多分……俺達、出遅れてます。この後、どうするんですか?」
「どうするって、それはお前が一番よく分かっているんじゃないか?」
「そう、ですね。では、俺達はどうしたらいいですか。ラグさんに従います」
俺達ってことは私も含まれているのか。
先輩は少しだけ黙って考える。恐らく、どう動くのがいいのか、なんてことを考えているのかもしれない。どちらにせよ、私には予想が出来ないくらい、先輩は思考を巡らせているのだろう。
数十秒の沈黙の後、ふっと短く息を吐いた。
「俺は一度、ギルドに戻る。お前らは家に帰って待機してろ。紅火、家に帰ったら、俺の携帯にマップ送ってくれ」
「了解。何かあれば動けるようにしておきますね」
「そうだな。そうしてくれ。……リアル達はまだいるか?」
「俺が“探知”したときはギルドにいましたよ。待てって言われたから待ってるんだと」
「……なるほど。マスターには言ってない?」
「言ってません。まだ確証がなかったので。父さんも知らないと思うけれど、勘がいいから家帰ったらバレるかも」
「メイズさんには別に……知ってくれてた方が力になってくれるだろう。……よし、行動開始だ」
「はい」
……流れるように色々決まってしまった。コウくんと先輩の間に全く入る余地がなかった。経験もない私は黙ってコウくんに従うしかないか。



~あとがき~
動き出した感ありますね……!
なんだか色々謎がありますね。どうなることやら?

次回、一度、家に帰ることになった紅火とサファに……?

ラグとサファが話しているとき、結構慣れている感じがしましたね。ラグはともかく、サファも普通に話してます。まあ、情報整理ですから、お互いの考えを交換し合っているもんですが。

紅火の能力、“探知”能力です! 紅の一族はこの力を受け継いで、守ってきているということになります。力を持つ者が次期頭首なんですね。それはどこの名家、本家も変わりません。

シリアスな話のときは挿し絵ない方がいいのかなと思って、描いてませんが、あった方がいいんだろうか。バトルシーンは描けないから、あれですけど。
あと、最近投稿しまくっている(?)のはこの小説を書くモチベーションが上がってるだけです。話に詰まれば、また亀さんペースに戻ります(笑)

ではでは。

last soul 第25話

《この物語には死ネタ、暴力表現等の描写があります。閲覧の際はご注意ください》





~見えぬ景色~


先輩の背中を追って、だんだんと人気のない場所へと移ってきた。町外れの森の中。誰もいない、自然の中。
「ここに、コウくんが?」
辺りを見回してもコウくんの気配どころか、人の気配なんてしない。こんなところにいるのだろうか。
「あそこからかなり離れていたからな。……でも、音が聞こえた」
「音、ですか?」
「町の音と紛れてはいたけどな。あれは銃を撃った音だった。恐らく、紅火が威嚇かなんかで撃ったんだろう」
私には全く聞こえなかったな。……仮に、銃の音だとして、それがコウくんが撃ったとは限らないんじゃ……? 敵かもしれないんですよね。
私がそう言うと先輩は困ったように頷く。
「まあ、それはそうなんだが」
根拠のない自信、勘というやつらしい。先輩にしては、珍しい。こういうときこそ、理論的に、現実的に動きそうなものなのに。
「……俺にだって感情はあるし、予測もする。勘にもすがるときもあるよ」
不満げな私にラグ先輩も不満な顔を浮かべつつ答える。なぜそんな表情を浮かべたのか、理由は私には分からなかった。
「それに……臭いもする」
「におい??」
なんだろ? 何かするかな?
すんすんと周りの臭いを嗅いでみるけど、自然の草の臭いしかしない。普段、町にいるとこんな臭いはしないし、意識もしないから物珍しくはあるけれど。
「あぁ、分かんないのね。なら、いいよ」
え、なんでそんなに残念そうな目で見るんです!? なんで!?
「こんなときに何だけど……お前、なんでこんなとこにいんの。マジ使えねぇな」
「そ、そんなこと言われても分からないんですもん! 私、平均的な能力しかありませんもん!」
「そう。……じゃあ、バトルも平均的な能力あればもっとよかったのに」
はあ、とあからさまに大きなため息をついた。私に分かるようにわざと大袈裟にやっていることも察した。それを見てしまったら嫌でも腹が立つというもので。
「悪かったですね……! でも、これからもっと勉強して先輩をあっと言わせます!」
「えっ? ま、そんな日が来ることを楽しみにしてるわ」
今、一瞬、お前には一生無理だろって思いましたね。絶対思った……!
もう。さっきまで気不味い雰囲気だったのに、今のこれはなんなのか。……先輩が、わざとそんな雰囲気にしているのか、分からないけれど少なくとも話しにくさは完全に消えた。先輩が考えて発言をしていたのなら、それは少しだけ尊敬する、かもしれない。私のことをバカにしたのは許さないけれど、正論なのも事実なんだ。弱さをここで痛感することになるなんて。弱いということがどんなに不幸なことなのか、知っていたはずなのに。
いきなり黙る私に先輩は少しだけ首を傾げ、怪訝な顔を向ける。
「なんか急に黙りこくって怖いんだけど……っ! サファ!」
「え、わっ!? 何ですか!」
私の名前を呼んだかと思ったら、ぐるっと後ろを向かされた。振り返ろうと首をひねろうと思ったけれど、先輩の手によって完全に固定されてしまう。先輩の顔は全く見えない。私の視界に映るのは、今まで先輩と歩いてきた道だけ。
「あー……とりあえず、もっかい聞くわ。この先、俺についてくるんだな?」
「? は、はい……」
今更何を聞いているんだろう。ここまで来たら、帰るなんて選択するはずがないのは、分かっていそうだけれど。
「そうか。俺は帰ることをお勧めするけれど、ついてくるんだな?」
「先輩、しつこいですよ。ついていきます!」
「……ところで、お前は今までにスプラッター映画とか観たことある?」
すぷらったぁ? 新しいスイーツの名前ですか? それとも飲み物の名前っぽいかも? でも、いきなりそんなことを言うなんてどうかしたのだろうか。甘いもの食べたくなった、とか?
「あぁ、そういう反応なのな。……じゃあ、ついてくるなら、目を塞げ」
「え、なんでですか?」
「いいから、ついてくるなら黙って従え」
むう……ここで嫌だなんて言ったら、家に帰れと言われそう。今度こそ、突き返される気がする。それなら、従う方が無難かな。
「はぁい」
そう言って私は両手で目を覆った。いざとなれば見れちゃうけど、まあ塞いでるしいいよね。
なんて思っていたのは甘過ぎた。先輩は私のスカーフを勝手に外すとそれで私の両目を完全に塞いでしまった。
「え、えぇぇ!? 暗い!!」
「塞ぐってことはそういうことだろ。ほら、手」
「え、あ、はい……」
先輩に手を引かれ、この先に進むことになった。全く見えない。音と鼻などの感覚だけが敏感に働く。視界が奪われただけでこんな気分なんだな。

しばらく歩いていると少しずつ嫌な臭いがしてきた。何がとは言えないけれど、説明が出来ない臭い。私が今までに体験したことのない臭いがする。さっき、先輩の言っていた臭いとはこれのことなのだろうか。
「あ、あの、先輩……なんか、変な臭い……」
「そうだろうな」
先輩はそれだけしか言ってくれず、詳しい説明はしてくれない。変わらないスピードで歩くだけ。しかし、突然ふと先輩の手が離れる。私が離したのかと焦ったけれど、恐らく先輩自ら離したのだ。
「な、なんで離すんですか!? 先輩、どこ!」
「お前の斜め前だよ。そこにいろ」
えぇぇ!? なんで!
とりあえず、先輩の言う斜め前を手でぶんぶん叩いてみる。何かに当たることはなく、空しく空を切る。先輩、当たらないように避けているのか。それとも私の側を離れたのか。
「……紅火、これまた派手にやったもんだな?」
「あ……ラグ、さん」
遠くの方でコウくんと先輩の声が聞こえる。周りが静かなせいか聞こえない距離ではない。
「ごめんなさい。なんにも知らなかったみたいです。……俺が聞き出すの失敗したのかもしれないけど」
「あ? んん……いや、本当に知らないんじゃないか? こんなんされてまだ割らないんなら、もっとでかい組織にいるだろ」
「そういうもの?」
「だってお前、ちゃんとしたんだろ?」
「しました……」
な、なんの会話なんだろう。
「じゃ、間違いなく知らないんだ。俺の予想だけど、したっぱは何も知らされずにやらされていたんだろうな。俺達に喧嘩売るってことは、そういうことだ」
「……そうですね。ところで、ラグさんはなんでここにいるんですか? 俺の心配?」
「んなわけねぇだろ。お前を心配する必要がない。ノイズさんの心配しかしてないぞ」
「……あはは♪ そーだよねぇ。……って、え? 姉ちゃん!? なんでいるの!?」
ずっと先輩と話をしていて気付かなかったらしい。まあ、私はコウくんがどこにいるのは全く分からないけれど。
「帰れって言ってもついてくるもんで、連れてきた」
「えぇ……姉ちゃん来るって知ってたらもっと上手くやってたのに。大暴れしちゃった~」
「いつもこんなんだろ、お前は。……で、処理班に連絡は?」
「あ、それはもうしてあります。勝手にやってくれると思います」
処理班……?
「そうか。……ノイズさんはここにいなかったみたいだし、ギルドに戻るか。……紅火はサファ連れて一旦帰る? 日も暮れたし」
えっ!? 結局、お家に帰れと。何が起こっているのか把握出来ないまま、帰るの?
「俺はまだいけますよ?……でも、この件に姉ちゃんを巻き込みたくはないので、帰ります! それに夜目も利きませんし」
えぇぇ!? ちょ、コウくん!?
私の知らないところで、どんどん話が進んでいく。会話に参加しようにも二人がどこにいるのかも分からない。目隠しを取ればいいのだろうけれど、そんなことをしたら、先輩に何されるのかたまったもんじゃない。そもそも、結び目が固すぎて解くことが出来ない。
「懸命な判断だな。じゃ、帰る前に“探知”してくんない? 俺が許可するから」
「! よっしゃ! 了解っす!」
う、うん? なんだか意味が分からなくなってきた。というか、話についていけない……
先輩の言う、“探知”ってなんだろう?



~あとがき~
後半、サファが目隠しされているので描写がありません。が、予想はつくよね?
前回の次回予告と違う? 知らない知らない((

次回、紅火の“探知”の説明!
きっとね! 多分ね!!!

L.Sの小説を書くのが久しぶり過ぎて皆の口調、性格を忘れてます。しんどい……まあ、大丈夫。前の読み返してきたから!
あの、ラグってこんな人だったっけ(汗)

そして今回からってか、冒頭に注意書を載せておきました。そもそもダークな話が多くなる予定なのに載せるのを私が忘れていました(汗)
過去に出した話については編集して付け足しておきます。まあ、今後の話が全てそうだとは言いませんが、一応ね! ジャンルがあれだから!

ではでは。

last soul 第24話

《この物語には死ネタ、暴力表現等の描写があります。閲覧する際はご注意ください》





~紅き炎~


周りに人の気配はせず、誰かいるように思えない道を紅火は一人進む。仕事を一人でこなすことも多い紅火にとってこの様な状況は珍しくもない。その場に立ち止まり、ぐるりと辺りを見回すが、人影はなかった。
「………なめやがって」
ぽつりと呟くと、素早くホルダーから銃を取り出し、天に向け発砲する。夕暮れの森の中。他に音を立てるものなどない空間で乾いた音だけが響く。
「隠しきれてない。そして今、俺は機嫌悪い。とっとと出てこいよ。俺みたいな子ども相手に臆してるのか? あぁ、もしかして、お兄さん達は雑魚なのかな?」
普段仲間に見せるようなことはないであろう笑みを浮かべ、挑発を仕掛ける。基本的にこんなものに引っ掛かる敵もいないのだが、今回はそうではないことを紅火は感じていた。
「誰が来るのかと思っていたら自分から死にに来るとはね。あんたらのギルドも落ちたもんだな」
紅火の斜め後ろの茂みから姿を表した。それに続くようにガサガサと草を掻き分けて姿を表す。種族はまちまちでそれをいちいち確認することは紅火はしなかった。どうせしたところで、すぐに消える相手。覚えたとしても意味はないのだ。
「ノイズさんはどこだ。あんたらの目的は?」
「目的? 殺された仲間の復讐かな?」
「は? ちっさ……そんなんで罪重ねるとか馬鹿なんじゃないの? あんたらの仲間は悪いことしたから消されただけだ。そんなことでノイズさんを巻き込むなよ」
「そんなこと? お前に何がわかる!? お前らもやってることは同じだ!」
敵の言葉を聞いた紅火の心は静かに深く沈んでいく。頭の中がしんと冷たくなっていく感覚。紅火にスイッチが入る。
「だから、何? 別にあんたらみたいに私利私欲で消してない。俺も能力は使ってない。俺達がいるのはあんたらがいるからだ。存在が迷惑なんだよ。分かってる? いなかったら、俺達はいない。存在しなくていい。普通に過ごせるのに……!」
ギルドの仲間達も好きでこんな仕事なんてしていないのに、と心の中で叫ぶ。しかし、そんなことを目の前にいる人達に言ったところで何も変わりはしない。紅火はやるべきことをするために剣を抜く。
「ノイズさんの居場所、吐け。ここにいないことは分かる。吐いてくれた方が楽だから、吐くまで俺は止まんないぞ」
冷たい思考の中で気付いたときには自分以外、誰も立っていないかもしれない、と冷静に分析する。寸前で止められるほど、紅火もお人好しではないのだ。周りにいる敵達がどうしようかと戸惑っているのが手に取るように分かった。そして、いきなり突っ込むようなことは紅火もしない。
「来いよ! 生意気言うお子様の俺を倒してみれば? まあ……あんたらに俺が倒せる可能性はないけどね。理由なんて決まってるじゃん……俺の方が強いから」
最初のやり取りで相手の戦術が甘いことは読めている。恐らくだが、実践経験も紅火の方が圧倒的に多いだろう。人数に頼る戦い方はしてこないと踏んだのだ。正面にいた敵に銃口を向け、最後の挑発を仕掛けた。
「俺はラストソウル、ブラック所属の紅火だ。…………こんなガキに殺られて、地獄で自慢出来るね。お兄さん達?」
「後悔すんなよ、ガキが!」
紅火に向かって一斉に飛びかかる者、警戒してその場から動かない者、遠距離攻撃をしかけようとする者……反応は様々だった。しかし、誰一人逃げ出すような者はいない。ここにいる敵は紅火に負けることは頭にないのだろう。
その選択がどんなに愚かなことなのか知らずに。
「はあ……………どんな敵相手でも、舐めてかかると痛い目見るんだよ。知らないの?」
持っていた銃をホルダーに素早くしまい、剣を両手で構えた。
「………後悔すんのは、どっちだろうね?」

気まずいです。誰かタスケテクダサイ。
確かに先輩の言うことを守らなかった私が悪いんだろうけど、でもでも、私だってギルドのメンバーなんだよ。それだけは分かって欲しい。
私の少し前を歩く先輩は私の方を気にするでもなく、スタスタと歩いている。しかし、不意に先輩が立ち止まり、ある一点を見つめて動かなくなってしまった。
「…………紅火…」
「せ、先輩? コウくんが何か……?」
「何でもない」
先輩はそう言うと再び歩き出す。
まただ。また、残される。
「嘘。こんなに訳の分からないことが起こっているのに、何でもなくないですよ」
「…………仮に何かあったとして、今のお前に何が出来る?」
私の数歩先で立ち止まり、振り返った先輩は冷たい目をしていた。ノイズさんに何かあったと分かってからずっと同じ目を私に向ける。
今の先輩はきっと、裏のお仕事の先輩なのだ。未熟な私を巻き込まないようにしてくれているのだろうか。それとも単純に私が邪魔なのか。その両方なのか。……いずれにせよ、ここで簡単に頷いて帰るわけにはいかない。
「今の私には戦うことは出来ません。……危ないことがあっても、身を守ることも出来ないです。でも、コウくんは私の弟です。気になっちゃ駄目ですか? 心配しちゃ、いけませんか? 何かあったら……嫌…だから……」
だから、私にも背負わせてくれ、と願った。こんなよわっちい奴が何言ってるんだと自覚しつつも思った。それを口には出せなかったけれど。
先輩はしばらく黙っていたけれど、諦めたかのようにふいっと私から目線をはずし、ため息をこぼした。
「………あーもう。じゃあ、もう好きにしろよ。どうなっても知らないからな、俺は」
え、やった……? いいってことだよね!?
「ここでお前に何かあっても知らないから。あいにく、今の俺は手ぶらなんでね。お前を守りきれると断言出来ない。死んだって文句は言えないから」
それだけ言って、それでもいいならついてくれば、と小さく呟いた。諦めた感じの先輩の声は先程の冷たい感じはなく、いつもの先輩の声で。そして私の方を振り向きもせず、また先を歩き始めた。その足が向く方向は私の家ではなく、別の道に逸れている。
「……もう、ここに入った時点でいつかはこうなるって知ってたんだもん。覚悟決めなきゃね」
ぐっと拳を握って気合いを入れ直すと、先輩の背中を追う。何が起こっているのかはよくわからないけれど、よくないことが起こっているのは理解出来る。私の力はまだ小さいから、何が出来るわけではない。それでも、私は……!



~あとがき~
まず始めに。

ほんっっっっとうに、お久しぶりです!!!!!

いやぁ……一年もほったらかしててすいません。見ている人もいないと思うんですけど、一年以上更新していなくてこっちもびっくりだよ。見てなかった私が悪いんだけども。
きまぐれ日記はちょこちょこやってたんですが……こっちは意識が向かなくて。ごめんなさい!
せめて、一年に一回は更新しろよって感じですよね。ごめんなさい……
何か深刻な事情があったとか、そういうわけではなく、単純に時間なくて続きが書けなかっただけですね。時間がねなかったの!! ごめんなさい!
これからは気を付けます(フラグ)

さて、次回は、紅火のいるであろうところに向かったラグとサファの見たものとは!

多分、そんな感じでやっていきます。はい。

今回はあれね。紅火の覚醒(?)が見せられて満足です。普段はアホっぽい子がキリッとなると変な感じがしますね。ギャップかな?
ラグも言うことを聞かないサファにずっとイライラしてましたが、完全に開き直って、勝手にしろ、と言った具合になりましたね。サファを守ると言っていたのにこの適当さはなんなのか(笑)
頑なにサファを巻き込まんと奮闘していたラグもサファに押し負けたって感じなのかね。それとも、今後避けられるものじゃないから今のうちにってことなのかもしれません。多分、後者の理由でしょうか。その判断に悩まされていたのかもですね。
わからんけどね!!

ではでは。

last soul 第23話

《この物語には死ネタ、暴力表現等の描写があります。閲覧する際はご注意ください》





~理由~


夕日が輝き、夕食の買い出しや学校帰りの子どもで賑わう表通りを通行人とぶつからないようにしながら、しかし全力で走る紅火の姿があった。
本来であれば、先輩のラグやマスターの紅珠を頼るべき案件なのだろうと悟っていた。今回の件は紅火自身、詳しく知っているわけではないのである。
「発端って何年前だっけ……? 話聞いたのは五年? 前だっけか?」
紅火は走るスピードを緩めることなく記憶の中にあるある話を思い出していく。

「ラグさん、話って何ー?」
「黙ってついてこい。お前は次期ギルドマスターだし、頭首になるし、話しておきたいことがあんだとよ」
ギルドに正式に加入することが決まってすぐ、先輩でもあり、幼い頃からの話し相手兼遊び相手でもあったラグに呼び止められた。そして言われるがままマスターの部屋に連れてこられ、中に入ると母親の紅珠とピカチュウの姿があった。
「えーっと俺、なんかしたっけ?………はっ!? 入ってすぐに…り、りすとら? されるの!?」
「したくても出来んだろうよ。さっきも言ったけど、次期マスターだろ、お前」
隣に立つラグに言われ、そうか、と思い出す。しかし、それならば話とは何なのだろうと首をかしげた。
「ありがとう、ラグ。連れてきてくれて。紅火に言っておきたいことがあるのよ。そこにいるピカチュウ、覚えてる?」
「う、うん? えーっと………確か父さんの親戚の……………本名しか出てこないんだけど、言っても大丈夫?」
「顔覚えているならいいの。この人のことなんだけど…」
話を進めようとする紅珠をピカチュウは制止し、全員をぐるっと見回す。
「ちょっと待て。名乗らせてくれないの? このままだとこの人で終わるよね!?」
「うるさいですよ、そこの人」
「ラグくぅぅん!?」
ふいっとそっぽを向きながら毒を吐くラグを見て、緊張が解れていく。
「あー俺っちはノイズ! 一応、ブラックのメンバーで情報管理が主な仕事」
二人を納得させることが出来ないと悟ったらしいピカチュウ……ノイズは無理矢理自己紹介を挟んできた。そんなノイズの行動に対して特に何も言わないところを見ると、単純にいじっていただけだったらしい。
「んで、そのノイズの話なんだけど」
「うん。………あれ、でもノイズ…さん? ノイズさんって最初から情報管理が仕事だった? 父さんか
は同期に誰もいなくて俺がやってたんたぞーって言ってた気がするけど」
前にその様な話を聞いたことがあると思い、小さく呟く。それを聞いたラグが少し驚いたように紅火を見て、溜め息をついた。
「いつの話だよ、それ。……紅火って本当は馬鹿じゃねぇよな。勉強は出来ないけど」
「えぇー? でもでも、俺、作戦とかちょっとわかんないよ」
「そういうことじゃ…………もういい」
何か言おうとするラグだったが、伝わらないと判断したのか頭をかきながら口を閉じた。そしてそれを見計らってか紅珠が話を始めた。
「昔ね、ノイズは暗殺者として活躍していた時期があったの。でもある仕事で大怪我して暗殺者として動けなくなったのよ」
「うおぉう!? マジですか!」
「まあ、見ての通りだよね……?」
「そんなわけだから、仕事でノイズ頼っても無駄だからって話なの。本当は詳しく教えてもいいんだけど、それはまた今度ね」
「紅珠の発言、いちいち刺を感じるんだけど。どうしてそんなキツいわけ」
「嘘じゃないからいいじゃない。それに分かりやすくて楽なんだもの」
笑顔を崩さず紅珠に反論することを諦めたのかノイズは何も言わなかった。
そしてそのままお開きとなりラグと共に部屋を出る。そして帰ろうかと考えていた紅火にラグが話しかけてきた。
「お前、このあと暇?」
「ん? うん。元々今日は顔見せだけだったし、何もないよ。なんで?」
「マスターは今度って言ってたけど、多分、何も話す気はないだろうから俺から言っとく。話しにくい事でもあるし」
「うーん……なんとなく予想はつくけど、怪我したのノイズさん以外にもいたの?」
「紅火は勘が冴えてて助かるよ」
それだけ言うとラグは着いてこいと一言言うなり、紅火の前を歩いて行ってしまった。断る理由もないためラグに黙ってついていくことにした。どこまで行くのだろう、どんなことを話すのだろうなどと疑問はあったがその場で聞ける雰囲気ではなかったため、口を開くことなくラグの背を追いかける。
しばらく沈黙が続き、最初に浮かんだ疑問も忘れかけた頃、不意にラグが紅火の方を振り返った。
「お前はマスター…紅珠さんとメイズさんの子だ。この仕事がどんなことだか分かるだろ」
「…………うん。理解してるつもり」
「今日話していた奴が明日もいるとは限らない。仲間が死んでいくことなんて当たり前な世界。だからそのことでいつまでも引きずるわけにもいかねぇ」
「うん。…………ラグさんは見てきた?」
「そうだな。数えるの嫌になるくらいは」
そう言うとぴたりと止まる。紅火も止まり、前を見ると、目の前には小さなお墓が建っていた。周りには何もなくただそれだけがあった。それが寂しくも儚げに紅火の目に映る。
「………? ラグさん? ここは……」
「紅火の言うノイズさん以外にも怪我した人のお墓。ノイズさん達の同期だった人」
「じゃあ、母さんと父さんも?」
「そうだな。ノルンさんって言うピカチュウでノイズさんの恋人だった。ノルンさん、俺が仕事やり始めた頃に病気で失明したんだ。それで引退したんだけど、それでも皆の役に立つって裏方仕事やってた」
「ラグさんが仕事やり始めた頃って言うと……十年前くらい?」
「そんくらいかな。そっから事件があったのは二年後だから、今で言うと八年前。俺とノイズさんである仕事してたんだ。俺がサポートでデータ回収をノイズさんに言われて、命じられるままそれをやってたんだけど……」
ラグが墓に近付きその場にしゃがむ。とてもじゃないが口を挟める話でもなく、ラグと同じように紅火もしゃがんだ。
「その悪者さ、なんか個人的にノイズさんに恨みあったらしくて……つーか、一族? 血縁? 詳しくは知らないんだけど、とにかく怨恨ってやつ」
「れんこん……?」
聞き慣れない言葉に首を傾げ、思わず口にする。紅火の呟きにラグは真面目な話なのにと少し呆れ、無視しようかと思ったが訂正しておかねばと溜め息をつきながら話を続けた。
「……………怨恨ね。“えんこん”。深い恨みってこと。ノイズさん個人に恨みはないと思うけど、こんな仕事してっから憂さ晴らしにはいいと考えたんだろうな。どこで知ったのかノルンさんを拉致したの」
「…………え…なんで」
「さあね。嫌がらせじゃねぇの? んで、ノルンさん人質に捕られてまともにやれるわけないだろ? 悪者さん達はやるだけやって挙げ句の果てに爆弾使ってそこら中吹き飛ばした。幸いと言うべきなのか、そこまで威力はなくてノイズさん達と離れていた俺は無傷だったし、ノイズさんも爆弾でバラバラってことにはならんかった。けど、ノルンさんは…」
「…………バラバラ?」
「いんや。悪者さん達に色々やられてたみたいでそれが原因かな。まあ、ノイズさんを庇ったのも一つの原因か。その事件でノルンさんは死にノイズさんは引退まで追い込まれたってわけ。これがノイズさんが仕事出来なくなった詳しい内容」
今までの話を聞き、紅火はむすっと頬を膨らませた。
「なにそれ、逆恨みじゃん。理不尽じゃん、こんなの」
「紅火の言う通りだよ。血縁のノイズさんはともかくノルンさんは関係ないのに………ま、恨みとかはどっかで買ってても不思議じゃないから何とも言えないけど。…………本題はここからなんだけど」
「うぇぇ!? まだ何かあるの?」
思わず声をあげ、心底嫌そうな表情をしている紅火に苦笑しつつ、まあ、聞け、と宥めた。
「捕まってないんだよ、ノルンさん殺った奴ら」
「………えっ!? ラグさんいたのに!?」
「頼りなくてすいませんでしたね。そんときはまだペーペーだったんですよ。……それでなくても当時の俺は技術的にも未熟だったし、全員捕まえるなんて出来なかった。これでも何人かは捕まえたんだ。評価していただきたいね」
少し不満そうに抗議するラグが珍しく、紅火は笑いが込み上げてくるが何とか堪え、何とか弁解する。
「ご、ごめんなさい。今の技量で考えちゃって……それで今でも見つからないの?」
「あぁ。俺も捜してはいるんだけど、どうにもね。そればっかにも構ってられないところもあって」
「………捜すの、俺も手伝えってことだね」
「今日はマジで冴えてる。明日は雪でも降るのか?」
「ここまで聞いて察せない俺じゃないよ! 許せないし、そいつら!」
怒りを露にする紅火。そんな紅火の頭をぽんと叩き、ラグはありがとうと笑って答える。
「まあ、お前馬鹿だし、深入りだけはすんなよ。出来たらでいいし、今は話を聞いて知ってくれるだけでいいからな」
「うんっ! もしその悪いやつと戦うときは俺も頑張る」
「おう。んじゃまあ、帰るか」
「はーい」

ある場所でぴたりと止まると、小さく息を吐いた。今まで、ずっと探していた相手がここにいるかもしれない。あの頃に聞いたときからずっと頭の片隅にあったことだ。
「………約束したもんね。ラグさんと」
持ってきていたホルダーに手をかけながら、更に奥に進んでいった。



~あとがき~
久しぶりの更新ですね。お久しぶりです!
……今回、回想でほぼ終わった。

次回、紅火の暗殺者としての腕が分かるかもしれない! あとはサファ視点にちょっとしたいな!

回想の中で紅火はラグに対して敬語を使ってません。まだ仕事の先輩後輩という関係ではないからですね。遊び相手感覚が抜けてないんです。
そーいや、紅火とラグの関係についてはここが初ですかね? 二人はある意味、幼馴染みみたいたもんです。ラグの仕事がないときは紅火の相手を任されることが多かった様子。
紅火は紅火で小さい頃からギルドに出入りしていたので、大体は顔見知りです。その中でもラグは特に関わりが深いって思ってくれていいですよ。

ノルンの話もここが初?
いつだったか、ラグがお墓参りしてたんですけど、それがノルンさんです。ノイズの恋人ってか婚約者と言っても過言ではない仲でした。
ノルンが喋るような描写が今後あるかは分かりませんが、普通の女の子ですよ~

ちょっとラグと紅火が当時幾つなのか分かりにくいと思うので、まとめます!
まず、話を聞いたのは五年前らしいんで、紅火は八歳、ラグは十五歳です。そこからノイズとノルンの事件があったのが当時から八年前なので、紅火は産まれたばかりかまだ産まれてないかです。ラグは七歳かな。こんな感じです! 要するに今現在から十三年前です。かなり前ですね……( ̄▽ ̄;)
こんな感じで分かりやすくなったかな?

では。

last soul 第22話

《この物語には死ネタ、暴力表現等の描写があります。閲覧する際はご注意ください》





~先輩の言うことにはきちんと聞きましょう~


先輩の言葉を理解するのに数秒。その間に先輩は、修行場を出て行ってしまった。取り残された私はただ立ち尽くすしかない。
詳しい説明はしてくれなかった。だから、結局のところ、理解出来ていない。しかし、一つ確かなのは、今、危険なことが起ころうとしているということ。
「わ…訳がわからない……けど、ここは先輩の言う通りにした方がいい………のかな」
それで本当にいいの……? でも、残ったって出来ることなんて一つもない。それなら、いっそ……
「んんんんん!! むりぃぃぃ! 先輩の言うことなんて聞けない。まずはギルドに戻ってみよう」
こんな私でも出来ることがあるかもしれないんだ。先輩になんて言われようと無視だ。無視! 邪魔かもしれないけど、そんなの関係ない。
というか、一人で帰ってくることがないようにっておじさんに釘を刺されてるから、結局は帰れない。どこか過保護なんだよな……おじさん。過保護だな~とか思っていたら、ほっとかれるし……おじさんの思考はよくわからない。
「っと……いつの間にか関係ないこと考えてた。早く戻ろ」
ぐっと背伸びをして、よし、と気持ちを切り替えた。そして、遅れて私も修行場を出た。

サファと別れたあと、ラグはギルド地下にある情報室へと来ていた。普段なら、そこでノイズがキャスター付きの椅子に座り、カタカタとキーボードを叩いている。しかし、そこには誰もおらず、機械だけが並ぶ寂しい雰囲気が漂っていた。
ラグは中央にあるデスクトップの電源を入れ、近くに置いてあったヘッドセットを着ける。そして、電源の入った画面にはふわふわと毛玉のようなものが浮いていた。
「おい起きろ。仕事だ」
『……ご主人じゃないですね』
不機嫌そうにゆらゆらと揺れる毛玉に呆れつつも、どこから取り出したメモリースティックを差し込んだ。
「ご主人じゃなくて悪かったな。しぃ、今から情報入れるから、整理してくんない?」
『少々お待ちください。情報をスキャンします』
しぃと呼ばれた毛玉……正確にはナビゲーションプログラムで、現在プログラミングの仕事をしているメイズによって造られたのだ。しぃが言う、ご主人とは、作り手のメイズのことではなく、いつもここにいるノイズのことである。
『ラグ様、今の管理者権限では扱えない情報を検出しました。いかがなさいますか?』
「あー……そっか。忘れてた……じゃあ、俺のライセンス使え」
『了解。ラグ様のライセンスを一時的に取得します』
「どんくらいで終わる?」
『三分程で完了します』
「なかなか速いな。助かるよ。にしても………まさか、こうなるとは思っていなかった。……が、指示は来ないし、動けないな」
椅子に座り、天を仰いだ。
本当なら、命令など無視して殴り込んでもいいのだが、それでは交渉決裂。こちらが大損してしまう。あの人…ヘラに何されるか分かったものではない。思うように動けないこの状況下が歯痒く、悔しく思うのだが、約束は約束。きちんと守らなければ、次に繋がらない。
そう割り切り、次に浮かんできたのは、先程まで一緒にいたサファのことだ。
「…………あいつ、帰ったかな。あんな言い方しちゃったけど、邪魔なのは事実だし。……ん、でも、俺の言うことなんて聞くのか? あの馬鹿が?…………失敗した。絶対に帰ってねぇよ、畜生」
はあ、と溜め息をつきながら、頭を抱える。そして、ちらりと情報整理しているしぃを見た。
「しぃ、それ終わったら、俺のパソコンに送れる?」
『問題ありません』
「ちょっと出てくる。すぐ戻るけど……誰か入ってきたら、その情報隠せよ。極秘なんだから」
『その辺は抜かりありません。任せてください』
椅子から立ち上がり、ヘッドセットを外して机の上に置いた。そして、早足で情報室を出ていった。

「………え、二人ともコウくんがどこ行ったかわからないの?」
ギルドにいた、リアルくんとシリアちゃんにコウくんの居場所を聞いてみたところ、二人とも知らない、という答えが返ってきた。
「紅火のやつ、何も言わずにここで待機してろーって言って出てったんだ。だから、その通りにしてるわけ」
「きっと紅火さんなりの考えがあってのことなので、俺達はここで待機しているんです」
「じゃあじゃあ、なーんにも知らない?」
私がそう聞くと、シリアちゃんはふるふると首を振った。
「知らないわけじゃないぞ? けど、言っちゃ駄目って言われてる」
なんか私だけ除け者にされている気がする……
「除け者というより、知られなくないのでは? 巻き込みたくないとか」
「うーん……でも、私だって新人でもここのメンバーだよ? そりゃ、戦力にはならないけども」
「そうだな、戦力にならなんな」
…………………えっ?
私が後ろを振り向くと、腕を組んで笑顔を浮かべているラグ先輩の姿があった。笑顔は笑顔でも、いい笑顔ではなく、イラついてるような笑顔だ。
「せ…先輩……あの、怒って…」
「俺、お前に何て言ったっけ? ここに残って探り入れろって言ったか?」
「いえ……でも、私だってここのメンバーですし」
「……んなこと聞いてねぇよ。俺は何て言った?」
「………………う…でも」
「何て言ったか聞いてんの。それだけ答えろ」
先輩の顔から表情が消えた。元々、無表情が多いとは思っているけれど、それとはまた違う類いに見える。特に睨んでいるわけでも、威圧をかけているわけでもないのに、なぜか圧迫されているように感じた。圧迫というよりも、恐怖に似ている?
「サファ、答えろ」
「………………帰れって…言いました」
「そうだ。それで、お前は今、何してる?」
「それは……」
「ラグ兄、そんなにサファさんを責めないでください。ラグ兄の言っていることは正論だと思いますが、サファさんが仲間なのも事実ですよ」
「そーだよ。そんなに怒るなよ」
「……………チッ」
リアルくんとシリアちゃんの制止で先輩はふいっとそっぽ向いた。それと同時に私は息を吐く。
こ…怖かった………!
これ以上ここにいたら、先輩の逆鱗に触れかねない。というよりも、もう触れている気もするけど、これ以上悪化させないためには退散するべきだろうか。
「ラグ兄、隠す必要ないと思いますよ。いざってときもありますし」
「そうは言ってもな……こいつの場合、自分の身すら守れないド素人だし。知らないことで守れるもんもあるし……つか、話すの面倒」
本音はそっちか。
「はあ…………全部終わったら話すよ。それでいいだろ? 今は俺の言うこと聞いて、引きこもってろ」
「終わったあとって聞く意味あります……?」
「じゃあ、言わないけど?」
「………………ごめんなさい。気になります」
私の回答を聞くと、先輩はリアルくんたちの方を見た。そして私のことを指差しながら、溜め息混じりの声を発した。
「リアル、シリア、ちょっとこいつ送ってくる。特に何もねぇと思うけど、一応警戒しとけ。何かあったら、連絡な」
「了解です。ラグ兄も気を付けて」
「送るだけだ。気を付けるものなんてない。サファ」
「あっ……はい」
私はちょっぴり気まずい雰囲気のまま、先輩と家路につくことになった。
………一体全体、何が起こっているんだろう?



~あとがき~
うわあぁぁぁぁぁ!!!! 無理矢理過ぎる展開だよぉぉぉ!!! すいません。わざと違うんです。
何かこうなりました。

次回、ノイズを探す紅火のお話。
紅火中心に書きますよ~♪

ラグってサファに対して少し厳しいところがあります。素人ってのが一番の理由なんでしょうけども。
悪く言えば、過保護なのかなぁ……? うん、わっかんねぇや!

ラグと会話していた『しぃ』というのは、いわゆるAIってやつです。で普通に会話も出来ちゃいます。ナビゲーションプログラムって作中では言ったかな?
ふわふわした毛玉……あれです。ケサランパサランみたいなやつですよ。白い毛玉です。目とかついてるよ。ちょんちょんって。多分。
なぜそのような容姿なのか……ぶっちゃけると、メイズさんに絵心がなかったから、簡単に描けるふわふわ毛玉になりました。誰かに頼めよって話ですが(笑)
ちなみに、しぃの言う、ご主人はノイズ。マスターはメイズです。他は様付けかな?

ではでは!