鈴鳴カフェ

ポケモンの二次創作とオリキャラの小説を連載しています。

last soul 第37話

《この物語には死ネタ、暴力表現等の描写があります。閲覧する際はご注意ください》





~帰還~


ラグが目を開けたときに見たものは、メルディの驚いた顔だった。その目線はラグの背に向けられたものであるため、ノイズがボロボロになって帰ってきたことに驚いたのだろう。
「連絡してって言ったのに。……急に現れたりして、心臓に悪いんだから……」
「それは、ごめんなさい。先生、ノイズさんのこと頼んでもいいですか?」
「え、えぇ……もちろん! でも、ここじゃどうにもならないかも……ねえ、何があったの? 理由、話してくれるよね?」
「全部終わった後じゃ駄目ですか?」
「今、教えてくれると嬉しいな。あ、ノイズくんはそのベッドに寝かせていいから」
メルディに言われた通り、処置用のベッドの上にそっと寝かせた。メルディはマスクと外科用の手袋をし、治療を始める。ここの設備はそれなりに揃ってはいるが、医者はメルディ一人だ。そのため、彼女に出来ることは限られてくる。それでも、必要最低限の処置はやってくれるだろう。
メルディの邪魔にならないように部屋の隅に移動したラグは、周りに誰もいないことを確認すると、要点だけをメルディに伝えた。
「簡単に言えば、復讐です」
「復讐、ね。馬鹿なこと考える人もいるものね」
「前に姉さんとノイズさんを狙った奴がいたじゃないですか。今回の原因もそいつですよ」
「あー……まだいたんだ。組織は壊滅したと思っていたけれど、違ったの?」
「そうですね……十年くらいは動きもなく、事実上の壊滅だろうと言われてました。でも、ここ最近、動きがあったと情報があったので、なんとなく調べてたんです……まさか、ここまで後手に回るとは思いませんでした」
「珍しい。ラグくんがそんなことを言うなんて」
「先生は俺を過大評価し過ぎなんです。まだまだですよ。俺なんていくらでも替えの利く、都合のいい殺し屋なんで」
「あらあら。ラグくんこそ、自分のことを過小評価するのね。出来がよくなければ、十年以上もこの世界ではやっていけないわ。それに、最年少で始末屋にもなれないんじゃない? ロスくんも自慢してるしね♪」
ここまで言われてしまうと、ラグも黙るしかなくなった。自分を卑下にすると、メルディはいつもそんなことないと笑って言うのだ。
会話をしながらも、メルディの手際はよく、短い間にノイズの止血は終わったようだ。しかし、ここで出来るのはここまでである。手袋を外し、備え付けの電話の受話器を手にすると慣れた手つきでボタンをプッシュしていく。
「とりあえず、出来ることはやったわ。ロイスさんのところに連絡を入れるわね」
「はい、お願いします。まあ、ヘラさんから連絡はいってそうですが」
「まぁた、あなたはマスターの反感買うようなことして……」
メルディが連絡をしたのは、総合病院を経営しているチラーミィのロイスであった。本家の一つ、クランケ家の頭首で、言うなれば紅珠の同僚である。普段から必要があれば、連絡を入れると治療を引き継いでくれていた。
「……先生、後はよろしくお願いします。リアル達に説明してくるんで」
「あー、うん。分かった、任せて…………あ、もしもし? ロイスさん?」
無事、ロイスに繋がったようで、メルディが今の状況を説明してくれた。ラグは全てを見届けることはなく、リアル達のところへと向かう。

「ただいま……あ?」
「あ! ラ、ラグ……!」
「ラグ兄、お帰りなさい。その、えっと」
リアルとシリアが気まずそうに目を泳がせた。理由は見れば分かる。座っている二人と向かい合うように座っている紅珠がいた。彼女は表面上では笑顔であるが、まとっている空気がピリピリとしていて、怒っていることが隠しきれていない。二人はいつからか分からないものの、マスターの紅珠に問い詰められたのだろう。
「何にも、言ってないぞ!! 言い付け守ったからな! 偉い?」
「おーおー? マジか。偉い偉い」
「あんたの入れ知恵ね、ラグ。二人とも、何も話せないの一点張りでね、埒が明かないのよ」
「はぁ……そうですか」
気の抜けた返事に紅珠の怒りを買ったらしく、勢いよく立ち上がると、びしっとラグを指差した。
「何も知らない、なんて言わせないわよ!? 大体、大切なことは連絡しろって言っているでしょう!? いつもいつも! 事後報告ばっかじゃないの!」
「まあまあ……口調が昔っぽくなってますよ、マスター? 落ち着きましょうよ。後輩の前です」
「誰のせいよ!!」
「俺がよく事後報告するのは、今に始まったことじゃないですよ。マスターだって知ってるでしょ」
「まあ、そうだけれど。でも、そのことを誇らないで欲しいんだけど」
「別に誇ってません。……今回のことをマスターに報告しなかったのは、いくつか理由があります。……が、とりあえず報告しますね」
文句がありそうな表情を浮かべるものの、今はラグの話を聞くつもりのようだ。ゆっくりと座り、何度か深呼吸をした。その隙にリアルはシリアの手を引き、そっとラグと紅珠から離れる。
「これ……『せんそーのよかん』だぞ! 兄さん、放っておいていいの?」
「よくはないけど……俺にはどうすることも。俺達も全部を知っている訳じゃないから、今はラグ兄の話を聞こう」
「……うん、分かった!」
時々、ラグと紅珠は考え方の相違からか衝突をする。大抵はラグが流してその場を丸く収めるが、紅珠がそれに納得しているかは謎であった。
「簡潔に申しますと、ノイズさんが敵に捕らえられ、先程奪還してきました。今は先生に任せてあります」
「……それで?」
「組織の名前は『ディッシュボーン』。ボスはリングマで、以前と変わらないかと。規模としてはそこまで大きくはなく、暗殺者のランクを持っていれば対応出来る相手だと思われます。現在、ボス以外のメンバーはほぼ処理出来たと見て問題ないです」
「そう。それで、ラグはこれからどうするの?」
「最後の仕上げをするに決まってますよ。ここまで追い詰めたんですから、最後まで責任持って対応します」
「……大体は把握したわ。でも、ラグはこの情報をどこで仕入れたの? 私のところには入ってきてないけれど」
それは恐らく、ヘラが止めていたのだろう。本家を取り仕切るのはヘラの役目であり、裏の情報を操作出来るのも彼女だけである。ここはあくまで、ヘラの下で動く、紅珠が持つ一つの組織にすぎない。
しかし、正直に言えばこの先何があるか分からない。紅珠とヘラが仲が悪いのは有名な話だ。いや、ヘラは別に嫌ってはいないが、紅珠が嫌っているだけだ。
「……まあ、然るべき相手からの情報提供、としか言えません。別に俺だけが知ってた訳ではないですから。今回は事が大きく、早く動いただけのこと。気にする必要はありません。重要なのはそこじゃないでしょう?」
なんとなく話を逸らし、別の話題に置き換える。実際問題、ラグがどこから情報を仕入れたのかは今はどうでもいい話だ。それは紅珠も分かっている。
「そうね。それは全て終わった後にでも聞くわ」
「ラグ、ノイズは……? 死なないよね?」
二人の話が終わったと見たらしいシリアが、不安げに聞く。何も言わないが、リアルもじっとラグの方を見つめてきた。嘘でも大丈夫だと言いたいところだが、その言葉は時に残酷であった。だから、ラグは嘘偽りなく、二人に話す。
「俺からは何とも言えない。専門家じゃないからな。……俺が助けたときは息はしてたけど、絶対に助かるとは、断言出来ない」
「そっか……」
いつも強気のシリアが見せた、年相応の少女の表情だった。そんなシリアをそっとリアルが安心させるように撫でていた。
「ごめんな、シリア。リアルも」
「いえ。生きて帰ってきたのは間違いないですし、ラグ兄が言っていたじゃないですか。簡単に死ぬような人じゃないって。俺はそれを信じます」
「ラグくん、ここにいたのね……あら、マスターまでここに? 怖い顔してますよ」
「メルディ? どうかしたの? もしかして、ノイズに何かあった?」
「ノイズくんは、病院に運んで貰いました。……連絡したのに、ラグくん出ないんだもの。自分は連絡するんでーって言ったくせに」
「ご、ごめんなさい……」
「ううん。そんなことを言いに来たんじゃないの。マスター、サンく……メイズくんから連絡がありました。マスターに連絡しても出ないので、私に連絡が来て……子供達を病院に連れていくって」
「へ……? なんで?」
これにはこの場にいた全員がきょとんとしていた。ノイズはともかく、メイズと紅珠の子供。つまり、紅火とサファを病院に連れていったということなのだろう。
「詳しくは分かりません。伝えといてくれとしか」
「そう。……ちょっとラグ、どういうこと?」
睨みを利かされたラグは慌てて首を振る。この事態はラグにとっても予想外の出来事だ。敵の力を知っていたから、紅火に任せても大丈夫だと思っていたのだが、不測の事態が起きたとしか思えなかった。
「いやいや、俺に聞かないでくださいよ!? これに限っては俺も知りませんから! 紅火は力使わせたし、まあ分かるんだけど、なんでサファの奴まで……?」
「とにかく、病院に行くわ。メイズはまだ病院にいるの?」
「みたいです」
メルディの返事を聞くと、紅珠はすぐに部屋を飛び出していった。そんな紅珠を見て、ラグはやはり教えるのは得策ではないと改めて感じていた。
ラグが紅珠に言わなかった理由は三つある。一つは紅珠の性格に関わることだ。仲間のことになると感情的になりやすい紅珠に言えば、事が大きくなりすぎると思ったのだ。二つ目に単純に情報の信憑性がなかったから。下手に伝えてしまうと、何をするか分かったものではない。そして、三つ目は紅珠がここのギルドマスターだったから。以前、ノイズの重症を負わせ、ノルンを殺した相手だ。自身の組織のトップを危険に晒すようなことはしたくない。
「はぁ……だから、紅珠さんはトップに向かないんだよ。前マスターの方が余程向いてらぁ……」
「ラグ兄? どうかしました?」
「いや、なんでもねぇ。……俺達も行こうか。お前らは行きたいんだろ?」
リアルとシリアは同時に頷いた。二人の頭にぽんっと手を置くと、メルディの方を見た。メルディはラグの言いたいことを理解したのか、優しく笑って頷いてくれた。
「行こう、ノイズさんのところに」



~あとがき~
やっと合流ですね。

次回、ノイズは無事なんだろうか……?

紅珠はあれですね。ラグから見れば、あんまりどっしりと構えているタイプに見えないようです。私情を挟むところがあるのが、リーダーに向いてないなと感じるそうで。ま、こういう仲間の話になると、熱くなるのが紅珠のようですし、ラグも分かってて立ち回っていると思いますけどね!

ではでは。