鈴鳴カフェ

ポケモンの二次創作とオリキャラの小説を連載しています。

last soul 第32話

《この物語には死ネタ、暴力表現等があります。閲覧する際はご注意ください》





~憎悪と撤退~


「あんたがやったの? 凄いことなってるね」
「心外ね。半分はイーブイちゃんのせいよ」
「そうだったの? それは悪いことした」
男は倒れているマリに駆け寄ると、さっと容態を確認をする。そして、再び、サファの方を振り返った。否、サファの体を操る人格を軽蔑するような目で振り返った。
「それで? あんたは何を望む。俺を殺せば気が済むのか」
「あら? そう言うってことは、何をして来たのか理解していると思っていいのかしら」
「言っとくが、俺は全く関係ない。上層部が勝手に決めたことだ」
ひらひらと手を振り、興味のない素振りを見せる。そんな男にサファはムッとした表情を浮かべた。男は気にすることなく続けた。
「大体、遅かれ早かれああなってたろう。……敵対していのは今も昔も変わらない。まあ? 俺はそういうの関わりたくないから? 事情も、背景も知らないけどね」
「そんなことで、許されるとでも? あの子はあれ以来、どんな生活を送っていたと思う? 親が殺されて……あの子は心を閉ざして壊されて。あたしの声も届かない、深くに閉じ込められたんだから」
「ははっ! 戯れ言もいい加減にしろ。その体はお前さんのものではないだろ。その力も、意思も、記憶も、心も、感情も……全て、嬢さんのもんだ。自分を悲劇のヒロインのように扱うな。そんな資格ない」
男は冷徹に、残酷なことを言う。先程まで不機嫌であったが、今は気にする素振りはなく、ただ笑顔を浮かべていた。
「……兄さんに、伝えてよ。いつか……貴方を殺しに行ってあげるって。親を殺した敵討ちしに行ってあげるってね」
「……自分で伝えな」
「それもそうね」
くるりと踵を返し、男とマリに背を向けた。このまま突撃しに行ってしまうのだろう。男は少しだけ考えて、舌打ちをした。
「あーあーあー! くそ。面倒だなぁ!」
エストポーチから投擲用の針を何本か取り出すと、サファに向かって投げる。針の先端には薬が塗られている代物だった。サファは瞬時に察知し、全て短剣で弾き落とした。
「何それ。貴方は何を庇っているの? 自尊心? 組織? それとも、兄さん?」
「分かりきったことを言うなぁ? お前の言う、兄さんって奴だよ! 思いきりやれ! マリ!」
男が言って、サファは初めて気が付いた。ずっと倒れていたマリの姿がどこにもなかった。気付いたときには、自分の背後に回られていたのだ。
「おねーさんに、ひどいこと、させるな」
「…………させてるのは、貴方達でしょう」
くるっと短剣を持ち直し、マリが振り上げた拳を狙う。しかし、マリには見切られていたようで、左手で短剣を止められて、力では敵うはずもなく取り上げられる。慌てて距離を取ろうと後ろにジャンプするも、そこには注射器片手に男が立っていた。
「ちっ……!」
「あは。……寝起きじゃ、その力も赤ん坊レベルだなぁ? じゃあねぇ~♪」
素早くサファの腕を掴み逃げられないようにしてから、首筋に注射器を刺す。そして、薬がサファの体内へと注入された。全て注入されると、サファは糸が切れたようにその場に崩れ落ちる。
「く……そ。な、にを……!」
「ん~? お前を深い眠りへと誘うためのお薬さ。たんと味わいな」
「ぜったい、ころし、て……や…」
「無理じゃない? お前の兄さん、強すぎるし。俺達でも手に負えないんだから。……なんて、聞いてるわけないか」
サファを仰向けにし、呼吸と脈の確認をする。どちらも正常である。すやすやと可愛らしい寝息まで立てており、先程まで残忍なことをしていた少女とは思えないくらいだった。
「はぁ~……ただの監視がこんなことになるなんて、なんつー厄日……おーい、生きてっかー?」
気が抜けたようにその場に座り、また動かなくなってしまったマリに話しかけた。気絶はしていなかったようで、頬を膨らませてむくれていた。
「こんなのきいてないのだ! たいちょー、ふくたいちょー、ふくふくたいちょー、うそつきなのだ! うそつきー! おにー!」
「俺も聞いてねぇよ。こんなに早く目覚めるなんて、あいつも知らんかったろうに」
「おねーさん、だいじょーぶなのだ?」
「おじさん特性の鎮静剤と痺れ薬だよ? あと少しの麻酔薬……速効性と効き目は保証しまーす。だって、お前で実験済みだしぃ」
「にゅー……? じっけん、いつの……?」
「半年前。……とりあえず、レイに電話するから、大人しくしとけよ。血、足らんだろ」
「うりゅ」
男は立ち上がると、少しだけ離れたところで携帯を取り出した。マリはぼんやりとそれを見て、サファに視線を戻した。
「おねーさん、まもれなくて、ごめんにゃ。おねーさん、びっくりだろーけど、だいじょーぶ。……いけないもの、こころにかうのは、やだけど……なれれば、いいのだ」
返り血で赤く染まるサファの頭をぽんぽんと優しく撫でる。
「だから、いつかつよくなって、みー、ころしてね。ばけものは、ばけものにしか、ころせないの。おねーさんは……みーみたいに、ならないで」
サファから取り上げた短剣を落ちていた鞘に収めて、そっと近くに置いた。
その瞬間、サファの近くから離れた。反射的に、跳び跳ねたのだ。そして、フードを被り、戦闘出来るように構えた。
「行けって言うから来たけど……全部終わった後みたい? 君がやったの?」
「……そーなんだよ。たいちょー、また、ひとなのだー! このひとも、たおすのだ?」
「……あ? あぁ!? 『夕陽の死神』様が、なんでこんなことにいるんですかねぇ……ラストソウルの、サン。引退したはずなんだけど?」
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マリに呼ばれ、振り返った先にいたのは、へらへらと笑って立っているサンダース、メイズだった。双剣を装備し、ブーツや手袋をはめたその姿はかつて、裏世界を取り締まっていたときそのものである。通り名や暗殺者として働いていた頃の名前を聞いたメイズは楽しそうに笑った。
「あっははっ! その名前、なっつかしー! 君はあれでしょ? ブースターのヴェノさん。有名だよね」
「なんであんたみたいな人が……あー、そうか。紅火・フレイヤ父親だっけ……そんで、あんとき嬢さんに投げてたあれが……なーる……」
ヴェノと呼ばれた男の頭の中で全てが繋がっていく。紅火を逃がした後、家に帰り父親に助けを求めたのだろう。
「うりゅ? さんせっと、きらー??? どーして、きゅーにでてきたのら?」
「転送装置だよ。俺の子達が持っているのは二つで一つ。紅火が持っていたのは、シュシュが持っている所在位置を割り出して、そこへとワープすることが出来る。で、シュシュが持っていたのは、位置情報を発信する装置。つまり、紅火が持っていたのは、シュシュの元へと行くための転送装置だったってこと」
紅火があのとき投げたのは、転送装置の片割れだった。恐らく、ヴェノを退けた後、合流出来るようにと考えたのだろう。それが今、役に立ったというわけだ。メイズの説明にマリはこくこくと何度も頷き、納得した様子を見せた。
「ほへー!」
「感心してる場合じゃないんだけど! 俺達、なんもしてないから! 今回は見逃せ!」
「えー? どーしよっかなー?」
「あんたの娘さんは無事なんだから、いいだろ? ちょっといたずらが過ぎたもんで、眠ってもらったけど、命までは取ってないよ」
メイズはちらりとサファを見る。ヴェノの言う通り、見た目は酷いことになっているが、サファ自身は全く怪我をしていない。
「うん。その言葉は信じるよ。けど、このまま逃がすのも癪だ。せっかく武装したし、襲っちゃおうかな?」
「はあぁ!? ふざっけんな! マリ、帰るぞ! 連絡も終わった。留まる理由はない!」
「りゅりゅ? いいのだ? たおさなくて」
「今のお前じゃ歯が立たん。全快でも倒せるか怪しいしな。こっち来い!」
ヴェノの言葉を素直に聞き、駆け寄ってきたマリの手を取るとその場から消える。相手も転送装置を持っていたと言うことだろう。追うことも出来たが、それは自分の仕事ではない。また、する理由もなかった。メイズは周りの惨劇をぐるっと見回し、苦笑いした。
「これ、俺が後始末しろってこと? やだなぁ」
なんて文句を言いつつも、辺りに散らばる死体を一ヶ所に集めるために動き始めるのだった。



~あとがき~
とりあえず、紅火とサファは終わりです。まあ、紅火は一話だけだったけど……

次回、紅火とサファと別れたラグ視点。時間もちょっと戻りますよ!

これ、ノイズの話なのにノイズが空気ですね。捕まってるのが悪いですね。そもそもいたとしても、戦えないので、空気になるのは必須でしたね。ごめんな、ノイズ。許せ!

はー……サファ編は色々暴露した回でしたね! しんどいしんどい。サファのこと。『ティリス』のこと。そこに所属しているヴェノ、マリ、レイの三人。メイズが過去、名乗っていた名前と通り名。
なんだか、ごちゃごちゃしてますが、分からないことあれば言ってくださいな。言える範囲で教えます! 今後分かることはお楽しみにってことで。

メイズは暗殺者やってたとき、サンと名乗っていました。通り名は『夕陽の死神』と書いて、サンセット・キラーです。かっこいいね!(笑)

フードの男の名前も公開です。ブースターのヴェノさんです。そして、相変わらず、隊長なのか、副隊長なのか、副々隊長なのかハッキリしませんでした。きっとしばらく判明することはないでしょうね。

ではでは。