鈴鳴カフェ

ポケモンの二次創作とオリキャラの小説を連載しています。

last soul 第27話

《この物語には死ネタ、暴力表現等の描写があります。閲覧する際はご注意ください》





~新たな試練~


先輩の遠ざかる背中を見送ると、へなへなっとコウくんが座り込んでしまった。
「コ、コウくん!? 大丈夫?」
「うん……ちょっと、久し振りにやって疲れただけだから」
「あっと……あのね、先輩から聞いたの。コウくんの能力のこと」
そう言うと、コウくんはそっかと困ったように笑った。先輩の言う通り、私には知られたくなかったんだろうか。知ったところで、私は私でコウくんはコウくんなのに。
「……別にね、能力のことはいつか知られるって分かってたんだ。でも、やっぱり姉ちゃんに何も知られたくはなくて……知って欲しくなかったよ」
「私がここに来ちゃったの……この世界に来たの、嫌だった?」
頷くことはしなかったけれど、なんとなく伝わってきた。コウくんは先輩と同じように、私がギルドに入ってブラックに入ることは反対していたのだ。今まで何も言わなかったのは、マスターを説得出来ないことを分かっていたから。あるいは、話を聞いたときに覚悟していたのか。
「姉ちゃんには、何も知らないで普通にいて欲しかったんだ。……なんて、俺の我が儘だけどさ。……今、こんなこと言ってる場合じゃないよね。ごめんね?」
コウくんは生まれたときからずっと、この世界で生きていくことが当然で、当たり前で。それ以外の道なんて示されていなくて。
だから、せめて私だけは、普通でいて欲しかったんだろうか。自分の分まで、普通に暮らして欲しかったのかもしれない。それでも、私は踏み込んでしまった。踏み込んでしまった私に出来ることは……
「コウくん。私は変わらないよ? 今まで通りコウくんのお姉ちゃんなんだから」
笑って、コウくんを安心させることだけだ。今の私にはこれしか出来ない。けれど、これが一番いい方法でもあるのは過去の経験から知っていた。
「……うん。ありがと、姉ちゃん。そうしてくれると、俺も嬉しいな」
いつもより大人っぽく見えたのは、こんな状況からか。仕事モードのスイッチが入ったままなのか。しかし、今はどっちでもいい。
「とりあえず、私達は家に帰ろう。ちゃんと言われたことしないと、先輩に怒られちゃうよ!」
「そーだね! 俺らがやることやらないと、ラグさんも困っちゃう」
私が手を差し出すと、コウくんは素直に手を取って立ち上がった。そして、ずっと出しっぱなしだった剣も鞘に収めた。
「コウくん、歩ける?」
「むー? そこまで弱ってないよ。まあ、流石にもう戦いたくはないけどぉ……集中力持たな~い」
なんて言いながら、手をひらひらさせ、笑顔を浮かべる。いつもの子供っぽくてお気楽なコウくんだ。
「ラグさんが転送装置を使わず、徒歩で向かったんなら、三十分以内には戻るだろうな~……二十分、早くて十五分、かな?」
「えっ!? 三十分以上かけてコウくんのとこまで来たのに、先輩そんなに早く着くの?」
……というか、転送装置ってなんだろう? 名前からして、好きな場所にテレポートすることが出来るんだろうか。
「あは~♪ ラグさんが本気で走れば余裕だよ。ってことで、俺らも走ろう! ラグさんより早く家に着いてなくちゃ。走れば十五分くらいで家に着くよ!」
「えぇっ? 走って大丈夫なの、コウくん?」
「だーかーらー! そんなに弱ってないってば!」
前を走るコウくんは、確かに弱っている人の早さではない。むしろ、体力が有り余っているであろう私の方が遅い。これが基礎体力の違いか……!

そろそろ森に出るであろう地点まで来たところで、前を走っていたコウくんがぴたりと止まった。
「どうしたの? 何か見つけた?」
「……んんっ……んー? ちょっと、静かに……」
辺りを探るように見回しながら、周りを警戒していた。そんな様子で普通ではないと悟る。
「! 姉ちゃん!」
呼ばれたと思ったら、私は後方へと飛んでいた。否、飛ばされていた。コウくんが突き飛ばしたのだ。突き飛ばした当人は素早く剣を抜いて、その剣を振るっていた。それを確認出来たのは、私が空中に浮いているほんの僅かな時間だけ。数秒後には地面に転がりながらスライディングしていた。
「いっつぅ……!」
コウくんとの距離は約十メートルくらいだろうか。地面を滑った痛みに耐えつつ、そちらを見ると二つの影を確認した。どちらも私からは種族、性別、年齢もろもろは分からなかった。理由として、彼らはマントを羽織り、フードを目深く被っていたからだ。対峙しているコウくんでさえ、確認は難しいかもしれない。分かっていることと言えば、また敵に襲われていて、状況はかなり悪いということだ。疲弊しているコウくんとバトル知識の乏しい私では、この場を無傷で乗り切る自信はない。
だから、ここで取るべき手段は……
「逃げなきゃ……!」
戦うことは出来なくても、サポートくらいは出来るだろう。倒せなくとも、この場から離脱することは可能かもしれない。せめて、どちらか片方でも、逃げ切れば、可能性はある。
「コウくん、私も手伝う!」
「駄目! 言いたくないけど、姉ちゃん邪魔!」
「ストレート過ぎる!!! 心が痛い!」
さっきまでのほのぼの会話はなんだったんだ! コウくんの馬鹿! お姉ちゃんの心は君の一言でボロボロだよ!?
「これ持って走って!」
コウくんから投げられたのは、短剣とピンバッジのようなものだ。あの距離から私のところまで投げられるのは、やっぱり修行のお陰なんだろう……けど。走れと言われても、私の知っている出入り口は敵が塞いでしまっているため、新しく探す必要がある。それに、コウくんしかノイズさんの居場所は知らないのに、どうしろと。
「姉ちゃんがある程度ここから離れたら俺も後を追うから! だから、今は走って!!」
切羽詰まったコウくんの声。その気迫に駄目だとは言えなくて、別の案を考える時間もなく、余裕もなく、私は奥に向かって走っていく。
な、なんでこんなことになっているんだ……!? どこから、こんなことになっているんだろうか。最初はノイズさんに、危険があるかもしれないと伝えるためにここを訪れたのではなかったか。それなのにコウくんはここで剣を振るっていて、私は出なきゃいけないのに、逆方向へと走っている。
なんで、こういうときに先輩はいないんだぁぁ!?



~あとがき~
サファと紅火、大変なことになってますね(笑)

次回、サファを逃がした紅火の運命は……!
大丈夫。流石にここでメインキャラを死なせるようなことはしませんから!

さて、少し紅火の話をしましょう。サファが自分と同じ世界に来ることをどのように思っていたのか、語りたいと思います。なんでかって? 本編じゃやらない(予定)からだよ!
紅火は姉として慕うサファには、暗い世界に来て欲しくはありませんでした。当然ですね。どんな世界なのか知っていて、大好きなお姉ちゃんにさせたいなんて思いません。けどまあ、運命は残酷ですね。というか、親が残酷です。親が決めたことに逆らうことも出来ない紅火は、早々に開き直って、なるべくサファに危険が及ばないようにしようと決めたのでした。あまり裏事情を知って欲しくないってのも、危険があるかもしれないからです。
まあ、こんな感じです。要約すると、お姉ちゃんに危険なことはして欲しくない。これに尽きます。

ではでは!