鈴鳴カフェ

ポケモンの二次創作とオリキャラの小説を連載しています。

last soul 第8話

《この物語には死ネタ、暴力表現等の描写があります。閲覧の際はご注意ください》





~師匠と弟子、兄と弟~


森の中を少し入ったところにある、大きな木の上で暇そうにふわりと欠伸をした。そして手元の電子機器をいじり始める。
そのすぐ下では、作戦会議なのか二人の人物が何やら話をしていた。木の上にいる人物も一応参加はしているだろうが、大して意見する気もないようだ。
「……だから……っおい! 聞いているのか、ロスト!」
「ん~? 聞いてる聞いてる~」
ロスト、と呼ばれたグラエナは適当に返事を返し、手元の電子機器を見つめていた。
彼の首には灰色のスカーフが巻かれ、同じ色のブーツと手袋をしていた。そして左手首には、リングをつけており、左耳にピアスをしている。
ロストの答えを聞いて呆れた表情を見せるザングース…ゼーレは頭を抱えた。彼は紺色のスカーフとブーツ、手袋を身に付け、ロストと同様に手首にリングをしている。
ロストに話しかけているゼーレは、このあともいい返事が返ってこないと思いつつも、とりあえず話しかけた。
「ぜってぇ聞いてなかったろ。ゲームしてんじゃん」
「だって限定クエストが始まったんだよ? やらなきゃ損だべ」
「知るかっ! ったく、ウェザー家頭首が聞いて呆れるな。そんなんなら、いっそ弟に任せちまえ」
「えー? 無理だよ。俺が生きてる以上、回ってこないね。それにお堅いおじ様たちは任せたくないだろうしな。それに俺も重荷は背負わせたくないし~」
「ブラコンか、お前は」
「ゼーレはわかってないな。可愛いじゃん、あいつ」
「いや、格好いいの部類だろ。ラグは」
「えぇ?……そうかなぁ?」
「無駄話している暇あるなら、作戦立てろ。ゼーレ、ロスト」
二人が話しているところに話って入ってきたのは、ジュプトルのグラスだ。赤いスカーフをつけ、濃い緑色のブーツと手袋を身に付けていた。彼もまた、二人と同じリングをしていた。
ゼーレは納得のいかないような表情を向ける。ロストは大して気にしていないようで、楽しそうにゲームをしていた。
「なんで俺もなんすか! ロストだけだったでしょ、サボってたの!」
「やいやーい♪ ゼーレも同罪だー♪」
「もう、ロスト黙れ! グラスさん、すいません。で、どうするんですか?」
ゼーレがグラスの方を向くと、木の上からピョン、と飛び降りてきたロストが近づいてきた。そして、ゼーレの横を通りすぎ、広げてあった地図を覗きこんだ。
「ふーん。こんな作戦でいくんだ。上の人たちもお馬鹿だね~……これじゃあ、また失敗だな。半分の部隊が死ぬよ、この陣形」
ロストはそれだけ言い残すと、そのまま森の少し奥へと歩き出す。ゼーレは慌ててロストを制止するが、止まるはずもなく、森の中へと消えていった。
「なんなんすか。………あんなんでいいんですか?」
「いいんじゃないか? 自由にしとけ。縛って実力発揮できる様な奴でもない。それに、あれでも実力者だからな。その証拠にこの陣形の穴を指摘したしな」
トントン、と地図を指差しながら、上の部隊から指示された場所をいくつか示した。ゼーレはそれを見て、首をかしげる
「何かおかしいんすか?」
「あぁ……このまま行くと、ここに死角が出来て狙われるんだ。確かにこちらの攻撃力は上がるだろうが、結果的に俺たちを含む部隊の半分が死ぬだろうよ」
「…………ロストはこれを一度見ただけで判断できたんすか。それなのにゲームしてましたよ……腹立つ。しかもあいつ、今、ラグに電話してますよ。絶対」
「いいんじゃないか? 別に」
「………グラスさんも意外と呑気ですよね。いや、いいんすけどね」
「…………?」
ゼーレはバレないようにため息をつくと、地図を再度確認した。言われてみれば、そうだと気づくことが出来るが、瞬時に判断することは難しい。それをやってのけた男はやる気なしのロストだ。
しかし、このままの陣形だと死人が多数出て、今回も失敗に終わるだろう。いつになったら終わるのだ、と不満に感じる一方、半分は死ぬという可能性がぐるぐると渦巻く。
「…………俺ら、死ぬかもしれない」
「そうかもしれんな」
無表情、無感情で返され、ゼーレの気力はここで途切れた。なるようになれ、と、諦めにも似た感情が浮かび上がる。
そのあとは、特に会話もなく、ロストの帰りをぼんやりと待った。明日、欠陥だらけの作戦を遂行しなければならないと思うと、気が重くなる。
「もお~……帰りてぇぇ…」

ベッドの上で今日のことを思い出していた。右手を天井に伸ばし、自分の手を眺める。
「………どこで間違えたんだろ。俺」
ラグは首にかけていたゴーグルを握ると、右手をベッドの上に下ろした。今、彼の目に映るのは、何の変哲もない天井だけだ。
「はあ……もう寝よっかな。明日、早いし。仕事だし……内容何だっけ、忘れた。んもういいや、疲れた。おやす…」
今から就寝しようと思った矢先、机の上に置いてあった携帯がリズムよくバイブし始めた。メールか何かかと思い、無視していたが、一向に収まる気配もなく、それが電話だと知る。このまま無視してもよかったのだが、渋々携帯を取り、画面を見た。
「…………………あ、師匠だ」
ぽつりと呟くと、通話ボタンを押し、耳に当てる。電話越しからお気楽な声が飛んできた。
『やほやっほー♪ んもう、出るの遅いぞ、弟よ』
「師匠、今、何時だと思ってるんですか。深夜ですよ。よい子は寝る時間なんですけど」
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『とか言って、嬉しいんだろ~♪ 可愛いな、ラグ』
このままペースを持っていかれるのも癪だと思い、棒読みながら、とりあえず、喜ぶであろう台詞を言ってみる。
「………お兄ちゃん、僕のお話聞いてほしいなー」
『うはあぁぁぁぁ!! ラグ、可愛い! やっば! 抱き締めたい!』
「落ち着け。そして話を聞け、兄貴」
『おう。そうだった♪ つか、俺も最近の話を聞きたくて連絡したんだったわ』
「最近の話? 何かあったっけ」
『うん。あの子、ギルドに来たんでしょ? どうよ、可愛い?』
あの子、というのがシュランを指しているのは容易に想像できる。ラグは、シュランの顔を浮かべ、ぶっきらぼうに答えた。
「…………知らない。女に興味ない」
『そんなこと言ってー♪ 年頃の女の子は可愛いもんだよ。いや、同じくらいの年齢だった時の紅珠は別に可愛くなかったけど。勇ましかったけど』
「その言葉、しっかりと紅珠さんに言っとくよ。帰ってきたときが楽しみだね」
『ごめん、言わないで。殺される』
「どーしよ」
『お願いだよ、紅珠だけはやめて。ついでにメイズにも言わないで? 半殺しされるかもだから。お願いします』
「メイズさんに半殺しか。その姿は滑稽だね、兄貴」
『ラグさん、ごめんなさい……ていうか、俺、兄貴だぞ。師匠だぞ』
「……じゃあ、今、師匠と兄貴どっちがいい?」
ラグの提案に悩んでいるようで、唸り声が聞こえてくる。ロストにとっては究極の二択のようだ。
『ラグの好きな方……は?』
「じゃあ、師匠で」
『即答だな。いいんだけどね? あれ、ラグ、もしかして兄貴呼び恥ずかしい?』
「…………で、他に用はないんですか。ずっと連絡してこなかったでしょう? 一ヶ月二ヶ月くらい連絡なしでした」
『悪い悪い、ずっと忙しくてな。寂しかったのか』
「そうじゃないです。でも……何て言うか…」
『あぁ……心配してくれたのか。優しいやつめ♪ 心配しなくても、今んところ大丈夫だ。まあ、まだ帰れそうにないけどね』
「………そうですか」
『ごめんな。ま、心配すんなって♪ ちゃーんと帰ってくっからよ♪』
ロストのその言葉に反応することなく、ラグはベッドの上で枕を抱え、顔を埋める。
『ん? ラグ? おーい?』
「師匠、俺、役目果たせますか? あいつのこと、護るって言ったんです。でも、俺なんかが出来ますか。本来ならこういうの俺じゃなくて…」
『あははっ♪ あのラグが弱音をねぇ……おっかしぃ……』
「師匠、俺は真面目に自信喪失中なんですけど」
『真面目に自信喪失って何さ? くふふ……』
「…………もういいです。師匠に言ってもどうにもなりませんよね。ごめんなさい。つか、明日仕事あるんで、そろそろ切ります」
『あぁぁぁぁ!! ごめん! 機嫌悪くするなよ? ラグー!? ラグさーん!』
「久しぶりに師匠の声が聞けて、嬉しかったです。任務、頑張ってくださいね。お休みなさい」
『ちょ、ちょっと待って! ラグ、一言だけ! 一言言うから、切らないで!』
電話を切ろうとしていたラグの手が止まり、再度、ロストの言葉に耳を傾ける。
『お前は一人じゃない。いつでも相談しろよ? 頼れる人達がいるんだからさ』
「…………はい」
『なるべく早く帰る。それまでよろしくな、ラグ』
「わかってます。それでは」
『おう。お休み。お前も仕事、頑張れよ』
今度こそ電話を切り、元々あった場所に置いた。そして、ベッドに横になると、自然とまぶたが落ちた。
「明日も頑張ろ……うん…」



~あとがき~
ラグの師匠ことロストさん登場できて満足満足。
実は最初はアブソルにしよっかなーって思ってたんですが、微妙だー……と思いまして、グラエナになりました。

次回、シュランのお名前考えます。

シュランのお仕事用のお名前が決まったら、皆のプロフを出したいと思います。キャラデザとかそこで紹介できればと思ってる。

ロストはラグの師匠であり、義理の兄でもあります。
現在、長期任務中なのでギルドにいません。なので、シュランはもちろん、知らない人も多いです。
ロストがなぜラグの兄貴なのかとか、そういう事情はどこかで話せたらと思っています。

ロストはラグを溺愛してます。ラグのこと、大好き過ぎる人です。ラグもそんなロストが嫌じゃないようですが、大人たちがたちやってんだかって感じですよね(笑)
溺愛ってより、甘いのかな? 多分……
ま、二人色々ありましたからね。
ロストはラグが唯一弱音を吐ける人物であり、また甘えられる人物でもあります。
ある意味、そういうラグさんが見られるのは珍しいことなのですがね。

あ、ラグがなぜ弱音を吐いたのか……というか、自信喪失したのかも話の中でわかってくるかと思います。
ようは、シュランに対する不安って感じなんですが、多分、その理由は話の中でわかると思います。

ではでは!