鈴鳴カフェ

ポケモンの二次創作とオリキャラの小説を連載しています。

last soul 第33話

《この物語は死ネタ、暴力表現等の描写があります。閲覧する際はご注意ください》





~戦前の準備~


紅火とサファと別れた、五分程で森を抜けた。早くしなければ、日が沈み視界が悪くなってしまう。ラグはそれでも構わないが、出来れば早く終わらせてしまいたかった。それは、心がざわついているからか、嫌な予感が頭から離れないせいか。
「手ぶらで来たのが仇になった……サファを送るってだけだったんだよな、初めは」
外に出た理由も、サファを家に帰らせるために出ただけで、数分で戻る予定だったのだ。それがあれよあれよと、気が付いたら、ノイズは敵に囚われている可能性が高くて、仕方なく紅火に能力を使わせ場所を探らせ、サファは途中までラグについてくる始末。もう何もかも滅茶苦茶だった。
紅火を巻き込むつもりも、サファを巻き込むつもりもなかったのだ。ノイズのこの件は一人で解決するつもりだった。事後報告でいいと、思っていたのだから。なんのために、紅珠に怒鳴られる危険を侵してまで、ヘラと接触し、敵を探っていたのか分からない。
「はー……文句垂れてる場合じゃねぇな。とりあえず、ギルドに戻らないと話にならない」
更に加速して、ギルドへと向かう。頭を巡る、嫌な予感を、イメージを払拭するかのように、スピードを上げた。

「ラグー!」
全速力でギルドに戻ると、真っ先にシリアに抱きつかれた。普段ならはね除けるか、避けるかするのだが、走ってきて疲れたし、それも面倒でそのまま受け止める。
「ラグ兄。その、ノイズ兄は……?」
「一緒にいないってところで察してくれ」
リアルも分かっているはずだった。それでも、少しでも可能性があるならいい方を信じたいのだ。その気持ちは、ラグにだってある。しかし、いつだって現実は残酷なのだ。
「リアル、シリア。マスターには言ったか?」
「言ってないぞ。本当か分からないから紅火が言うなって。だから、ずっと黙ってた!」
「今から言いますか? でも、それは得策ではない……ですよね」
「マスター、昔から私情が挟むと感情的になりやすいからな……とりあえず、ノイズさんのいそうなところに行ってくる。二人とも、待機しててくれ。マスターに何か言われても、黙ってられるか?」
リアルとシリアはお互いの顔を見合わせた後、同時に頷いた。そうした方が得策であると判断したのだ。ラグから見れば、二人はまだ子供だが、冷静な判断が出来るくらいには、仕事をしてきている。
「よし。……リアル、俺のバッグは?」
「あります。勝手ながら、武器のチェックもしておきました。ラグ兄がいつも使う武器全て、揃っていましたよ」
「ついでに、隠れる用のマントも用意したぞ! 道具も揃えておいたっ」
「おお、マジか。優秀な後輩達だなぁ……」
「へへっ! もっと褒めてもいいんだぞっ!」
「調子に乗るからやらん。じゃあ、マスターを頼んだ。……大丈夫。ノイズさんは俺らが思っているよりずっと強い。ちゃんと俺が連れ帰ってくる」
不安な表情をしていた二人の頭を優しく撫でる。ずっと待っていろというのも酷な願いをしているのだ。それを文句も言わずに従う二人を安心させるために、失敗は許されない。行って駄目だった、いなかった、なんてことはあってはならないのだ。
「じゃ、行ってくる。終わったら連絡する」
「行ってらっしゃい、ラグ兄。気をつけて」
「ちゃんと、二人で帰って来てよ!」
ラグを見送る二人に軽く手を振って応えた。正面を見たとき、スイッチを切り替える。紅火からの連絡はまだなかったが、ラグの中でいくつかの候補地はあった。敵の本拠地か、数ヵ所に点在する隠れ家。そして、昔、ノイズが事実上の引退に追い込まれ、ノルンが命を落とした廃墟。
「近いのは、廃墟か」
紅火の連絡を待っていてもよかった。しかし、そんな時間も惜しいと思ってしまう。だから、じっと待つなんて選択肢はラグの脳内に存在しなかった。
ギルド内を歩きながら、準備を整えていく。耳に小型のインカムをつけ、バッグの紐の長さを動きやすいように調節。そして、最後にマントを羽織って、フードを被る。耳に着けたインカムのマイクで相手に話しかけた。
「……聞こえてますか」
『はいはぁい♪ もう、遅いから心配したよ? どうだい。ノイズくんはいたかい?』
相手はヘラだった。ヘラが今、どんな表情で話しているのか容易に想像が出来る。本当なら頼りたくない相手であった。しかし、そうも言ってられない事態へとなってしまっている。
「意地悪な質問をするんですね。あなたに連絡をしている時点で分かりきっているでしょう」
『あはは。ごめんね? 僕だって、心苦しいんだよ。昔からの友人がこんなことに巻き込まれてしまって、どうにかしたいと思っているんだよ』
それは嘘であった。ヘラの興味はそこにはない。が、建前として、ラグの気持ちを動かすために敢えて言っているに過ぎないのだ。そのため、ラグは深く考えることはせずに、さらりと流した。
「そうですか。それで? どこに?」
『んもう。もう少し話をしてくれてもいいんじゃないのかな。まあ、いいけれど。そうだね、君はもう予想が立っているんじゃないのかな? それがきっと、正解だよ』
「あの廃墟ですか」
『僕もそう思うな。だって、あそこはノイズくんにとっても、あいつにとっても因縁の場所……なんてね。そんな大それたことではないと思うんだけれどさ』
「とりあえず、そこに今から向かいます。いなかった場合は……っと」
ラグは何かを思い出したようにピタリとその場に止まる。そして、出入り口の方ではなく、別道に逸れた。ギルドの一階通路の奥、インカムの電源を落として、ある部屋の前で扉を開く。
「先生……メルディ先生?」
「あら。どうしたの、ラグくん。その格好をしてるってことはいけないお仕事かな? まあ、怪我しないようにね」
メルディと呼ばれたのはタブンネの女性だった。白衣を羽織り、今は机の上で書類整理をしていたらしい。彼女はギルドお抱えの医者である。学校で言う、保険の先生のようなもので、大抵の怪我はここで手当てをしてもらえる。
「あの、ギルドにもう少し残ってて欲しいんです」
「それは構わないけれど、どうかした?」
「えっと、色々ありまして。詳しいことはまた後でってことで」
「……分かった。帰ってきたら連絡して? 私はここにいるからね」
詳しい内容も聞かず、ラグの言った通りにしてくれるようだ。メルディはラグがギルドに入ったときからずっと医療メンバーとして、ここで働いている。ラグも彼女が何歳なのかは全く知らなかった。少なくとも、ラグよりは年上だとは見当がつくのだが、それ以上は分からない。理由として、メルディが結構童顔で、言動も若い女性と大差ない。つまり、老けているように見えないせいでもある。
メルディに年齢の話をすると、鬼の形相で睨まれるため、ギルド内では彼女に年の話はしてはいけないと言われていた。
「……ありがとうございます。行ってきます」
「行ってらっしゃいな。気を付けてね」
ぺこりと軽く会釈をして、医務室を出た。
ラグがこんなことを頼んだのは、様々な可能性を考えてのことだった。ある程度の手当てならラグにも出来るが、あくまで応急手当が出来る程度。医師免許を持っているわけではないため、やれることにも限りがある。そういった手を借りるとなったとき、すぐに対応出来る人材を確保しておきたかったのだ。
「……はー……よし」
再びインカムの電源を入れると、ヘラの不満そうな声が聞こえてきた。
『なーんで急に切るのさ』
「プライベートな会話は聞かれたくないんで」
『あはっ♪ 君達にプライベートなんてないでしょ……ま、いいけどねぇ。で、心の準備は出来た?』
「今更、する必要ありますか」
『それもそうだね。じゃ、期待しているよ。ラグ』
それ以上、ヘラの声は聞こえなくなった。通信を切ったようだ。ラグもギルドの外へと出ていた。ラグの足は目的地へと向けられる。
「……嫌な予感しかしてないんだよね」



~あとがき~
ラグ視点です。頑張るぜ。

次回、ノイズ奪還へと挑むラグ。たった一人で大丈夫なのか……

新キャラさんです。メルディ!
医務室は初めて出てきましたね。学校の保健室みたいなもんです。保険医よりはもっと本格的な治療をしてくれると思います。

ではでは!

last soul 第32話

《この物語には死ネタ、暴力表現等があります。閲覧する際はご注意ください》





~憎悪と撤退~


「あんたがやったの? 凄いことなってるね」
「心外ね。半分はイーブイちゃんのせいよ」
「そうだったの? それは悪いことした」
男は倒れているマリに駆け寄ると、さっと容態を確認をする。そして、再び、サファの方を振り返った。否、サファの体を操る人格を軽蔑するような目で振り返った。
「それで? あんたは何を望む。俺を殺せば気が済むのか」
「あら? そう言うってことは、何をして来たのか理解していると思っていいのかしら」
「言っとくが、俺は全く関係ない。上層部が勝手に決めたことだ」
ひらひらと手を振り、興味のない素振りを見せる。そんな男にサファはムッとした表情を浮かべた。男は気にすることなく続けた。
「大体、遅かれ早かれああなってたろう。……敵対していのは今も昔も変わらない。まあ? 俺はそういうの関わりたくないから? 事情も、背景も知らないけどね」
「そんなことで、許されるとでも? あの子はあれ以来、どんな生活を送っていたと思う? 親が殺されて……あの子は心を閉ざして壊されて。あたしの声も届かない、深くに閉じ込められたんだから」
「ははっ! 戯れ言もいい加減にしろ。その体はお前さんのものではないだろ。その力も、意思も、記憶も、心も、感情も……全て、嬢さんのもんだ。自分を悲劇のヒロインのように扱うな。そんな資格ない」
男は冷徹に、残酷なことを言う。先程まで不機嫌であったが、今は気にする素振りはなく、ただ笑顔を浮かべていた。
「……兄さんに、伝えてよ。いつか……貴方を殺しに行ってあげるって。親を殺した敵討ちしに行ってあげるってね」
「……自分で伝えな」
「それもそうね」
くるりと踵を返し、男とマリに背を向けた。このまま突撃しに行ってしまうのだろう。男は少しだけ考えて、舌打ちをした。
「あーあーあー! くそ。面倒だなぁ!」
エストポーチから投擲用の針を何本か取り出すと、サファに向かって投げる。針の先端には薬が塗られている代物だった。サファは瞬時に察知し、全て短剣で弾き落とした。
「何それ。貴方は何を庇っているの? 自尊心? 組織? それとも、兄さん?」
「分かりきったことを言うなぁ? お前の言う、兄さんって奴だよ! 思いきりやれ! マリ!」
男が言って、サファは初めて気が付いた。ずっと倒れていたマリの姿がどこにもなかった。気付いたときには、自分の背後に回られていたのだ。
「おねーさんに、ひどいこと、させるな」
「…………させてるのは、貴方達でしょう」
くるっと短剣を持ち直し、マリが振り上げた拳を狙う。しかし、マリには見切られていたようで、左手で短剣を止められて、力では敵うはずもなく取り上げられる。慌てて距離を取ろうと後ろにジャンプするも、そこには注射器片手に男が立っていた。
「ちっ……!」
「あは。……寝起きじゃ、その力も赤ん坊レベルだなぁ? じゃあねぇ~♪」
素早くサファの腕を掴み逃げられないようにしてから、首筋に注射器を刺す。そして、薬がサファの体内へと注入された。全て注入されると、サファは糸が切れたようにその場に崩れ落ちる。
「く……そ。な、にを……!」
「ん~? お前を深い眠りへと誘うためのお薬さ。たんと味わいな」
「ぜったい、ころし、て……や…」
「無理じゃない? お前の兄さん、強すぎるし。俺達でも手に負えないんだから。……なんて、聞いてるわけないか」
サファを仰向けにし、呼吸と脈の確認をする。どちらも正常である。すやすやと可愛らしい寝息まで立てており、先程まで残忍なことをしていた少女とは思えないくらいだった。
「はぁ~……ただの監視がこんなことになるなんて、なんつー厄日……おーい、生きてっかー?」
気が抜けたようにその場に座り、また動かなくなってしまったマリに話しかけた。気絶はしていなかったようで、頬を膨らませてむくれていた。
「こんなのきいてないのだ! たいちょー、ふくたいちょー、ふくふくたいちょー、うそつきなのだ! うそつきー! おにー!」
「俺も聞いてねぇよ。こんなに早く目覚めるなんて、あいつも知らんかったろうに」
「おねーさん、だいじょーぶなのだ?」
「おじさん特性の鎮静剤と痺れ薬だよ? あと少しの麻酔薬……速効性と効き目は保証しまーす。だって、お前で実験済みだしぃ」
「にゅー……? じっけん、いつの……?」
「半年前。……とりあえず、レイに電話するから、大人しくしとけよ。血、足らんだろ」
「うりゅ」
男は立ち上がると、少しだけ離れたところで携帯を取り出した。マリはぼんやりとそれを見て、サファに視線を戻した。
「おねーさん、まもれなくて、ごめんにゃ。おねーさん、びっくりだろーけど、だいじょーぶ。……いけないもの、こころにかうのは、やだけど……なれれば、いいのだ」
返り血で赤く染まるサファの頭をぽんぽんと優しく撫でる。
「だから、いつかつよくなって、みー、ころしてね。ばけものは、ばけものにしか、ころせないの。おねーさんは……みーみたいに、ならないで」
サファから取り上げた短剣を落ちていた鞘に収めて、そっと近くに置いた。
その瞬間、サファの近くから離れた。反射的に、跳び跳ねたのだ。そして、フードを被り、戦闘出来るように構えた。
「行けって言うから来たけど……全部終わった後みたい? 君がやったの?」
「……そーなんだよ。たいちょー、また、ひとなのだー! このひとも、たおすのだ?」
「……あ? あぁ!? 『夕陽の死神』様が、なんでこんなことにいるんですかねぇ……ラストソウルの、サン。引退したはずなんだけど?」
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マリに呼ばれ、振り返った先にいたのは、へらへらと笑って立っているサンダース、メイズだった。双剣を装備し、ブーツや手袋をはめたその姿はかつて、裏世界を取り締まっていたときそのものである。通り名や暗殺者として働いていた頃の名前を聞いたメイズは楽しそうに笑った。
「あっははっ! その名前、なっつかしー! 君はあれでしょ? ブースターのヴェノさん。有名だよね」
「なんであんたみたいな人が……あー、そうか。紅火・フレイヤ父親だっけ……そんで、あんとき嬢さんに投げてたあれが……なーる……」
ヴェノと呼ばれた男の頭の中で全てが繋がっていく。紅火を逃がした後、家に帰り父親に助けを求めたのだろう。
「うりゅ? さんせっと、きらー??? どーして、きゅーにでてきたのら?」
「転送装置だよ。俺の子達が持っているのは二つで一つ。紅火が持っていたのは、シュシュが持っている所在位置を割り出して、そこへとワープすることが出来る。で、シュシュが持っていたのは、位置情報を発信する装置。つまり、紅火が持っていたのは、シュシュの元へと行くための転送装置だったってこと」
紅火があのとき投げたのは、転送装置の片割れだった。恐らく、ヴェノを退けた後、合流出来るようにと考えたのだろう。それが今、役に立ったというわけだ。メイズの説明にマリはこくこくと何度も頷き、納得した様子を見せた。
「ほへー!」
「感心してる場合じゃないんだけど! 俺達、なんもしてないから! 今回は見逃せ!」
「えー? どーしよっかなー?」
「あんたの娘さんは無事なんだから、いいだろ? ちょっといたずらが過ぎたもんで、眠ってもらったけど、命までは取ってないよ」
メイズはちらりとサファを見る。ヴェノの言う通り、見た目は酷いことになっているが、サファ自身は全く怪我をしていない。
「うん。その言葉は信じるよ。けど、このまま逃がすのも癪だ。せっかく武装したし、襲っちゃおうかな?」
「はあぁ!? ふざっけんな! マリ、帰るぞ! 連絡も終わった。留まる理由はない!」
「りゅりゅ? いいのだ? たおさなくて」
「今のお前じゃ歯が立たん。全快でも倒せるか怪しいしな。こっち来い!」
ヴェノの言葉を素直に聞き、駆け寄ってきたマリの手を取るとその場から消える。相手も転送装置を持っていたと言うことだろう。追うことも出来たが、それは自分の仕事ではない。また、する理由もなかった。メイズは周りの惨劇をぐるっと見回し、苦笑いした。
「これ、俺が後始末しろってこと? やだなぁ」
なんて文句を言いつつも、辺りに散らばる死体を一ヶ所に集めるために動き始めるのだった。



~あとがき~
とりあえず、紅火とサファは終わりです。まあ、紅火は一話だけだったけど……

次回、紅火とサファと別れたラグ視点。時間もちょっと戻りますよ!

これ、ノイズの話なのにノイズが空気ですね。捕まってるのが悪いですね。そもそもいたとしても、戦えないので、空気になるのは必須でしたね。ごめんな、ノイズ。許せ!

はー……サファ編は色々暴露した回でしたね! しんどいしんどい。サファのこと。『ティリス』のこと。そこに所属しているヴェノ、マリ、レイの三人。メイズが過去、名乗っていた名前と通り名。
なんだか、ごちゃごちゃしてますが、分からないことあれば言ってくださいな。言える範囲で教えます! 今後分かることはお楽しみにってことで。

メイズは暗殺者やってたとき、サンと名乗っていました。通り名は『夕陽の死神』と書いて、サンセット・キラーです。かっこいいね!(笑)

フードの男の名前も公開です。ブースターのヴェノさんです。そして、相変わらず、隊長なのか、副隊長なのか、副々隊長なのかハッキリしませんでした。きっとしばらく判明することはないでしょうね。

ではでは。

last soul 第31話

《この物語には死ネタ、残虐な表現、暴力表現等の描写があります。閲覧する際はご注意ください》





~変異~


閉じた後にすぐに痛みが襲ってくると思っていたけれど、いくら待ってもその気配はなかった。恐る恐る、目を開けてみる。目を開けた私が見たのは、最悪の光景だった。
「おねーさん、だいじょーぶ?」
私と敵の間にマリちゃんがいた。にっこりと笑うマリちゃんの腹部には深々と剣が刺さっている。一つしか刺さってはいないけれど、放っておけば、死んでしまうことくらい素人にでも分かる。
「マリ、ちゃん……?」
「あは~♪ けが、ない? みー、おねーさんまもれた?」
「笑っている場合じゃないよ! なんで……」
「やくそくしたから。まもるって」
そう言うと、くるりと敵の方を振り返る。敵の方も殺せたと思っていたようで、マリちゃんが笑顔であることに驚いていた。
「なんで、お前……!」
「だって、こんなの、いたくもないのだよ。こんなの、ぜーんぜん、いたくないんだよ。みー、へっちゃらなのだ♪」
自分の腹部に刺さっていた剣を躊躇なく抜くと、敵の方へと斬りつける。鮮やかな赤が飛び散る。それは敵のものなのか、マリちゃんのものなのか分からない。けれど、こんな間近で人の命が簡単に消えるのを目にして、正気でいられるはずもなくて。
「……っ! う、あ……」
目の前がチカチカと点滅する。世界が暗転する予兆のように。その場で力が抜けていくのを感じた。
「もうひとり、たおすのだ」
「くそ。『ティリス』の化物め……!」
私に斬りかかってきた残りの一人が再び剣を構えた。マリちゃんを倒すために……否、殺すために。
「ばけもの……にゃは。みーたちにとって、ほめことば、なり~♪ そうでなくちゃ、みーは、そんざいする、いみもないのだ?」
ぐっと踏み込んで、下から上へと斬る。剣を上へと持ち上げるように、斬る。相手より小柄なマリちゃんだけれど、それを軽々とやってみせる。
私を襲った相手はマリちゃんによって簡単に死んでしまった。ぴくりとも動かない。
「うにゅ~……じゅーにんくらい、たおしたのに、まだいるのだ。……うー……みー、つかれた」
ふらりと充電でも切れたように、マリちゃんはその場から崩れた。当然だ。私のために戦ってくれて、私のために体を張って守ってくれたのだから。その代償は大きい。
「マリちゃん……!」
「やっとくたばったぞ。手間かけさせやがって……化物め」
「まだ一人いる。さっさと終わらせるぞ」
「ビビってなんにも出来ねぇ、女だ。問題ないだろ」
遠くの方で、そんな会話が聞こえた。
次は、私? 殺される? それとも、皆を脅すための人質? なんにせよ、いいことになんてなるわけがない。……なんで、こんなことになっている? 私は、ここで、死ぬ? マリちゃんは……どうなる。守ってくれたのに、私が死んだら、意味がないじゃないか。でも、私に抗う力なんて……ない。
─あは。じゃあ、力を貸してあげる。沢山の力。あたしの、力。君の力。うふふ。大丈夫。起きたときにはきっと安心出来る、世界になってるから─
突然、頭にそんな声が響いた。
知らない声。いや、この声は……
─だから、あたしにその身を委ねなさい?─
…………私の、声だ。

周りの人にはサファが急に倒れたと思っただろう。目の前で味方がやられて、それにショックを受けて体が本能的に意識を手放したのだろう、と。だからこれはチャンスだと言わんばかりに、近接武器を持つ者達が一斉に襲いかかる。串刺しになって、それで終わりであった。つまるところ、即死である。
しかし、そうはならなかった。
「……あはっ……あは、あはははっ!」
倒れて意識のないと思われていたのに、急に笑い出す。壊れたように、狂ったように笑ったのだ。そして、今にも殺されそうになっているにも関わらず、ゆっくりと体を起こす。側にあった短剣に手を伸ばし、鞘を抜いた。
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敵はおかしいと思いつつも、止まることも出来ず、武器をサファに向けた。素人では対応出来ないくらいの。ましてや、守られてばかりいた目の前の彼女になんとか出来るとは誰も考えていないのだ。
「ふふっ……やだなぁ。無理矢理にでも、止まればいいのに。助かったかもしれないのにねぇ」
笑みを浮かべながら、サファは短剣を一振りした。彼らの目にはそれしか見えていなかった。実際には何十回も斬りつけられているとは知らずに。
襲いかかってきた敵数人を軽々と殺して見せた。一度に複数を殺したせいで、サファはシャワーでも浴びたように血飛沫を浴びる。そんな状況に興味もないらしく、くるくると楽しそうに回った。
「あはっ! あっけなぁい♪ うふふ。せっかく出られたんだもの。あの子のために、住みやすい世界にしてあげないとね?」
ぴたりと動きを止め、残りの敵を見る。サファに見られ、完全に怖じ気づいたらしく、その場から逃げることも反撃することもしない。
「あらあら。そんなに怯えることなんてないでしょう? だって、悪いのは貴方達だもん。それに制裁を下して何が悪いの? 怯える権利なんて貴方達にないわ。してきた側の癖に、何を今更」
短剣を玩具のように弄ぶ。足取りも軽く、気軽にどこかへ出掛けるように浮かれていた。
動けなくなった数人と真正面に相対する。真っ赤に染まった少女を怯えた目で見る大人達に、サファはまた可笑しそうに笑った。
「これだから、弱い人は嫌い。強大な力を持っただけで傲り、調子に乗るんだもの。自分の力を見誤り、死なせてくださいって言っているようなものよね。だから、あたしはそんな人達の望み通りにしてあげる」
弄んでいた短剣を構え直すと、にっこりと笑う。敵からすれば、それは恐らく悪魔の笑みと同じだろう。死を与えようとする死神そのものだったかもしれない。誰かが最後の抵抗と言わんばかりに、拳銃をサファに向けるが、それは簡単に防がれる。サファが銃を持っていた腕を簡単に斬り落としてしまったからである。一瞬何が起こったのか分からないと困惑の表情を浮かべてから、悲鳴を上げた。痛みと恐怖で、泣き叫ぶように。サファはそれも楽しんでいるようで、しかし、すぐに飽きたように無表情になる。
「こういうことを仕事にしていたなら、どこかで分かっていたはず。……ろくな死に方はしないってね。大丈夫。すぐに楽にしてあげるわ」
短剣を一振りしただけで、一人の命が奪われる。二振り、三振り……その度に一人、二人と死んでいく。そして、最後の一振りをしたとき、その場には誰も残っていなかった。気配もなく、誰もサファを襲う者はいなくなっていたのだった。
「はあ~……あっけない。本当につまらない。つまらないわ。でも、いいわ。こんなこと、あの子にさせるのは酷だもんね……そうそう。『ティリス』の博士様? あなたのお連れ様は無事よ」
ちらりと目を向けた先に、マリと共にいたフードを被った男がいた。息が上がっているようで、肩で息をしながらサファに近づいてきた。



~あとがき~
あ~……サファ覚醒なんじゃ~(違う)
こんなことにするつもりはありませんでした。はい。言い訳です。

次回、サファはどうなる! どうなってるんだ!

重要ワードだよ!! 『ティリス』は重要だよ!
今回はそれだけ覚えて帰って! って言ってもいいくらい、重要です。今後、絡んできますし、色々あるところなのでね。

今回、サファ(?)が大暴れしてくれちゃったせいで、悲惨なことになってますね。描写も大変なことに……あばばば。大丈夫なのかな。直接的な言い回しになってますが、申し訳ねぇと思ってる。今後もこういう直接的な言葉使うと思うので、覚悟しててね。苦手な人は……あれだ。ほのぼのしてる話だけ読んでくれ!((

ではでは!

last soul 第30話

《この物語には死ネタ、暴力表現等の描写があります。閲覧する際はご注意ください》





~危機~


「にゃ~にゃ~にゃにゃ~♪」
歩き始めて、一、二分くらいが経った。マリちゃんが私に襲いかかることもなく、優しく道案内をしてくれていた。暗くなったから気を付けて、とか、歩くスピードは平気かどうか、とか。普段の先輩より優しいエスコートを受けていた。
……本来なら、敵なんだろう。ギルドが敵と判断するような、裏組織の人なんだろう。コウくんが反応したということは、そういうことなのだから。でも、全くそんな風に見えないのは、優しくされて情が移ったからなのか、マリちゃんの本心なのか。
「にゃ~……にゃっ?」
「マリちゃん……?」
楽しそうに鼻歌を歌っていたのに、ぴたりと歩みと共に止まった。見るからに不機嫌になっていくのも分かる。
「みられてるのだ。そのめ、やなのだー!」
ふっと目の前から消えたと思ったら、右の方からどんっと衝撃が伝わってきた。それと同時にマリちゃんが何かに突っ込んだ音だと気付いた。
「マ、マリちゃーん! あんまり物は壊しちゃ駄目だよ! 物って言うか……自然! 大切に!」
「はーい、なのだよー!」
ひょっこりと草むらから出てきたマリちゃんはずるずる何かを引っ張りながら戻ってきた。それがなんなのか、嫌でも分かる。人の死体だ。ぴくりともしないそれに目を合わせることが出来ず、反射的に目を逸らしてしまった。
「……あの、マリちゃん? それって」
「てき、なのだ。うーん。なんだか、おおいきがする。おーえん、されたのだ??」
「応援……?」
「なかま、よばれたのだよ。たぶん、きっと、そーなのだよー! めーんどーは、たいちょーもふくたいちょーもふくふくたいちょーも……あ、みーもきらいなのにゃ」
嫌がるような表情をした後、ぽいっとゴミでも捨てるように敵だったものを放った。草むらの影に隠れて、私からは見えなくなる。
「おねーさん、みーから、はなれるの、だめだめなのね」
「分かった……」
コウくんを探しに来たときに、嗅いだ嫌な臭いの正体が分かった。血の臭いだったのだ。それも大量に流れすぎていて、生臭く、腐敗したような臭いがしていた。先輩はそれを私に見せないようにしていたのか。……耐性がないから、見せられないと判断してくれたのだ。
優しくないなんて思ったこと、撤回しますね、先輩……!
「うり?」
「今度はどうし……あ」
数人、私達の方に向かってきている。遠目だけれど、武器を持っているのも確認出来た。つまり、マリちゃんの言う、応援、つまり援軍だろう。
「なんだかおーいのにゃ? そんなにいたのだ?」
「いやいや、呑気過ぎるよ!? どこかに隠れないと……あーでも、そんなとこしても無駄、なのかな?」
「かくれんぼのひつようはないのだ♪ みーがころころすれば、ばんばんじーなのだ!」
えっと……ころころ? ばんばんじー? あ、棒々鶏……? いや、そんなのはどうでもよくって!
「危ないことはしちゃ駄目だから!」
「あぶぅ? らいじょーぶい♪」
わ、分かってない! 分かってないよ、マリちゃん! いや、さっきの行動でマリちゃんが強いんだろうなってのは分かったし、木もへし折っちゃうくらい強いのも承知だけど!
「マリちゃんが危ない……怪我するところは見たくないよ。私じゃどうすることも出来ないから、余計に申し訳ないと言うか……あう。その、私の自己満足なんだけど、危険なことはしないで欲しい」
「うにゅ……おねーさん、みーがいたいいたいするの、やなの?」
「うん。嫌だ」
「うー……うーうー……うん。わかった。ころころしない! いたいいたいならないよーにがんばる!」
一頻り悩んだ後、パッと顔を明るくさせながら、私と約束してくれた。
「だから、みー、おねーさんまもるのだ。あんぜん、あんしんに、じっこーするのだ!」
「うん。ありがとう」
……あれ、なんで私、こんなことしてるんだったっけ。敵とも味方とも言えない子と命の危機に晒されてるんだろうか。

危険なことはしないでくれと言ったはいいが、結論から言えば危険なことにはならなかった。マリちゃんは、前から横から襲いかかる敵達を片っ端から倒していた。武器なんて持たず、素手で千切っては投げ、千切っては投げの繰り返し。もちろん、実際に千切ってはないんだけれど、そんな風に思うくらい華麗な手さばきだった。私の心配なんていらないくらい、彼女は強いということなのだ。
「ここに来て、私、なんにもしてないなぁ……」
「にゃーはっはー! おまえたちが、みーにかてるわけないんじゃー♪」
あぁ……めっちゃ笑ってる。楽しそう……
私はというと、マリちゃんから離れた位置にいた。被害が飛んでこないくらい離れている。敵はどこから出てくるのか分からないが減る気配はない。
「ゲームの敵キャラが無限湧きしてるみたいだ……そんなに大きな組織だったのかな……?」
それとも、小さな組織が手を組んでここまでやっている、とか? いや、それはどうなんだろう。そこまでする意味はなんだろう。そこまでする理由なんてないように思える。私の乏しい知識では想像することすら困難だ。考えるための材料がない。
「! おねーさん! うしろ!」
「えっ」
そして、私は気付いた。離れていたとはいえ、ここは戦場であったことを。安全地帯なんてないことを。それに私が気付いたのは、愚かにも事が始まってからだった。
私の背後に二人、剣を構えた敵がいた。恐らく、私の後ろにそっと回ってきたのだ。そして、私はマリちゃんに言われるまで全く気付かなかった。ここから短剣を抜いたとしても対応なんて出来る気がしない。そもそも、対応なんて出来るはずもない。避けようにも、体が反応してくれなかった。
これは……私、どうなるんだ……? 分からないけど、大変なことになるのは確かで……いや、理解してても、信じたくないんだ。
襲いかかるであろう痛みを想像して、思わずぎゅっと目を閉じた。



~あとがき~
もしかしたら、いつもより短いかもしれませぬ。
でもきりがいいので、ここまでです(笑)

次回、背後から襲われたサファの運命は!?

書いてて思ったけど、マリとサファのコンビがなかなかいいですね。サファは普段から紅火相手にお姉さんしてるので、そのノリでマリにも接してます。まだ経験も戦いの知識もないので弱いサファ。誰かに守られるポジションです。お姫様かな?
まあ、本当はマリはもう少し後に出す予定だったんですけどね。出したくなっちゃった☆

敵が誰とか描写しないのは考えるのが面倒なのと、すぐにさよならするモブさんなので、描写していません。その他大勢、みたいな感じなので、読んでる人にお任せします。私も大して考えてませんし。
逆に言えば、描写しているってことは、それなりの役割を持ってるってことですね。きっと、多分、恐らく。

ではでは。

last soul 第29話

《この物語には死ネタ、暴力表現等の描写があります。閲覧する際はご注意ください》





~一時的協定~


コウくんに渡されたピンバッジはスカーフの裏にとりあえず着けておく。なんの意味があるのか知らないけれど、渡したからには必要になるんだろう。短剣は装備する用のベルトなんか持っていないので、胸の高さに両手で持っていた。
「ど、ど、どうしたらいいんだ!!」
訳もわからず走っているけれど、どうしたらいいのかさっぱりだ。どこかに隠れてコウくんを待つ方がいいのか、一人で別の出口を探して大通りに出た方がいいのか。全く分からなかった。さっきまでは、逃げた方がいいと思っていたけれど、コウくんと別れた今、待つか逃げるか、正解が分からない。
「先輩、助けてぇぇ!!」
なんでいないの、あの人!! なんでいないんじゃあぁぁぁ!!!
どれくらい走ったのか分からない。コウくんとどれくらい離れたのか分からない。ただ闇雲に走っていたせいで、出口もよく分からない。日も暮れてきたんだから、あとは真っ暗になってしまう。そうなったら、何も出来ない。野宿するしかない……敵の襲撃を警戒しながら、一人で夜が明けるのを待つしかない。……いや、そんなの無理。出来っこないよ!
「うぅぅうっ」
なんだか分からないけど、泣けてきた。なんでこんなことになってるの? どうしてこんなに悪い状況に? 先輩と別れた後、状況が悪い方へと転がり過ぎじゃない? 私、何か悪いことしましたか!?
気を落ち着かせるために、草むらに入って、草影に隠れる。浅い呼吸を整えるために、何度も深呼吸をした。
「落ち着け落ち着け……いつかはこんな日来るんだって知っていたんだから、焦るな……落ち着け」
頭の中は混乱しているけれど、とにかく落ち着かなければ。テンパって、大事なことを見落としては先輩に笑われるだけだ。
「コウくんには逃げろって言われた……けど、あんな状態のコウくんを置いて行けない、よね……」
しかし、戻るにしても元の場所なんて分かりっこなかった。闇雲に走ったせいで自分がどこにいるのかさえ、はっきりしていない。
「……一日くらい、寝なくても大丈夫……というか、怖くて寝てなんていられない。……身を隠せるところを探して、じっとしてよう」
敵がうろうろしているかもしれない所に、実力も経験もない私が対応出来るはずもない。それならじっと待って、味方の援護でも待っている方が得策だ。しかし、こんな森の中に隠れられる場所なんてあるのだろうか。……まあ、探してみるしかないか。
そう思って、辺りを見回していたとき。
「におーうー! おねーさん、どこだー!」
!? 誰だ。迷子……なわけないよね。この状況で迷子の女の子がいるなんてあり得ない。十中八九敵、だろう。
咄嗟に近くの木に身を隠した。幸いなことに、女の子の姿は私から確認出来なかった。となれば、あちらも確認出来ていないだろう。
「声からして、女の子なんだけど……なんで私を追いかけてきたんだろう……いや、逃げたから追ったんだろうけど」
息を殺し、なるべく居場所を悟られないようにする。上手く出来ているか分からないが、教わったようにやるだけ。
「うにゅう~……いないのだ、いないのだ!」
まだ私のことを探している? そっと逃げ出そうか……いや、そんな技術、私にはない。じっと動かず、去るのを待った方がいい。
「…………うりゅりゅ? あやしーぞー? あやしーぞー!」
怪しいと言った瞬間。
私が身を隠していた木が一瞬にしてなくなった。何が起こったのか理解出来なかった。いや、理解は出来なくとも、どうしてこうなったかは客観的に分析は出来た。
木を女の子が倒してしまったのだ。道具なんて使わず、生身の力のみで。しかし、それが分かったとして、私に出来ることなんて何もない。恐怖することしか出来ない。
「っ!?」
「みつけたのだっ! でもでも、つかまえないとおにごっこは、おわらない。だから、おねーさんに、たっちするのだぁ~♪」
フードを被っていたせいで、種族は分からないけれど、口元は見えた。彼女は満面の笑みを浮かべていた。淀みのない笑顔。何もなければ可愛らしい笑顔だなという感想で終わる。しかし、今は異常事態だ。この状況で笑顔を見せられて、恐怖しない方がおかしい。
「にげ、なきゃ……」
震える声で自分のやるべきことを確認する。倒せるわけがない。相手は素手で木を倒すくらいの怪力を見せているのだ。しかし、体は正直なものだ。全く動こうとしてくれない。完全に足が竦んでしまっている。
「おーりょりょ? ありゃりゃ? おねーさん、こわい?? みー、こわいことしないよ??」
もう、してるから!! しちゃってるから! 思いっきり目の前でしてる!
「みーね、おねーさん、にげるから、おいかけたの! それだけだよ?」
「そりゃ、逃げるよ! だって敵なんでしょ!?」
「てき?? みー、てきじゃない。たいちょーも、てきじゃないのだ。ふくたいちょーも、ふくふくたいちょーも、てきじゃないのだ」
……ノイズさんを襲った人達とは関係ないらしい?
女の子は私のことは気にせずに話を進める。
「みー、めーれーでうごくのだ。めーれー、みはりだったのだ」
「み、見張り?」
「みはりなのだ。みるのだ。それがしごとなのだ。でもでも、たまたま、おねーさん、みかけたのだ。で、かんちがいされた」
早とちりってこと? いや、でも、一般人ならコウくんがあそこまで反応なんてしない。コウくんが反応したということは、普通の人ではない……まあ、木を軽々折る人は普通の人ではないけれど。
「かこのことねちねちするの、よくないことだって。だから、ばいばいしたの」
「……どういうこと?」
「ううー……みー、むずかしーこと、わからにゃいのら~? みーはいわれたことをやるだけなの!」
ゆらゆらと体を揺らしながら、楽しそうに話してくれた。今日あった出来事を話す子供のように、至極当たり前のことをするように。
「ここ、ひろいのだ。まぐー、いっぱいやっつけたけど、にげたやつもいる。だから、あぶないの」
まぐー、とはコウくんのことだろうか。マグマラシだから、まぐー……?
コウくんが倒した敵が全員でなかったということだろうか。けれど、処理班とやらがやって来たのではなかったか。
「しょりはん、いなくなったあと、またうごきはじめた。だから、みー、さがしてたの。みはりだったから」
つまり、この子は少なくとも私達の敵ではないのか……? むしろ、ノイズさんと敵対している人達をどうにかしようとしている?
「あ、あの! あなたは、私をどうこうしようとしてない、の? その、殺したり、しない?」
「しないのだ。たいちょーもふくたいちょーもふくふくたいちょーも、そんなこと、いってないもん」
とりあえず、安心していいのだろうか。まあ、ある程度の警戒はしておくべきなのだろうが、今は命を狙われるようなことはない、と判断していいのか。
「おねーさん、もう、こわくない?」
「う、うん……まあ、少しは平気になった」
「わーい! よかったのだー!」
くるくると嬉しそうに回る。欲しいものを買って貰った子供のように、はしゃいでいた。
「おねーさん、おなまえは? みー、みんなに『マリ』ってよばれてるのだー」
f:id:nyanco-sensei:20171022161832j:plain
自己紹介をしながら、被っていたフードを脱いでくれた。幼さの残るイーブイの女の子だった。歳は私と同じくらいか下に見えるけれど、実際はよく分からなかった。
本名じゃないし、教えても問題はない、よな。相手も名乗ったんだ。こちらも名乗るべきだ。
「えっと、サファだよ。……あの、マリちゃん。森の出口、知らない?」
「おねーさん、ここからでたいの? なら、みーがあんないするのだー」
くるりと方向転換をして、私の前を歩き出した。その数歩後ろをついていく。
なんだか、変なことになってきた……



~あとがき~
紅火は一話で終わりましたが、サファは一話で終わりません。

次回、マリと行動することになったサファ、無事に森を脱出することが出来るのか!?

マリちゃん、台詞が全部平仮名なので読みにくいかもしれませんが、仕方ないね。そういう子なの。謎が多いし、完全に味方という訳ではないけれど、とりあえず危険はないです。多分。はい。

挿し絵を久しぶりに描いていたら、週一更新途切れましたね。ごめんなさい! 小説のストックはあるんだけども、絵が出来ないという……これからもそんなことあると思います。はい。まあ、絵が出来なくても、話が書けないことは大いにあり得ますけどね(笑)

ではでは。

last soul 第28話

《この物語には死ネタ、暴力表現等の描写があります。閲覧する際はご注意ください》





~選択~


サファを逃がした後、改めて敵の観察をした。種族、性別等は分からないが、一人は自分より少しだけ背が低く、もう一人は自分より高かった。敵の外見情報はそんなところであった。
気配を察知するのが遅れて、ここまで接近されたのだと思うと悔しくて仕方がない。
「……紅の一族の一人。紅火・フレイヤくん……で、合ってるかな?」
背が高い方が紅火に話しかけてきた。声からして男だろう。首を少しだけ傾げ、警戒心のない声で問う。
「一緒にいたのは……君のお姉さん? でも、種族違うけどなぁ」
「……それを教えて、何になる?」
「ん? 特には?」
表情は読めないが、恐らくは笑っているのだ。声でなんとなく察していた。そして、雰囲気からして、今の紅火では倒せるか怪しいところであった。一人ならともかく、二人相手は正直なところ厳しい。雑魚ならまだしも、目の前の二人はそうではないのははっきりと感じ取れたのだ。
「んううぅっ!! たいちょー! ふくたいちょー! ふくふくたいちょぉぉぉ!!」
男の隣に立っていた人がいきなり叫び始めた。声は高く、普通に話していれば可愛らしい声である。このことから、男女のペアであることが分かる。男が隊長なのか、副隊長なのか、副々隊長なのかは分からないが。男が女の方を少しだけ見て、たしなめるように言う。
「あーはいはいはい? えっと、ちょーっと静かにしようねぇ?」
「ひまなのだ! おいかけるのだ!!」
「はあ? そんなことさせないけど」
女の言動に紅火はより一層警戒心を強くする。しかし、そのせいで、ぐらりと視界が揺れた。警戒するほど、目眩がしてくる。集中すればするほど、思考が働かなくなっていた。“探知”したせいで、頭が上手く働いていないのだ。しかし、それを悟られれば終わり。紅火は悟られないように気丈に振る舞う。
「お前達は何。さっきの奴らの仲間? 助太刀にでも来たの? それにしては遅すぎるけど」
「ん? んん? いやいや、違う。そいつらとは無関係……いや、無関係ではないけど、組織は全く別物だからね」
つまり、ノイズを拐ったと思われる奴と目の前の奴らは別組織の人であるということだろう。しかし、無関係ではないとするなら、それは同盟でも組んでいたのか、協力関係にあったのか、そのどちらかであることは確かだ。
「おじさん達の目的は別にあるんだよー」
「別のって……」
「むー! むーむー! ひーまーなーのーだー! がまんできないのだ! おねーさん、おいかけるんじゃー♪」
またいきなり大声で叫ぶと、女は助走なしで紅火の頭上を軽々と飛び越えた。その際にフードが脱げ、顔が露になったにも関わらず、くるりとこちらを振り返った。彼女はイーブイだった。しかし、瞳は光なんてものはなく、漆黒に染まっている。見ているだけで飲まれそうになるほどの、黒。そんな死んだ目をしているが、口はにっこりと笑っていた。そんな彼女に紅火は不覚にも恐怖を覚える。死体以外でこんな目をする人を見たことがなかったから。
「あははっ! おいかけっこ! たのしーたのしーおにごっこ! おには、みー、なのだ!」
それだけ紅火に向かって言うと、サファが走っていった方向へ行ってしまった。
「あっ……こら! フード被り直していけ!」
「……逃がすかっ!」
腰のホルダーから銃を取り出し、イーブイに向けて撃つ。……正確には撃とうとしたのだが、銃は弾切れをしていて、使い物にならなかった。先程の戦いで全て使い果たしていたのだ。
「くそっ!」
紅火は銃をホルダーに仕舞うと、イーブイの後を追おうとしたが、それは男に立ち塞がれてしまう。
「退け」
「待てって。俺達、敵意はないんだ。いや、あのアホは走ってたから説得力ねぇんだけど」
「退けって言ってるんだ」
「じゃあ、取引しよう! お前は逃がしてやる。元々、どっか行く予定だったんだろう? 別に邪魔したい訳じゃないから、行っていい。代わりに、俺はアホ追いかける。あの青エーフィちゃんの無事は保証するから」
「……お互いがお互いを見逃せって?」
「そうそう。話が分かるねぇ」
この話を飲んで、サファが無事に帰ってくる保証はどこにもなかった。男は命は保証すると言っていたが、信用に値するかと問われれば、答えはNOである。
「リスクが大きすぎる。お前の方が得するんじゃないか? 姉ちゃんが戻ってくるなんて証明出来やしない」
「そうねぇ……おじさん、あれなのよ。戦闘民族? じゃないんだよ。だから、あれこれ言ってるけど、要するにお前とやり合いたくないだけ」
「条件飲んだとしても、俺が姉ちゃんを追いかけるかもよ?」
「それはそれで構いませんぜ~……けど、それは得策でないことくらい、自分自身が分かってるんじゃないか?」
確かにそうだ。ラグとの約束もあるし、一人の人命もかかっている。紅火がここで後戻りすればするほど、場所を伝える時間が遅れる。遅れれば紅火が得た情報は古いものになり、使い物にならなくなるかもしれない。そうなれば、ここまでしてきた意味もない。
つまり、初めから、紅火の選択肢は一つしか許されていないのだ。仕事として、一人の暗殺者として、ここはサファを置いて行くしかない。今の紅火には、目の前の男を倒し、サファを追いかけて助ける力はないのだから。
「……チッ」
「理解したかい? あーっと……さっき言いかけたけど、俺達の目的は君達の殺しじゃない。だから、殺すことはしないし、傷付けるようなこともしない。無駄な殺生はしたくない主義なの」
「あのイーブイも同じだと?」
「馬鹿だけどね、言われたことはきちんと守るタイプだから大丈夫。鬼ごっこって言ってたから、青エーフィちゃんを捕まえはするだろうけど、傷付けはしない」
嘘をついているようには聞こえなかった。表情は読めないし、心を読むことは出来ないが、声だけ聞くと全て本当のことを言っていると判断出来た。それは、紅火の暗殺者としての勘でもあった。
だから、今はその勘を信じるしかなかった。
紅火は持っていた剣を鞘に収め、森の出口へと走っていった。男は言った通り、紅火の後を追いかけることはせず、自分の仲間を追うために紅火から遠ざかった。
「くそ……俺はまた、こんな選択しか……逃げる選択しか取れないのか……っ!」
走りながら、自分の弱さを悲観した。計画の甘さを痛感した。ラグならもっと上手くやるだろう。両親ならもっと早く判断出来るのだろう。自分はまだ子供で、非力なのだと、思い知らされた。



~あとがき~
紅火、離脱です。こうするしかなかったんや。
それと、新キャラ登場ですね。今回の事件には関係ないと言うけれど、どれくらい関わっていないんでしょうかね?

次回、紅火と別れたサファはどうなる!

新キャラさんの片割れは顔見せてないですが、イーブイちゃんは出ましたね。名前はちゃんとあるんですけど、それは次回以降で。男の人……たいちょー(仮)でいいか。まあ、「ふくたいちょー」でも「ふくふくたいちょー」でもいいんですけどね。どれがいいですかね(笑)
彼らの目的なんかも分かるかな……分かったとしてもまだまだ先だと思います。

ではでは。

last soul 第27話

《この物語には死ネタ、暴力表現等の描写があります。閲覧する際はご注意ください》





~新たな試練~


先輩の遠ざかる背中を見送ると、へなへなっとコウくんが座り込んでしまった。
「コ、コウくん!? 大丈夫?」
「うん……ちょっと、久し振りにやって疲れただけだから」
「あっと……あのね、先輩から聞いたの。コウくんの能力のこと」
そう言うと、コウくんはそっかと困ったように笑った。先輩の言う通り、私には知られたくなかったんだろうか。知ったところで、私は私でコウくんはコウくんなのに。
「……別にね、能力のことはいつか知られるって分かってたんだ。でも、やっぱり姉ちゃんに何も知られたくはなくて……知って欲しくなかったよ」
「私がここに来ちゃったの……この世界に来たの、嫌だった?」
頷くことはしなかったけれど、なんとなく伝わってきた。コウくんは先輩と同じように、私がギルドに入ってブラックに入ることは反対していたのだ。今まで何も言わなかったのは、マスターを説得出来ないことを分かっていたから。あるいは、話を聞いたときに覚悟していたのか。
「姉ちゃんには、何も知らないで普通にいて欲しかったんだ。……なんて、俺の我が儘だけどさ。……今、こんなこと言ってる場合じゃないよね。ごめんね?」
コウくんは生まれたときからずっと、この世界で生きていくことが当然で、当たり前で。それ以外の道なんて示されていなくて。
だから、せめて私だけは、普通でいて欲しかったんだろうか。自分の分まで、普通に暮らして欲しかったのかもしれない。それでも、私は踏み込んでしまった。踏み込んでしまった私に出来ることは……
「コウくん。私は変わらないよ? 今まで通りコウくんのお姉ちゃんなんだから」
笑って、コウくんを安心させることだけだ。今の私にはこれしか出来ない。けれど、これが一番いい方法でもあるのは過去の経験から知っていた。
「……うん。ありがと、姉ちゃん。そうしてくれると、俺も嬉しいな」
いつもより大人っぽく見えたのは、こんな状況からか。仕事モードのスイッチが入ったままなのか。しかし、今はどっちでもいい。
「とりあえず、私達は家に帰ろう。ちゃんと言われたことしないと、先輩に怒られちゃうよ!」
「そーだね! 俺らがやることやらないと、ラグさんも困っちゃう」
私が手を差し出すと、コウくんは素直に手を取って立ち上がった。そして、ずっと出しっぱなしだった剣も鞘に収めた。
「コウくん、歩ける?」
「むー? そこまで弱ってないよ。まあ、流石にもう戦いたくはないけどぉ……集中力持たな~い」
なんて言いながら、手をひらひらさせ、笑顔を浮かべる。いつもの子供っぽくてお気楽なコウくんだ。
「ラグさんが転送装置を使わず、徒歩で向かったんなら、三十分以内には戻るだろうな~……二十分、早くて十五分、かな?」
「えっ!? 三十分以上かけてコウくんのとこまで来たのに、先輩そんなに早く着くの?」
……というか、転送装置ってなんだろう? 名前からして、好きな場所にテレポートすることが出来るんだろうか。
「あは~♪ ラグさんが本気で走れば余裕だよ。ってことで、俺らも走ろう! ラグさんより早く家に着いてなくちゃ。走れば十五分くらいで家に着くよ!」
「えぇっ? 走って大丈夫なの、コウくん?」
「だーかーらー! そんなに弱ってないってば!」
前を走るコウくんは、確かに弱っている人の早さではない。むしろ、体力が有り余っているであろう私の方が遅い。これが基礎体力の違いか……!

そろそろ森に出るであろう地点まで来たところで、前を走っていたコウくんがぴたりと止まった。
「どうしたの? 何か見つけた?」
「……んんっ……んー? ちょっと、静かに……」
辺りを探るように見回しながら、周りを警戒していた。そんな様子で普通ではないと悟る。
「! 姉ちゃん!」
呼ばれたと思ったら、私は後方へと飛んでいた。否、飛ばされていた。コウくんが突き飛ばしたのだ。突き飛ばした当人は素早く剣を抜いて、その剣を振るっていた。それを確認出来たのは、私が空中に浮いているほんの僅かな時間だけ。数秒後には地面に転がりながらスライディングしていた。
「いっつぅ……!」
コウくんとの距離は約十メートルくらいだろうか。地面を滑った痛みに耐えつつ、そちらを見ると二つの影を確認した。どちらも私からは種族、性別、年齢もろもろは分からなかった。理由として、彼らはマントを羽織り、フードを目深く被っていたからだ。対峙しているコウくんでさえ、確認は難しいかもしれない。分かっていることと言えば、また敵に襲われていて、状況はかなり悪いということだ。疲弊しているコウくんとバトル知識の乏しい私では、この場を無傷で乗り切る自信はない。
だから、ここで取るべき手段は……
「逃げなきゃ……!」
戦うことは出来なくても、サポートくらいは出来るだろう。倒せなくとも、この場から離脱することは可能かもしれない。せめて、どちらか片方でも、逃げ切れば、可能性はある。
「コウくん、私も手伝う!」
「駄目! 言いたくないけど、姉ちゃん邪魔!」
「ストレート過ぎる!!! 心が痛い!」
さっきまでのほのぼの会話はなんだったんだ! コウくんの馬鹿! お姉ちゃんの心は君の一言でボロボロだよ!?
「これ持って走って!」
コウくんから投げられたのは、短剣とピンバッジのようなものだ。あの距離から私のところまで投げられるのは、やっぱり修行のお陰なんだろう……けど。走れと言われても、私の知っている出入り口は敵が塞いでしまっているため、新しく探す必要がある。それに、コウくんしかノイズさんの居場所は知らないのに、どうしろと。
「姉ちゃんがある程度ここから離れたら俺も後を追うから! だから、今は走って!!」
切羽詰まったコウくんの声。その気迫に駄目だとは言えなくて、別の案を考える時間もなく、余裕もなく、私は奥に向かって走っていく。
な、なんでこんなことになっているんだ……!? どこから、こんなことになっているんだろうか。最初はノイズさんに、危険があるかもしれないと伝えるためにここを訪れたのではなかったか。それなのにコウくんはここで剣を振るっていて、私は出なきゃいけないのに、逆方向へと走っている。
なんで、こういうときに先輩はいないんだぁぁ!?



~あとがき~
サファと紅火、大変なことになってますね(笑)

次回、サファを逃がした紅火の運命は……!
大丈夫。流石にここでメインキャラを死なせるようなことはしませんから!

さて、少し紅火の話をしましょう。サファが自分と同じ世界に来ることをどのように思っていたのか、語りたいと思います。なんでかって? 本編じゃやらない(予定)からだよ!
紅火は姉として慕うサファには、暗い世界に来て欲しくはありませんでした。当然ですね。どんな世界なのか知っていて、大好きなお姉ちゃんにさせたいなんて思いません。けどまあ、運命は残酷ですね。というか、親が残酷です。親が決めたことに逆らうことも出来ない紅火は、早々に開き直って、なるべくサファに危険が及ばないようにしようと決めたのでした。あまり裏事情を知って欲しくないってのも、危険があるかもしれないからです。
まあ、こんな感じです。要約すると、お姉ちゃんに危険なことはして欲しくない。これに尽きます。

ではでは!