鈴鳴カフェ

ポケモンの二次創作とオリキャラの小説を連載しています。

last soul 第45話

《この物語には死ネタ、暴力表現等の描写があります。閲覧する際にはご注意ください》





~ノイズによる独白~


こちらとしてはしばらくは大きな事件らしい事件はなく……つっても、個人個人はあったんだけど。それは俺っちが語ることじゃないから、ざっとだけ。ラグが見習いから殺し屋へとランクを上げた頃、さらりとメイズから紅珠との婚約を聞かされた。「俺達、結婚するみたい~」って、他人事のように言ってきた。何がきっかけとか根掘り葉掘り聞いたけど……まあ、うん。ここじゃ、割愛しよう。
あとは……なんだろう。特には? なかったか?
うん、ない……かな。
この頃、花嫁修業だなんだと理由をつけて、ライラと紅珠が料理に挑戦することが多かった。元々、ライラはラグが来た辺りからちょこちょこやってはいたんだけど、そこに紅珠が加わった形だ。
これから話すのは初めてライラと紅珠が料理した話だ。ギルドに備えてあるキッチンにライラと紅珠。それとラグが並び、観客(?)の男達は近くの椅子に座って見ていた。
「ノルンのお料理教室ー! アシスタントはラグくんだよ! よろしくぅ~♪」
「えーっと、姉さんのテンション、おれ、ついてけない……うー」
「ここはよろしくって言うんだよ、ラグくん!」
「よ、よろしく……? って誰に言って?」
「今日は紅珠ちゃんもいまーす! よろしくね」
「あんた、いつもこんなんにラグ巻き込んでたの? ラグも嫌なら嫌って言いなさい?」
「やじゃない……でも、ついてけない」
とりあえず、意思を持つようにはなってきたラグだったけれど、ライラの言うことに嫌だとは言ったことはなかった。ロスや俺っちには文句を言うようになってきてたし、成長はしたんだろうけど……なんで俺っちには文句言うんだ? メイズと紅珠には言わないのに。まあ、うん。序列かな……
「今日はね、オムライス作るぞー!」
「え、待って? 今からご飯なの!? さっき食べたぞ!」
「私の手料理だよ? ノイズ、食べられない?」
「違う! そうじゃなくて!」
さっき昼飯一緒に食べたの忘れないでほしい。なんでまたオムライスだよ! せめて軽食にしよう!? 変なところでこだわり見せなくてもいいのに、謎のチョイスをしてきたものだ。
「ラグくん、ご飯と一緒に炒める野菜とか切ってくれる? 紅珠ちゃんも」
「ん」
「え、私も?」
ライラの指揮下のもと、着々と作業が進んでいく。思いの外、ラグの手際がよく、普段からライラの料理に付き合っていたから上達したんだろう。紅珠は経験したことがないのが丸分かりで、見ているこっちがはらはらするような手つきだ。
ま、なんやかんやあって、俺っち達の前にオムライスが並べられたわけだけど、メイズの前には紅珠が作ったもの。ロスの前にはラグが作ったもの。俺っちの前にはライラが作ったものが出された。まあ、当然こういう並びになるわけだ。
ライラとラグのものは綺麗な形になっているが、紅珠のは酷かった。何て言うんだろう。卵で包まれてないし、そもそも黄色くない。なんでだろう。見ていた限り、同じ材料のはずなんだけれど。
「紅珠、俺は何を食べさせられるのかな?」
「見ての通りよ。オムライスじゃない」
「へえ? これ、オムライスって言うんだ~? 俺の知ってるオムライスとは別物だね」
「悪かったわね、下手くそで!」
「そう言うけど、食べろって威圧凄いなぁ」
うん、気持ち分かる。けどまあ、普段の仕返しだ。助けは出さん。
「え、マジ!? 俺食べていいの!!」
「うん。消去法。仕方なく」
「可愛い弟の手料理とか幸せすぎ! ありがとう! とりあえず、保存しとくね!」
「今、ここで、食べて」
ロスはなんか変な方に進んだ気がする。大丈夫なんだろうか。
「へへーんっ! 彼女の手料理だぞ~♪」
「こういうときのお前に戸惑ってる」
「ごめんね? 楽しくって♪」
「……そうかぁ」
まあ、楽しそうで何よりだけども。
このあと、三人で色んな意味でひーひー言いながら完食したわけだ。今度からは時間を考えてやってもらったのは言うまでもない。

「んぅ……ノイズ……?」
「? 何? どした」
ライラが異変を訴えたのは特に何でもない日だったと思う。仕事もなく、俺っちの家でのんびりしていたとき。突然、きょろきょろと辺りを見回し始めたのだ。
「探しもん? 何がいるの。ペン? 本とか?」
「ううん。違う」
「じゃあ、どした」
「…………ノイズ、探してた」
「はい? え、精神的に弱ってるとかそういうこと? 珍しいな」
「うーん。案外遠くないかも。最近ね、景色が霞むって言うか、見えにくくて」
ライラが言うには、不意に不安になり、俺っちを探したってことらしい。さっきまで傍にいたのに、いきなりそんなことするものだろうか。なんて不審に思って、ライラを連れて、そのままの足で病院へと向かったのを覚えている。
そこで言われたのは、ライラの視力が急激に下がっていることと、この低下がいつ止まるのか分からないこと。そして、原因は分からないということだった。分かってからは視力低下も早かった。……なんて、こちらが意識してなかっただけで、本人にとっては早いとも思わなかったかもしれないけれど。
結局、ライラの目はほとんど見えなくなるまでになってしまい、必然的に仕事の方も引退せざるを得なかった。仲間はもちろん、この件に関して少なからずショックを受けたものだけれど、ラグも例外ではなかった。
「姉さん、見えないの?」
「うん、そうなの。……あ、でも大丈夫!」
不安げなラグの声を察したらしい、ライラがラグの頭を撫でた。その事が不思議だったようで、ラグは撫でられつつ首を傾げた。
「見えなくても、ラグくんのことは見えてるから! 心の目で見てるから、ばっちりだよ~」
「? こころのめ?」
「ノルン、ラグが戸惑ってるから変なこと言うなっての……気にせんでいいぞ? 単純に今までの経験が役に立ってるだけだから」
「あははっ♪ ノルンってば、面白いこと言うねぇ? そういうの好き~」
「その声はサンだねっ! お仕事行ったのかと思ってたよ~」
「ノルンが心配で行けなかったんだよ?」
「んなこと言って、紅珠に怒られても知らないからな?」
「ありがと、サン。私は大丈夫だよ。今まで通り、生活は出来ると思うし、なんなら、ノイズが助けてくれるもん。ねっ?」
「お、おう」
急に同意を求められて、適当に答えてしまった。間違いではないから、いいけど。
目が見えなくなっても、ライラはライラのままだった。変な行動をするわけでもなく、辺りに怒鳴り散らすなんて、取り乱すようなこともなくて。そこら辺は、ライラ自身の心の強さなんだろうな。



~あとがき~
ワイワイしてたのに、ちょっと暗くなりましたかね。そんなことないのかな?

次回、やっと! 核心をつけそう!

ラグの言葉使いが幼さ(?)を残しつつも、ちゃんとしたものになってきました。成長したんやで!
あと、最後の方さらりときてしまったけれども、まあ、うん……いいか…

ではでは。

last soul 第44話

《この物語には死ネタ、暴力表現等の描写があります。閲覧する際にはご注意ください》





~ノイズによる独白~


「じゃあ、しっかりやんなさいよ。二人とも」
「ノイズ! ラグくんのこと守らなきゃ怒るからね! 絶対だよ!」
「危険を感じたら逃げてね、ラグくーん。そこのアホ達は捨て置いていいから~♪」
紅珠、ライラ、メイズの三人からの有難い(?)お言葉を背に別行動へと移る。目立たないところから中へと侵入するんだろう。前線の役目はそれがスムーズに行くように目一杯暴れることだ。……というか、メイズの奴は一度酷い目に遭ってもいいんじゃなかろうか。
「さてさぁって! 俺達はいつも通りにやるか。気合い入れて行くぞー!」
「なんでそんなに元気なんでしょうかねぇ……? こっちは気が重いんだけど?」
「そりゃ、可愛い弟がいるんだよ!? 張り切るでしょ?」
「アーハイ。ソーデスネ」
「あー……おと」
「お。どーした、ラグ?」
答えを聞く前に俺っちのマフラーを引っ張られ、バランスを崩して思わず転んでしまう。こういうことをする性格ではないから、何事かとラグを見ると隣で同じように伏せていた。ラグを挟んだ方には同じようにラグにやられたらしいロスが大の字になって寝ていた。
「……あの、ラグ? 何し」
言い終わる前に頭上に何か通る音が微かに聞こえる。目線を通ったであろう終着点まで移すと、銃弾の痕が見えた。ラグが教えてくれなければ、殺られていたかもしれない。
「……マジか。なんで分かった?」
「おと、きこえた。でも、さい…さいれんさ? だったとおもうけど」
サイレンサー付きのライフル銃の音を聞き分けた、と言うのだろうか。いやいや、そんなのあり得るのか。サイレンサーの意味は!? 全く音がないわけではないけれど、離れているはずの音を聞き分けられるもんなのか?
「守る側なのに、守られちゃったなぁ……ありがとな、ラグ~♪」
大したことを考えていないらしい、ロスがよしよしとラグの頭を撫でていた。くっそ、呑気め。
「ノイズ、こっから狙えるか?」
「問題ない。ロスは本拠地突入しとけ。後から追いかけるから……ラグは、どうしようか」
「ノイズが連れてきて。ってことでおっ先ー!」
体勢を整えると、メイン武器である長刀を鞘から抜きつつ正面突破していく。毎回思っていたけれど、正面突破以外の方法はなかったんだろうか。

遠くから狙ってきた敵は銃剣の餌食になってもらって、ロスの後を追った。後ろにはちゃんとラグもついてきている。すぐに合流をするとロスの正面には何十人もの敵がわらわらと群がっていた。こういうのを見ると、一体どこにこんなにいたんだろうと考えてしまう。
「おーおー! 助けて、ノイズ~」
全くそんなことを思っていないロスがヘルプを出す。冷ややかな目線を送ってから、ロスの隣に立つ。そして、最小限の確認だけを取った。
「ロス、ここに来るまでに何人始末した?」
「十もないねぇ……ここ、規模ちっさいから、五十人もいないと思う。他と手を組んでなければ!」
「やっぱそうなるか」
「さっさと全員やっつけて、帰ろうかっ」
「そうだな……ラグ、隅っこにいろよ? あ、あと危なくなったら容赦なくいけ、なっ?」
「すみっこ。よーしゃなく。うん。分かった」
ラグの移動を確認してから、本格的に仕事に取りかかった。ここからは片っ端から斬るのみ。ロス達と五年は仕事をしてきて、お互い邪魔しないように立ち回ることは簡単に出来た。ま、たまに流れ弾みたく敵が飛んできたり、仲間が飛んできたりすることはあったけどさ。
それでも、今回は二人だけじゃないことが仇になった。普段なら二人のうちどちらかを狙ってくれるけれど、今は後ろにラグもいた。だから、敵の勢力もラグに向けられるものがあったわけで。……もちろん、そうならないようにロスと全力でやっていたわけだけど、一瞬の隙を突かれた。
俺っちとロスの間を縫って、ラグに一直線に駆け寄る敵がいた。手には剣。腰には抜かれていない拳銃。そんな武装をしているのが見えた。
「やっば! ラグ!」
ぼんやりこっちを見ていたラグは、目の前に迫る敵を見ても動じなかった。それどころかじっと観察するように目線を離さず、その場を動かない。
「死ね、ガキ!」
「それは、きけない。……よーしゃなく、そう言われた」
振りかぶった剣を避けて、相手の頭上へと跳躍。肩車されるように覆い被さると何の迷いもなく、相手の首の骨を折ってしまった。どさりと崩れ落ちた敵の上に着地をすると、落ちていた剣を拾って、心臓を一突き。ここまでの一連の流れに無駄な動きはなく、ものの数秒で片付けてしまう。
「……うわーお」
そんなこと、こちらは全く教えてないはずなんだけどねぇ……? どこで覚えてきたの、ラグ。
こちらの困惑なんて知るはずもなく、何事もなかったようにまた隅っこの方で大人しくなる。
これを見て、ラグはただの子供じゃないって確信をした。今までも疑ってなかった訳じゃない。けれど、確信が持てなかったんだ。あどけない仕草だってするし、感情の起伏がないだけで子供っぽいところはちゃんとあったと思う。……あった、よな?
とにかく、鮮やかな手さばきで軽々と敵を処理してしまったラグを見て、ロスが何を思ったのかは知らない。聞こうとも思わなかったし、そんな気は回らなかった。ただ、思ったのは、そこら辺にいる子供とは全く違う道をラグは来てしまったってことだけ。……今でも何も言わないけれど、いやまあ、言えるわけないんだけど。人体実験なんてろくなもんじゃない。そんなものを短い期間とはいえ、受けてきた可能性があるのだと、思った。



~あとがき~
ここまできて、この話は必要なのかと疑問になってきました。謎。

次回、やっと! 今回に関係ある話をします!
おっせぇぇぇーー!!!

ラグくんはね、天才なんだよ。
……なーんて言葉で納得はしないでしょうが、理由うんぬんはまた今度。まあ、躊躇せずに剣をぐさーなんて子供はできないよなぁ……このときのラグは五歳なんだけども……五歳児怖いね((違う
次回からはラグも成長してますんで、言葉は多くなりますよ。はい。

ではでは。

last soul 第43話

《この物語には死ネタ、暴力表現等の描写があります。閲覧する際はご注意ください》





~ノイズによる独白~


怪我もすっかり治り、ライラの頑張りもあってかラグは少しずつ話せるようになった。その頃にはラグがやって来て一年は経とうとしていた。
「ラグ、マスターが呼んでる」
「……ますたぁ」
ピンと来ていないようで、ロスの言葉を繰り返した。ロスはラグに不安を与えないように優しく笑いながら、少しずつ状況を飲み込ませてやる。
「そう。何回か会ったろ? あー……バクフーンのおじさん。俺達のマスター……偉い人なんだ」
「うん」
「そのマスターがお前と話したいって」
「うん」
分かっているのか分かっていないのか見当もつかないような返事を繰り返し、ラグは立ち上がるとてとてとと部屋を出ていった。
「あいつ、分かってんのかね、マスターに呼ばれた意味」
なんて言ってみたけれど、きっと分かっていないんだろうと思う。まだ三才くらいの年で聞かされる話ではないし。きっと、ラグは周りの大人達が……とは言え、俺っち達はまだ未成年だけれども、何をしているのか聞かされるんだろう。
「あうぅう……俺はそんなことさせたくないんだよ。ごめんねぇ、ラグゥ~」
「マスター、結構思い切りよくない? 俺、もっと後だと思ってたんだけどなぁ?」
「父様の考えは『使えるものは使う』だもの。別に不思議じゃないわよ……父様から見て、ラグは才能があったってことでしょ」
わざとらしく泣き真似をするロスの隣で、メイズと紅珠はラグの呼ばれた理由について考えていた。ライラも不安そうにしていた。
「今までのこと知って、嫌にならないかな。私達のこと……」
「あの年で理解するかも怪しいけど。ま、ラグは賢いから……引きはするかもねぇ」
「う。ノイズの意地悪」
「えぇ? なんでぇ?」
それぞれ考えることは違っても、どこか不安には思っていたと思う。幼いラグが自分達をどう思うんだろうって気になることだから。まだ一年くらいだけど、ラグはもう仲間だったんだと思う。少なくとも、俺っちはそう感じていた。
しばらくして帰ってきたラグは当たり前のようにこちらに寄ってきて、ロスを見上げる。まだ小さいラグには皆の座る椅子は高い。だから、いつも近くにいる人を見上げて座らせてもらうのだ。
「おかえり、ラグ~」
そう言いながらラグを持ち上げて、ロスとメイズの間に座らせてやる。そしてテーブルに体重を乗せ、目一杯背伸びをして周りを見渡す。何か言い出すのかと思ったが、そんなことはなく、テーブルに置いてあったお菓子の中からクッキーを手に取るとちまちま食べ始めた。どうやら、食べるものを探したかっただけらしい。メイズがお菓子の入ったお皿を寄せながらラグに話しかける。
「難しい話だった?」
「……? むずかし?」
「お仕事の話とかそんなん」
「ん……じゃ、むずかし、だった」
「素直な感想は?」
ド直球な質問を子供にするものだ。もっとよく考えればいいのに、メイズは臆せずに聞いてしまう。
「? なにもない。もうちょっとしたら、やってって。みんなのおしごと」
あー、うん。やっぱりそうなんだ、なんて空気が五人の間に流れる。それぞれが何を思ったかは知らないけれど、俺っちはまあ、予想通りってのと、こんな子供にする話ではないなって感じだった。
マスターの言うもうちょっとというのはどれくらいなのか分からなかった。本当にすぐなのか、二、三年後なのか。この場いる全員が入ったくらいの年になってからなのか。
「ラグくんは嫌じゃないの?」
「? や、じゃないよ」
ライラの問いに何でもないように答えた。
ラグは多分、命が大切だとか、自分の身が大切だとかそういう生に対する思いがないんだろう。それは拾われる前の環境が影響しているのかもしれない。今はそんなことないけど、それでも時々、自分を下に見るような、自身の命を無下にするようなそんな言動をする。
当時は子供だし、理解は難しかったのかもしれないと思った。そうじゃないって知るのは、二年後、ラグが見習いとして仕事についてきたときだった。

仕事に行く数ヵ月前から、全員の得意分野をラグに教えてやることになった。大体はロスが教えることになったんだけど、あいつも仕事があるから、そんなときに暇な奴が教えてやろうなんて話になった。ラグは嫌だとも言わずに、黙って従っていたもんだ。……今じゃ考えられない素直さだな。
そこで驚いたのは、ラグの覚えのよさ。なんでも自分のものにしてしまい、習得していった。もちろん基礎的なことしか教えていなかったけれど、それでも尋常じゃない速さで、色んなものを覚えた。メイズもなんでも出来るタイプではあったけれど、それ以上の力をラグは持っていたんだと思う。
なんでも出来るというのは強みだったけれど、ラグの弱味は意思がないことだった。当時は自分で物事を決めて行動することが出来なかった。例えば、剣の手合わせをしたとして、防御を学べと言えば、反撃せずに防御のみに徹する。反撃してもいいと言われないと、動かないのだ。これも多分、命の価値観と同じで、子供の頃に言われたことしかやるなと教えられてしまったのだろう。自分で考えろと言っても、首を捻るばかりのあいつに、こちらはどうすることも出来なかった。だから、こちらの言うことは一つ。ラグ自身が怪我をしないように最善の手を尽くせ、である。こう言っておけば、攻撃を受けないように立ち回るし、相手を倒せば怪我をしないことも分かっているから反撃もする。
そして、ラグの初仕事の日。初仕事って言ってもいきなりやれとは言えないから、見学させるって話になった。この方針を決めたのはマスター。今でも、あの人がどうしてここまでラグを使いたがったのかが分からない。紅珠の言う通り、早く才能を開花させたかったんだろうか。……どうにも、違う気もするんだけど、これはマスターにしか分からんか。まあ、当事者であるラグには分かるかもしれないんだけどさ。
この日はせっかくだから全員参加して組織単位で相手をしようなんてことになった。ランクはロスだけが始末屋だった気がする。ランクで仕事内容を仕切られてはいたけれど、それは個人で行う場合に適応されるルール。だから、チーム単位の場合はそれに当てはまらない。ま、一人より信頼出来る仲間と一緒にいた方が効率もいいし、賢明だと思う。
「ラグはサンといてもらった方が安全なんだけど、それじゃあ勉強にならないから、俺とノイズとで前衛な!」
ロスの提案に紅珠は首を傾げる。嫌になるほどラグに過保護の癖に、こういうときだけ厳しく出るんだよな。なんでだろう。強くなってほしいからなんだろうか。
「サンと監視カメラ使って見学でもよくない?」
「そうだよ。いきなりは……刺激が強いというか、ラグくんの教育にもよくないというか……」
「リアルで見た方が力になるって♪ ノイズ、死ぬ気で守れよ!」
「あのなぁ……そー言うなら、カメラ使って見学させろっつーの」
この五人で仕事をするとき、大体の役割が決まっていた。ロスと俺っちで前線に出て、その間にメイズが敵地にある情報を収集、処理を行う。必要があれば、こっちに指示を送る。紅珠とライラは機械を相手にしているメイズの守り。こんな感じ。ぶっちゃけ、メイズを守る必要なんて全くないんだけれど、機械相手にしていると、それに集中して周りが見えなくなるのも事実。だからこその措置だ。
結局、ロスの言う通りになって、ラグを加えた三人で敵を手当たり次第に相手することになった。



~あとがき~
ノイズの過去編、結構長い。このラグの初仕事が終わったら、今回の事件の原因である話をやります。

次回、ノイズから見た、幼いラグの実力とは。

本編じゃ可愛くないラグですが、小さいと可愛いですね。話し方の問題でしょうかね。今じゃそんな雰囲気ありませんけどね!

情報管理っていうか、監視カメラを見られるような部屋を占拠するのはメイズの仕事です。たまにノイズもやります。多分、そういうときはメイズが暴れたいって言ったときですね!(笑)

ではでは。

last soul 第42話

《この物語には死ネタ、暴力表現等の描写があります。閲覧する際にはご注意ください》





~ノイズによる独白~


ロスが弟にすると宣言したその翌日。
マスターにロスが拾ってきたイーブイの話をすると、拾ってきたものは仕方がないと溜息をついていた。そして、メルディにイーブイを診てもらえることになった。一通り終わった後、ロスと一緒に診断結果を聞くことに。ちなみに他のメンバーは仕事だった。
「どお、せんせー?」
「サンくんの言う通り、かなり酷い怪我だけど命に別状はない。脱水症状と栄養失調があったけれど、点滴したし、安静にしていれば問題ないわ……あるとすれば、心、かな」
「心っすか。虐待でも受けたのかな」
「うぅん……それにしては、外傷が……その、刃物で斬られたり、銃で撃たれたような傷が目立つのよね。もしかしたら、そういう所から逃げてきたのかも」
メルディ先生の言う、そういう所とは、裏組織のことだった。俺っち達が取り締まるような組織は山のようにあるけど、その中でも人体実験のようなことをしている組織があると聞く。このイーブイも実験を受けていた可能性は大いにある。……そういえば、前、ラグに聞いたことがあったけど、覚えてないっすね、と言われてしまった。まあ、覚えていたくない記憶ではあるだろうから、その答えも納得はしたんだけど。
「マスターはどうしろって言ってたの?」
「ロスの好きにしろって言われました」
「にゃはー♪ 俺が連れてきたから、俺が責任取るけどね」
「話は通したのか?」
「まあね。反応は微妙だった。いきなりどこの誰かも分からない子を弟にしたいって言ったからなぁ」
頭はいいはずなのに、こういうときは頭が回らない奴だった。ロスの家は分家の中でもそれなりに有名なもんだから、そういう反応も仕方ないかもしれない。しかし、後日、どんな手を使ったのか知らないが、親を納得させて本当に弟にしてしまうのだから、人生何があるのか分からないものだ。

その後、イーブイにラグと名付け、甲斐甲斐しくお世話をすることになった。ロス以外の四人にとっては完全に巻き込まれてしまっているのだが、それはそれで面白いと笑っていたのは、メイズとライラだ。現実主義というか、物事のあれこれを考えることが多い紅珠と俺っちは、ラグのことは楽観視していなかったっけか。これからのことを考えると、生きていてよかったと思ってくれるのか、分からなかったから。
先生の言う通り、ラグは目を覚ましても、俺っち達を信用していなくて完全に敵意を向けていた。安静にしてろというのに、警戒を解こうとしない。いつでも攻撃出来るように、反撃出来るように構えていた。こっちに敵意はないと言っても、そもそもの話、信用されてないので、言ったって無駄なところだったわけだ。そんなラグをライラはどうにかしたくて、毎日病室に通っていた。仕事があろうとなかろうと、必ず一回は行くようにして、話をしていた。
「ラグくん、こんにちは! 今日はね、いい天気なんだよ~♪ 元気になったら、一緒にお散歩しようねっ」
「あのね。この前、お料理に挑戦しようって思って、色々調べたんだよ。何がいいかなって見てるだけでも、楽しいの」
なーんて話をするわけだけど、内容は他愛ない話ばっかり。けれど、そういうところがラグの警戒を解くきっかけとなったようで、攻撃しようとすることはなくなった。ただ、ラグは話すことが出来なかった。これは心の問題だったらしい。理由は分からんでもなかったし、それは時間が解決してくれるだろうと思っていたものだけれど。
「よ、ノルン。まーた、ラグんとこ?」
「ノイズ。……うん、そうだよ。ノイズも一緒に行く?」
「暇だから、ついてく……けど、よくもまあ、飽きもせずに話しかけるな。反応ないじゃん?」
「えー? そんなことないよ。ちゃんとお話聞いてくれてるもん。前は興味無さそうにそっぽ向いてるけど、最近は私のことを見てくれてるんだよ?」
随分な進歩だと思う。とはいえ、ライラ以外にそんな態度は取っていないようで、他のメンバーが見に行っても目線は合わない。
「やっほー! ラグくん、今日はノイズも一緒なんだよ~♪」
扉を開けると、体を起こした状態でじっと様子を窺うようにこちらを見ていた。ライラといるからか、こっちとも目を合わせてくれたみたいだった。
「ノイズはね、私の未来の旦那様なんだよ!」
「なんでそれを言う?」
「紹介だよ。しょーかいっ!」
一度、名前は教えたはずだから、改まって言う必要なんてないはずなのに。ライラは面白そうに笑って、ラグが寝ているベッド近くの椅子に座る。
「今日はね、お願いがあって来たんだ」
「お願いなくても来てんじゃん、お前」
「そうだけど、それだけじゃないってことだよ!」
にこっと笑顔を浮かべるライラ。ラグはライラの方を見つめるだけ。そこに表情はなかった。ただ、無表情とはまた違う何かがそこにはある。でも、それが何か分からなかった。
「あのね、お話出来るようになったら、私のことお姉ちゃんって呼んで欲しくって!」
「ノルン……お前ってやつは」
「そんな顔しないでよ~? ほらほら、下の兄弟なんていないからさ。ちょっと呼ばれてみたいなって思うじゃない?」
「思ったことないなぁ」
「えぇっ!? 夢がなーい!」
そんなことを言われても、今まで全く考えたことがなかった。まあ、ライラは少なくとも『お姉ちゃん』になりたかった願望があったってだけなんだろう。そして、大した反応を見せてこなかったラグでさえ、ライラの方を探るように見ている。いや、ラグのその気持ちは分かる。そうなるよな。うん。
「ね、お願いっ!」
そのお願いが叶うのはいつになるのやらって感じ。それはラグも分かっているとは思うけれど、でも、ラグはゆっくりと頷いた。半ば無理矢理頷かされたと言ってもいいかもしれないんだけどね。多分、ここで拒否っても数日後にまた頼むんだろう。ライラは意外と頑固な奴なんだ。
ラグが頷いたのを確認したライラは、嬉しそうに笑って、ありがとうと言いながらラグの頭を撫でた。これじゃあ、どっちが上の兄弟なのか分からない。
お願いをした後は、いつものように他愛ない話をラグに聞かせていた。時々、こっちにも話を振ってきて、振られても困ると言えば、ライラは面白がって色々話しかけてきた。なんだか、こうやって下らない話を永遠とするのは久し振りに感じた。いつも、話はしていたし、下らないことはやって来ていたけれど、このときだけは子供の頃に戻ったみたいだった。



~あとがき~
ラグがノルンのことを姉さん呼びするのは、このときに頼まれたからそれを守っているんですね。

次回、まだ続くぜ……
ラグが見習いとして働く辺りからやる。多分。

これ、ノイズとノルンの話ではあるんだけど、同時にラグの過去編にもなるんですよね。ってことで、今回はラグはどっから来たんだろうかって予測が出てます。答えはもっと先の方でやりますよ。

ではでは!

last soul 第41話

《この物語には死ネタ、暴力表現等の描写があります。閲覧する際はご注意ください》





~ノイズによる独白~


ギルドで修行を積み、実力をつけていくわけだけど、ここでもやっぱり差は出るもので。
一番始めに暗殺者へとランクを上げたのは、サンダースへと進化したメイズとグラエナへと進化したロスだった。ほとんど二人同時で、年は十代前半くらいだったか。次に紅珠。俺っちと続いて、最後にライラ。最後って言っても、十代後半くらいだったし、十分早いんだけど。
ここまで誰一人欠けることなくやってこれたのは奇跡に近いんだと思う。こういう危なっかしい世界だ。簡単に仲間が死ぬ。友人は死ぬし、死ぬまで言わなくとも心が壊れていく。そういう先輩の話はよく聞いたし、後輩も見送ってきた。つまり、強靭な精神力が必要となるわけだ。そこのところ、この五人は全く問題はなかった。メイズは言わずとも、鋼のような精神力だし。ロスも楽観的な性格で、悪い話も重く受け止めることはない。紅珠は父親から叩き込まれた忍耐力があった。俺っちにいたっては、幼い頃からメイズに馬鹿にされてた……というか、いじられまくっていたわけで、それが幸いにも生きている。まあ、屈辱的ではあるんだけども。ライラは持ち前の明るさと、物事の切り替えが早かった。辛いときには人を頼る術も知っていて、賢く立ち回っていたんだ。
そして、この同時期にある転機が訪れる。

ライラが暗殺者として認められて、全員ランクが上がったわけだから、皆でお祝いしようかという話になった。その日、ロスが仕事でいなくて、帰ってきたらしようかと前々から計画を立てていたのだ。ロスにも仕事に行く前、早く帰ってこいと言ってあったはずなんだけど、なかなか帰ってこなかった。
「前から言ってあったのに、あいつ、なんで遅いのよ! 時間にルーズ過ぎる!」
「まあまあ。紅珠ちゃん、落ち着いて? きっと長引いてるんだよ……それか寄り道……かな?」
「寄り道とかあり得ないんですけど!」
「ノルンの言う通りだよ、紅珠。騒いだってロスは帰ってこないよー?」
「うっ……そうだけど」
帰りの遅いロスを怒る紅珠をライラとメイズでたしなめていた。俺っちは三人の会話に入ることはなく、ぼーっとしていた。ロスはマイペースなところがあるし、こうなることはなんとなく予測していたんだ。それに、あいつの性格を今更、嘆いたところで直るものでもない。
四人で……というか、主に紅珠が遅い遅いと文句を言っていると、扉が大きく開いた。その場にいた四人は皆そっちを向く。
「おっそいわよ、ロス!」
「そんなことより、先生いる!?」
「はあ!? そんなことよりぃ!?」
「いないんじゃない? 十二時過ぎてるし、一般的に夜中だよ」
「なんだよ、ロス。怪我でもしたの? だっさ」
この台詞にメイズが笑いながら参戦してきた。
「ノイズに言われたくないんじゃない? この前危なかったじゃーん」
「あれは、お前が面白半分に振り回した斧がかすったからな! 死ぬかと思ったわ!」
「手加減はしたよ。でも避けて欲しかったな~」
「つまり、当てる気満々で振り回したんだ!? ほんと、死んで! 優しさの心貰ってこい!」
「俺はいつでも優しい心持ってるし、慈愛の精神で生きてるつもりだよ~」
「嘘つくんじゃない!」
慈愛の精神があるなら、殺しの場でふざけたり遊んだりしないし、そもそも仲間に向かって武器を投げることはないだろう。……まあ、わざとだってのは分かりきっていることだし、本気で当てに来ているわけではないことも十分理解していた。メイズが本気になれば、慣れていない武器でも人の命は簡単に刈り取れるはずだから。
「サン、ノイズ。脱線しすぎだよ? それで、ロスくんはどうしてメルディ先生を探しているの?」
「こいつ、診て欲しくて……俺、手当てとか出来ないし」
ロスの腕の中にいたのは、幼いイーブイだった。誰が見ても酷い怪我で、これで生きているのか怪しいくらいだった。
「え、拾ってきたの!? 嘘でしょ」
「あは。そんな心あったんだね、ロス。殺しにしか興味ないのかと」
「俺にだって心はありますぅ~! あと、俺が一番好きなことは寝ることでぇ~す。惰眠貪るの楽しいぞ!」
「ロスくん、休日に連絡つかないのはそういうことなんだ……?」
「えっと……それはごめん」
この世界で、可哀想だとかなんだと理由をつけて人を拾うのはよくないことだ。第一にきりがない。こういう仕事をしていれば、必ず被害者は出るし、こちらもある意味、加害者なのだ。だから、情けで助けることはよくないと暗黙のルールとして存在する。それはこの場にいる五人全員知っていたし、今まで一度も手を出したことがない。そりゃ、巻き込まれた人から話を聞いて、警察に引き渡すとか、子供なら施設に連れて行くとかはやるけども。それはあくまで事後処理として。死にかけを助けるなんてしたことがない。
「って、そんな茶番はいいんだよ! どうにかならない? 俺じゃどうにも……」
「私は無理。応急手当じゃどうにもならなそうじゃない。下手に手を出したくない」
「うーん……簡単な手当てじゃ、どうにもならないよね……多分」
「俺っちも無理だぞ。手当て出来るかも怪しい」
「……しょうがない。俺がやったげる」
メイズが重い腰を上げるように、ゆったりと立ち上がるとロスを連れて医務室へと行ってしまう。取り残された三人も後を追う。
「なんで、ロスはこう予測出来ないことするのかしら。こっちに飛び火してるじゃない」
「でも、あの子……どうしてあんなに傷だらけなんだろう? 今日のロスくんの仕事、殺しじゃなかったよね。それなら、そういうことに巻き込まれた子じゃないんだろうけど……」
「そーいや……じゃ、やっぱ寄り道した先で見つけてきて? でも、なんで手ぇ出したんだ」
「さあね。とにかく、どうするか決めなくちゃ……それにちゃんとした手当ても必要でしょうし」
会話をしながら向かっていたから、着いた頃にはメイズの手当ては終わっていて、拾ってきたイーブイはベッドの上に寝かされていた。……まあ、このイーブイがあのラグなんだけどさ。ここでは敢えて、イーブイの男の子ってことで通させてもらうわ。
そのイーブイは、痛々しいほどに包帯が巻かれていて、呼吸も浅い。きっと怪我のせいで熱でも出しているんだろう。
「専門的なことは出来ないから、止血と軽い手当てで終わらせといた。断言は出来ないけど、命に別状はない」
なんでも出来るな、こいつ。なんて思いながら、反対に出来ないことってなんだろうとも考えた。パッとは思いつかないけれど、メイズがいてくれて助かったと思う場面はいくらでもあったものだ。絶対言わないけど。
「で、ロス。このイーブイはどうしたの?」
「んー……思いの外、仕事が長引いてさ。近道しようと思って、山ん中突っ切ってたのね。そんときに見つけた」
「拾った理由は何?」
「気紛れ~」
「嘘つけ」
紅珠の追及に音を上げたロスはひらひらと手を振りながら、イーブイが寝ているベッドに腰かける。
「むー……嘘じゃないよ。第一理由は気紛れだ。でも、なんだろうな。助けなきゃって思ったんだよ。あとは、サンと被った」
「? 俺ぇ?」
「同じイーブイ族だから?」
「族って何よ。……まあ、いいわ。それで。ロスはこれからその子をどうするわけ? 見たところ、一歳、二歳くらいよね」
「引き取るにも、ここにいる全員まだ頭首になった訳じゃないし……親が許さない、もんね」
ライラの言葉にその場にいた全員が黙る。ライラの言った通りだ。家を守っていたのはまだ親だった。後々、継ぐことになっていても、それはまだ先の話だ。今、他人を引き取るどうのと扱える話ではない。だったんだけど、ロスは笑顔でこう言った。
「俺が持ってきた話だ。こいつは俺の弟にする!」



~あとがき~
ラグ、登場です。喋ってないけどね!

次回、まだ続くよ。
ギルドに加入するラグ関連の話です。

明確な年齢をここでは出していませんが、ラグがロスに拾われたのは、ラグが二歳、ロスが十八歳ですね。ノイズ、メイズが同い年なので、十八歳。紅珠は一つ下なので、十七歳です。ノルンの年は公開してませんでしたっけね……まあ、紅珠と同い年だと思います。多分。(深く考えてなかった)

メルディの名前がここで出てきました。つまり、紅珠やノイズ達より年上……あ、いえなんでもないです。ごめんなさい!

ではでは。

last soul 第40話

《この物語には死ネタ、暴力表現等の描写があります。閲覧する際はご注意ください》





~ノイズによる独白~


初めてギルドの前に立ったとき、最初に思ったことは「でっかいギルドだな」だった。そのとき、メイズとライラが何を思ったのかは分からない。メイズはあいっかわらず笑顔で、ライラは少しだけ顔を強張らせていた気がする。
「ねえ、二人とも。早く行こうよ」
メイズのこの言葉で人生初のギルドへと足を踏み入れた。怖気づくような性格でなかったメイズに、このときだけは感謝したし、尊敬をした。
ギルドに入って真っ先にマスター室へと向かっていた。メイズを先頭に二、三歩下がって二人並んで歩いていて、隣ではあわあわして、必死に平常心を保とうとしていた。
「うー……マスターってどんな人なのー」
「さあ? 会ったことない。メイズは?」
「あるわけないでしょ。初対面だよ、初対面」
どこのギルドに入るかは全て親の独断だった。俺っちは親が昔ここにいたから。ライラは俺っちについていく形で選び、メイズは近さで選んでいる。ライラはともかく、メイズの理由は嘘だと思った。メイズの両親は厳しかったのもあるし、近さの理由で選ぶはずがない。まあ、この理由は今でも知らないし、今後教えてくれる訳がない。
「失礼します、マスター。今日から加入するので、挨拶に来ました」
「入りなさい」
低い声で、部屋に入るように促された。やっぱり先頭のメイズが扉を開け、こちらを振り返る。
「準備いい? カイン、ライラ」
「なんで開けてから聞くの? 開ける前に聞けよ」
「ここまで来たら、行くしかないもん。大丈夫!」
踏み込んだ先にいたのは、マスターと近くの棚にもたれかかっていた、マグマラシだ。
「今日からお世話になる、メイズ・フォルテナです。これからよろしくお願いします」
「同じく、カイン・エレクトです。よろしくお願いします」
「ライラ・マアルテナ、です! よろしくお願いします!」
「……ふむ。随分、若い。あいつらは呑気でいいな……私は、ここのギルドマスターにして、紅の一族の長、紅蓮だ。そして、そこのは私の娘で次期マスターの紅珠。君達と、同年代でな。よろしくしてやってくれ」
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あいつら、と言う言葉に当時は引っ掛かったものだが、この場で追及出来るほど、肝は座っていなかった。しかし、後々聞くところによると、俺の母親とメイズの両親はマスターと同期だったらしく、ライラの母親はその後輩だったらしい。つまり、子供を旧知の友に預けたということなんだろう。
ま、これは今になって言える考察であって、当時の俺っち達が知るはずもなく。
「この世界に入るということは、分かっているだろう。……嫌な世に生まれたものだな。しかし、まあ、これも縁だ。紅珠、案内を。世話もしてやれ」
「はい、父様」
今はそんなことないけれど、このときの紅珠はどこか冷めた部分があった。名家として、本家としての重圧があったんだろう。
「……あんた達、この世界でやってくなら、まずは名前を変えなさい。本名を名乗るのは、周りに迷惑がかかるわよ」
「へえ……うん。分かった。他にすることは?」
「順応はやっ」
「……道具はこっちで用意する。武器はそっちで用意して」
「はーい。ちなみに紅珠ちゃんは何使うのー?」
「……拳銃」
「銃か~」
よくもまあ、初対面の相手……御本家様の令嬢に気軽に話せるものだと思う。同姓のライラでさえ、どうしようかと悩んでいたのに。なんだか恐ろしくなってきて、メイズの腕を引っ張り自分の方へ引き寄せた。
「ちょっとちょっと、メイズ!」
「んー? なあに?」
「お前、時々怖いよ!? なんなの!」
「何って、俺は俺だけど」
「やめて。不安になる。なんか不安になるから!」
「あ、あの、紅珠、ちゃん。聞いてもいい、かな」
今まで黙っていたライラが思いきって紅珠に話しかけていた。
「何かしら」
「同年代の子、ギルドにいないの?」
「いなくはないけれど……あいつ、ムカつくのよね。それにこの年で入るのも珍しいわよ」
「そうなんだ」
「まあね。……って、噂をすれば、なんとやらってね。どこいくの、ロス」
紅珠に呼び止められたポチエナはこっちを見て、なんとなく状況を察したみたいだった。
「おーおー! 今日から来るってのは、お前らだったのかー! メイズ! ひっさしぶり!」
知らない相手が笑顔で話しかけてきたことにもビックリだったけど、それよりもメイズの名前が出てきたことに、驚いた。
シエナ。ここのギルドだったんだ?」
「まあな! 後ろの二人はお前の友達?」
「うん。幼馴染み」
「へー! えっとね、俺はシエナ・ウェザーっての! ウェザー家次期頭首でーす♪ あ、ここではロストって名乗ってる。ロスって呼んでくれよ」
「俺達、家の長男で、会合かなんかで顔合わせしたことあるの。だから、お互い名前知ってたんだー」
ウェザー家と言えば、それなりに有名で優秀であると有名な家だった。血筋的にもある本家と近いと聞いたことがあった。
「俺達、同期だな! 末長くやってこーな」
「嫌よ。末長くなんて」
「楽しそうなことになりそうだね~」
「うん。なんだか、馴染めそうな気がしてきた!」
「年近いから、まあ、よかったけど」
これが、皆との出会い。今後ともお世話になる腐れ縁の出来上がりだった。
ギルドに入り、俺っちはノイズと名乗り始め、メイズはサン、ライラはノルンと名乗る。そして、紅珠とロスの五人でよくつるむようになった。やっぱり皆新人で、しかも年が近いこともあって、すぐに打ち解けられた。まだ十歳くらいのときだったわけだし、まだまだ子供。遊んだ後は友達だと言わんばかりの単純さだった。
この五人で仕事に行くことも少なくなかったし、ペアになったりトリオになったり、色々だった。



~あとがき~
ギルド加入まででした。

次回、まだ続きます。
多分、ラグを拾う話からやります。

新しいキャラが出ました。紅珠の父であり、前マスターの紅蓮さんです。ぐれんって呼んでくださいね。まあ、これから出てくるか知らないけどな!
ちなみに、今でも生きてます。だからって出てくるかは分かりませんが。

メイズは顔が広いな~……あと、旧姓も公開です。婿養子なんですけど、自分の家の家督はどうしたんだろう……長男で才能もあって期待されてたのに、それをさらっと放り出すメイズさんでした。ま、自分の家を継ぐより、紅珠と結婚した方が地位は上がりますけどね。でも、そんなことも興味ないでしょうな、メイズは。

ではでは!

last soul 第39話

《この物語には死ネタ、暴力表現等の描写があります。閲覧する際はご注意ください》





~ノイズによる独白~


彼女と出会ったのはお互い五歳になる前。まだまだ子供で、こっちの世界のことはぼんやりとしか知らなかったくらいの年の頃。父親に呼ばれて、顔を合わせたのが初めまして、だった。そして、その席で「お前の婚約者になる子だ」と紹介された。そんなことを言われて、はっきりと意味を理解する子供がどこにいるのだろう? 少なくとも、自分は『婚約者』の意味が分からなかったし、女の子も首を傾げて不思議そうにしていた。
それが、彼女との出合い。ノルン……ライラとの出逢いだった。
言われたからと言って、意識することはない。まず言葉の意味をお互いが理解していないのだから、当たり前だった。どうしようかと考えていたら、ライラの方から話しかけてきた。
「わたしの、なまえは、ライラ。ライラ・マアルテナ、です」
「えっと。カイン・エレクト……」
「カインくん! これから、よろしく、だね!」
こんなどこにでもある自己紹介から始まって、家のこと、家族のこと、自分のことを話した。そのあとは、することもないし、家の庭に出て、意味もなく遊んだのを覚えている。子供だし、それが普通だった。そして、その日を境にライラとは毎日のように一緒に過ごすことになった。

「へぇー? 『こんやくしゃ』ねー?」
「いみ、わかってんの。メイズ」
「あはは。わかるよ。しょーらいをやくそくしたあいて、でしょ」
親戚でもあり、同い年でもあったメイズにライラを紹介した日。ライラは初めての相手に緊張していたようで、あまり口を開かなかった。まあ、メイズと俺っちの間に遠慮していたのかもしれない。傍にはいたけれど、話に割り込むことはせず、黙って傍にいるだけ。しかし、メイズの『将来を約束した相手』という言葉に顔を赤くしていた。多分、俺っちもそう。あまりにもごく自然に、さらりととんでもないことを言う、メイズに慌てたんだと思う。そして、とんでも発言を多分、分かってて言っているメイズはくすくすと楽しそうにしていて。
「カイン、わかりやすーい。まっかっかだよぉ?」
「うるさいなぁ! メイズにはいないのかよ!」
「いるわけないじゃん。そんなしきたり、ぼくんちにはないよーん」
「むかつく!」
「あはは。ライラ、こーんなカインだけど、よろしくしてね。ついでに、ぼくともよろしくね♪」
「あ、はい。よろしく、おねがいします。メイズさん」
幼いながらに、ライラは敬語を使っていた。俺っち相手に使ったのは最初だけだったけれど。そんなライラにメイズは笑っていた。
「しっかりさんだね。でも、ぼくにけいご、いらないよ。とし、ちかいんだし。なまえでよんで」
「メイズ……って、よべばいい?」
「うん。ありがとー」
へらへらと腹立つ笑顔を浮かべて言う。この日から時々メイズが俺っち達の輪に入っては、遊ぶということが増えた。
……こういうの思い出す度、本当にメイズは変わらないんだと思う。メイズは子供の頃から頭がよく、要領がよく、強かで。当時は学校なんてなく、家で専属の教師が勉強を教えていたものだが、たまに三人で授業を受けることも少なくなかった。三人が同じ問題を出されたとき、真っ先に解き終わるのはメイズで、俺っち達を置いて、外で武術の練習をしていたものだ。そしてやっとの思いで終わり、メイズの元へ行くと、遅かったね、なんて嫌味を言うのだ。天才という言葉がついて回るような、そんな奴だったのだ。むかつくメイズにもライラは優しくて。「メイズはすごいんだね」なんて笑顔で言うもんだから、こっちも毒気を抜かれてしまって。また三人でふざけあう。それがギルドに加入する前の日常だった。

「ねぇ……カイン、メイズ。二人はどこのギルドに行くの」
ライラと知り合ってそれなりの月日が経ったとき、不意にそんな話を持ちかけてきた。歳は、九、十くらいだっただろうか。俺っちとライラはピチューからピカチュウへと姿を変えていた。イーブイで気が付いたら、二足歩行をしていたメイズとあまり身長が変わらなくなっていた気がする。ライラがそんな質問をしたとき、その場にはメイズもいて、メイズと顔を見合わせてライラの真意を考えたものだ。どう答えればいいのかと思っていたんだけど、メイズが笑って答えた。
「ギルドはねー……『ラストソウル』だよ。そこが一番近いしさ」
「理由、どうにかしろよな」
「えー? うそじゃないし。それにそこに行けって母さんも父さんも言うし? 長男だからね。俺」
メイズの家は、メイズが優秀過ぎて、他に跡継ぎを作らなかったそうだ。それ故、かなりの重圧がメイズにはあったんだと思う。ま、そんなの全く気にしていないメイズは、好き勝手やっていたんだが。
「カインも、俺と同じでしょ?」
「まぁ……うん」
メイズが行くからと言う理由もあった。だが、第一には、母親が以前加入していたギルドだからというのが一番だったようだ。
「ライラもそこじゃないの? 俺達とは、違うとこ行くの?」
「ううん。一緒……カインがいるんだもん。私はついてくだけから」
メイズの質問に浮かない表情で答える。俺っちは何か嫌なことがあるのだろうと思って、出来るはずもない提案を投げかけた。
「ライラが嫌なら、違うとこでもいーけど」
「あ、違うの! その、嫌、とかじゃなくて。なんだか、変わっちゃう気がして……今はこうして、のんびりして、三人でお話ししてさ。お昼寝とかお勉強とか出来るけど……ギルド入ったら、そんなことも言えないよねって」
要するに、ライラは今の関係がなくなる心配をしていたみたいだ。そんなのは、いらない心配だと言うのに。だから、メイズと二人で大笑いした。
「あはははっ! 今更、離れるとか、別れるとか、無理無理! なくなるわけない。俺とカインの腐れ縁は永遠だよー」
「そうだけどさ……うん。間違っちゃいないけど、キモい言い方するなよ」
「俺達の友情は永遠だぜ、カイン……☆」
「ウザい! わざとだろ、それ!!」
「まあねぇ~♪ 友情っつーか、家の付き合いだし。仕方ないよね。嫌でも付き合わなきゃねー? だって、家族だもんねー? ライラもさ」
「えっ……? でも、私は、まだ……」
「いやいや。いつか、カインと結婚するんだし、俺とも家族だよ~♪」
「ライラとは家族になる。けど、メイズとは縁切ってもいい」
「あは♪ 寂しいよぉ~♪」
こんな悪ふざけにライラの曇っていた表情は簡単に晴れる。メイズと軽く目配せして、合図をする。
「うそつけ!」
「よくわかったね。もちろんうそで~す」
「ふふっ……ありがと、カイン、メイズ。私、二人と一緒なら、なんとかなる気がしてきた。二人に置いていかれないように、頑張るね」
「大丈夫。置いてったりしないよ。一緒に強くなればいいんだ。……ま、メイズは俺っち達のこと、置いていくかもな」
「えー? 心外だな。カインはともかく、ライラのことは待っててあげる。だから、カインより強くなってね。ライラ」
「お前、いっぺん死ね」
「やだよ。生きる~♪」
確かにこんな馬鹿げた会話は少なくなるかもしれない。けれど、メイズがどっかで死ぬようなイメージはなかったし、自分自身もそこら辺のやつよりはマシな方だと思っていた。だから、メイズと二人でライラは守っていけばいいと。そして、いつかは一人だけの力で守れるようになりたいと思っていたんだ。



~あとがき~
幼いノイズがノルンと出会った経緯と二人とメイズとの話でした。ノイズとノルンの出合い~ギルド加入前までですね!

次回もノイズ視点による、過去編です。
ギルド加入からやってくぜ。あ、題名も変えずにやっていきます。ノイズの過去編終わるまではこのままですね。

独白とは、登場人物一人で会話なしに語ること。モノローグのことです。しかし、ここではあえて、過去編のことを指します。会話もありますし、一人語りではないです。まあ、あるキャラ視点であるってところは一人語りなのかもしれませんね。
会話が少なくて、読みにくい部分もあるかもしれませんが、お許しを! 私も模索中なんです(笑)

ノルンはもう死んでしまっているので、こうして過去編にしか登場しません。可哀想なことをした……
ちなみに、ノイズとメイズは親戚同士で、家族ぐるみの関係なので仲がいいです……仲がいいというか、気兼ねない友人関係です。話には書きませんでしたが、ノルンもノイズとは遠い親戚に当たります。血筋的にはノイズとメイズの二人の方が近いですけどね。

ではでは。