鈴鳴カフェ

ポケモンの二次創作とオリキャラの小説を連載しています。

last soul 第48話

《この物語には死ネタ、暴力表現等の描写があります。閲覧する際はご注意ください》





~ノイズによる独白~


「はあっ……はっ……はっ…」
「ははっ……そろそろヤバそうだな?」
なんでこんな目に遭っているのかも謎だし、こんな奴にやられるのも意味が分からない。反撃したいけど、思うように体は動かないし、そんな状態で動いてライラに何かあっても嫌だ。……八方塞がりとはこの事だよ。
願わくば、ライラが起きてこっそりと抜け出してくれればいいんだけど、そうもいかない。いっそ、ラグが誰か連れてくるなりしてくれるのを願うしかない。
あいつと連絡を取ったとき、全部聞こえていると答えた。つまり、このリングマとの会話も聞こえていたということになる。だからこそ、準備をするなんて言ってきたのだ。……あいつは状況をある程度把握しているのだろう。把握していたとしても、今の状況が改善することはないんだけどな。幾らかましなだけ。……というか、ラグの準備が終わるまで、耐えられるのかも微妙なラインだよ。
浅くなっていく呼吸に急激に下がっていく体温。これは完全に死ぬ手前だ。視界も狭くなっていくし、いよいよ死ぬんじゃないか。
そんなことを考えていたら、頭に銃を突き付けられた。引き金に手を掛ける気配も感じ取れる。
「……じゃあな」
その一言で引き金が引かれて、脳天に弾丸が撃ち込まれる……と思ったけど、いつまで待っても痛みがやってこなかった。閉じていた目を開け、凝らして見てみると自分の目の前に誰かが立っているのが見えた。リングマと俺っちの間に割って入ってきたのは、ずっと気絶していたライラだった。
「ノルン……?」
「大丈夫。ノイズは私が守ってみせる。大丈夫だからねっ!」
ほとんど見えていなかったけれど、ライラの笑顔だけははっきりと見えた。人を安心させるための優しい笑顔がそこにあった。それを見上げることしか出来なくて。……何も出来ない自分が不甲斐なくて。この場面を思い出す度、自分の無能さを痛感する。力のない自分が嫌になるくらいに。
「じゃあ、お前が先に死ね」
「まっ……!」
言うことを利かない体じゃあ、庇うことなんて出来るはずもない。避けることも出来たはずなのに、ライラはそうしなかった。避けたら俺っちに当たるって知っていたらだと思う。
崩れ落ちる彼女を何もしてあげられないまま見ていることしか出来なかった。
「あっははははっ!! あっけねぇなぁ? こんな死にかけ助けたところで、二人とも死んじまうっつうのに!」
狂ったように笑い続けるリングマは無視して、倒れたライラになんとか近付いた。少しでも動けば激痛が走るがそんなことも気にしていられなかった。
「……なん、で……こんなこと」
「私……こうなるとき、きたら、こうしようって。皆の足手まといになりたくないから……」
「足手まといなんて思ったことない。……ないからな」
「ノイズ、いっぱいけが、しちゃった……いたいよね、ごめんね……? わたしの、せいだね」
こんなときでも他人の心配しかしないんだな。優しすぎるんだよ、お前は……
ライラに覆い被さるように、抱き寄せる。応急手当なんてこんな状態で出来るわけもないし、そんな道具も持ち合わせていなかった。本当に何も出来ない。悔しくて悔しくて、涙が溢れてきて。一度流れてしまえば、それは止まらなくなって。
「ごめん……俺の、せいだ。ごめん、ライラ」
「なかないで、カイン……私、カインが、みんなとたのしそうにしてるの……みえなくても、こえで、わかるんだよ……そんなカインが、だぁいすき…」
ライラが俺っちの頬に流れる涙をそっと手で拭うとその手は力なく落ちる。
ごめん。ごめんな。弱かったせいで、お前をこんな目に遭わせてしまった。ごめん。……ごめん。
そんな謝罪の言葉しか出てこない俺を許して。
ううん。許さなくていい。許さなくてもいいから、生きて欲しかった。
ライラの命の糸が切れた途端に自分の力が抜けるのを感じた。火事場の馬鹿力って奴だったんだな、多分。
この後のことはあんまり覚えていない。でも、うっすらだけど、リングマとラグが言い争っているのが遠くで聞こえた。何を言っているのか、ラグが何をしたのか。あるいはさせられたのかもしれないけど……そこら辺のことは何も見てないし、聞こえなかった。

次に俺っちが見たものは真っ白な天井だ。自分のいた場所は薬品の匂いがする病室だった。お花畑や川を見ることはなかったみたい。
覚醒するにも時間がかかり、どういう状況なのかもよく分からないままだったけど、息を吸って吐いてを繰り返す度に生きてるんだってことを実感した。
「ノイズ? 起きたの……?」
「……んっ」
声をかけてきた人物に答えようとしたけれど、全く声帯が機能してくれなくて激しく咳き込んでしまう。それのせいで全身が痛むし、相手を心配させるしで踏んだり蹴ったりだ。
「んっ……けほ。紅珠、ごめん。もう大丈夫」
「こっちもごめんなさい。急に話しかけて。ここがどこだか分かる?」
「まあ、うん。病院……だよな。あはは。生きてることが不思議なんだけど、死ななかったんだ」
「……そうね」
ここは本当に意地悪なことしたなって思う。こんなこと返されても何も言えないのに。本当にごめんなさい、紅珠さん。今だから謝れるわ。マジごめん。嫌味な奴だったわ……や、本当に。
病室には俺っちと紅珠しかいなくて、他のメンバーは流石にいなかった。あれからどれくらいたったのかも分からないけど。
「あのね……色々言いたいことはあるんだけれど、何から言えばいいか分からないの。だから、ノイズが聞きたいことから言う。何から聞きたい?」
「まずはあれからどんくらい経った?」
「一週間」
そんなものかと納得してしまう期間ではあった。それくらいだよな、みたいな。
「……組織はどうなった」
「ボス以外は拘束済み。情報回収は完了してるわ。でも、ボスには逃げられたみたい。あそこ、爆破されちゃったのよ」
「爆破ぁ!? っいってぇぇ!」
「叫ばないで。傷に響くわよ」
痛みに悶絶していると、冷めた紅珠の声が聞こえてきた。いや、遅い……忠告遅い……
「爆破って……それなら、ラグは? 巻き込まれたんじゃないか?」
「まあね。あの子もそれなりに怪我してたから検査も兼ねて入院はしてたわ。もう退院してるけれど」
「そっか……無事ならいいや」
「……無事、なのかしら」
「えっ!? なんかあった?」
「あぁっと……今後に支障はないわ。そこだけは保証する」
紅珠のこの態度は何かあるときなんだけども、追及しても仕方ないかと思って、何も言わなかった。
そこでノックもなしにがらがらっと扉が開けられた。そこに立っていたのはばっちり目が合ったメイズだ。
「やっほ。起きたんだ。気分はどう?」
「最悪」
「だよねぇ♪ おめでとう。まだ最悪で最低な世の中を体験出来るぞ」
「ははっ……笑えんわ」
「俺は最高に笑えるけどね。……紅珠、どこまで話した?」
「まだ大したこと話していない。どれくらい経ったのかと組織のこととラグのことくらい」
「ほーん。安全に聞くね。何? 嫌なことは後回し? 俺は嫌なことから聞くタイプなんだけどね」
にこにこと笑顔を崩すことなく言ってきた。聞かなくても分かるようなことをわざわざ聞くか。紅珠だって言いたくないだろうに。けどまあ、お前らしいと言えばらしいなんて今では思うよ。
「まず一つ。ライラは死んだよ。これはお前の予想通りだろう?」
「ちょっと! サン!」
「二つ。お前はもう現役じゃいられなくなった。感覚、鈍ってるのも感じ取れるだろ。片目も片耳も元に戻らないよ。ご愁傷さまです」
「サン! もっと言い方ってものが……!」
「じゃあ、何て言うの? 遠回りに言って、希望を持たせるような言い回ししちゃった方が残酷ってものじゃない? そこまで責任取りたくないよ」
ばんばん悪いお知らせを端的に伝えてきたメイズにそれはよくないと止める紅珠。どちらもこちらを気遣ってくれているんだなってのは伝わってきた。
「紅珠。ありがとう。大丈夫だから……続けてくれ、サン」
「あは。そう来ると思った~♪」
「……もう。馬鹿なんだからっ」
紅珠はふいっとそっぽ向くとそのまま病室を出ていってしまった。残されたのは、メイズと俺っちだけ。
「んで、三つ目はあるの?」
「ん? そうだね。お前の仕事が俺とロスに流れてるって話でもする?」
「それは悪いと思ってる」
「その声のトーンは思ってないやつだ。はぁー……お前らは狡いなぁ。勝手に二人ともリタイアしちゃってぇ」
さっきまで紅珠がすわっていた丸椅子に腰かけると勝手に愚痴り始めた。なんなんだ、こいつ。
「リタイア?」
「そ。ライラはこの世からさよならしちゃって。お前は血生臭い世界から引退! 俺、ちゃんと二人を待ってたのにさ~」
「待つ? なんか言って……あ」
「ライラに置いていかれるとは思わなかったよ。不覚でーす……ほんとに」
子供の頃の話だ。ギルドに入る前、環境が変わることでライラは俺っち達に置いていかれるんじゃないかって話をしたことがあった。そこでこいつはそんなことしないと。ライラのことは待つだなんて言っていた……なるほどね。
「もしかして、ランクアップ試験を断ってたのは待ってたわけ?」
「そだよ。言ったからね」
「……俺っちも含まれてたんだ?」
「腐れ縁は永遠だから。ここまで付き合うのもないでしょ? これでも大切にしてたんだけど、カインは違った?」
「んなことねぇよ。……メイズがそういうキャラに見えなかっただけ」
「心外だな。慈愛の精神の下で生きてるって言ったじゃん。嘘はつきませーん」
「なんだそれ」
いつも通りのメイズに救われた部分はある。変に気遣われるよりずっといい。……こいつが幼馴染みでよかったと思った瞬間だ。



~あとがき~
な、長い……今回はいつもより長いです。申し訳ない。ぐわーっと展開が早かったけども、もうそろそろ終わります。

次回、もう少し続きます。

ノルンことライラちゃんは退場です……ありがとう、ライラちゃん。また誰かの過去編で会おうぞ……っていうか、私は幸せなカップルをぶち壊したい願望でもあるのかってくらいに不幸せにしてません? 気のせいか。うん!

皆さんはどちらがいいですかね。よくないことを遠回しにダメージが少ないように配慮されるのと、ズバッと言われるのと。紅珠は前者の対応でメイズは後者の対応です。私はどっちかなぁ……なるべくダメージは負いたくないけれど、ズバッと言われたい気もします。でも、悪いことはズバッと言われなきゃ伝わらない気もしますけどね。

ラグとリングマは何を話していたんでしょうね。謎が謎を呼びますね。これはあくまでノイズ主観なので彼の知らないことは話せないのです。

ではでは。