鈴鳴カフェ

ポケモンの二次創作とオリキャラの小説を連載しています。

last soul 第43話

《この物語には死ネタ、暴力表現等の描写があります。閲覧する際はご注意ください》





~ノイズによる独白~


怪我もすっかり治り、ライラの頑張りもあってかラグは少しずつ話せるようになった。その頃にはラグがやって来て一年は経とうとしていた。
「ラグ、マスターが呼んでる」
「……ますたぁ」
ピンと来ていないようで、ロスの言葉を繰り返した。ロスはラグに不安を与えないように優しく笑いながら、少しずつ状況を飲み込ませてやる。
「そう。何回か会ったろ? あー……バクフーンのおじさん。俺達のマスター……偉い人なんだ」
「うん」
「そのマスターがお前と話したいって」
「うん」
分かっているのか分かっていないのか見当もつかないような返事を繰り返し、ラグは立ち上がるとてとてとと部屋を出ていった。
「あいつ、分かってんのかね、マスターに呼ばれた意味」
なんて言ってみたけれど、きっと分かっていないんだろうと思う。まだ三才くらいの年で聞かされる話ではないし。きっと、ラグは周りの大人達が……とは言え、俺っち達はまだ未成年だけれども、何をしているのか聞かされるんだろう。
「あうぅう……俺はそんなことさせたくないんだよ。ごめんねぇ、ラグゥ~」
「マスター、結構思い切りよくない? 俺、もっと後だと思ってたんだけどなぁ?」
「父様の考えは『使えるものは使う』だもの。別に不思議じゃないわよ……父様から見て、ラグは才能があったってことでしょ」
わざとらしく泣き真似をするロスの隣で、メイズと紅珠はラグの呼ばれた理由について考えていた。ライラも不安そうにしていた。
「今までのこと知って、嫌にならないかな。私達のこと……」
「あの年で理解するかも怪しいけど。ま、ラグは賢いから……引きはするかもねぇ」
「う。ノイズの意地悪」
「えぇ? なんでぇ?」
それぞれ考えることは違っても、どこか不安には思っていたと思う。幼いラグが自分達をどう思うんだろうって気になることだから。まだ一年くらいだけど、ラグはもう仲間だったんだと思う。少なくとも、俺っちはそう感じていた。
しばらくして帰ってきたラグは当たり前のようにこちらに寄ってきて、ロスを見上げる。まだ小さいラグには皆の座る椅子は高い。だから、いつも近くにいる人を見上げて座らせてもらうのだ。
「おかえり、ラグ~」
そう言いながらラグを持ち上げて、ロスとメイズの間に座らせてやる。そしてテーブルに体重を乗せ、目一杯背伸びをして周りを見渡す。何か言い出すのかと思ったが、そんなことはなく、テーブルに置いてあったお菓子の中からクッキーを手に取るとちまちま食べ始めた。どうやら、食べるものを探したかっただけらしい。メイズがお菓子の入ったお皿を寄せながらラグに話しかける。
「難しい話だった?」
「……? むずかし?」
「お仕事の話とかそんなん」
「ん……じゃ、むずかし、だった」
「素直な感想は?」
ド直球な質問を子供にするものだ。もっとよく考えればいいのに、メイズは臆せずに聞いてしまう。
「? なにもない。もうちょっとしたら、やってって。みんなのおしごと」
あー、うん。やっぱりそうなんだ、なんて空気が五人の間に流れる。それぞれが何を思ったかは知らないけれど、俺っちはまあ、予想通りってのと、こんな子供にする話ではないなって感じだった。
マスターの言うもうちょっとというのはどれくらいなのか分からなかった。本当にすぐなのか、二、三年後なのか。この場いる全員が入ったくらいの年になってからなのか。
「ラグくんは嫌じゃないの?」
「? や、じゃないよ」
ライラの問いに何でもないように答えた。
ラグは多分、命が大切だとか、自分の身が大切だとかそういう生に対する思いがないんだろう。それは拾われる前の環境が影響しているのかもしれない。今はそんなことないけど、それでも時々、自分を下に見るような、自身の命を無下にするようなそんな言動をする。
当時は子供だし、理解は難しかったのかもしれないと思った。そうじゃないって知るのは、二年後、ラグが見習いとして仕事についてきたときだった。

仕事に行く数ヵ月前から、全員の得意分野をラグに教えてやることになった。大体はロスが教えることになったんだけど、あいつも仕事があるから、そんなときに暇な奴が教えてやろうなんて話になった。ラグは嫌だとも言わずに、黙って従っていたもんだ。……今じゃ考えられない素直さだな。
そこで驚いたのは、ラグの覚えのよさ。なんでも自分のものにしてしまい、習得していった。もちろん基礎的なことしか教えていなかったけれど、それでも尋常じゃない速さで、色んなものを覚えた。メイズもなんでも出来るタイプではあったけれど、それ以上の力をラグは持っていたんだと思う。
なんでも出来るというのは強みだったけれど、ラグの弱味は意思がないことだった。当時は自分で物事を決めて行動することが出来なかった。例えば、剣の手合わせをしたとして、防御を学べと言えば、反撃せずに防御のみに徹する。反撃してもいいと言われないと、動かないのだ。これも多分、命の価値観と同じで、子供の頃に言われたことしかやるなと教えられてしまったのだろう。自分で考えろと言っても、首を捻るばかりのあいつに、こちらはどうすることも出来なかった。だから、こちらの言うことは一つ。ラグ自身が怪我をしないように最善の手を尽くせ、である。こう言っておけば、攻撃を受けないように立ち回るし、相手を倒せば怪我をしないことも分かっているから反撃もする。
そして、ラグの初仕事の日。初仕事って言ってもいきなりやれとは言えないから、見学させるって話になった。この方針を決めたのはマスター。今でも、あの人がどうしてここまでラグを使いたがったのかが分からない。紅珠の言う通り、早く才能を開花させたかったんだろうか。……どうにも、違う気もするんだけど、これはマスターにしか分からんか。まあ、当事者であるラグには分かるかもしれないんだけどさ。
この日はせっかくだから全員参加して組織単位で相手をしようなんてことになった。ランクはロスだけが始末屋だった気がする。ランクで仕事内容を仕切られてはいたけれど、それは個人で行う場合に適応されるルール。だから、チーム単位の場合はそれに当てはまらない。ま、一人より信頼出来る仲間と一緒にいた方が効率もいいし、賢明だと思う。
「ラグはサンといてもらった方が安全なんだけど、それじゃあ勉強にならないから、俺とノイズとで前衛な!」
ロスの提案に紅珠は首を傾げる。嫌になるほどラグに過保護の癖に、こういうときだけ厳しく出るんだよな。なんでだろう。強くなってほしいからなんだろうか。
「サンと監視カメラ使って見学でもよくない?」
「そうだよ。いきなりは……刺激が強いというか、ラグくんの教育にもよくないというか……」
「リアルで見た方が力になるって♪ ノイズ、死ぬ気で守れよ!」
「あのなぁ……そー言うなら、カメラ使って見学させろっつーの」
この五人で仕事をするとき、大体の役割が決まっていた。ロスと俺っちで前線に出て、その間にメイズが敵地にある情報を収集、処理を行う。必要があれば、こっちに指示を送る。紅珠とライラは機械を相手にしているメイズの守り。こんな感じ。ぶっちゃけ、メイズを守る必要なんて全くないんだけれど、機械相手にしていると、それに集中して周りが見えなくなるのも事実。だからこその措置だ。
結局、ロスの言う通りになって、ラグを加えた三人で敵を手当たり次第に相手することになった。



~あとがき~
ノイズの過去編、結構長い。このラグの初仕事が終わったら、今回の事件の原因である話をやります。

次回、ノイズから見た、幼いラグの実力とは。

本編じゃ可愛くないラグですが、小さいと可愛いですね。話し方の問題でしょうかね。今じゃそんな雰囲気ありませんけどね!

情報管理っていうか、監視カメラを見られるような部屋を占拠するのはメイズの仕事です。たまにノイズもやります。多分、そういうときはメイズが暴れたいって言ったときですね!(笑)

ではでは。