鈴鳴カフェ

ポケモンの二次創作とオリキャラの小説を連載しています。

last soul 第42話

《この物語には死ネタ、暴力表現等の描写があります。閲覧する際にはご注意ください》





~ノイズによる独白~


ロスが弟にすると宣言したその翌日。
マスターにロスが拾ってきたイーブイの話をすると、拾ってきたものは仕方がないと溜息をついていた。そして、メルディにイーブイを診てもらえることになった。一通り終わった後、ロスと一緒に診断結果を聞くことに。ちなみに他のメンバーは仕事だった。
「どお、せんせー?」
「サンくんの言う通り、かなり酷い怪我だけど命に別状はない。脱水症状と栄養失調があったけれど、点滴したし、安静にしていれば問題ないわ……あるとすれば、心、かな」
「心っすか。虐待でも受けたのかな」
「うぅん……それにしては、外傷が……その、刃物で斬られたり、銃で撃たれたような傷が目立つのよね。もしかしたら、そういう所から逃げてきたのかも」
メルディ先生の言う、そういう所とは、裏組織のことだった。俺っち達が取り締まるような組織は山のようにあるけど、その中でも人体実験のようなことをしている組織があると聞く。このイーブイも実験を受けていた可能性は大いにある。……そういえば、前、ラグに聞いたことがあったけど、覚えてないっすね、と言われてしまった。まあ、覚えていたくない記憶ではあるだろうから、その答えも納得はしたんだけど。
「マスターはどうしろって言ってたの?」
「ロスの好きにしろって言われました」
「にゃはー♪ 俺が連れてきたから、俺が責任取るけどね」
「話は通したのか?」
「まあね。反応は微妙だった。いきなりどこの誰かも分からない子を弟にしたいって言ったからなぁ」
頭はいいはずなのに、こういうときは頭が回らない奴だった。ロスの家は分家の中でもそれなりに有名なもんだから、そういう反応も仕方ないかもしれない。しかし、後日、どんな手を使ったのか知らないが、親を納得させて本当に弟にしてしまうのだから、人生何があるのか分からないものだ。

その後、イーブイにラグと名付け、甲斐甲斐しくお世話をすることになった。ロス以外の四人にとっては完全に巻き込まれてしまっているのだが、それはそれで面白いと笑っていたのは、メイズとライラだ。現実主義というか、物事のあれこれを考えることが多い紅珠と俺っちは、ラグのことは楽観視していなかったっけか。これからのことを考えると、生きていてよかったと思ってくれるのか、分からなかったから。
先生の言う通り、ラグは目を覚ましても、俺っち達を信用していなくて完全に敵意を向けていた。安静にしてろというのに、警戒を解こうとしない。いつでも攻撃出来るように、反撃出来るように構えていた。こっちに敵意はないと言っても、そもそもの話、信用されてないので、言ったって無駄なところだったわけだ。そんなラグをライラはどうにかしたくて、毎日病室に通っていた。仕事があろうとなかろうと、必ず一回は行くようにして、話をしていた。
「ラグくん、こんにちは! 今日はね、いい天気なんだよ~♪ 元気になったら、一緒にお散歩しようねっ」
「あのね。この前、お料理に挑戦しようって思って、色々調べたんだよ。何がいいかなって見てるだけでも、楽しいの」
なーんて話をするわけだけど、内容は他愛ない話ばっかり。けれど、そういうところがラグの警戒を解くきっかけとなったようで、攻撃しようとすることはなくなった。ただ、ラグは話すことが出来なかった。これは心の問題だったらしい。理由は分からんでもなかったし、それは時間が解決してくれるだろうと思っていたものだけれど。
「よ、ノルン。まーた、ラグんとこ?」
「ノイズ。……うん、そうだよ。ノイズも一緒に行く?」
「暇だから、ついてく……けど、よくもまあ、飽きもせずに話しかけるな。反応ないじゃん?」
「えー? そんなことないよ。ちゃんとお話聞いてくれてるもん。前は興味無さそうにそっぽ向いてるけど、最近は私のことを見てくれてるんだよ?」
随分な進歩だと思う。とはいえ、ライラ以外にそんな態度は取っていないようで、他のメンバーが見に行っても目線は合わない。
「やっほー! ラグくん、今日はノイズも一緒なんだよ~♪」
扉を開けると、体を起こした状態でじっと様子を窺うようにこちらを見ていた。ライラといるからか、こっちとも目を合わせてくれたみたいだった。
「ノイズはね、私の未来の旦那様なんだよ!」
「なんでそれを言う?」
「紹介だよ。しょーかいっ!」
一度、名前は教えたはずだから、改まって言う必要なんてないはずなのに。ライラは面白そうに笑って、ラグが寝ているベッド近くの椅子に座る。
「今日はね、お願いがあって来たんだ」
「お願いなくても来てんじゃん、お前」
「そうだけど、それだけじゃないってことだよ!」
にこっと笑顔を浮かべるライラ。ラグはライラの方を見つめるだけ。そこに表情はなかった。ただ、無表情とはまた違う何かがそこにはある。でも、それが何か分からなかった。
「あのね、お話出来るようになったら、私のことお姉ちゃんって呼んで欲しくって!」
「ノルン……お前ってやつは」
「そんな顔しないでよ~? ほらほら、下の兄弟なんていないからさ。ちょっと呼ばれてみたいなって思うじゃない?」
「思ったことないなぁ」
「えぇっ!? 夢がなーい!」
そんなことを言われても、今まで全く考えたことがなかった。まあ、ライラは少なくとも『お姉ちゃん』になりたかった願望があったってだけなんだろう。そして、大した反応を見せてこなかったラグでさえ、ライラの方を探るように見ている。いや、ラグのその気持ちは分かる。そうなるよな。うん。
「ね、お願いっ!」
そのお願いが叶うのはいつになるのやらって感じ。それはラグも分かっているとは思うけれど、でも、ラグはゆっくりと頷いた。半ば無理矢理頷かされたと言ってもいいかもしれないんだけどね。多分、ここで拒否っても数日後にまた頼むんだろう。ライラは意外と頑固な奴なんだ。
ラグが頷いたのを確認したライラは、嬉しそうに笑って、ありがとうと言いながらラグの頭を撫でた。これじゃあ、どっちが上の兄弟なのか分からない。
お願いをした後は、いつものように他愛ない話をラグに聞かせていた。時々、こっちにも話を振ってきて、振られても困ると言えば、ライラは面白がって色々話しかけてきた。なんだか、こうやって下らない話を永遠とするのは久し振りに感じた。いつも、話はしていたし、下らないことはやって来ていたけれど、このときだけは子供の頃に戻ったみたいだった。



~あとがき~
ラグがノルンのことを姉さん呼びするのは、このときに頼まれたからそれを守っているんですね。

次回、まだ続くぜ……
ラグが見習いとして働く辺りからやる。多分。

これ、ノイズとノルンの話ではあるんだけど、同時にラグの過去編にもなるんですよね。ってことで、今回はラグはどっから来たんだろうかって予測が出てます。答えはもっと先の方でやりますよ。

ではでは!