鈴鳴カフェ

ポケモンの二次創作とオリキャラの小説を連載しています。

last soul 第38話

《この物語には死ネタ、暴力表現等の描写があります。閲覧の際はご注意ください》





~安否~


「あなたっ!」
「うわ。紅珠、ここ病院だよ? 静かにしなきゃ」
病室に半ば駆け込むように入ってきた紅珠を落ち着かせるようにメイズが笑って言う。そして、紅珠に反応したのはもう一人いた。
「ほぁ? あ、母さんだ。どーしたの?」
「紅火……! 病室に行くって言うから、心配して!」
メイズの隣に座って暇そうにしていた紅火を紅珠はぎゅっと抱き締めた。そんな紅珠に困ったように紅火は笑った。
「大袈裟だよ。父さんが念のためって連れてきただけだもん。さっきめっちゃ寝て、もう元気だし」
「もう……うちの男達は心臓に悪いことばっかするんだから。それで、シュラちゃんは?」
「そこのベッドで寝てるよ。ロイスくんの話じゃ、命に別状はないってさ。敵に薬打たれたみたいで、命に関わるようなもんじゃないって言ってたんだけど、一応ね。ついでに紅火も診て貰ったって感じ」
メイズが指し示した方を見ると、確かにベッドの上で寝ているサファがいた。見た感じでは、ただ眠っているだけのように思える。メイズの言う通り、何ともないのは確かなようだった。
「えぇ? 俺はついでだったの?」
「当たり前だ。誰だって可愛げのない息子より、可愛い娘を優先するだろ?」
「むぅっ!? 差別だ!」
「あははっ♪ 家に置いていかず、連れてきてあげたことに感謝しなよ」
「うぐぐ。父さんの意地悪……」
むすっとむくれる紅火であったが、これもまたメイズの愛情表現の一つであることはよく分かっている。これ以上は何かを言うことはなく、紅珠に抱き締められたまま、じっとしていた。
「ねえ、あなた。ノイズは?」
「あー……まだ。まだ何とも言えないって」
「……そう」
紅火から離れ、眠っているサファの方へと近付く。どこか怪我をしていることはなく、単純に寝ているだけに見えた。
「……シュラちゃんは、薬以外に何かされたの? そもそも、誰に?」
「さあ? 俺が見たときは全部終わった後だったから知らない。本人に聞くのが一番だけど、触れない方がいいかもしれないね。あと、誰かって話だけどそれも……ちょっと分かんないかな。ごめん」
「ううん。いいの。……というか、あなたが行ったの?」
「紅火が助け求めてきて?」
「ふぅん。武器、手入れしていたのね」
紅珠のこの質問には答えることなく、笑顔を見せる。恐らく、その笑顔こそが答えなのだろう。
サファをメイズに任せて、紅珠は紅火と共に病室を出る。紅火も特に異常はなかったため、彼のついていくという要求を拒むことはしなかったのだ。
手術室の前にはラグとリアル、シリアの三人がいた。リアルとシリアは待合室にあるような長椅子に座っているが、ラグはその側で立っていた。ランプはまだついたままで、暗い中不気味に光っている。二人が近づいていることに気付いたのは、ラグだった。ラグが二人に促すと、二人も気付き、シリアが紅火の元へと駆け寄ってきた。
「紅火、大丈夫だったのか!」
「大丈夫だよー♪ ごめんね、待機しててなんて言ってさ。大変なことになっちゃったな」
「うん。さっきラグから全部聞いたんだ」
「そっか。……ラグさん、俺」
「いいよ。俺も悪かったし。読みが甘かったんだ……お前らは大丈夫なわけ?」
「俺は全然。姉ちゃんはまだ起きないけど、大丈夫だって言ってました」
そうか、と呟くとラグはそのまま黙ってしまった。紅火はシリアと共に長椅子に腰掛け、じっと手術室の方を見る。紅珠もつられて、紅火と同じ方向を見た。何度も見てきたこの景色は、慣れたものだと思っていた。しかし、長年の仲間が二度も同じような目に遭うとは考えもしなかった。何のために裏方にさせたのか分からない有り様である。
「ごめんなさい、ノイズ……また、同じことを……苦しい思いをさせてしまった。私は、守れなかったのね……」
今、自分はどのような顔をしているのか分からなかった。きっと泣きそうな顔でもしているのだろうか。それとも、怖い顔で自分に怒っているのだろうか。紅珠にはどうなっているかなんて分からなかった。

何かを話すわけでもなく、黙ってノイズの帰りを待つのはこの場にいる全員にとって、耐え難い時間であった。シリアは落ち着きなくずっと周りを見回しているし、紅火もふらふら歩いてみたり、かと思えば座ってじっとしていたりとこちらも落ち着かないようだった。反対にリアルはじっと動かずに目を閉じて何もせずにいる。紅珠は手術室から目を離さなかった。ラグは手元の端末をいじり、時折周りの様子を窺っている。皆、それそれの行動を取っているが、心ここにあらずなのは同じであった。
ふとリアルが顔を上げると、気配を殺してラグがその場から離れるところだった。それを見ることが出来たのはほんの偶然に過ぎないが、気付いたからといって声をかける雰囲気ではなかった。
「……ラグ兄」
恐らく、紅珠に言っていた仕上げをしに行くのだろうと思った。何か確証があったわけではないが、そう感じたのだ。



~あとがき~
きりがいいのでここまでです。いつもより短いですなぁ。

次回、場面ががらっと変わりまして、ノイズ視点の過去編です。
しばらくは現代に戻ってきません。つまり、解決編(?)やる前に過去編やるって感じですね!

メイズはサファを襲った相手を知らないって言ったけど、なんでだろうね。まあ、理由はラグと同じでしょうかね。多分。
なんかあれだな。紅珠がかわいそうな気がしてきた。子供と仲間が同時に病院に運ばれるとか……どんまい……まあ、あれだな。紅珠は何も悪くないんだけどね……?

久しぶりの紅火です。能力を使った反動もすっかり治って元気です。いつもの能天気な紅火でした。

ではでは。