鈴鳴カフェ

ポケモンの二次創作とオリキャラの小説を連載しています。

last soul 第36話

《この物語には死ネタ、暴力表現等の描写があります。閲覧する際はご注意ください》





~撤退~


ラグが始めに目にしたものは赤だった。薄暗い中ではっきりと見えたわけではなかったが、己の感覚で察し、見てしまった。月明かりの下でリングマが返り血を浴び、歪んだ笑みを浮かべている。そのリングマの足元にノイズはいた。力なくその場に倒れ、遠目から見ると死んでしまっているように思える。しかし、微かに体が上下しているようで、息はまだあるらしかった。
そんな状況にラグは取り乱すこともなく、かといって怒鳴り散らすようなこともなく、至って冷静だった。自分でも驚くほどに平常心を保っていて、いつもの仕事をしているときの自分だ。奇襲を仕掛けるにも、勢いよく扉を蹴破ったのだから、不意打ちにもならない。最も、ラグは不意打ちで終わらせようなんて全く思っていない。友人に話しかけるような軽さでリングマに話しかけた。
「あのさぁ……お前がここのボスってことでいいのか? んでもって、そこにいるのは俺の先輩ってことでいい?」
「あぁ? どっかで見た顔だなぁ……?」
どこか思案したような顔になり、少し経つと思い出したようでにんまりと笑う。その笑顔にラグは嫌悪感を覚えた。面白いことでも思い付いたと語るその顔は嫌いだった。
「あんときのイーブイか。ははっ! 今じゃ随分有名になったらしいな? 『疾風の銃士』さん?」
「それはどうも。で? 俺の質問には答える気はないわけ」
「んなことねぇさ。……が、答えたところで、意味はないだろ? あんたには筒抜けだろうからなぁ」
リングマの言う通りだった。ここに来るまで、あらゆる情報は得ており、絶えずヘラからも裏付けされた情報が入っていた。このリングマがノイズをつけ回していた張本人で、その組織を取り仕切っているボスだということも分かっている。つまり、ラグがそのような情報を仕入れているであろうと予測を立てつつも、リングマは逃げなかったらしい。
「そこまで分かっていて、留まってたんだ」
「ちゃんと逃げるに決まっているだろ。でも、逃げる前にあんたの顔を直に見ておくのもアリだと思っただけさ」
「俺が逃がすとでも?」
「逃がすね。こっちには人質もいるもんで」
リングマの言う人質とはノイズのことであるのは、明白だった。この場はリングマの手の中であることを理解した上で留まっている。そしてそれは、ラグのことを完全に舐めている証拠でもあった。実際、その通りであり、下手に手を出せる状況ではない。このままノイズを受け渡すとも思えないラグは、表には出さずに頭では思考を働かせていた。どのように動くのがベストなのか。どのようにすれば相手を追い込められるのか。それらを考えることに集中する。
「そう怖い顔すんなよ。あんたがそこから動かないでいてくれりゃ、お仲間は返してやる」
「ふぅん……そう」
嘘をついているのははっきりと分かった。ここで返すのなら、今までずっと執拗に追いかけることも、復讐もしない。ノイズを生かす必要性などどこにもない。ノイズとラグに顔を見られているために、二人を生かしておくのはデメリットだ。つまり、この場で二人を殺すつもりでいる。
リングマの意図はそこにあるのだろう。復讐相手であるノイズと、実力もあり強さに差のあるラグを殺すことが目的なのだ。まあ、ラグはノイズのついでかもしれないのだが、それはどうでもいい。
ラグはそのまま動かず、じっとリングマを見る。リングマは余裕綽々で、笑みを浮かべていた。自分の背後には出入口があり、リングマの背後には吹きさらしとなった本来壁であるはずの空間。ラグを退かすのか、背後から飛び降りるのかの二択である。ラグの勘では十中八九、飛び降りると予測していた。そして、自分達をどう殺そうとしているのかも大体予測している。いつでも対処出来るよう、周りに注意を払いつつ、ノイズの容態にも気を配っていた。
リングマはラグの予想通り、ここから飛び降りるらしい。背を向けることはせず、後退りでラグとの距離を取っていく。
「……簡単にやり過ごせたと思うなよ。俺はお前のことを追いかけて、殺してやるから。今は精々、優越感にでも浸ってな」
「ほう? まあ、出来るもんならやってみな。『疾風の銃士』」
落ちるギリギリノところまで来たところで、どこからか取り出したスイッチを躊躇なく押した。そして、そのまま下に落ちる。同時にラグはノイズの元へと走り出し、ヘラに連絡を入れた。
「目標、三階から飛び降り、この場から脱出しました。追跡は断念します」
『うんうん。いいよ。こっちで追跡するからね。ところで、ノイズくんは大丈夫?』
ヘラに言われ、ざっと確認をする。遠目からでもかなり酷い怪我であることは分かっていたが、近くで見ると、それは確信を持てるほどであった。浅く短い呼吸を繰り返し、じわじわと出血もして止まる様子はない。
「……ほっとけば、死ぬとは思いますけど。あと、数分もしない内にここも爆破されるでしょうから、俺も離脱します」
『それじゃあ、悠長に話している暇はないね。また後で連絡をしよう』
「了解」
ぷつりと通信が切れると、ラグはノイズを背負い、半ば飛び降りるように二階へと降りる。データのコピー、解析に道具を置いてきたからだ。監視室に入り、手早く片付けると電源の入った画面を見る。本来なら情報が他に漏れないようにデータ消去まで行うのだが、生憎、今回はそんな時間は残されていない。だから、今回に限っては荒手な方法で済ませることにしたのだ。
バッグから火薬の詰まった爆弾をいくつか取り出すと、その場で適当にばらまいた。仮に残っていたとしても、後日ここに来ればいいと思っていた。まあ、出来れば木っ端微塵になくなってくれた方がありがたいのだが。
ふと、リングマの設置した爆弾はどれくらいの時間が残されているのか気になってきた。ラグの見立ててでは、三分以内であろうと思っている。それくらいあれば、リングマ自身も安全圏へ逃げられるはずであるからだ。
「……まあ、いいか。今は気にすることじゃない」
次に取り出したのは、脱出用の小型転送装置だった。ピンバッジサイズのそれをマントに着けると、同じ様に取り出したライターに火を着けた。
のんびりとリングマの爆発を待つ気はなかった。ライターの火が着いた状態で宙に放るとラグは転送装置を使って、その場から離脱をする。
ラグは転送される直前、遠くの方で爆発音を聞いた気がした。



~あとがき~
ノイズ、生きてるかなぁ……

次回、ラグは無事、脱出出来たのだろうか……!?

ラグの持つバッグは四次元バッグです。……何でも入ってますよ。重くはないんでしょうかね?

あー特に話題もない……(´・ω・`)

ではでは。