鈴鳴カフェ

ポケモンの二次創作とオリキャラの小説を連載しています。

last soul 第35話

《この物語には死ネタ、暴力表現等の描写があります。閲覧する際はご注意ください》





~抗う思い~


「出てこいよ。少しずついたぶってやるから」
「……あいつ、俺っちを殺したいのか、いじめたいのかはっきりして欲しいんだけど。どういうスタンスだよ」
ノイズは辺りを再度、見渡した。近くに武器になりそうなものがないか確認するためだ。しかし、周りは石ばかり。あの巨体に投げても、痛くも痒くもないだろう。
「……武器探したいけど、こっから出ないと見つかんないか」
少しだけ顔を覗かせると、嫌らしい笑顔を浮かべたリングマがそこにいた。距離はあるために気付いてはいないらしいが、完全に勝ち誇っている顔である。その顔が無性に腹が立つ。
「走んのしんどいけど、いくかぁ……」
何度か深呼吸をして、一気に走り出した。リングマはいきなりノイズが出てくるとは思わなかったらしく、対応が遅れている。この隙にリングマの後ろへと辿り着いた。そして、リングマの腰にベルトが巻かれており、剣を見つける。リングマからすればそれは短剣サイズだが、ノイズからすれば長剣である。ノイズには少し大きく感じるものの、形振り構っていられない事態だ。ベルトから素早く長剣を鞘ごと外し、剣を抜く。ずしりと手に乗る重さ。最近は剣を握る機会もなく、これは久し振りの感覚だった。
「んぅ……やっぱ、ちょっと重いなぁ……ま、何もないよりはいい」
引きずるとまではいかないものの、それなりの重さはあり、両手でしっかりと構えなければバランスが取れなくなりそうだ。
「テメェ……!」
「こっちだって、ブラックに所属する暗殺者。ただただやられるだけだと思わないことだね。過去の因縁だか知らねぇが、巻き込むんじゃないよ。……あんたらの過去に興味はない」
体重を落として、腕を引いた突きの構えをする。なるべく、無駄に体力を使いたくない。そして、倒すと言うよりは、逃げるための時間稼ぎが目的である。希望を言えば倒せた方がいいが、それは今のノイズからすれば高望みというものであった。
何か言いたげのリングマに隙を与えるようなことはせず、ノイズは警戒を解くことなく続けた。
「あんたらのやることは、見過ごせないものであった。だから、こっちに殺しの依頼として仕事がきたんだ。ってことだから、非があるならそっちだよ」
「……そうやって、自分達のやって来たことを正当化してんのか。あぁ? それで何もかも許されるとでも!?」
「そんなこと言われても、ろくな死に方はしないとしか言えないな。それに、許してくれなんて言ってないし、許されたいなんて思ってもない」
どんな悪人にだって、家族はいて血の繋がりだけでなく、繋がりを求めた人の輪もある。そんな人達から誰かを勝手に奪っていることは重々承知である。承知の上で、この仕事を続けてきたのだ。苦しくても、辛くても、理解出来なくても、やってきた。
だから、ノイズは許してくれなどとは思わない。救われたいとも、この苦しみから解かれたいなどとも考えていない。それがせめて、自分に出来ることだと思っているからであった。
そんなノイズの言葉に怒らないはずがなく、リングマは武器を構え、ノイズを本気で殺そうと襲いかかってくる。感情に任せているせいか、軌道はバレバレなのだが、それを上手く流すことは今のノイズには出来なかった。しかし、当たらないように最低限の防御はしていたが、防御をする度、剣を振るう度に体のあちこちが痛み、視界が眩む。それでも、気力だけでなんとか意識を保ち、昔の感覚を引っ張り出して経験と勘だけでこの場をしのぐ。
「あーあー……どうせ死ぬなら、楽に死にたかったですよぉ……?」
冗談めいたことを呟いてみても、これが本音であることは本人がよく分かっている。
リングマの構えた銃に反応しようとしても、体は動かなくなっていて、意識も朦朧とし、ぼんやりと銃口を見ていた。誰も知らないこの場所で自分はきっと死ぬのだろうと。色々心残りはあるものの、ここまで生きた方であったなと。
そして、ノイズはゆっくりと目を閉じたのだ。その閉じた先に、見えるはずのない恋人の影を見つめていた。

ラグの耳に何度か乾いた音が聞こえていた。空気の震え、微かに臭う火薬。戦場の中で研ぎ澄まされた感覚が言うのだ。急がなければ、取り返しがつかないことになる、と。しかし、そんな頭の警報を無視し、目の前の画面に神経を注いでいた。
今、彼がいるのは二階の監視室。以前は一階にあったはずだが、なぜか現在は二階に移されたようだった。しかしまあ、ラグにとっては監視室が移された理由などどうでもいいのだが。
画面に映るのは監視カメラの映像ではなく、この組織が他とやり取りしたであろうデータだった。ラグはそれのコピーと解析をしている。
「馬鹿だと思っていたが、そうじゃないらしい」
複数の組織とのやり取りを見て、単純にそう感じた。ただの復讐のために人を集め、悪さをしていた訳ではないようだった。無論、行っていた内容は褒められたものではないが、復讐以外にも色々手を出していたのが読み取れる。
「普通に悪いこともしてて、復讐も遂げてやろうって魂胆だったってことか。半分は知らない名前だが……それなりに大きな組織の名前も……ふうん?」
ざっと目を通し、必要なことは頭に入れる。そして、コピー、解析に必要な道具類をその場に置いて、部屋を出た。本来なら終わるまで待つか、誰かに見てもらうのだが、今回は破壊される心配はない。破壊しようとする相手がいないからだ。
三階へと続く階段を上りノイズと敵がいるであろう扉を目の前にして、昔の記憶が頭を過る。しかし、深く考えることはしない。考えたところでどうにかなるわけでもないし、過去は過去。変えることは出来ないのだ。
普段なら周りを警戒し、中の様子や状況を把握するところである。が、その必要はないと判断し、力任せに扉を蹴り飛ばした。



~あとがき~
ノイズの場面多めになりました。ラグは思ったより焦ってなかったな……

次回、敵地に乗り込んだラグが見たものは……?

ノイズ、戦えない体に鞭打って頑張ってましたね。それなのにラグはのんびりと……いや、まあのんびりはしてないと思いますが、いつも通りに仕事をしている感じですかね。描写はしませんでしたが、アジト(?)にいたボス以外の雑魚さんはラグの手によってさよならしました。

ではでは。