鈴鳴カフェ

ポケモンの二次創作とオリキャラの小説を連載しています。

last soul 第34話

《この物語には死ネタ、暴力表現等の描写があります。閲覧する際にはご注意ください》





~抵抗する意思を~


ヘラに言われるがままに最短距離で目的地へと向かう。そこは道らしき道はなく、日も沈んでしまう時間帯では足元も周りも見通しが悪い。そんな状態にも関わらず、ラグはスピードを落とすことなく奥へと進んでいくと、目の前に壊れかけた建物が見えてきた。
「ひっさしぶりだな……」
バッグの中に入れておいた携帯を確認すると、紅火から連絡が来ていて、ある場所に印がしてある地図が添付されていた。その印は今、ラグが来ていた場所である。
『どうやら、場所は正解だったみたいだね? さて、どうやって突入するんだい。君が望むなら、絶好の狙撃ポイントまで道案内するけど?』
「狙撃? なんで俺がそんなまどろっこしい真似するんです。今は俺一人ですよ。正面突破以外あり得ません」
『君の狙撃の腕を生かさないと意味ないよって話なんだけどなぁ……まあ、いいや。近距離戦が得意なのも知っているし、好きにするといいよ』
これ以降、ヘラの声は聞こえなくなった。あちら側が通信を切ったのかもしれない。あるいは、喋るのを止めただけなのか。どっちにしろ、ラグのやることは一つだった。バッグから刀とそれを装備するためのベルトを取り出して、装備をする。ついでに脇差も同じ様に装備した。理由は特になかったが、強いて言うなら手に取ったらそれだっただけである。広く武器を扱えるラグだからこそ、適当に取った武器でも簡単に扱えてしまう。そして、廃墟を見つめながら、思考を働かせていく。
紅火があらかた片付けたのだから、この場に残っているのは少ないだろう。その証拠に場はしんと静まり返っていた。過去の記憶が正しければ、元々そこまで大きくない組織だったはずなのだ。それを今も細々と続けていたのなら、大した人数も抱えていないだろう。あるいは、他の小規模組織と手を組んだ可能性もある。が、それにしたって、ラグにとって些細な問題にすぎない。巨大な組織も一人でいくつも潰してきたのだ。今更、怖気づく必要もない。
「……さて、お手並み拝見……ってね」
一応、入口から中の様子を窺う。もう日が完全に沈んでしまって明かりもない状態だ。そして、一階に人の気配は感じられなかった。気配を殺している可能性もあるが、ラグに感じ取れないほど手慣れた者がここにいるとは思えなかった。
「……敵がいるとしたら、二階からだな」
この建物は三階まであり、前は一番上にボスの部屋があった。例の爆発事件のせいで今は三階あるはずの屋根は全てなくなっているし、部屋も半分ほど崩壊している。被害が少なくすんだのは、ここが木造ではなく、鉄筋で骨組みしてあるコンクリートの建物のお陰だろう。
「さくっと雑魚は倒して、ボス部屋に突入するか」
バッグに左手を突っ込み、用心のために拳銃を取り出す。そして、一気に走り出した。感覚を研ぎ澄ませ、この場にいる敵を一人残らず、狩り尽くすために。

ノイズはゆっくりと目を開ける。どれだけ気を失っていたのかと記憶を辿ってみるが、こんなことをしても意味がないことは理解していた。次に状況整理を行う。自分が床に転がって、少し離れたところに襲ってきたと思われる相手がいた。周りが暗いことと、暴力を振るわれたせいで視界がぼやけている今の状態では誰とは判別出来なかった。出来なかったが、この手口には心当たりがあった。
過去にノイズのことを殺そうと躍起になっていた奴がいたのだ。過去の因縁がどうのとか、ノイズからしてみれば、下らない理由なのだが相手からしてみれば、下らなくないのだろう。
「っはぁ……あー……あぁ、声は出んのね」
ノルンの墓参りに来ていたはずなのだが、背後から殴られ、抵抗しようとしたが十年以上現場に出ていないブランクと怪我のせいで上手く体が動いてくれなかったのだ。感覚や勘は暗殺者として当時のままなのに、体がついてこないのであれば宝の持ち腐れだ。意味がない。
これじゃあ、守られるお姫様だななどと呑気に考えているとノイズの声に気付いたらしく、拐った犯人が近付いてきた。
「殴りすぎて、死んじまったかと思ったぜ」
「それがお望みなんじゃないの……? つーか、誰だっけ、あんた」
この言葉に苛立ちを覚えたのか、相手はノイズの耳を引っ張り、無理矢理体を持ち上げた。
「いっつ」
「この顔を忘れたとは言わせねぇぞ」
「いや、この状況で、見ろって言われても……見たところで、覚えてないけど」
何も覚えていないわけではないが、名前とか所属している組織の名前とかそういうことを覚えていないだけだ。
「こっちはずっとお前を殺すことだけを考えてたってのに、その程度かよ」
「いやぁ……恨みは買う職業だけどさ……こっちはどれだけの相手してきたと思ってる? 一人一人いちいち気にしてらんないんだよな」
「馬鹿にしてんじゃねぇぞ!」
声を荒らげてノイズのことを力任せに投げ飛ばした。受け身を取るものの、強く壁に打ち付けられる。殴られ過ぎて、全身が痛いために今更新たな傷みを引き起こされても、気にもならなかった。ゆっくりと体を起こして、敵の姿を捉える。
相手は自分より何倍もあるリングマだった。ノイズの言葉に怒りを覚えているらしいことは、見ただけではっきりと分かった。投げ飛ばすだけでは怒りが収まらないのだろう。大きな図体で、拳銃を構えているのが見え、慌てて瓦礫の影に向かって走る。銃弾がいくつもノイズの後ろを掠めるのを感じた。それで相手が狙って撃っていないことが分かる。狙おうと思えば、余程のノーコンでない限りは当てることが出来る距離だ。それなのに全てノイズの後を追うように撃っている。ノイズが瓦礫の影に隠れると、銃弾の雨は止んだ。
「くそ……おちょくりやがって。別に忘れてないよ。お前がノルンのこと殺したことくらい……忘れられるか」
とはいえ、今のノイズに抗う力はなく、武器も手元にない。以前はある程度の体術も心得ていたものだが、今は使うことは出来ないのだ。そもそも、体格差がありすぎて相手に効く気がしない。
「うへぇ……技で対抗?……いや、ちょっとしんどいんだよな。大体、バトル自体がしんどい……どうすれば抜け出せる……?」
辺りを見渡せば天井はなく、一部壁もないところがある。そこから飛び降りれば、外には出れるはずだ。出ることは出来るが、その後はどうすればいいのだろう。ノイズの記憶通りならここは三階。受け身を取ったところで、すぐに立ち上がって逃げられる気がしない。
「うぅ……手立てない。……ラグ辺りが気付かないかな。一人じゃ辛い……戦いたくもない。けど」
このままじっとしていては、やられるだけだ。何かしなければならない。抵抗しなければ、待つのは死のみ。それはノイズが一番分かっていた。
「……死なない程度に、頑張るか……うん」



~あとがき~
なんか、小説に出てくるの久し振りだね、ノイズ。

次回、抵抗することに決めたノイズと助けに向かうラグ……です!

ラグはなんでも出来るので、武器の良し悪しで選びはしません。出してそれだったから使う程度の認識です。チーム戦では狙撃手として、後方支援がメインとなりますが、一人で出たときは前線に出て近距離戦になります。

プロフで言った気もしますが、ノイズは戦えません。全くとは言いませんが、まあ、戦力外なんです。武器あっても大して変わらないと思うんですが……まあ、頑張ると思いますよ。

ではでは。