鈴鳴カフェ

ポケモンの二次創作とオリキャラの小説を連載しています。

last soul 第33話

《この物語は死ネタ、暴力表現等の描写があります。閲覧する際はご注意ください》





~戦前の準備~


紅火とサファと別れ、五分程で森を抜けた。早くしなければ、日が沈み視界が悪くなってしまう。ラグはそれでも構わないが、出来れば早く終わらせてしまいたかった。それは心がざわついているからか、嫌な予感が頭から離れないせいか。
「手ぶらで来たのが仇になった……サファを送るってだけだったんだよな、初めは」
外に出た理由もサファを家に帰らせるために出ただけで、数分で戻る予定だったのだ。それがあれよあれよと、気が付いたらノイズは敵に囚われている可能性が高く、仕方なく紅火に能力を使わせ場所を探らせ、サファは途中までラグについてくる始末。もう何もかも滅茶苦茶だった。
紅火を巻き込むつもりも、サファを巻き込むつもりもなかったのだ。ノイズのこの件は一人で解決するつもりだった。事後報告でいいと思っていたのだから。なんのために紅珠に怒鳴られる危険を侵してまでヘラと接触し、敵を探っていたのか分からない。
「はー……文句垂れてる場合じゃねぇな。とりあえず、ギルドに戻らないと話にならない」
更に加速して、ギルドへと向かう。頭を巡る嫌な予感を、イメージを払拭するかのように、スピードを上げた。

「ラグー!」
全速力でギルドに戻ると、真っ先にシリアに抱きつかれた。普段ならはね除けるか、避けるかするのだが走ってきて疲れたし、それも面倒でそのまま受け止める。
「ラグ兄。その、ノイズ兄は……?」
「一緒にいないってところで察してくれ」
リアルも分かっているはずだった。それでも少しでも可能性があるならいい方を信じたいのだ。その気持ちはラグにだってある。しかし、いつだって現実は残酷なのだ。
「リアル、シリア。マスターには言ったか?」
「言ってないぞ。本当か分からないから紅火が言うなって。だから、ずっと黙ってた!」
「今から言いますか? でも、それは得策ではない……ですよね」
「マスター、昔から私情が挟むと感情的になりやすいからな……とりあえず、ノイズさんのいそうなところに行ってくる。二人とも待機しててくれ。マスターに何か言われても黙ってられるか?」
リアルとシリアはお互いの顔を見合わせた後、同時に頷いた。そうした方が得策であると判断したのだ。ラグから見れば二人はまだ子供だが、冷静な判断が出来るくらいには仕事をしてきている。
「よし。……リアル、俺のバッグは?」
「あります。勝手ながら、武器のチェックもしておきました。ラグ兄がいつも使う武器全て、揃っていましたよ」
「ついでに、隠れる用のマントも用意したぞ! 道具も揃えておいたっ」
「おお、マジか。優秀な後輩達だなぁ……」
「へへっ! もっと褒めてもいいんだぞっ!」
「調子に乗るからやらん。じゃあ、マスターを頼んだ。……大丈夫。ノイズさんは俺らが思っているよりずっと強い。ちゃんと俺が連れ帰ってくる」
不安な表情をしていた二人の頭を優しく撫でる。ずっと待っていろというのも酷な願いをしているのだ。それを文句も言わずに従う二人を安心させるために、失敗は許されない。行って駄目だった、いなかった、なんてことはあってはならない。
「じゃ、行ってくる」
「行ってらっしゃい、ラグ兄。気をつけて」
「ちゃんと、二人で帰って来てよ!」
ラグを見送る二人に軽く手を振って応えた。正面を見たとき、スイッチを切り替える。紅火からの連絡はまだなかったが、ラグの中でいくつかの候補地はあった。敵の本拠地か、数ヵ所に点在する隠れ家。そして、昔、ノイズが事実上の引退に追い込まれ、ノルンが命を落とした廃墟。
「近いのは、廃墟か」
紅火の連絡を待っていてもよかった。しかし、そんな時間も惜しいと思ってしまう。だから、じっと待つなんて選択肢はラグの脳内に存在しなかった。
ギルド内を歩きながら、準備を整えていく。耳に小型のインカムをつけ、バッグの紐の長さを動きやすいように調節。そして、最後にマントを羽織って、フードを被る。耳に着けたインカムのマイクで相手に話しかけた。
「……聞こえてますか」
『はいはぁい♪ もう、遅いから心配したよ? どうだい。ノイズくんはいたかい?』
相手はヘラだった。ヘラが今、どんな表情で話しているのか容易に想像が出来る。本当なら頼りたくない相手であった。しかし、そうも言ってられない事態へとなってしまっている。
「意地悪な質問をするんですね。あなたに連絡をしている時点で分かりきっているでしょう」
『あはは。ごめんね? 僕だって、心苦しいんだよ。昔からの友人がこんなことに巻き込まれてしまって、どうにかしたいと思っているんだ』
それは嘘であった。ヘラの興味はそこにはない。が、建前として、ラグの気持ちを動かすために敢えて言っているに過ぎないのだ。そのため、ラグは深く考えることはせずに、さらりと流した。
「そうですか。それで? どこに?」
『んもう。もう少し話をしてくれてもいいんじゃないのかな。まあ、いいけれど。……そうだね、君はもう予想が立っているんじゃないのかな? それがきっと、正解だよ』
「あの廃墟ですか」
『僕もそう思うな。だって、あそこはノイズくんにとっても、あいつにとっても因縁の場所……なんてね。そんな大それたことではないと思うんだけれどさ』
「とりあえず、そこに今から向かいます。いなかった場合は……っと」
ラグは何かを思い出したようにピタリとその場に止まる。そして、出入り口の方ではなく、別道に逸れた。ギルドの一階通路の奥、インカムの電源を落として、ある部屋の前で扉を開く。
「先生……メルディ先生?」
「あら。どうしたの、ラグくん。その格好をしてるってことはいけないお仕事かな? まあ、怪我しないようにね」
メルディと呼ばれたのはタブンネの女性だった。白衣を羽織り、今は机の上で書類整理をしていたらしい。彼女はギルドお抱えの医者である。学校で言う、保険の先生のようなもので、大抵の怪我はここで手当てをしてもらえる。
「あの、ギルドにもう少し残ってて欲しいんです」
「それは構わないけれど、どうかした?」
「えっと、色々ありまして。詳しいことはまた後でってことで」
「……分かった。帰ってきたら連絡して? 私はここにいるからね」
詳しい内容も聞かず、ラグの言った通りにしてくれるようだ。メルディはラグがギルドに入ったときからずっと医療メンバーとして、ここで働いている。ラグも彼女が何歳なのかは全く知らなかった。少なくとも、ラグよりは年上だとは見当がつくのだが、それ以上は分からない。理由として、メルディが結構童顔で、言動も若い女性と大差ない。つまり、老けているように見えないせいでもある。
メルディに年齢の話をすると、鬼の形相で睨まれるため、ギルド内では彼女に年の話はしてはいけないと言われていた。
「……ありがとうございます。行ってきます」
「行ってらっしゃいな。気を付けてね」
ぺこりと軽く会釈をして、医務室を出た。
ラグがこんなことを頼んだのは、様々な可能性を考えてのことだった。ある程度の手当てならラグにも出来るが、あくまで応急手当が出来る程度。医師免許を持っているわけではないため、やれることにも限りがある。そういった手を借りるとなったとき、すぐに対応出来る人材を確保しておきたかったのだ。
「……はー……よし」
再びインカムの電源を入れると、ヘラの不満そうな声が聞こえてきた。
『なーんで急に切るのさ』
「プライベートな会話は聞かれたくないんで」
『あはっ♪ 君達にプライベートなんてないでしょ……ま、いいけどねぇ。で、心の準備は出来た?』
「今更、する必要ありますか」
『それもそうだね。じゃ、期待しているよ。ラグ』
それ以上、ヘラの声は聞こえなくなった。通信を切ったようだ。ラグもギルドの外へと出ていた。ラグの足は目的地へと向けられる。
「……嫌な予感しかしてないんだよね」



~あとがき~
ラグ視点です。頑張るぜ。

次回、ノイズ奪還へと挑むラグ。たった一人で大丈夫なのか……

新キャラさんです。メルディ!
医務室は初めて出てきましたね。学校の保健室みたいなもんです。保険医よりはもっと本格的な治療をしてくれると思います。

ではでは!