鈴鳴カフェ

ポケモンの二次創作とオリキャラの小説を連載しています。

last soul 第31話

《この物語には死ネタ、残虐な表現、暴力表現等の描写があります。閲覧する際はご注意ください》





~変異~


閉じた後にすぐに痛みが襲ってくると思っていたけれど、いくら待ってもその気配はなかった。恐る恐る、目を開けてみる。目を開けた私が見たのは、最悪の光景だった。
「おねーさん、だいじょーぶ?」
私と敵の間にマリちゃんがいた。にっこりと笑うマリちゃんの腹部には深々と剣が刺さっている。一つしか刺さってはいないけれど、放っておけば、死んでしまうことくらい素人にでも分かる。
「マリ、ちゃん……?」
「あは~♪ けが、ない? みー、おねーさんまもれた?」
「笑っている場合じゃないよ! なんで……」
「やくそくしたから。まもるって」
そう言うと、くるりと敵の方を振り返る。敵の方も殺せたと思っていたようで、マリちゃんが笑顔であることに驚いていた。
「なんで、お前……!」
「だって、こんなの、いたくもないのだよ。こんなの、ぜーんぜん、いたくないんだよ。みー、へっちゃらなのだ♪」
自分の腹部に刺さっていた剣を躊躇なく抜くと、敵の方へと斬りつける。鮮やかな赤が飛び散る。それは敵のものなのか、マリちゃんのものなのか分からない。けれど、こんな間近で人の命が簡単に消えるのを目にして、正気でいられるはずもなくて。
「……っ! う、あ……」
目の前がチカチカと点滅する。世界が暗転する予兆のように。その場で力が抜けていくのを感じた。
「もうひとり、たおすのだ」
「くそ。『ティリス』の化物め……!」
私に斬りかかってきた残りの一人が再び剣を構えた。マリちゃんを倒すために……否、殺すために。
「ばけもの……にゃは。みーたちにとって、ほめことば、なり~♪ そうでなくちゃ、みーは、そんざいする、いみもないのだ?」
ぐっと踏み込んで、下から上へと斬る。剣を上へと持ち上げるように、斬る。相手より小柄なマリちゃんだけれど、それを軽々とやってみせる。
私を襲った相手はマリちゃんによって簡単に死んでしまった。ぴくりとも動かない。
「うにゅ~……じゅーにんくらい、たおしたのに、まだいるのだ。……うー……みー、つかれた」
ふらりと充電でも切れたように、マリちゃんはその場から崩れた。当然だ。私のために戦ってくれて、私のために体を張って守ってくれたのだから。その代償は大きい。
「マリちゃん……!」
「やっとくたばったぞ。手間かけさせやがって……化物め」
「まだ一人いる。さっさと終わらせるぞ」
「ビビってなんにも出来ねぇ、女だ。問題ないだろ」
遠くの方で、そんな会話が聞こえた。
次は、私? 殺される? それとも、皆を脅すための人質? なんにせよ、いいことになんてなるわけがない。……なんで、こんなことになっている? 私は、ここで、死ぬ? マリちゃんは……どうなる。守ってくれたのに、私が死んだら、意味がないじゃないか。でも、私に抗う力なんて……ない。
─あは。じゃあ、力を貸してあげる。沢山の力。あたしの、力。君の力。うふふ。大丈夫。起きたときにはきっと安心出来る、世界になってるから─
突然、頭にそんな声が響いた。
知らない声。いや、この声は……
─だから、あたしにその身を委ねなさい?─
…………私の、声だ。

周りの人にはサファが急に倒れたと思っただろう。目の前で味方がやられて、それにショックを受けて体が本能的に意識を手放したのだろう、と。だからこれはチャンスだと言わんばかりに、近接武器を持つ者達が一斉に襲いかかる。串刺しになって、それで終わりであった。つまるところ、即死である。
しかし、そうはならなかった。
「……あはっ……あは、あはははっ!」
倒れて意識のないと思われていたのに、急に笑い出す。壊れたように、狂ったように笑ったのだ。そして、今にも殺されそうになっているにも関わらず、ゆっくりと体を起こす。側にあった短剣に手を伸ばし、鞘を抜いた。
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敵はおかしいと思いつつも、止まることも出来ず、武器をサファに向けた。素人では対応出来ないくらいの。ましてや、守られてばかりいた目の前の彼女になんとか出来るとは誰も考えていないのだ。
「ふふっ……やだなぁ。無理矢理にでも、止まればいいのに。助かったかもしれないのにねぇ」
笑みを浮かべながら、サファは短剣を一振りした。彼らの目にはそれしか見えていなかった。実際には何十回も斬りつけられているとは知らずに。
襲いかかってきた敵数人を軽々と殺して見せた。一度に複数を殺したせいで、サファはシャワーでも浴びたように血飛沫を浴びる。そんな状況に興味もないらしく、くるくると楽しそうに回った。
「あはっ! あっけなぁい♪ うふふ。せっかく出られたんだもの。あの子のために、住みやすい世界にしてあげないとね?」
ぴたりと動きを止め、残りの敵を見る。サファに見られ、完全に怖じ気づいたらしく、その場から逃げることも反撃することもしない。
「あらあら。そんなに怯えることなんてないでしょう? だって、悪いのは貴方達だもん。それに制裁を下して何が悪いの? 怯える権利なんて貴方達にないわ。してきた側の癖に、何を今更」
短剣を玩具のように弄ぶ。足取りも軽く、気軽にどこかへ出掛けるように浮かれていた。
動けなくなった数人と真正面に相対する。真っ赤に染まった少女を怯えた目で見る大人達に、サファはまた可笑しそうに笑った。
「これだから、弱い人は嫌い。強大な力を持っただけで傲り、調子に乗るんだもの。自分の力を見誤り、死なせてくださいって言っているようなものよね。だから、あたしはそんな人達の望み通りにしてあげる」
弄んでいた短剣を構え直すと、にっこりと笑う。敵からすれば、それは恐らく悪魔の笑みと同じだろう。死を与えようとする死神そのものだったかもしれない。誰かが最後の抵抗と言わんばかりに、拳銃をサファに向けるが、それは簡単に防がれる。サファが銃を持っていた腕を簡単に斬り落としてしまったからである。一瞬何が起こったのか分からないと困惑の表情を浮かべてから、悲鳴を上げた。痛みと恐怖で、泣き叫ぶように。サファはそれも楽しんでいるようで、しかし、すぐに飽きたように無表情になる。
「こういうことを仕事にしていたなら、どこかで分かっていたはず。……ろくな死に方はしないってね。大丈夫。すぐに楽にしてあげるわ」
短剣を一振りしただけで、一人の命が奪われる。二振り、三振り……その度に一人、二人と死んでいく。そして、最後の一振りをしたとき、その場には誰も残っていなかった。気配もなく、誰もサファを襲う者はいなくなっていたのだった。
「はあ~……あっけない。本当につまらない。つまらないわ。でも、いいわ。こんなこと、あの子にさせるのは酷だもんね……そうそう。『ティリス』の博士様? あなたのお連れ様は無事よ」
ちらりと目を向けた先に、マリと共にいたフードを被った男がいた。息が上がっているようで、肩で息をしながらサファに近づいてきた。



~あとがき~
あ~……サファ覚醒なんじゃ~(違う)
こんなことにするつもりはありませんでした。はい。言い訳です。

次回、サファはどうなる! どうなってるんだ!

重要ワードだよ!! 『ティリス』は重要だよ!
今回はそれだけ覚えて帰って! って言ってもいいくらい、重要です。今後、絡んできますし、色々あるところなのでね。

今回、サファ(?)が大暴れしてくれちゃったせいで、悲惨なことになってますね。描写も大変なことに……あばばば。大丈夫なのかな。直接的な言い回しになってますが、申し訳ねぇと思ってる。今後もこういう直接的な言葉使うと思うので、覚悟しててね。苦手な人は……あれだ。ほのぼのしてる話だけ読んでくれ!((

ではでは!