鈴鳴カフェ

ポケモンの二次創作とオリキャラの小説を連載しています。

last soul 第29話

《この物語には死ネタ、暴力表現等の描写があります。閲覧する際はご注意ください》





~一時的協定~


コウくんに渡されたピンバッジはスカーフの裏にとりあえず着けておく。なんの意味があるのか知らないけれど、渡したからには必要になるんだろう。短剣は装備する用のベルトなんか持っていないので、胸の高さに両手で持っていた。
「ど、ど、どうしたらいいんだ!!」
訳もわからず走っているけれど、どうしたらいいのかさっぱりだ。どこかに隠れてコウくんを待つ方がいいのか、一人で別の出口を探して大通りに出た方がいいのか。全く分からなかった。さっきまでは、逃げた方がいいと思っていたけれど、コウくんと別れた今、待つか逃げるか、正解が分からない。
「先輩、助けてぇぇ!!」
なんでいないの、あの人!! なんでいないんじゃあぁぁぁ!!!
どれくらい走ったのか分からない。コウくんとどれくらい離れたのか分からない。ただ闇雲に走っていたせいで、出口もよく分からない。日も暮れてきたんだから、あとは真っ暗になってしまう。そうなったら、何も出来ない。野宿するしかない……敵の襲撃を警戒しながら、一人で夜が明けるのを待つしかない。……いや、そんなの無理。出来っこないよ!
「うぅぅうっ」
なんだか分からないけど、泣けてきた。なんでこんなことになってるの? どうしてこんなに悪い状況に? 先輩と別れた後、状況が悪い方へと転がり過ぎじゃない? 私、何か悪いことしましたか!?
気を落ち着かせるために、草むらに入って、草影に隠れる。浅い呼吸を整えるために、何度も深呼吸をした。
「落ち着け落ち着け……いつかはこんな日来るんだって知っていたんだから、焦るな……落ち着け」
頭の中は混乱しているけれど、とにかく落ち着かなければ。テンパって、大事なことを見落としては先輩に笑われるだけだ。
「コウくんには逃げろって言われた……けど、あんな状態のコウくんを置いて行けない、よね……」
しかし、戻るにしても元の場所なんて分かりっこなかった。闇雲に走ったせいで自分がどこにいるのかさえ、はっきりしていない。
「……一日くらい、寝なくても大丈夫……というか、怖くて寝てなんていられない。……身を隠せるところを探して、じっとしてよう」
敵がうろうろしているかもしれない所に、実力も経験もない私が対応出来るはずもない。それならじっと待って、味方の援護でも待っている方が得策だ。しかし、こんな森の中に隠れられる場所なんてあるのだろうか。……まあ、探してみるしかないか。
そう思って、辺りを見回していたとき。
「におーうー! おねーさん、どこだー!」
!? 誰だ。迷子……なわけないよね。この状況で迷子の女の子がいるなんてあり得ない。十中八九敵、だろう。
咄嗟に近くの木に身を隠した。幸いなことに、女の子の姿は私から確認出来なかった。となれば、あちらも確認出来ていないだろう。
「声からして、女の子なんだけど……なんで私を追いかけてきたんだろう……いや、逃げたから追ったんだろうけど」
息を殺し、なるべく居場所を悟られないようにする。上手く出来ているか分からないが、教わったようにやるだけ。
「うにゅう~……いないのだ、いないのだ!」
まだ私のことを探している? そっと逃げ出そうか……いや、そんな技術、私にはない。じっと動かず、去るのを待った方がいい。
「…………うりゅりゅ? あやしーぞー? あやしーぞー!」
怪しいと言った瞬間。
私が身を隠していた木が一瞬にしてなくなった。何が起こったのか理解出来なかった。いや、理解は出来なくとも、どうしてこうなったかは客観的に分析は出来た。
木を女の子が倒してしまったのだ。道具なんて使わず、生身の力のみで。しかし、それが分かったとして、私に出来ることなんて何もない。恐怖することしか出来ない。
「っ!?」
「みつけたのだっ! でもでも、つかまえないとおにごっこは、おわらない。だから、おねーさんに、たっちするのだぁ~♪」
フードを被っていたせいで、種族は分からないけれど、口元は見えた。彼女は満面の笑みを浮かべていた。淀みのない笑顔。何もなければ可愛らしい笑顔だなという感想で終わる。しかし、今は異常事態だ。この状況で笑顔を見せられて、恐怖しない方がおかしい。
「にげ、なきゃ……」
震える声で自分のやるべきことを確認する。倒せるわけがない。相手は素手で木を倒すくらいの怪力を見せているのだ。しかし、体は正直なものだ。全く動こうとしてくれない。完全に足が竦んでしまっている。
「おーりょりょ? ありゃりゃ? おねーさん、こわい?? みー、こわいことしないよ??」
もう、してるから!! しちゃってるから! 思いっきり目の前でしてる!
「みーね、おねーさん、にげるから、おいかけたの! それだけだよ?」
「そりゃ、逃げるよ! だって敵なんでしょ!?」
「てき?? みー、てきじゃない。たいちょーも、てきじゃないのだ。ふくたいちょーも、ふくふくたいちょーも、てきじゃないのだ」
……ノイズさんを襲った人達とは関係ないらしい?
女の子は私のことは気にせずに話を進める。
「みー、めーれーでうごくのだ。めーれー、みはりだったのだ」
「み、見張り?」
「みはりなのだ。みるのだ。それがしごとなのだ。でもでも、たまたま、おねーさん、みかけたのだ。で、かんちがいされた」
早とちりってこと? いや、でも、一般人ならコウくんがあそこまで反応なんてしない。コウくんが反応したということは、普通の人ではない……まあ、木を軽々折る人は普通の人ではないけれど。
「かこのことねちねちするの、よくないことだって。だから、ばいばいしたの」
「……どういうこと?」
「ううー……みー、むずかしーこと、わからにゃいのら~? みーはいわれたことをやるだけなの!」
ゆらゆらと体を揺らしながら、楽しそうに話してくれた。今日あった出来事を話す子供のように、至極当たり前のことをするように。
「ここ、ひろいのだ。まぐー、いっぱいやっつけたけど、にげたやつもいる。だから、あぶないの」
まぐー、とはコウくんのことだろうか。マグマラシだから、まぐー……?
コウくんが倒した敵が全員でなかったということだろうか。けれど、処理班とやらがやって来たのではなかったか。
「しょりはん、いなくなったあと、またうごきはじめた。だから、みー、さがしてたの。みはりだったから」
つまり、この子は少なくとも私達の敵ではないのか……? むしろ、ノイズさんと敵対している人達をどうにかしようとしている?
「あ、あの! あなたは、私をどうこうしようとしてない、の? その、殺したり、しない?」
「しないのだ。たいちょーもふくたいちょーもふくふくたいちょーも、そんなこと、いってないもん」
とりあえず、安心していいのだろうか。まあ、ある程度の警戒はしておくべきなのだろうが、今は命を狙われるようなことはない、と判断していいのか。
「おねーさん、もう、こわくない?」
「う、うん……まあ、少しは平気になった」
「わーい! よかったのだー!」
くるくると嬉しそうに回る。欲しいものを買って貰った子供のように、はしゃいでいた。
「おねーさん、おなまえは? みー、みんなに『マリ』ってよばれてるのだー」
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自己紹介をしながら、被っていたフードを脱いでくれた。幼さの残るイーブイの女の子だった。歳は私と同じくらいか下に見えるけれど、実際はよく分からなかった。
本名じゃないし、教えても問題はない、よな。相手も名乗ったんだ。こちらも名乗るべきだ。
「えっと、サファだよ。……あの、マリちゃん。森の出口、知らない?」
「おねーさん、ここからでたいの? なら、みーがあんないするのだー」
くるりと方向転換をして、私の前を歩き出した。その数歩後ろをついていく。
なんだか、変なことになってきた……



~あとがき~
紅火は一話で終わりましたが、サファは一話で終わりません。

次回、マリと行動することになったサファ、無事に森を脱出することが出来るのか!?

マリちゃん、台詞が全部平仮名なので読みにくいかもしれませんが、仕方ないね。そういう子なの。謎が多いし、完全に味方という訳ではないけれど、とりあえず危険はないです。多分。はい。

挿し絵を久しぶりに描いていたら、週一更新途切れましたね。ごめんなさい! 小説のストックはあるんだけども、絵が出来ないという……これからもそんなことあると思います。はい。まあ、絵が出来なくても、話が書けないことは大いにあり得ますけどね(笑)

ではでは。