鈴鳴カフェ

ポケモンの二次創作とオリキャラの小説を連載しています。

last soul 第28話

《この物語には死ネタ、暴力表現等の描写があります。閲覧する際はご注意ください》





~選択~


サファを逃がした後、改めて敵の観察をした。種族、性別等は分からないが、一人は自分より少しだけ背が低く、もう一人は自分より高かった。敵の外見情報はそんなところであった。
気配を察知するのが遅れて、ここまで接近されたのだと思うと悔しくて仕方がない。
「……紅の一族の一人。紅火・フレイヤくん……で、合ってるかな?」
背が高い方が紅火に話しかけてきた。声からして男だろう。首を少しだけ傾げ、警戒心のない声で問う。
「一緒にいたのは……君のお姉さん? でも、種族違うけどなぁ」
「……それを教えて、何になる?」
「ん? 特には?」
表情は読めないが、恐らくは笑っているのだ。声でなんとなく察していた。そして、雰囲気からして、今の紅火では倒せるか怪しいところであった。一人ならともかく、二人相手は正直なところ厳しい。雑魚ならまだしも、目の前の二人はそうではないのははっきりと感じ取れたのだ。
「んううぅっ!! たいちょー! ふくたいちょー! ふくふくたいちょぉぉぉ!!」
男の隣に立っていた人がいきなり叫び始めた。声は高く、普通に話していれば可愛らしい声である。このことから、男女のペアであることが分かる。男が隊長なのか、副隊長なのか、副々隊長なのかは分からないが。男が女の方を少しだけ見て、たしなめるように言う。
「あーはいはいはい? えっと、ちょーっと静かにしようねぇ?」
「ひまなのだ! おいかけるのだ!!」
「はあ? そんなことさせないけど」
女の言動に紅火はより一層警戒心を強くする。しかし、そのせいで、ぐらりと視界が揺れた。警戒するほど、目眩がしてくる。集中すればするほど、思考が働かなくなっていた。“探知”したせいで、頭が上手く働いていないのだ。しかし、それを悟られれば終わり。紅火は悟られないように気丈に振る舞う。
「お前達は何。さっきの奴らの仲間? 助太刀にでも来たの? それにしては遅すぎるけど」
「ん? んん? いやいや、違う。そいつらとは無関係……いや、無関係ではないけど、組織は全く別物だからね」
つまり、ノイズを拐ったと思われる奴と目の前の奴らは別組織の人であるということだろう。しかし、無関係ではないとするなら、それは同盟でも組んでいたのか、協力関係にあったのか、そのどちらかであることは確かだ。
「おじさん達の目的は別にあるんだよー」
「別のって……」
「むー! むーむー! ひーまーなーのーだー! がまんできないのだ! おねーさん、おいかけるんじゃー♪」
またいきなり大声で叫ぶと、女は助走なしで紅火の頭上を軽々と飛び越えた。その際にフードが脱げ、顔が露になったにも関わらず、くるりとこちらを振り返った。彼女はイーブイだった。しかし、瞳は光なんてものはなく、漆黒に染まっている。見ているだけで飲まれそうになるほどの、黒。そんな死んだ目をしているが、口はにっこりと笑っていた。そんな彼女に紅火は不覚にも恐怖を覚える。死体以外でこんな目をする人を見たことがなかったから。
「あははっ! おいかけっこ! たのしーたのしーおにごっこ! おには、みー、なのだ!」
それだけ紅火に向かって言うと、サファが走っていった方向へ行ってしまった。
「あっ……こら! フード被り直していけ!」
「……逃がすかっ!」
腰のホルダーから銃を取り出し、イーブイに向けて撃つ。……正確には撃とうとしたのだが、銃は弾切れをしていて、使い物にならなかった。先程の戦いで全て使い果たしていたのだ。
「くそっ!」
紅火は銃をホルダーに仕舞うと、イーブイの後を追おうとしたが、それは男に立ち塞がれてしまう。
「退け」
「待てって。俺達、敵意はないんだ。いや、あのアホは走ってたから説得力ねぇんだけど」
「退けって言ってるんだ」
「じゃあ、取引しよう! お前は逃がしてやる。元々、どっか行く予定だったんだろう? 別に邪魔したい訳じゃないから、行っていい。代わりに、俺はアホ追いかける。あの青エーフィちゃんの無事は保証するから」
「……お互いがお互いを見逃せって?」
「そうそう。話が分かるねぇ」
この話を飲んで、サファが無事に帰ってくる保証はどこにもなかった。男は命は保証すると言っていたが、信用に値するかと問われれば、答えはNOである。
「リスクが大きすぎる。お前の方が得するんじゃないか? 姉ちゃんが戻ってくるなんて証明出来やしない」
「そうねぇ……おじさん、あれなのよ。戦闘民族? じゃないんだよ。だから、あれこれ言ってるけど、要するにお前とやり合いたくないだけ」
「条件飲んだとしても、俺が姉ちゃんを追いかけるかもよ?」
「それはそれで構いませんぜ~……けど、それは得策でないことくらい、自分自身が分かってるんじゃないか?」
確かにそうだ。ラグとの約束もあるし、一人の人命もかかっている。紅火がここで後戻りすればするほど、場所を伝える時間が遅れる。遅れれば紅火が得た情報は古いものになり、使い物にならなくなるかもしれない。そうなれば、ここまでしてきた意味もない。
つまり、初めから、紅火の選択肢は一つしか許されていないのだ。仕事として、一人の暗殺者として、ここはサファを置いて行くしかない。今の紅火には、目の前の男を倒し、サファを追いかけて助ける力はないのだから。
「……チッ」
「理解したかい? あーっと……さっき言いかけたけど、俺達の目的は君達の殺しじゃない。だから、殺すことはしないし、傷付けるようなこともしない。無駄な殺生はしたくない主義なの」
「あのイーブイも同じだと?」
「馬鹿だけどね、言われたことはきちんと守るタイプだから大丈夫。鬼ごっこって言ってたから、青エーフィちゃんを捕まえはするだろうけど、傷付けはしない」
嘘をついているようには聞こえなかった。表情は読めないし、心を読むことは出来ないが、声だけ聞くと全て本当のことを言っていると判断出来た。それは、紅火の暗殺者としての勘でもあった。
だから、今はその勘を信じるしかなかった。
紅火は持っていた剣を鞘に収め、森の出口へと走っていった。男は言った通り、紅火の後を追いかけることはせず、自分の仲間を追うために紅火から遠ざかった。
「くそ……俺はまた、こんな選択しか……逃げる選択しか取れないのか……っ!」
走りながら、自分の弱さを悲観した。計画の甘さを痛感した。ラグならもっと上手くやるだろう。両親ならもっと早く判断出来るのだろう。自分はまだ子供で、非力なのだと、思い知らされた。



~あとがき~
紅火、離脱です。こうするしかなかったんや。
それと、新キャラ登場ですね。今回の事件には関係ないと言うけれど、どれくらい関わっていないんでしょうかね?

次回、紅火と別れたサファはどうなる!

新キャラさんの片割れは顔見せてないですが、イーブイちゃんは出ましたね。名前はちゃんとあるんですけど、それは次回以降で。男の人……たいちょー(仮)でいいか。まあ、「ふくたいちょー」でも「ふくふくたいちょー」でもいいんですけどね。どれがいいですかね(笑)
彼らの目的なんかも分かるかな……分かったとしてもまだまだ先だと思います。

ではでは。