鈴鳴カフェ

ポケモンの二次創作とオリキャラの小説を連載しています。

last soul 第26話

《この物語には死ネタ、暴力表現等の描写があります。閲覧の際はご注意ください》





~考えるあれこれ~


とりあえず、何がどうなっているのか聞いてみようか。未だに私の知らない単語が出ている中、そろりと口を開いた。
「あ、あの~……一体、何が起こって……」
「今のこの状況を例えるとだね、あれだよ! バラバラになったぬいぐるみが散乱してるの! だから見ない方がいいよっ!」
「潰れてクリームが飛び散ったシュークリームみたいなもんだな。……あー、無性にクリーム食べたくなってきた」
……えーっと? どういう、ことなんだろう。
「とにかく! 姉ちゃんは何も考えなくていいよ! えっと……あっ、ショートケーキのことでも考えてて。ラグさんと!」
えぇ!? なんで私がそんなこと……
「よぉっし! 紅火のリクエストだ。ケーキのことについて語ってやろうっ!」
なんでいつもよりテンション高いんですか!? ケーキか、ケーキのせいか!!
そこから先輩は私の手を引いて、コウくんと出会った場所から距離をとる。ちなみにこの間の会話はなかった。何を話すのか考えているのだろうか。
「ちょ、先輩?」
「“探知”ってのは、紅の一族の……紅火の持つ能力だ。前に言ったろう? 本家の人は能力を一つ持っているって」
んんっ!? いきなり何?
「……え? あ、ケーキは……?」
「はぁ? 本気でして欲しいわけ?」
先輩の声からして、馬鹿かお前はって雰囲気だな。分かるぞ!
「いえ。でもさっき、ケーキのこと話すって」
「紅火に合わせただけだからな。……多分、あいつ
は知られたくないんじゃないか? お前には普通の姉貴でいて欲しいから」
……え? それってどういう……
「でもまあ、そんなことしても、お前は知りたいって顔をされるから話すぞ」
ぴたりと歩くのをやめると、すっと目の圧迫感が消えた。先輩が目隠しのスカーフをほどいたのだとすぐに気付く。ゆっくり目を開けると、辺りはもう暗くなってきていて、星がちらほら見え始めていた。
「目隠し、もういいんですか?」
「あそこから離れたからいらない」
壊れたぬいぐるみとクリーム散乱、でしたっけね。意味わかんないけど。
先輩は“探知”という能力について話してくれた。
「紅火はまだガキだから、不安定なところはあるが、それでも紅珠さんとメイズさんの子だよ。“探知”はある一定範囲内にいる人物がどこで何をしているのかってのを感知する能力だ」
それだけなら、先輩もやってそうですね?
「気配察知だけなら俺の方が上だ。でも、紅火の能力とは次元が違う。例えば、俺が目視で探しているなら、紅火は監視カメラで全体を見張っているようなもんだよ」
規模が違う……!?
「紅火はこの町圏内なら誰がどこで何をしているのかハッキリと探せるぞ。マスターはもっと広いけど、それは今はいい」
「それなら、初めから能力でノイズさんの居場所を探せばよかったのでは?」
「それが出来るなら紅火もそうしてる。けれど、考えてもみろ。何万人と暮らすこの町からたった一人を探し出すってのは並みの集中力じゃ出来ない。精神力も持たないしな」
……そうか。負担が大きすぎるのか。コウくんはまだ子供なんだもん。
「だから、紅火は許可なく使うことはしない。自分の意思で使うことをしないとマスターと決めてるんだ」
そうか。先輩から許可が出たとき、少し嬉しそうにしていたのはそういう理由か。多分、その許可を出すのも限られた人からじゃないと、コウくんは使うことはしないんだろう。
「まだこの町にノイズさんがいるのなら、紅火が探し出せる……寮に帰ってるならそれはそれでいいし、無事が確認出来るならよし……だが」
「先輩の予想では、何かあった、ということですね」
「あれを見る限りじゃ、何もなかったとは言えないからな。意味もなく組織の者がここにいるとは思えない」
コウくんの持つ“探知”能力の話が一段落したところで、ノイズさんの話が気になってきた。何だか、話が大きくなってきている気がしたからだ。その整理のためにも、私は先輩に質問を投げ掛けてみる。
「ところで、敵達はなんでここにいるって分かったんでしょう? 張り込みですか?」
「多分。でも、この状況は先手を打たれまくっている。……大した規模もない組織がここまでやるものか? 何か裏にいるとしたら、どこが……」
そういえば、私達が練習をしているところにコウくんが来て、敵の動きが怪しくなっているって。ノイズさんを襲ったなんて話はなかった……
「そうだ。捕まったなんて話になっているなら紅火はそう言うし、“探知”の許可を申し出るはず。が、そうしなかったのは、あくまで動いたと言う確証のない話だったから」
とりあえず、ノイズさんに伝えに行こうとコウくんは探しに出た。そして、敵の襲撃に遭った。
「あー……紅火からちらっと話聞いたけど、襲撃に遭うと言うよりは、挑発に乗って来た敵を迎え撃ったらしいぞ」
わあ……流石、コウくん……
「簡単に挑発に乗るってことは、雑魚もいいところだ。……紅火の尋問にも口を割らなかったし、知らないのは明白……くそ。踊らされてるな、俺達は」
こっちが動きを察知したと思ったら、相手は欲しいものを手に入れていたかもしれない。敵に先手を打たれていた……か。なんだか、誘い出されたみたいですね。
「……誘い?」
「あ、えっと。なんとなくですけど、そんな感じがするんです。ノイズさんがここに来ることは分かるかもしれないけど、その、ノイズさんの目指す目的地までのルートはいくらでもあるじゃないですか。よく待ち伏せなんて出来たなって」
ここは町外れの森の中だ。整備された道なんてなく、人が何度も通った跡はあるけれど、それはいくつもあった。ノイズさんがどこから森に入って、どう通ってきたのかなんて分かるものか。
「……確かに、そうだよな。まあ、毎年この時期はここに来ているが、今になって復讐しに来たってことになる……最初からつけられていたってのもなくはない、が……」
それこそ、この森で撒こうと思えば撒けますよね。きっと、だけど。
ここまで考えてきて、二人同時にため息をついた。果てし無い話にお互い疲れてきたのだ。
「……いくつもある、可能性の話をしても仕方ないな。どれもこれも紅火の結果次第だ」
「そうですね。話していて、意味が分からなくなりました……けど、今の話、ノイズさんに何かあったらの話ですもんね」
「だな。何もない可能性だってある……」
そうであって欲しいという願いはある。けれど、それは振り出しに戻ってしまうのだ。何もない可能性はあるが、それは先輩が、何もないなんてことはないと何かあったと予測したのだから。
「ラグさん! 姉ちゃん! ノイズさんの居場所分かった!」
私と先輩とで話している間、コウくんのお仕事は終わったようだ。コウくんの手には用心のためか剣が抜かれたままだった。
「ギルドにも家にも帰ってません……だから、多分……俺達、出遅れてます。この後、どうするんですか?」
「どうするって、それはお前が一番よく分かっているんじゃないか?」
「そう、ですね。では、俺達はどうしたらいいですか。ラグさんに従います」
俺達ってことは私も含まれているのか。
先輩は少しだけ黙って考える。恐らく、どう動くのがいいのか、なんてことを考えているのかもしれない。どちらにせよ、私には予想が出来ないくらい、先輩は思考を巡らせているのだろう。
数十秒の沈黙の後、ふっと短く息を吐いた。
「俺は一度、ギルドに戻る。お前らは家に帰って待機してろ。紅火、家に帰ったら、俺の携帯にマップ送ってくれ」
「了解。何かあれば動けるようにしておきますね」
「そうだな。そうしてくれ。……リアル達はまだいるか?」
「俺が“探知”したときはギルドにいましたよ。待てって言われたから待ってるんだと」
「……なるほど。マスターには言ってない?」
「言ってません。まだ確証がなかったので。父さんも知らないと思うけれど、勘がいいから家帰ったらバレるかも」
「メイズさんには別に……知ってくれてた方が力になってくれるだろう。……よし、行動開始だ」
「はい」
……流れるように色々決まってしまった。コウくんと先輩の間に全く入る余地がなかった。経験もない私は黙ってコウくんに従うしかないか。



~あとがき~
動き出した感ありますね……!
なんだか色々謎がありますね。どうなることやら?

次回、一度、家に帰ることになった紅火とサファに……?

ラグとサファが話しているとき、結構慣れている感じがしましたね。ラグはともかく、サファも普通に話してます。まあ、情報整理ですから、お互いの考えを交換し合っているもんですが。

紅火の能力、“探知”能力です! 紅の一族はこの力を受け継いで、守ってきているということになります。力を持つ者が次期頭首なんですね。それはどこの名家、本家も変わりません。

シリアスな話のときは挿し絵ない方がいいのかなと思って、描いてませんが、あった方がいいんだろうか。バトルシーンは描けないから、あれですけど。
あと、最近投稿しまくっている(?)のはこの小説を書くモチベーションが上がってるだけです。話に詰まれば、また亀さんペースに戻ります(笑)

ではでは。