鈴鳴カフェ

ポケモンの二次創作とオリキャラの小説を連載しています。

last soul 第23話

《この物語には死ネタ、暴力表現等の描写があります。閲覧する際はご注意ください》





~理由~


夕日が輝き、夕食の買い出しや学校帰りの子どもで賑わう表通りを通行人とぶつからないようにしながら、しかし全力で走る紅火の姿があった。
本来であれば、先輩のラグやマスターの紅珠を頼るべき案件なのだろうと悟っていた。今回の件は紅火自身、詳しく知っているわけではないのである。
「発端って何年前だっけ……? 話聞いたのは五年? 前だっけか?」
紅火は走るスピードを緩めることなく記憶の中にあるある話を思い出していく。

「ラグさん、話って何ー?」
「黙ってついてこい。お前は次期ギルドマスターだし、頭首になるし、話しておきたいことがあんだとよ」
ギルドに正式に加入することが決まってすぐ、先輩でもあり、幼い頃からの話し相手兼遊び相手でもあったラグに呼び止められた。そして言われるがままマスターの部屋に連れてこられ、中に入ると母親の紅珠とピカチュウの姿があった。
「えーっと俺、なんかしたっけ?………はっ!? 入ってすぐに…り、りすとら? されるの!?」
「したくても出来んだろうよ。さっきも言ったけど、次期マスターだろ、お前」
隣に立つラグに言われ、そうか、と思い出す。しかし、それならば話とは何なのだろうと首をかしげた。
「ありがとう、ラグ。連れてきてくれて。紅火に言っておきたいことがあるのよ。そこにいるピカチュウ、覚えてる?」
「う、うん? えーっと………確か父さんの親戚の……………本名しか出てこないんだけど、言っても大丈夫?」
「顔覚えているならいいの。この人のことなんだけど…」
話を進めようとする紅珠をピカチュウは制止し、全員をぐるっと見回す。
「ちょっと待て。名乗らせてくれないの? このままだとこの人で終わるよね!?」
「うるさいですよ、そこの人」
「ラグくぅぅん!?」
ふいっとそっぽを向きながら毒を吐くラグを見て、緊張が解れていく。
「あー俺っちはノイズ! 一応、ブラックのメンバーで情報管理が主な仕事」
二人を納得させることが出来ないと悟ったらしいピカチュウ……ノイズは無理矢理自己紹介を挟んできた。そんなノイズの行動に対して特に何も言わないところを見ると、単純にいじっていただけだったらしい。
「んで、そのノイズの話なんだけど」
「うん。………あれ、でもノイズ…さん? ノイズさんって最初から情報管理が仕事だった? 父さんか
は同期に誰もいなくて俺がやってたんたぞーって言ってた気がするけど」
前にその様な話を聞いたことがあると思い、小さく呟く。それを聞いたラグが少し驚いたように紅火を見て、溜め息をついた。
「いつの話だよ、それ。……紅火って本当は馬鹿じゃねぇよな。勉強は出来ないけど」
「えぇー? でもでも、俺、作戦とかちょっとわかんないよ」
「そういうことじゃ…………もういい」
何か言おうとするラグだったが、伝わらないと判断したのか頭をかきながら口を閉じた。そしてそれを見計らってか紅珠が話を始めた。
「昔ね、ノイズは暗殺者として活躍していた時期があったの。でもある仕事で大怪我して暗殺者として動けなくなったのよ」
「うおぉう!? マジですか!」
「まあ、見ての通りだよね……?」
「そんなわけだから、仕事でノイズ頼っても無駄だからって話なの。本当は詳しく教えてもいいんだけど、それはまた今度ね」
「紅珠の発言、いちいち刺を感じるんだけど。どうしてそんなキツいわけ」
「嘘じゃないからいいじゃない。それに分かりやすくて楽なんだもの」
笑顔を崩さず紅珠に反論することを諦めたのかノイズは何も言わなかった。
そしてそのままお開きとなりラグと共に部屋を出る。そして帰ろうかと考えていた紅火にラグが話しかけてきた。
「お前、このあと暇?」
「ん? うん。元々今日は顔見せだけだったし、何もないよ。なんで?」
「マスターは今度って言ってたけど、多分、何も話す気はないだろうから俺から言っとく。話しにくい事でもあるし」
「うーん……なんとなく予想はつくけど、怪我したのノイズさん以外にもいたの?」
「紅火は勘が冴えてて助かるよ」
それだけ言うとラグは着いてこいと一言言うなり、紅火の前を歩いて行ってしまった。断る理由もないためラグに黙ってついていくことにした。どこまで行くのだろう、どんなことを話すのだろうなどと疑問はあったがその場で聞ける雰囲気ではなかったため、口を開くことなくラグの背を追いかける。
しばらく沈黙が続き、最初に浮かんだ疑問も忘れかけた頃、不意にラグが紅火の方を振り返った。
「お前はマスター…紅珠さんとメイズさんの子だ。この仕事がどんなことだか分かるだろ」
「…………うん。理解してるつもり」
「今日話していた奴が明日もいるとは限らない。仲間が死んでいくことなんて当たり前な世界。だからそのことでいつまでも引きずるわけにもいかねぇ」
「うん。…………ラグさんは見てきた?」
「そうだな。数えるの嫌になるくらいは」
そう言うとぴたりと止まる。紅火も止まり、前を見ると、目の前には小さなお墓が建っていた。周りには何もなくただそれだけがあった。それが寂しくも儚げに紅火の目に映る。
「………? ラグさん? ここは……」
「紅火の言うノイズさん以外にも怪我した人のお墓。ノイズさん達の同期だった人」
「じゃあ、母さんと父さんも?」
「そうだな。ノルンさんって言うピカチュウでノイズさんの恋人だった。ノルンさん、俺が仕事やり始めた頃に病気で失明したんだ。それで引退したんだけど、それでも皆の役に立つって裏方仕事やってた」
「ラグさんが仕事やり始めた頃って言うと……十年前くらい?」
「そんくらいかな。そっから事件があったのは二年後だから、今で言うと八年前。俺とノイズさんである仕事してたんだ。俺がサポートでデータ回収をノイズさんに言われて、命じられるままそれをやってたんだけど……」
ラグが墓に近付きその場にしゃがむ。とてもじゃないが口を挟める話でもなく、ラグと同じように紅火もしゃがんだ。
「その悪者さ、なんか個人的にノイズさんに恨みあったらしくて……つーか、一族? 血縁? 詳しくは知らないんだけど、とにかく怨恨ってやつ」
「れんこん……?」
聞き慣れない言葉に首を傾げ、思わず口にする。紅火の呟きにラグは真面目な話なのにと少し呆れ、無視しようかと思ったが訂正しておかねばと溜め息をつきながら話を続けた。
「……………怨恨ね。“えんこん”。深い恨みってこと。ノイズさん個人に恨みはないと思うけど、こんな仕事してっから憂さ晴らしにはいいと考えたんだろうな。どこで知ったのかノルンさんを拉致したの」
「…………え…なんで」
「さあね。嫌がらせじゃねぇの? んで、ノルンさん人質に捕られてまともにやれるわけないだろ? 悪者さん達はやるだけやって挙げ句の果てに爆弾使ってそこら中吹き飛ばした。幸いと言うべきなのか、そこまで威力はなくてノイズさん達と離れていた俺は無傷だったし、ノイズさんも爆弾でバラバラってことにはならんかった。けど、ノルンさんは…」
「…………バラバラ?」
「いんや。悪者さん達に色々やられてたみたいでそれが原因かな。まあ、ノイズさんを庇ったのも一つの原因か。その事件でノルンさんは死にノイズさんは引退まで追い込まれたってわけ。これがノイズさんが仕事出来なくなった詳しい内容」
今までの話を聞き、紅火はむすっと頬を膨らませた。
「なにそれ、逆恨みじゃん。理不尽じゃん、こんなの」
「紅火の言う通りだよ。血縁のノイズさんはともかくノルンさんは関係ないのに………ま、恨みとかはどっかで買ってても不思議じゃないから何とも言えないけど。…………本題はここからなんだけど」
「うぇぇ!? まだ何かあるの?」
思わず声をあげ、心底嫌そうな表情をしている紅火に苦笑しつつ、まあ、聞け、と宥めた。
「捕まってないんだよ、ノルンさん殺った奴ら」
「………えっ!? ラグさんいたのに!?」
「頼りなくてすいませんでしたね。そんときはまだペーペーだったんですよ。……それでなくても当時の俺は技術的にも未熟だったし、全員捕まえるなんて出来なかった。これでも何人かは捕まえたんだ。評価していただきたいね」
少し不満そうに抗議するラグが珍しく、紅火は笑いが込み上げてくるが何とか堪え、何とか弁解する。
「ご、ごめんなさい。今の技量で考えちゃって……それで今でも見つからないの?」
「あぁ。俺も捜してはいるんだけど、どうにもね。そればっかにも構ってられないところもあって」
「………捜すの、俺も手伝えってことだね」
「今日はマジで冴えてる。明日は雪でも降るのか?」
「ここまで聞いて察せない俺じゃないよ! 許せないし、そいつら!」
怒りを露にする紅火。そんな紅火の頭をぽんと叩き、ラグはありがとうと笑って答える。
「まあ、お前馬鹿だし、深入りだけはすんなよ。出来たらでいいし、今は話を聞いて知ってくれるだけでいいからな」
「うんっ! もしその悪いやつと戦うときは俺も頑張る」
「おう。んじゃまあ、帰るか」
「はーい」

ある場所でぴたりと止まると、小さく息を吐いた。今まで、ずっと探していた相手がここにいるかもしれない。あの頃に聞いたときからずっと頭の片隅にあったことだ。
「………約束したもんね。ラグさんと」
持ってきていたホルダーに手をかけながら、更に奥に進んでいった。



~あとがき~
久しぶりの更新ですね。お久しぶりです!
……今回、回想でほぼ終わった。

次回、紅火の暗殺者としての腕が分かるかもしれない! あとはサファ視点にちょっとしたいな!

回想の中で紅火はラグに対して敬語を使ってません。まだ仕事の先輩後輩という関係ではないからですね。遊び相手感覚が抜けてないんです。
そーいや、紅火とラグの関係についてはここが初ですかね? 二人はある意味、幼馴染みみたいたもんです。ラグの仕事がないときは紅火の相手を任されることが多かった様子。
紅火は紅火で小さい頃からギルドに出入りしていたので、大体は顔見知りです。その中でもラグは特に関わりが深いって思ってくれていいですよ。

ノルンの話もここが初?
いつだったか、ラグがお墓参りしてたんですけど、それがノルンさんです。ノイズの恋人ってか婚約者と言っても過言ではない仲でした。
ノルンが喋るような描写が今後あるかは分かりませんが、普通の女の子ですよ~

ちょっとラグと紅火が当時幾つなのか分かりにくいと思うので、まとめます!
まず、話を聞いたのは五年前らしいんで、紅火は八歳、ラグは十五歳です。そこからノイズとノルンの事件があったのが当時から八年前なので、紅火は産まれたばかりかまだ産まれてないかです。ラグは七歳かな。こんな感じです! 要するに今現在から十三年前です。かなり前ですね……( ̄▽ ̄;)
こんな感じで分かりやすくなったかな?

では。