鈴鳴カフェ

ポケモンの二次創作とオリキャラの小説を連載しています。

last soul 第40話

《この物語には死ネタ、暴力表現等の描写があります。閲覧する際はご注意ください》





~ノイズによる独白~


初めてギルドの前に立ったとき、最初に思ったことは「でっかいギルドだな」だった。そのとき、メイズとライラが何を思ったのかは分からない。メイズはあいっかわらず笑顔で、ライラは少しだけ顔を強張らせていた気がする。
「ねえ、二人とも。早く行こうよ」
メイズのこの言葉で人生初のギルドへと足を踏み入れた。怖気づくような性格でなかったメイズに、このときだけは感謝したし、尊敬をした。
ギルドに入って真っ先にマスター室へと向かっていた。メイズを先頭に二、三歩下がって二人並んで歩いていて、隣ではあわあわして、必死に平常心を保とうとしていた。
「うー……マスターってどんな人なのー」
「さあ? 会ったことない。メイズは?」
「あるわけないでしょ。初対面だよ、初対面」
どこのギルドに入るかは全て親の独断だった。俺っちは親が昔ここにいたから。ライラは俺っちについていく形で選び、メイズは近さで選んでいる。ライラはともかく、メイズの理由は嘘だと思った。メイズの両親は厳しかったのもあるし、近さの理由で選ぶはずがない。まあ、この理由は今でも知らないし、今後教えてくれる訳がない。
「失礼します、マスター。今日から加入するので、挨拶に来ました」
「入りなさい」
低い声で、部屋に入るように促された。やっぱり先頭のメイズが扉を開け、こちらを振り返る。
「準備いい? カイン、ライラ」
「なんで開けてから聞くの? 開ける前に聞けよ」
「ここまで来たら、行くしかないもん。大丈夫!」
踏み込んだ先にいたのは、マスターと近くの棚にもたれかかっていた、マグマラシだ。
「今日からお世話になる、メイズ・フォルテナです。これからよろしくお願いします」
「同じく、カイン・エレクトです。よろしくお願いします」
「ライラ・マアルテナ、です! よろしくお願いします!」
「……ふむ。随分、若い。あいつらは呑気でいいな……私は、ここのギルドマスターにして、紅の一族の長、紅蓮だ。そして、そこのは私の娘で次期マスターの紅珠。君達と、同年代でな。よろしくしてやってくれ」
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あいつら、と言う言葉に当時は引っ掛かったものだが、この場で追及出来るほど、肝は座っていなかった。しかし、後々聞くところによると、俺の母親とメイズの両親はマスターと同期だったらしく、ライラの母親はその後輩だったらしい。つまり、子供を旧知の友に預けたということなんだろう。
ま、これは今になって言える考察であって、当時の俺っち達が知るはずもなく。
「この世界に入るということは、分かっているだろう。……嫌な世に生まれたものだな。しかし、まあ、これも縁だ。紅珠、案内を。世話もしてやれ」
「はい、父様」
今はそんなことないけれど、このときの紅珠はどこか冷めた部分があった。名家として、本家としての重圧があったんだろう。
「……あんた達、この世界でやってくなら、まずは名前を変えなさい。本名を名乗るのは、周りに迷惑がかかるわよ」
「へえ……うん。分かった。他にすることは?」
「順応はやっ」
「……道具はこっちで用意する。武器はそっちで用意して」
「はーい。ちなみに紅珠ちゃんは何使うのー?」
「……拳銃」
「銃か~」
よくもまあ、初対面の相手……御本家様の令嬢に気軽に話せるものだと思う。同姓のライラでさえ、どうしようかと悩んでいたのに。なんだか恐ろしくなってきて、メイズの腕を引っ張り自分の方へ引き寄せた。
「ちょっとちょっと、メイズ!」
「んー? なあに?」
「お前、時々怖いよ!? なんなの!」
「何って、俺は俺だけど」
「やめて。不安になる。なんか不安になるから!」
「あ、あの、紅珠、ちゃん。聞いてもいい、かな」
今まで黙っていたライラが思いきって紅珠に話しかけていた。
「何かしら」
「同年代の子、ギルドにいないの?」
「いなくはないけれど……あいつ、ムカつくのよね。それにこの年で入るのも珍しいわよ」
「そうなんだ」
「まあね。……って、噂をすれば、なんとやらってね。どこいくの、ロス」
紅珠に呼び止められたポチエナはこっちを見て、なんとなく状況を察したみたいだった。
「おーおー! 今日から来るってのは、お前らだったのかー! メイズ! ひっさしぶり!」
知らない相手が笑顔で話しかけてきたことにもビックリだったけど、それよりもメイズの名前が出てきたことに、驚いた。
シエナ。ここのギルドだったんだ?」
「まあな! 後ろの二人はお前の友達?」
「うん。幼馴染み」
「へー! えっとね、俺はシエナ・ウェザーっての! ウェザー家次期頭首でーす♪ あ、ここではロストって名乗ってる。ロスって呼んでくれよ」
「俺達、家の長男で、会合かなんかで顔合わせしたことあるの。だから、お互い名前知ってたんだー」
ウェザー家と言えば、それなりに有名で優秀であると有名な家だった。血筋的にもある本家と近いと聞いたことがあった。
「俺達、同期だな! 末長くやってこーな」
「嫌よ。末長くなんて」
「楽しそうなことになりそうだね~」
「うん。なんだか、馴染めそうな気がしてきた!」
「年近いから、まあ、よかったけど」
これが、皆との出会い。今後ともお世話になる腐れ縁の出来上がりだった。
ギルドに入り、俺っちはノイズと名乗り始め、メイズはサン、ライラはノルンと名乗る。そして、紅珠とロスの五人でよくつるむようになった。やっぱり皆新人で、しかも年が近いこともあって、すぐに打ち解けられた。まだ十歳くらいのときだったわけだし、まだまだ子供。遊んだ後は友達だと言わんばかりの単純さだった。
この五人で仕事に行くことも少なくなかったし、ペアになったりトリオになったり、色々だった。



~あとがき~
ギルド加入まででした。

次回、まだ続きます。
多分、ラグを拾う話からやります。

新しいキャラが出ました。紅珠の父であり、前マスターの紅蓮さんです。ぐれんって呼んでくださいね。まあ、これから出てくるか知らないけどな!
ちなみに、今でも生きてます。だからって出てくるかは分かりませんが。

メイズは顔が広いな~……あと、旧姓も公開です。婿養子なんですけど、自分の家の家督はどうしたんだろう……長男で才能もあって期待されてたのに、それをさらっと放り出すメイズさんでした。ま、自分の家を継ぐより、紅珠と結婚した方が地位は上がりますけどね。でも、そんなことも興味ないでしょうな、メイズは。

ではでは!

last soul 第39話

《この物語には死ネタ、暴力表現等の描写があります。閲覧する際はご注意ください》





~ノイズによる独白~


彼女と出会ったのはお互い五歳になる前。まだまだ子供で、こっちの世界のことはぼんやりとしか知らなかったくらいの年の頃。父親に呼ばれて、顔を合わせたのが初めまして、だった。そして、その席で「お前の婚約者になる子だ」と紹介された。そんなことを言われて、はっきりと意味を理解する子供がどこにいるのだろう? 少なくとも、自分は『婚約者』の意味が分からなかったし、女の子も首を傾げて不思議そうにしていた。
それが、彼女との出合い。ノルン……ライラとの出逢いだった。
言われたからと言って、意識することはない。まず言葉の意味をお互いが理解していないのだから、当たり前だった。どうしようかと考えていたら、ライラの方から話しかけてきた。
「わたしの、なまえは、ライラ。ライラ・マアルテナ、です」
「えっと。カイン・エレクト……」
「カインくん! これから、よろしく、だね!」
こんなどこにでもある自己紹介から始まって、家のこと、家族のこと、自分のことを話した。そのあとは、することもないし、家の庭に出て、意味もなく遊んだのを覚えている。子供だし、それが普通だった。そして、その日を境にライラとは毎日のように一緒に過ごすことになった。

「へぇー? 『こんやくしゃ』ねー?」
「いみ、わかってんの。メイズ」
「あはは。わかるよ。しょーらいをやくそくしたあいて、でしょ」
親戚でもあり、同い年でもあったメイズにライラを紹介した日。ライラは初めての相手に緊張していたようで、あまり口を開かなかった。まあ、メイズと俺っちの間に遠慮していたのかもしれない。傍にはいたけれど、話に割り込むことはせず、黙って傍にいるだけ。しかし、メイズの『将来を約束した相手』という言葉に顔を赤くしていた。多分、俺っちもそう。あまりにもごく自然に、さらりととんでもないことを言う、メイズに慌てたんだと思う。そして、とんでも発言を多分、分かってて言っているメイズはくすくすと楽しそうにしていて。
「カイン、わかりやすーい。まっかっかだよぉ?」
「うるさいなぁ! メイズにはいないのかよ!」
「いるわけないじゃん。そんなしきたり、ぼくんちにはないよーん」
「むかつく!」
「あはは。ライラ、こーんなカインだけど、よろしくしてね。ついでに、ぼくともよろしくね♪」
「あ、はい。よろしく、おねがいします。メイズさん」
幼いながらに、ライラは敬語を使っていた。俺っち相手に使ったのは最初だけだったけれど。そんなライラにメイズは笑っていた。
「しっかりさんだね。でも、ぼくにけいご、いらないよ。とし、ちかいんだし。なまえでよんで」
「メイズ……って、よべばいい?」
「うん。ありがとー」
へらへらと腹立つ笑顔を浮かべて言う。この日から時々メイズが俺っち達の輪に入っては、遊ぶということが増えた。
……こういうの思い出す度、本当にメイズは変わらないんだと思う。メイズは子供の頃から頭がよく、要領がよく、強かで。当時は学校なんてなく、家で専属の教師が勉強を教えていたものだが、たまに三人で授業を受けることも少なくなかった。三人が同じ問題を出されたとき、真っ先に解き終わるのはメイズで、俺っち達を置いて、外で武術の練習をしていたものだ。そしてやっとの思いで終わり、メイズの元へ行くと、遅かったね、なんて嫌味を言うのだ。天才という言葉がついて回るような、そんな奴だったのだ。むかつくメイズにもライラは優しくて。「メイズはすごいんだね」なんて笑顔で言うもんだから、こっちも毒気を抜かれてしまって。また三人でふざけあう。それがギルドに加入する前の日常だった。

「ねぇ……カイン、メイズ。二人はどこのギルドに行くの」
ライラと知り合ってそれなりの月日が経ったとき、不意にそんな話を持ちかけてきた。歳は、九、十くらいだっただろうか。俺っちとライラはピチューからピカチュウへと姿を変えていた。イーブイで気が付いたら、二足歩行をしていたメイズとあまり身長が変わらなくなっていた気がする。ライラがそんな質問をしたとき、その場にはメイズもいて、メイズと顔を見合わせてライラの真意を考えたものだ。どう答えればいいのかと思っていたんだけど、メイズが笑って答えた。
「ギルドはねー……『ラストソウル』だよ。そこが一番近いしさ」
「理由、どうにかしろよな」
「えー? うそじゃないし。それにそこに行けって母さんも父さんも言うし? 長男だからね。俺」
メイズの家は、メイズが優秀過ぎて、他に跡継ぎを作らなかったそうだ。それ故、かなりの重圧がメイズにはあったんだと思う。ま、そんなの全く気にしていないメイズは、好き勝手やっていたんだが。
「カインも、俺と同じでしょ?」
「まぁ……うん」
メイズが行くからと言う理由もあった。だが、第一には、母親が以前加入していたギルドだからというのが一番だったようだ。
「ライラもそこじゃないの? 俺達とは、違うとこ行くの?」
「ううん。一緒……カインがいるんだもん。私はついてくだけから」
メイズの質問に浮かない表情で答える。俺っちは何か嫌なことがあるのだろうと思って、出来るはずもない提案を投げかけた。
「ライラが嫌なら、違うとこでもいーけど」
「あ、違うの! その、嫌、とかじゃなくて。なんだか、変わっちゃう気がして……今はこうして、のんびりして、三人でお話ししてさ。お昼寝とかお勉強とか出来るけど……ギルド入ったら、そんなことも言えないよねって」
要するに、ライラは今の関係がなくなる心配をしていたみたいだ。そんなのは、いらない心配だと言うのに。だから、メイズと二人で大笑いした。
「あはははっ! 今更、離れるとか、別れるとか、無理無理! なくなるわけない。俺とカインの腐れ縁は永遠だよー」
「そうだけどさ……うん。間違っちゃいないけど、キモい言い方するなよ」
「俺達の友情は永遠だぜ、カイン……☆」
「ウザい! わざとだろ、それ!!」
「まあねぇ~♪ 友情っつーか、家の付き合いだし。仕方ないよね。嫌でも付き合わなきゃねー? だって、家族だもんねー? ライラもさ」
「えっ……? でも、私は、まだ……」
「いやいや。いつか、カインと結婚するんだし、俺とも家族だよ~♪」
「ライラとは家族になる。けど、メイズとは縁切ってもいい」
「あは♪ 寂しいよぉ~♪」
こんな悪ふざけにライラの曇っていた表情は簡単に晴れる。メイズと軽く目配せして、合図をする。
「うそつけ!」
「よくわかったね。もちろんうそで~す」
「ふふっ……ありがと、カイン、メイズ。私、二人と一緒なら、なんとかなる気がしてきた。二人に置いていかれないように、頑張るね」
「大丈夫。置いてったりしないよ。一緒に強くなればいいんだ。……ま、メイズは俺っち達のこと、置いていくかもな」
「えー? 心外だな。カインはともかく、ライラのことは待っててあげる。だから、カインより強くなってね。ライラ」
「お前、いっぺん死ね」
「やだよ。生きる~♪」
確かにこんな馬鹿げた会話は少なくなるかもしれない。けれど、メイズがどっかで死ぬようなイメージはなかったし、自分自身もそこら辺のやつよりはマシな方だと思っていた。だから、メイズと二人でライラは守っていけばいいと。そして、いつかは一人だけの力で守れるようになりたいと思っていたんだ。



~あとがき~
幼いノイズがノルンと出会った経緯と二人とメイズとの話でした。ノイズとノルンの出合い~ギルド加入前までですね!

次回もノイズ視点による、過去編です。
ギルド加入からやってくぜ。あ、題名も変えずにやっていきます。ノイズの過去編終わるまではこのままですね。

独白とは、登場人物一人で会話なしに語ること。モノローグのことです。しかし、ここではあえて、過去編のことを指します。会話もありますし、一人語りではないです。まあ、あるキャラ視点であるってところは一人語りなのかもしれませんね。
会話が少なくて、読みにくい部分もあるかもしれませんが、お許しを! 私も模索中なんです(笑)

ノルンはもう死んでしまっているので、こうして過去編にしか登場しません。可哀想なことをした……
ちなみに、ノイズとメイズは親戚同士で、家族ぐるみの関係なので仲がいいです……仲がいいというか、気兼ねない友人関係です。話には書きませんでしたが、ノルンもノイズとは遠い親戚に当たります。血筋的にはノイズとメイズの二人の方が近いですけどね。

ではでは。

last soul 第38話

《この物語には死ネタ、暴力表現等の描写があります。閲覧の際はご注意ください》





~安否~


「あなたっ!」
「うわ。紅珠、ここ病院だよ? 静かにしなきゃ」
病室に半ば駆け込むように入ってきた紅珠を落ち着かせるようにメイズが笑って言う。そして、紅珠に反応したのはもう一人いた。
「ほぁ? あ、母さんだ。どーしたの?」
「紅火……! 病室に行くって言うから、心配して!」
メイズの隣に座って暇そうにしていた紅火を紅珠はぎゅっと抱き締めた。そんな紅珠に困ったように紅火は笑った。
「大袈裟だよ。父さんが念のためって連れてきただけだもん。さっきめっちゃ寝て、もう元気だし」
「もう……うちの男達は心臓に悪いことばっかするんだから。それで、シュラちゃんは?」
「そこのベッドで寝てるよ。ロイスくんの話じゃ、命に別状はないってさ。敵に薬打たれたみたいで、命に関わるようなもんじゃないって言ってたんだけど、一応ね。ついでに紅火も診て貰ったって感じ」
メイズが指し示した方を見ると、確かにベッドの上で寝ているサファがいた。見た感じでは、ただ眠っているだけのように思える。メイズの言う通り、何ともないのは確かなようだった。
「えぇ? 俺はついでだったの?」
「当たり前だ。誰だって可愛げのない息子より、可愛い娘を優先するだろ?」
「むぅっ!? 差別だ!」
「あははっ♪ 家に置いていかず、連れてきてあげたことに感謝しなよ」
「うぐぐ。父さんの意地悪……」
むすっとむくれる紅火であったが、これもまたメイズの愛情表現の一つであることはよく分かっている。これ以上は何かを言うことはなく、紅珠に抱き締められたまま、じっとしていた。
「ねえ、あなた。ノイズは?」
「あー……まだ。まだ何とも言えないって」
「……そう」
紅火から離れ、眠っているサファの方へと近付く。どこか怪我をしていることはなく、単純に寝ているだけに見えた。
「……シュラちゃんは、薬以外に何かされたの? そもそも、誰に?」
「さあ? 俺が見たときは全部終わった後だったから知らない。本人に聞くのが一番だけど、触れない方がいいかもしれないね。あと、誰かって話だけどそれも……ちょっと分かんないかな。ごめん」
「ううん。いいの。……というか、あなたが行ったの?」
「紅火が助け求めてきて?」
「ふぅん。武器、手入れしていたのね」
紅珠のこの質問には答えることなく、笑顔を見せる。恐らく、その笑顔こそが答えなのだろう。
サファをメイズに任せて、紅珠は紅火と共に病室を出る。紅火も特に異常はなかったため、彼のついていくという要求を拒むことはしなかったのだ。
手術室の前にはラグとリアル、シリアの三人がいた。リアルとシリアは待合室にあるような長椅子に座っているが、ラグはその側で立っていた。ランプはまだついたままで、暗い中不気味に光っている。二人が近づいていることに気付いたのは、ラグだった。ラグが二人に促すと、二人も気付き、シリアが紅火の元へと駆け寄ってきた。
「紅火、大丈夫だったのか!」
「大丈夫だよー♪ ごめんね、待機しててなんて言ってさ。大変なことになっちゃったな」
「うん。さっきラグから全部聞いたんだ」
「そっか。……ラグさん、俺」
「いいよ。俺も悪かったし。読みが甘かったんだ……お前らは大丈夫なわけ?」
「俺は全然。姉ちゃんはまだ起きないけど、大丈夫だって言ってました」
そうか、と呟くとラグはそのまま黙ってしまった。紅火はシリアと共に長椅子に腰掛け、じっと手術室の方を見る。紅珠もつられて、紅火と同じ方向を見た。何度も見てきたこの景色は、慣れたものだと思っていた。しかし、長年の仲間が二度も同じような目に遭うとは考えもしなかった。何のために裏方にさせたのか分からない有り様である。
「ごめんなさい、ノイズ……また、同じことを……苦しい思いをさせてしまった。私は、守れなかったのね……」
今、自分はどのような顔をしているのか分からなかった。きっと泣きそうな顔でもしているのだろうか。それとも、怖い顔で自分に怒っているのだろうか。紅珠にはどうなっているかなんて分からなかった。

何かを話すわけでもなく、黙ってノイズの帰りを待つのはこの場にいる全員にとって、耐え難い時間であった。シリアは落ち着きなくずっと周りを見回しているし、紅火もふらふら歩いてみたり、かと思えば座ってじっとしていたりとこちらも落ち着かないようだった。反対にリアルはじっと動かずに目を閉じて何もせずにいる。紅珠は手術室から目を離さなかった。ラグは手元の端末をいじり、時折周りの様子を窺っている。皆、それそれの行動を取っているが、心ここにあらずなのは同じであった。
ふとリアルが顔を上げると、気配を殺してラグがその場から離れるところだった。それを見ることが出来たのはほんの偶然に過ぎないが、気付いたからといって声をかける雰囲気ではなかった。
「……ラグ兄」
恐らく、紅珠に言っていた仕上げをしに行くのだろうと思った。何か確証があったわけではないが、そう感じたのだ。



~あとがき~
きりがいいのでここまでです。いつもより短いですなぁ。

次回、場面ががらっと変わりまして、ノイズ視点の過去編です。
しばらくは現代に戻ってきません。つまり、解決編(?)やる前に過去編やるって感じですね!

メイズはサファを襲った相手を知らないって言ったけど、なんでだろうね。まあ、理由はラグと同じでしょうかね。多分。
なんかあれだな。紅珠がかわいそうな気がしてきた。子供と仲間が同時に病院に運ばれるとか……どんまい……まあ、あれだな。紅珠は何も悪くないんだけどね……?

久しぶりの紅火です。能力を使った反動もすっかり治って元気です。いつもの能天気な紅火でした。

ではでは。

last soul 第37話

《この物語には死ネタ、暴力表現等の描写があります。閲覧する際はご注意ください》





~帰還~


ラグが目を開けたときに見たものは、メルディの驚いた顔だった。その目線はラグの背に向けられたものであるため、ノイズがボロボロになって帰ってきたことに驚いたのだろう。
「連絡してって言ったのに。……急に現れたりして、心臓に悪いんだから……」
「それは、ごめんなさい。先生、ノイズさんのこと頼んでもいいですか?」
「え、えぇ……もちろん! でも、ここじゃどうにもならないかも……ねえ、何があったの? 理由、話してくれるよね?」
「全部終わった後じゃ駄目ですか?」
「今、教えてくれると嬉しいな。あ、ノイズくんはそのベッドに寝かせていいから」
メルディに言われた通り、処置用のベッドの上にそっと寝かせた。メルディはマスクと外科用の手袋をし、治療を始める。ここの設備はそれなりに揃ってはいるが、医者はメルディ一人だ。そのため、彼女に出来ることは限られてくる。それでも、必要最低限の処置はやってくれるだろう。
メルディの邪魔にならないように部屋の隅に移動したラグは、周りに誰もいないことを確認すると、要点だけをメルディに伝えた。
「簡単に言えば、復讐です」
「復讐、ね。馬鹿なこと考える人もいるものね」
「前に姉さんとノイズさんを狙った奴がいたじゃないですか。今回の原因もそいつですよ」
「あー……まだいたんだ。組織は壊滅したと思っていたけれど、違ったの?」
「そうですね……十年くらいは動きもなく、事実上の壊滅だろうと言われてました。でも、ここ最近、動きがあったと情報があったので、なんとなく調べてたんです……まさか、ここまで後手に回るとは思いませんでした」
「珍しい。ラグくんがそんなことを言うなんて」
「先生は俺を過大評価し過ぎなんです。まだまだですよ。俺なんていくらでも替えの利く、都合のいい殺し屋なんで」
「あらあら。ラグくんこそ、自分のことを過小評価するのね。出来がよくなければ、十年以上もこの世界ではやっていけないわ。それに、最年少で始末屋にもなれないんじゃない? ロスくんも自慢してるしね♪」
ここまで言われてしまうと、ラグも黙るしかなくなった。自分を卑下にすると、メルディはいつもそんなことないと笑って言うのだ。
会話をしながらも、メルディの手際はよく、短い間にノイズの止血は終わったようだ。しかし、ここで出来るのはここまでである。手袋を外し、備え付けの電話の受話器を手にすると慣れた手つきでボタンをプッシュしていく。
「とりあえず、出来ることはやったわ。ロイスさんのところに連絡を入れるわね」
「はい、お願いします。まあ、ヘラさんから連絡はいってそうですが」
「まぁた、あなたはマスターの反感買うようなことして……」
メルディが連絡をしたのは、総合病院を経営しているチラーミィのロイスであった。本家の一つ、クランケ家の頭首で、言うなれば紅珠の同僚である。普段から必要があれば、連絡を入れると治療を引き継いでくれていた。
「……先生、後はよろしくお願いします。リアル達に説明してくるんで」
「あー、うん。分かった、任せて…………あ、もしもし? ロイスさん?」
無事、ロイスに繋がったようで、メルディが今の状況を説明してくれた。ラグは全てを見届けることはなく、リアル達のところへと向かう。

「ただいま……あ?」
「あ! ラ、ラグ……!」
「ラグ兄、お帰りなさい。その、えっと」
リアルとシリアが気まずそうに目を泳がせた。理由は見れば分かる。座っている二人と向かい合うように座っている紅珠がいた。彼女は表面上では笑顔であるが、まとっている空気がピリピリとしていて、怒っていることが隠しきれていない。二人はいつからか分からないものの、マスターの紅珠に問い詰められたのだろう。
「何にも、言ってないぞ!! 言い付け守ったからな! 偉い?」
「おーおー? マジか。偉い偉い」
「あんたの入れ知恵ね、ラグ。二人とも、何も話せないの一点張りでね、埒が明かないのよ」
「はぁ……そうですか」
気の抜けた返事に紅珠の怒りを買ったらしく、勢いよく立ち上がると、びしっとラグを指差した。
「何も知らない、なんて言わせないわよ!? 大体、大切なことは連絡しろって言っているでしょう!? いつもいつも! 事後報告ばっかじゃないの!」
「まあまあ……口調が昔っぽくなってますよ、マスター? 落ち着きましょうよ。後輩の前です」
「誰のせいよ!!」
「俺がよく事後報告するのは、今に始まったことじゃないですよ。マスターだって知ってるでしょ」
「まあ、そうだけれど。でも、そのことを誇らないで欲しいんだけど」
「別に誇ってません。……今回のことをマスターに報告しなかったのは、いくつか理由があります。……が、とりあえず報告しますね」
文句がありそうな表情を浮かべるものの、今はラグの話を聞くつもりのようだ。ゆっくりと座り、何度か深呼吸をした。その隙にリアルはシリアの手を引き、そっとラグと紅珠から離れる。
「これ……『せんそーのよかん』だぞ! 兄さん、放っておいていいの?」
「よくはないけど……俺にはどうすることも。俺達も全部を知っている訳じゃないから、今はラグ兄の話を聞こう」
「……うん、分かった!」
時々、ラグと紅珠は考え方の相違からか衝突をする。大抵はラグが流してその場を丸く収めるが、紅珠がそれに納得しているかは謎であった。
「簡潔に申しますと、ノイズさんが敵に捕らえられ、先程奪還してきました。今は先生に任せてあります」
「……それで?」
「組織の名前は『ディッシュボーン』。ボスはリングマで、以前と変わらないかと。規模としてはそこまで大きくはなく、暗殺者のランクを持っていれば対応出来る相手だと思われます。現在、ボス以外のメンバーはほぼ処理出来たと見て問題ないです」
「そう。それで、ラグはこれからどうするの?」
「最後の仕上げをするに決まってますよ。ここまで追い詰めたんですから、最後まで責任持って対応します」
「……大体は把握したわ。でも、ラグはこの情報をどこで仕入れたの? 私のところには入ってきてないけれど」
それは恐らく、ヘラが止めていたのだろう。本家を取り仕切るのはヘラの役目であり、裏の情報を操作出来るのも彼女だけである。ここはあくまで、ヘラの下で動く、紅珠が持つ一つの組織にすぎない。
しかし、正直に言えばこの先何があるか分からない。紅珠とヘラが仲が悪いのは有名な話だ。いや、ヘラは別に嫌ってはいないが、紅珠が嫌っているだけだ。
「……まあ、然るべき相手からの情報提供、としか言えません。別に俺だけが知ってた訳ではないですから。今回は事が大きく、早く動いただけのこと。気にする必要はありません。重要なのはそこじゃないでしょう?」
なんとなく話を逸らし、別の話題に置き換える。実際問題、ラグがどこから情報を仕入れたのかは今はどうでもいい話だ。それは紅珠も分かっている。
「そうね。それは全て終わった後にでも聞くわ」
「ラグ、ノイズは……? 死なないよね?」
二人の話が終わったと見たらしいシリアが、不安げに聞く。何も言わないが、リアルもじっとラグの方を見つめてきた。嘘でも大丈夫だと言いたいところだが、その言葉は時に残酷であった。だから、ラグは嘘偽りなく、二人に話す。
「俺からは何とも言えない。専門家じゃないからな。……俺が助けたときは息はしてたけど、絶対に助かるとは、断言出来ない」
「そっか……」
いつも強気のシリアが見せた、年相応の少女の表情だった。そんなシリアをそっとリアルが安心させるように撫でていた。
「ごめんな、シリア。リアルも」
「いえ。生きて帰ってきたのは間違いないですし、ラグ兄が言っていたじゃないですか。簡単に死ぬような人じゃないって。俺はそれを信じます」
「ラグくん、ここにいたのね……あら、マスターまでここに? 怖い顔してますよ」
「メルディ? どうかしたの? もしかして、ノイズに何かあった?」
「ノイズくんは、病院に運んで貰いました。……連絡したのに、ラグくん出ないんだもの。自分は連絡するんでーって言ったくせに」
「ご、ごめんなさい……」
「ううん。そんなことを言いに来たんじゃないの。マスター、サンく……メイズくんから連絡がありました。マスターに連絡しても出ないので、私に連絡が来て……子供達を病院に連れていくって」
「へ……? なんで?」
これにはこの場にいた全員がきょとんとしていた。ノイズはともかく、メイズと紅珠の子供。つまり、紅火とサファを病院に連れていったということなのだろう。
「詳しくは分かりません。伝えといてくれとしか」
「そう。……ちょっとラグ、どういうこと?」
睨みを利かされたラグは慌てて首を振る。この事態はラグにとっても予想外の出来事だ。敵の力を知っていたから、紅火に任せても大丈夫だと思っていたのだが、不測の事態が起きたとしか思えなかった。
「いやいや、俺に聞かないでくださいよ!? これに限っては俺も知りませんから! 紅火は力使わせたし、まあ分かるんだけど、なんでサファの奴まで……?」
「とにかく、病院に行くわ。メイズはまだ病院にいるの?」
「みたいです」
メルディの返事を聞くと、紅珠はすぐに部屋を飛び出していった。そんな紅珠を見て、ラグはやはり教えるのは得策ではないと改めて感じていた。
ラグが紅珠に言わなかった理由は三つある。一つは紅珠の性格に関わることだ。仲間のことになると感情的になりやすい紅珠に言えば、事が大きくなりすぎると思ったのだ。二つ目に単純に情報の信憑性がなかったから。下手に伝えてしまうと、何をするか分かったものではない。そして、三つ目は紅珠がここのギルドマスターだったから。以前、ノイズの重症を負わせ、ノルンを殺した相手だ。自身の組織のトップを危険に晒すようなことはしたくない。
「はぁ……だから、紅珠さんはトップに向かないんだよ。前マスターの方が余程向いてらぁ……」
「ラグ兄? どうかしました?」
「いや、なんでもねぇ。……俺達も行こうか。お前らは行きたいんだろ?」
リアルとシリアは同時に頷いた。二人の頭にぽんっと手を置くと、メルディの方を見た。メルディはラグの言いたいことを理解したのか、優しく笑って頷いてくれた。
「行こう、ノイズさんのところに」



~あとがき~
やっと合流ですね。

次回、ノイズは無事なんだろうか……?

紅珠はあれですね。ラグから見れば、あんまりどっしりと構えているタイプに見えないようです。私情を挟むところがあるのが、リーダーに向いてないなと感じるそうで。ま、こういう仲間の話になると、熱くなるのが紅珠のようですし、ラグも分かってて立ち回っていると思いますけどね!

ではでは。

last soul 第36話

《この物語には死ネタ、暴力表現等の描写があります。閲覧する際はご注意ください》





~撤退~


ラグが始めに目にしたものは赤だった。薄暗い中ではっきりと見えたわけではなかったが、己の感覚で察し、見てしまった。月明かりの下でリングマが返り血を浴び、歪んだ笑みを浮かべている。そのリングマの足元にノイズはいた。力なくその場に倒れ、遠目から見ると死んでしまっているように思える。しかし、微かに体が上下しているようで、息はまだあるらしかった。
そんな状況にラグは取り乱すこともなく、かといって怒鳴り散らすようなこともなく、至って冷静だった。自分でも驚くほどに平常心を保っていて、いつもの仕事をしているときの自分だ。奇襲を仕掛けるにも、勢いよく扉を蹴破ったのだから、不意打ちにもならない。最も、ラグは不意打ちで終わらせようなんて全く思っていない。友人に話しかけるような軽さでリングマに話しかけた。
「あのさぁ……お前がここのボスってことでいいのか? んでもって、そこにいるのは俺の先輩ってことでいい?」
「あぁ? どっかで見た顔だなぁ……?」
どこか思案したような顔になり、少し経つと思い出したようでにんまりと笑う。その笑顔にラグは嫌悪感を覚えた。面白いことでも思い付いたと語るその顔は嫌いだった。
「あんときのイーブイか。ははっ! 今じゃ随分有名になったらしいな? 『疾風の銃士』さん?」
「それはどうも。で? 俺の質問には答える気はないわけ」
「んなことねぇさ。……が、答えたところで、意味はないだろ? あんたには筒抜けだろうからなぁ」
リングマの言う通りだった。ここに来るまで、あらゆる情報は得ており、絶えずヘラからも裏付けされた情報が入っていた。このリングマがノイズをつけ回していた張本人で、その組織を取り仕切っているボスだということも分かっている。つまり、ラグがそのような情報を仕入れているであろうと予測を立てつつも、リングマは逃げなかったらしい。
「そこまで分かっていて、留まってたんだ」
「ちゃんと逃げるに決まっているだろ。でも、逃げる前にあんたの顔を直に見ておくのもアリだと思っただけさ」
「俺が逃がすとでも?」
「逃がすね。こっちには人質もいるもんで」
リングマの言う人質とはノイズのことであるのは、明白だった。この場はリングマの手の中であることを理解した上で留まっている。そしてそれは、ラグのことを完全に舐めている証拠でもあった。実際、その通りであり、下手に手を出せる状況ではない。このままノイズを受け渡すとも思えないラグは、表には出さずに頭では思考を働かせていた。どのように動くのがベストなのか。どのようにすれば相手を追い込められるのか。それらを考えることに集中する。
「そう怖い顔すんなよ。あんたがそこから動かないでいてくれりゃ、お仲間は返してやる」
「ふぅん……そう」
嘘をついているのははっきりと分かった。ここで返すのなら、今までずっと執拗に追いかけることも、復讐もしない。ノイズを生かす必要性などどこにもない。ノイズとラグに顔を見られているために、二人を生かしておくのはデメリットだ。つまり、この場で二人を殺すつもりでいる。
リングマの意図はそこにあるのだろう。復讐相手であるノイズと、実力もあり強さに差のあるラグを殺すことが目的なのだ。まあ、ラグはノイズのついでかもしれないのだが、それはどうでもいい。
ラグはそのまま動かず、じっとリングマを見る。リングマは余裕綽々で、笑みを浮かべていた。自分の背後には出入口があり、リングマの背後には吹きさらしとなった本来壁であるはずの空間。ラグを退かすのか、背後から飛び降りるのかの二択である。ラグの勘では十中八九、飛び降りると予測していた。そして、自分達をどう殺そうとしているのかも大体予測している。いつでも対処出来るよう、周りに注意を払いつつ、ノイズの容態にも気を配っていた。
リングマはラグの予想通り、ここから飛び降りるらしい。背を向けることはせず、後退りでラグとの距離を取っていく。
「……簡単にやり過ごせたと思うなよ。俺はお前のことを追いかけて、殺してやるから。今は精々、優越感にでも浸ってな」
「ほう? まあ、出来るもんならやってみな。『疾風の銃士』」
落ちるギリギリノところまで来たところで、どこからか取り出したスイッチを躊躇なく押した。そして、そのまま下に落ちる。同時にラグはノイズの元へと走り出し、ヘラに連絡を入れた。
「目標、三階から飛び降り、この場から脱出しました。追跡は断念します」
『うんうん。いいよ。こっちで追跡するからね。ところで、ノイズくんは大丈夫?』
ヘラに言われ、ざっと確認をする。遠目からでもかなり酷い怪我であることは分かっていたが、近くで見ると、それは確信を持てるほどであった。浅く短い呼吸を繰り返し、じわじわと出血もして止まる様子はない。
「……ほっとけば、死ぬとは思いますけど。あと、数分もしない内にここも爆破されるでしょうから、俺も離脱します」
『それじゃあ、悠長に話している暇はないね。また後で連絡をしよう』
「了解」
ぷつりと通信が切れると、ラグはノイズを背負い、半ば飛び降りるように二階へと降りる。データのコピー、解析に道具を置いてきたからだ。監視室に入り、手早く片付けると電源の入った画面を見る。本来なら情報が他に漏れないようにデータ消去まで行うのだが、生憎、今回はそんな時間は残されていない。だから、今回に限っては荒手な方法で済ませることにしたのだ。
バッグから火薬の詰まった爆弾をいくつか取り出すと、その場で適当にばらまいた。仮に残っていたとしても、後日ここに来ればいいと思っていた。まあ、出来れば木っ端微塵になくなってくれた方がありがたいのだが。
ふと、リングマの設置した爆弾はどれくらいの時間が残されているのか気になってきた。ラグの見立ててでは、三分以内であろうと思っている。それくらいあれば、リングマ自身も安全圏へ逃げられるはずであるからだ。
「……まあ、いいか。今は気にすることじゃない」
次に取り出したのは、脱出用の小型転送装置だった。ピンバッジサイズのそれをマントに着けると、同じ様に取り出したライターに火を着けた。
のんびりとリングマの爆発を待つ気はなかった。ライターの火が着いた状態で宙に放るとラグは転送装置を使って、その場から離脱をする。
ラグは転送される直前、遠くの方で爆発音を聞いた気がした。



~あとがき~
ノイズ、生きてるかなぁ……

次回、ラグは無事、脱出出来たのだろうか……!?

ラグの持つバッグは四次元バッグです。……何でも入ってますよ。重くはないんでしょうかね?

あー特に話題もない……(´・ω・`)

ではでは。

last soul 第35話

《この物語には死ネタ、暴力表現等の描写があります。閲覧する際はご注意ください》





~抗う思い~


「出てこいよ。少しずついたぶってやるから」
「……あいつ、俺っちを殺したいのか、いじめたいのかはっきりして欲しいんだけど。どういうスタンスだよ」
ノイズは辺りを再度、見渡した。近くに武器になりそうなものがないか確認するためだ。しかし、周りは石ばかり。あの巨体に投げても、痛くも痒くもないだろう。
「……武器探したいけど、こっから出ないと見つかんないか」
少しだけ顔を覗かせると、嫌らしい笑顔を浮かべたリングマがそこにいた。距離はあるために気付いてはいないらしいが、完全に勝ち誇っている顔である。その顔が無性に腹が立つ。
「走んのしんどいけど、いくかぁ……」
何度か深呼吸をして、一気に走り出した。リングマはいきなりノイズが出てくるとは思わなかったらしく、対応が遅れている。この隙にリングマの後ろへと辿り着いた。そして、リングマの腰にベルトが巻かれており、剣を見つける。リングマからすればそれは短剣サイズだが、ノイズからすれば長剣である。ノイズには少し大きく感じるものの、形振り構っていられない事態だ。ベルトから素早く長剣を鞘ごと外し、剣を抜く。ずしりと手に乗る重さ。最近は剣を握る機会もなく、これは久し振りの感覚だった。
「んぅ……やっぱ、ちょっと重いなぁ……ま、何もないよりはいい」
引きずるとまではいかないものの、それなりの重さはあり、両手でしっかりと構えなければバランスが取れなくなりそうだ。
「テメェ……!」
「こっちだって、ブラックに所属する暗殺者。ただただやられるだけだと思わないことだね。過去の因縁だか知らねぇが、巻き込むんじゃないよ。……あんたらの過去に興味はない」
体重を落として、腕を引いた突きの構えをする。なるべく、無駄に体力を使いたくない。そして、倒すと言うよりは、逃げるための時間稼ぎが目的である。希望を言えば倒せた方がいいが、それは今のノイズからすれば高望みというものであった。
何か言いたげのリングマに隙を与えるようなことはせず、ノイズは警戒を解くことなく続けた。
「あんたらのやることは、見過ごせないものであった。だから、こっちに殺しの依頼として仕事がきたんだ。ってことだから、非があるならそっちだよ」
「……そうやって、自分達のやって来たことを正当化してんのか。あぁ? それで何もかも許されるとでも!?」
「そんなこと言われても、ろくな死に方はしないとしか言えないな。それに、許してくれなんて言ってないし、許されたいなんて思ってもない」
どんな悪人にだって、家族はいて血の繋がりだけでなく、繋がりを求めた人の輪もある。そんな人達から誰かを勝手に奪っていることは重々承知である。承知の上で、この仕事を続けてきたのだ。苦しくても、辛くても、理解出来なくても、やってきた。
だから、ノイズは許してくれなどとは思わない。救われたいとも、この苦しみから解かれたいなどとも考えていない。それがせめて、自分に出来ることだと思っているからであった。
そんなノイズの言葉に怒らないはずがなく、リングマは武器を構え、ノイズを本気で殺そうと襲いかかってくる。感情に任せているせいか、軌道はバレバレなのだが、それを上手く流すことは今のノイズには出来なかった。しかし、当たらないように最低限の防御はしていたが、防御をする度、剣を振るう度に体のあちこちが痛み、視界が眩む。それでも、気力だけでなんとか意識を保ち、昔の感覚を引っ張り出して経験と勘だけでこの場をしのぐ。
「あーあー……どうせ死ぬなら、楽に死にたかったですよぉ……?」
冗談めいたことを呟いてみても、これが本音であることは本人がよく分かっている。
リングマの構えた銃に反応しようとしても、体は動かなくなっていて、意識も朦朧とし、ぼんやりと銃口を見ていた。誰も知らないこの場所で自分はきっと死ぬのだろうと。色々心残りはあるものの、ここまで生きた方であったなと。
そして、ノイズはゆっくりと目を閉じたのだ。その閉じた先に、見えるはずのない恋人の影を見つめていた。

ラグの耳に何度か乾いた音が聞こえていた。空気の震え、微かに臭う火薬。戦場の中で研ぎ澄まされた感覚が言うのだ。急がなければ、取り返しがつかないことになる、と。しかし、そんな頭の警報を無視し、目の前の画面に神経を注いでいた。
今、彼がいるのは二階の監視室。以前は一階にあったはずだが、なぜか現在は二階に移されたようだった。しかしまあ、ラグにとっては監視室が移された理由などどうでもいいのだが。
画面に映るのは監視カメラの映像ではなく、この組織が他とやり取りしたであろうデータだった。ラグはそれのコピーと解析をしている。
「馬鹿だと思っていたが、そうじゃないらしい」
複数の組織とのやり取りを見て、単純にそう感じた。ただの復讐のために人を集め、悪さをしていた訳ではないようだった。無論、行っていた内容は褒められたものではないが、復讐以外にも色々手を出していたのが読み取れる。
「普通に悪いこともしてて、復讐も遂げてやろうって魂胆だったってことか。半分は知らない名前だが……それなりに大きな組織の名前も……ふうん?」
ざっと目を通し、必要なことは頭に入れる。そして、コピー、解析に必要な道具類をその場に置いて、部屋を出た。本来なら終わるまで待つか、誰かに見てもらうのだが、今回は破壊される心配はない。破壊しようとする相手がいないからだ。
三階へと続く階段を上りノイズと敵がいるであろう扉を目の前にして、昔の記憶が頭を過る。しかし、深く考えることはしない。考えたところでどうにかなるわけでもないし、過去は過去。変えることは出来ないのだ。
普段なら周りを警戒し、中の様子や状況を把握するところである。が、その必要はないと判断し、力任せに扉を蹴り飛ばした。



~あとがき~
ノイズの場面多めになりました。ラグは思ったより焦ってなかったな……

次回、敵地に乗り込んだラグが見たものは……?

ノイズ、戦えない体に鞭打って頑張ってましたね。それなのにラグはのんびりと……いや、まあのんびりはしてないと思いますが、いつも通りに仕事をしている感じですかね。描写はしませんでしたが、アジト(?)にいたボス以外の雑魚さんはラグの手によってさよならしました。

ではでは。

last soul 第34話

《この物語には死ネタ、暴力表現等の描写があります。閲覧する際にはご注意ください》





~抵抗する意思を~


ヘラに言われるがままに最短距離で目的地へと向かう。そこは道らしき道はなく、日も沈んでしまう時間帯では足元も周りも見通しが悪い。そんな状態にも関わらず、ラグはスピードを落とすことなく奥へと進んでいくと、目の前に壊れかけた建物が見えてきた。
「ひっさしぶりだな……」
バッグの中に入れておいた携帯を確認すると、紅火から連絡が来ていて、ある場所に印がしてある地図が添付されていた。その印は今、ラグが来ていた場所である。
『どうやら、場所は正解だったみたいだね? さて、どうやって突入するんだい。君が望むなら、絶好の狙撃ポイントまで道案内するけど?』
「狙撃? なんで俺がそんなまどろっこしい真似するんです。今は俺一人ですよ。正面突破以外あり得ません」
『君の狙撃の腕を生かさないと意味ないよって話なんだけどなぁ……まあ、いいや。近距離戦が得意なのも知っているし、好きにするといいよ』
これ以降、ヘラの声は聞こえなくなった。あちら側が通信を切ったのかもしれない。あるいは、喋るのを止めただけなのか。どっちにしろ、ラグのやることは一つだった。バッグから刀とそれを装備するためのベルトを取り出して、装備をする。ついでに脇差も同じ様に装備した。理由は特になかったが、強いて言うなら手に取ったらそれだっただけである。広く武器を扱えるラグだからこそ、適当に取った武器でも簡単に扱えてしまう。そして、廃墟を見つめながら、思考を働かせていく。
紅火があらかた片付けたのだから、この場に残っているのは少ないだろう。その証拠に場はしんと静まり返っていた。過去の記憶が正しければ、元々そこまで大きくない組織だったはずなのだ。それを今も細々と続けていたのなら、大した人数も抱えていないだろう。あるいは、他の小規模組織と手を組んだ可能性もある。が、それにしたって、ラグにとって些細な問題にすぎない。巨大な組織も一人でいくつも潰してきたのだ。今更、怖気づく必要もない。
「……さて、お手並み拝見……ってね」
一応、入口から中の様子を窺う。もう日が完全に沈んでしまって明かりもない状態だ。そして、一階に人の気配は感じられなかった。気配を殺している可能性もあるが、ラグに感じ取れないほど手慣れた者がここにいるとは思えなかった。
「……敵がいるとしたら、二階からだな」
この建物は三階まであり、前は一番上にボスの部屋があった。例の爆発事件のせいで今は三階あるはずの屋根は全てなくなっているし、部屋も半分ほど崩壊している。被害が少なくすんだのは、ここが木造ではなく、鉄筋で骨組みしてあるコンクリートの建物のお陰だろう。
「さくっと雑魚は倒して、ボス部屋に突入するか」
バッグに左手を突っ込み、用心のために拳銃を取り出す。そして、一気に走り出した。感覚を研ぎ澄ませ、この場にいる敵を一人残らず、狩り尽くすために。

ノイズはゆっくりと目を開ける。どれだけ気を失っていたのかと記憶を辿ってみるが、こんなことをしても意味がないことは理解していた。次に状況整理を行う。自分が床に転がって、少し離れたところに襲ってきたと思われる相手がいた。周りが暗いことと、暴力を振るわれたせいで視界がぼやけている今の状態では誰とは判別出来なかった。出来なかったが、この手口には心当たりがあった。
過去にノイズのことを殺そうと躍起になっていた奴がいたのだ。過去の因縁がどうのとか、ノイズからしてみれば、下らない理由なのだが相手からしてみれば、下らなくないのだろう。
「っはぁ……あー……あぁ、声は出んのね」
ノルンの墓参りに来ていたはずなのだが、背後から殴られ、抵抗しようとしたが十年以上現場に出ていないブランクと怪我のせいで上手く体が動いてくれなかったのだ。感覚や勘は暗殺者として当時のままなのに、体がついてこないのであれば宝の持ち腐れだ。意味がない。
これじゃあ、守られるお姫様だななどと呑気に考えているとノイズの声に気付いたらしく、拐った犯人が近付いてきた。
「殴りすぎて、死んじまったかと思ったぜ」
「それがお望みなんじゃないの……? つーか、誰だっけ、あんた」
この言葉に苛立ちを覚えたのか、相手はノイズの耳を引っ張り、無理矢理体を持ち上げた。
「いっつ」
「この顔を忘れたとは言わせねぇぞ」
「いや、この状況で、見ろって言われても……見たところで、覚えてないけど」
何も覚えていないわけではないが、名前とか所属している組織の名前とかそういうことを覚えていないだけだ。
「こっちはずっとお前を殺すことだけを考えてたってのに、その程度かよ」
「いやぁ……恨みは買う職業だけどさ……こっちはどれだけの相手してきたと思ってる? 一人一人いちいち気にしてらんないんだよな」
「馬鹿にしてんじゃねぇぞ!」
声を荒らげてノイズのことを力任せに投げ飛ばした。受け身を取るものの、強く壁に打ち付けられる。殴られ過ぎて、全身が痛いために今更新たな傷みを引き起こされても、気にもならなかった。ゆっくりと体を起こして、敵の姿を捉える。
相手は自分より何倍もあるリングマだった。ノイズの言葉に怒りを覚えているらしいことは、見ただけではっきりと分かった。投げ飛ばすだけでは怒りが収まらないのだろう。大きな図体で、拳銃を構えているのが見え、慌てて瓦礫の影に向かって走る。銃弾がいくつもノイズの後ろを掠めるのを感じた。それで相手が狙って撃っていないことが分かる。狙おうと思えば、余程のノーコンでない限りは当てることが出来る距離だ。それなのに全てノイズの後を追うように撃っている。ノイズが瓦礫の影に隠れると、銃弾の雨は止んだ。
「くそ……おちょくりやがって。別に忘れてないよ。お前がノルンのこと殺したことくらい……忘れられるか」
とはいえ、今のノイズに抗う力はなく、武器も手元にない。以前はある程度の体術も心得ていたものだが、今は使うことは出来ないのだ。そもそも、体格差がありすぎて相手に効く気がしない。
「うへぇ……技で対抗?……いや、ちょっとしんどいんだよな。大体、バトル自体がしんどい……どうすれば抜け出せる……?」
辺りを見渡せば天井はなく、一部壁もないところがある。そこから飛び降りれば、外には出れるはずだ。出ることは出来るが、その後はどうすればいいのだろう。ノイズの記憶通りならここは三階。受け身を取ったところで、すぐに立ち上がって逃げられる気がしない。
「うぅ……手立てない。……ラグ辺りが気付かないかな。一人じゃ辛い……戦いたくもない。けど」
このままじっとしていては、やられるだけだ。何かしなければならない。抵抗しなければ、待つのは死のみ。それはノイズが一番分かっていた。
「……死なない程度に、頑張るか……うん」



~あとがき~
なんか、小説に出てくるの久し振りだね、ノイズ。

次回、抵抗することに決めたノイズと助けに向かうラグ……です!

ラグはなんでも出来るので、武器の良し悪しで選びはしません。出してそれだったから使う程度の認識です。チーム戦では狙撃手として、後方支援がメインとなりますが、一人で出たときは前線に出て近距離戦になります。

プロフで言った気もしますが、ノイズは戦えません。全くとは言いませんが、まあ、戦力外なんです。武器あっても大して変わらないと思うんですが……まあ、頑張ると思いますよ。

ではでは。