鈴鳴カフェ

ポケモンの二次創作とオリキャラの小説を連載しています。

last soul 第12話

《この物語には死ネタ、暴力表現等の描写があります。閲覧の際はご注意ください》





~お買い物終了しました~


私が先に買って外に出てきた。お店を出ても、やはり沢山の人が並んでいた。今日、平日だったはずなのだが、この人の多さは異常な気もする。もしかすると、新しいケーキでも売っていたのだろうか? まあ、来たことがないから、知らないし確かめようがないけれど。
「平日だから、コウくんは学校かな。……そいや、リアルくんたちって学校行ってるのかな」
リアルくんは私とそこまで歳が変わらないように見えたが、シリアちゃんは私より年下だろう。それなら、学校へ行っているはず。しかし、ギルドにいるということは、私と同い年?
この国では、中学まで学校へ行けば、基本的に成人したと見なされ、仕事をすることが出来る。学歴が関係する仕事もあるが、普通は差額も大して変わらない。
もちろん、進学という手もあるが、それなりに勉強出来るお方でないと進むことは出来ない。私も一時期、進学という道に憧れを抱いていた頃はあった。が、学力的に無理だったため、今こうして働いている。
………あれ? これ、働いていると言えるのか?
しかしまあ、こんな制度が出来たのもつい最近だとか。私より年上……先輩より上の人達は学校すら通ってなかったと聞く。まあ、義務づけていなかっただけで、学校はあったから、勉強していた人はしていただろうし、出来る人は出来る。これが世の中なんだろう。……うん。
「なんで私の頃になったら、制度が変わったんだろ」
学力低下だろ。普通に考えて」
「!? せ…先輩……驚かさないでくださいよ。ビックリしました」
先輩の買い物が終わったのだろう。お店から出てきた先輩が私の横を通りすぎ、そのままギルドに向かおうとした。私は慌ててそのあとを追う。
「待ってくださいよ! というか、私の言葉は無視なんですか?」
「じゃあ、答えるけど、一人言言ってる方がビックリするし、怖いからな」
「う……だって、平日だなって思って、コウくんは学校だろうなって思ってたら……つい。……やっぱり、先輩、学校には通って…」
「通ってたわけねぇだろ、馬鹿」
ですよね。十年以上この仕事をやってるって言ってたもん。行ってるわけがない。
「あれ? それだと、先輩ってどこで勉強したんですか? してない……わけないですよね」
「周りに年上しかいなかったし、それにメイズさんいたしな。あの人から教えてもらってた。メイズさん、学校通ってたって聞くし」
おじさん、流石……
私の脳内で笑顔を浮かべるおじさんの顔が浮かんだ。侮れないな……おじさん。
「だから、生活する分には困らない程度の知識はある。……お前より頭はいいと自負してる」
「否定出来ない自分がいる……なんかそんな感じするもん。先輩ってIQいくつですかね」
「知らね」
そりゃそうだ。
しかし、おじさんの次に頭いいとしても、それでもかなり高い数値を指すのではないだろうか。まあ、この仕事でも色々あるんだろうし、それなりの柔軟な発想とやらが必要なのか。
私に柔軟な発想なんてないんですけど……
そんなことを考えていると、先輩が何かに気づいたような声を出し、その場に立ち止まった。それにあわせて、私も立ち止まり、先輩を見る。
「………あ、寄るとこあったの忘れてた。先、ギルド行ってろ」
「はい、わかりまし………って、私、どうやってギルドに入ればいいんですか?」
確か、地下のあそこに行くためには、パスワードと登録が必要だったはず。今まではコウくんやおばさんに開けてもらってたけれど……
「あ? まだ登録してなかったの? あ~……今の時間だと資料室にノイズさんいると思うから、開けてもらうついでに登録してもらえ。俺から連絡いれとく」
「あっ…はい! それじゃあ、ギルドで♪」
先輩は軽く片手を上げ、くるりと後ろを向き、歩いて行ってしまった。先輩の用事がなんなのか気になるところだが、深く追求するとまた睨まれるだろう。
よし、帰ろう!

ギルドに着き、先輩に言われた通りに資料室へと向かった。相変わらず人は少なく、多くの書物が綺麗に本棚に仕舞われている。こんな所だからか、自然と音をたてないように行動してしまう。といっても、入り口からほぼ動いていない。しかし、ここから見る限りノイズさんの姿は見えなかった。
本当は控えるべきなんだろうけれど、少しくらい声出してもいいよね……?
「えっと……ノイズさーん? い、いますか~?」
「ん………あ、ここだよ。サファ」
奥の本棚からひょこっと顔を覗かせたノイズさんが手を振ってきた。思ったより声量が大きくて驚いたのは、内緒の方向でいこう。
「お使いご苦労様。それでお目当てのは買えたの?」
「あ、はい! 途中で先輩見つけて、一緒に買いに行ってきましたよ♪」
「へぇ……ラグが女の子と買い物ね。というか、よく引っ張ってこれたな。嫌がってなかった?」
ノイズさんの質問に先輩と出会した場面を思い出してみた。あのときは、たまたま出会えたからだったが、確かに一緒に行こうと提案したときは、これ以上ないくらいに睨まれた。が、めげずに頼み込んだら先輩の方が折れ、今に至る。
結論、滅茶苦茶嫌がってました。はい。
「そうですね、嫌がられました。けど、頑張って頼んだら、渋々って感じでついてきてくれましたよ」
「ふーん。ラグって強引な人には押し負けるのか。……よくよく考えると、紅珠の押しにも弱いか。あ、けど、紅珠の押しに負けないやつとかいないから、比べようがないや」
おばさんの押し……まあ、マスターって立場も左右しているような気もしますが。
「んー……それもあるだろうな。けど、昔から気が強かったからね、紅珠。だから押しが強いのも昔から」
そう言えば、先輩がおばさんやノイズさん達が昔からの仲だったって聞いたっけ。
「さて。無駄話はここらへんで止めにして、ラグの言われた通りにしますかね~」
ノイズさんは手に持っていた本を本棚に戻すと、行こうか、と促した。私はそれに従い、資料室を出る。そして、ノイズさんを先頭に大分慣れてきた地下へと続く廊下を歩く。
「そいや、なんでサファって名前にしたの? 自分で考えたの?」
ギルドメンバーにはサファという名前を伝えただけで、他のことは全く教えていなかった。ここに来て聞かれるとは思っていなかったな。
「先輩が考えてくれたんです。目の色がサファイアみたいだからって」
「うわ~……ラグにしてはロマンチックなことを言うね。まあ、確かにそうだと思うけどさ」
「そ、そうですか?」
「まあね。けど、そうか……ラグがな」
どこかしみじみとしているノイズさん。そんなノイズさんの様子に私は首をかしげる
「………あ、着いた。ちょっと待っててな」
「あ、はい!」
部屋へと繋がる扉の前に着いたようだ。さて、買ったケーキを冷蔵庫に入れて、登録してもらって……で、何するんだろう。食べるの?
ま、いっか。



~あとがき~
食べられませんでした。
食べたかったです。……いや、食べさせたかったって言うのか? まあ、どっちでもいいんですが、やっぱり予定を飛ばしましたね。あれ、あてになりませんね! 私が言うのもあれなんだけどね! ごめんなさい。あれ、信用度低いんですよ。はい。

次回、食べ……………られないと思う。
登録して、ちょっと話してラグに視点置いたら終わる。多分。変わるかもしれないけど。

学校ってポケモンに必要あるんでしょうかね。
いや、わかんないんですけどね。
まあー……ラグとサファで制度が違うんですよってことで。え、頭のよさ? もちろん、ラグの方が上だよ!
サファは中の下ってところだろうか。
現在、ブラックのメンバーの平均年齢は結構低いです。
上は三十代。下で十代です。一番低いのは、紅火とシリア。次にリアル、サファ……までが十代ですね。二十代はラグだけで、三十代は残りのメンバーってことになる。
え、絵で見ると皆同じに見える?
…………うん、ごめんなさい。でもそういうことなのね。はい。
詳しい年齢はプロフを近々出すので、それを見てくれればありがたいです! はい。

最近、挿し絵を描くのが面倒になってきた……というか、なんも思いつかないんで、ないだけなんですけどね(笑)
また思いついたら描き始めまーす……ぶっちゃけ、ない方が進むんだけどね。当たり前か。

ではでは!

last soul 第11話

《この物語には死ネタ、暴力表現等の描写があります。閲覧の際はご注意ください》





~好きなものを目の前にすると、テンション上がるよね~


心のなかで私が気合いを入れ直していると、先輩がじっと私のことを見つめてきて、困ったような表情をした。
「急に意気込むお前、怖いんだけど」
先輩、ひどいです。まあ、一人で決意していただけだし、別にいいけどね……いいけどねっ!!
「そんで? 他は?」
「ギルドの寮のこと聞きたいです」
「特別なことはなんもねぇよ? 男女別になってて、共同スペースがあるだけだ。……当たり前だが、金は払ってるからな」
「そこにいる人達って遠いところから来てるってことですかね?」
「それが一番の理由なんじゃねぇかな。あとは近いからって理由とか? 家賃を払える奴なら、いい場所だと思うぜ。個室はともかく、寮の掃除は勝手にやってくれるしな」
私はおばさんのところから通えるから、縁のない話だけれども、出稼ぎに来ている人にはありがたい話なのかもしれない。家賃がいくらなのかは気になるところだけれど。
そう思い、先輩に聞いてみると、ふむ、と少し悩む仕草をする。そういう仕草をしている先輩が少しカッコいいな、と思ってしまう。
……何考えてんだか。私は。
「家賃か……部屋の場所や広さや設備によるけど、安くて六、七万じゃねぇかな? 俺んとこは軽く十五万は越えてるんじゃねぇの」
「!? たっか! どんな部屋ですか!!」
「あ? 普通だよ? リビングあってキッチンあってって感じの。一応、風呂とかもあるけど、大浴場行っちゃうな」
普通のマンション並みじゃないですか……! 一人暮らしなのにそんないいとこ住んでるんですね。先輩、滅茶苦茶稼いでる人みたい……
「…………馬鹿にしてんの?」
「いえいえ……全く。そういえば、裏のお仕事ってそれなりに稼げるんですよね」
「命かけてるから」
………ですよね。それなりの報酬っていうのがありますよね。どれくらいっていうのは、聞かないでおこうかな。じゃあ、他に聞きたいこと……
「先輩っていつからギルドにいるんですか?」
「知らなくていい」
ピシャリと即答され、私から目線を外した。完全に踏んではいけない地雷のスイッチを入れた気分だ。気まずい雰囲気が流れる。
……聞いちゃ駄目なとこだったのか。やっちゃった。
「ご…ごめんなさい……」
私は俯きつつ、謝るが、先輩から言葉が発せられることはなく、沈黙が続く。先輩を見ることが出来ず、地面を見た。
そりゃ、むやみに過去を詮索するようなことされたら嫌になりますよね。……私のバカァァァァ……
「…………あーもう。拾われたんだよ」
「ふへ……?」
我ながら、間抜けな返事を返したと思う。先輩は私と目を合わすことはせず、淡々と続けていく。
「衰弱してたとこを師匠に拾われた。んで、色々あって、かれこれ十年以上、この仕事をやってんの。はい、終わり」
「じゅ…じゅーねん……」
「そっちから聞いといて呆然とするなよ。他の人が見てるぞ、恥ずかしい」
先輩に突っ込まれ、顔が赤くなるのを感じた。なんとか平常心を保とうとするが、どうしたら元に戻るのか全くわからない。どうしよう。
「………変なやつ」
「へ…変じゃないですよ!」
「挙動不審」
「これは先輩が変なこと言うからで…」
「本当のこと言ってるだけだ。お前と行動してると、命取りだな」
駄目だ……勝てる気がしない。確かに原因を作ったのは私だし、挙動不審になっているのも事実。
いつかどうにか負かせる日が来るのだろうか……?
「次でお待ちのお客様、店内へどうぞ」
どうやら、話をしている間に順番がきていたようだ。今の先輩とのやり取り、聞かれてはいないだろうか。心配にはなるが、まあ、聞かれたところで困ることもない。少し恥ずかしさが残るだけだ。
「先輩、行きましょ」
「おう」
さっきまでの言い合いはなんだったんだろう、と思うくらい普通に返事をされた。もしかして、遊ばれていた?
「…………サファ?」
「いえ、なんでもないです!」
あぁ……絶対遊ばれていたな。泣きたい。
しかし、こんなところで泣くわけにもいかないため、黙って店内へ入る。店内の内装は、可愛らしい感じだが、特別珍しいものが目に入るわけでもなかった。目の前にあるショーケースには、色とりどりのケーキが綺麗に並べてある。
先輩みたいに大好きってわけじゃないけど、凄く美味しそうなケーキがたくさんある……! まあ、今回の目的はロールケーキだけなんだけどね。
「先輩、どれですか……あれ、先輩?」
「流石……朝から並んで入ると種類豊富…」
つまりは、お昼とか夕方とかは売り切れていて買えないときもあるってことか。というか、ここにきて、言葉足らずになってきてるよ、先輩。
先程まで冷めた目をしていた先輩だったが、多くのケーキを目の前にして、目を輝かせている。まるで、新しいおもちゃを与えられた子供のようだ。そこまで嬉しいものなのだろうか。私には理解しがたいことだが、先輩にとっては、心踊らせるには十分なのだろう。
とりあえず、ショーケースを眺めている先輩は、ほっといてロールケーキを見てみるか。
フルーツと木の実とチョコと抹茶……と普通のか。ロールケーキだけでこんなに種類あるんだな。これ全部買えって言われることはないだろうけど、どれがいいんだろう? 無難に普通のやつ?
「ロールケーキ、どれにするんですか? 私に任せると、普通の選びますけ………あれ? どこ行った?」
私の隣でショーケース見ていたはずの先輩がいなくなっている。あれ? 置いてかれたの、私の方? いやいやいや! おかしくない!? 勝手に引っ張って来たのは私だけれど、黙って行くのは男の人としてどうなの!
「サファ、うるさい。何?」
「うわあ!? ビックリしたぁ……いつの間に後ろに」
「ロールケーキ見始めた辺りから」
かなり始めの方じゃないですか……
気配もなく後ろに回り込むなんて、仕事の影響か何かとしか思えない。いや、実際にそうなのだろうけれども。
「どれがいいんですかね」
「迷うこと言うな……けど、ここ、木の実のロールケーキが一番美味しいんだよ」
「へぇ……フルーツと何がちが………いや! すいません!! 愚問でしたね!」
キッと睨んできた先輩を慌ててなだめる。豹変しすぎだと思うのだが、それほど好きってことなんだろう。今度から気を付けよう。
まあ、木の実だから、モモンとかオレンとかそういうのだよね! うん! けど、フルーツも広く見て木の実の部類だと思うんだ……私。
「じゃ…じゃあ、私、それを買ってきますね? 先に出てますか?」
「いや、俺も何か買うから、先行け」
ロールケーキを私に買わせて、更に別の買うんかい。ロールケーキは約束だとしても、必要か? ピースのやつを買うんだろうけれど、それは今、必要なのか……?
「………これも愚問か」
ここは素直に先に買って、待っていよう。よし、そうしよう。これ以上、変なことを言って、場の雰囲気を壊すのは防がなければ。



~あとがき~
ケーキ買うだけでここまでくるか、普通。
まあ、いいんですけどね~

次回、ケーキ食べたい。

ラグ、いいとこ住んでますよね。
二十歳の一人暮らしだからね? 十五万越えですからね。どんだけ稼いでるねんってね。
いやまあ……百万単位なんだろうが……多分。
でも、十五万って、なかなかの広さだと思う。いや、狙ってるけど。
一人で住むには広すぎると思うんだけど、ラグのことだから、寝室とリビングと仕事部屋みたいに分けてるんじゃないかな。

ラグの過去を少し公開しました。
本人的に言いたくないことではありますが、言っても問題はないようですね。
つまるところ、ロスは兄でもあり、師匠でもあり、恩人でもあるってことになります。なんかいいところを全てかっさらったみたいになってますが……
そういった意味では、ラグはロスに逆らえないような気もする。

あとは、ケーキとか甘いものが沢山あったら、ラグの性格変わります。変わりますって言うか、目が輝きます。
性格は大して変わってないけど、態度が変わる。
イメージ崩壊って感じですね(笑)
クールなんだけど、そういうはっちゃけポイントも必要だと思うんです。はい。
そう思った結果が今回のあれだからね。
うん、微妙!

ではでは!

last soul 第10話

《この物語には死ネタ、暴力表現等の描写があります。閲覧の際はご注意ください》





~一人より二人だと思いました~


「ふあぁぁぁ……こんなに人多いもんなんですかぁ……聞いてませんよ。でもそれだけ人気店ってことか」
「ちょっと待て。なんで俺まで引っ張ってきやがった。今日、行くとこあったんだけど?」
「でもでも、暇だよぉぉぉ」
「…………話を聞け! この馬鹿女!!」
「きゃあぁぁぁぁぁ?!」
横にいたラグ先輩の見事なチョップを食らい、私は思わず悲鳴を上げる。その声に周りの人が一斉に振り返った。しかし、そんなことを気にしている場合じゃない。
「うぐぐ……痛いじゃないですか! 私、女の子ですよ? レディーなんです!」
「知るか。俺の話を聞かないお前が悪い」
「…………う」
私と先輩は今、昨日言っていた洋菓子店に並んでいる。一応、開店前から並んでいるのだが、私達が来る前からずらりと並んでいた。
平日だし、少ないと思っていたのだが、ここまでとは思ってもみなかった。更に私達の後ろにも列が出来ているのだから、驚きだ。
「当たり前だ。滅茶苦茶人気だからな。休日はもっとヤバイけど」
そりゃ……そうですよね。
「で、ロールケーキでしたっけ? でも、ロールケーキとかどこの食べても同じなのでは……?」
「…………わかってねぇな。ロールケーキ作んの大変なんだぞ? 力の入れ具合とか、クリームとのバランスとか…」
そんなん知らないですよ。美味しければどこだっておんなじですもん……
私がそう言うと、先輩はため息をつき、憐れむような目でこちらを見てきた。意味がわからず、私は首をかしげる
「悲しい奴だな。………そのまま大人になって死んでくんだろ。悲しいことだよ」
「あっれぇ!? こだわらないだけでここまで言われるの!?」
私の突っ込みに先輩は反応を見せず、私のことを見ることもしなかった。なんか悲しい……
先輩は首にスカーフを巻いておらず、代わりに耳に巻いていた。そしてゴーグルを首にかけ、ブーツは履いているものの、手袋はなし。完全に休日スタイルというか……ギルドに行く気ないのかって感じである。
というか、会ってよくよく聞いてみると、全く行く気がなかったらしく、午前中はギルドの寮に籠るつもりだったらしい。しかし、用事があって外に出てきたところを私に捕まえられた……ということ。
で、今に至る。
その話を聞いて、まず寮なんてあったんだな、と思ってしまった。あとで聞いてみよう。
「大体、先輩がどんなの食べたいか知らないんですもん。私、ここに来るの初めてだし」
「うわ。人生損してる」
「すいませーん……そこまで重要でしょうか?」
「語ってやってもいいが」
「話長そうなんで、また今度聞きます。そんなことより、私、聞きたいこといっぱいあるんですよ! ここで聞いてもいいですか?」
「…………ここで話せることなら」
先輩、嫌々って感じだが、私の要望は聞いてくれるようだ。そこは大人の対応ってことなのだろう。
それでは、お言葉に甘えて色々質問させてもらおう。この前、教えてもらったけれど、他にも知りたいことは多い。
「ギルド入ったときに証明証を貰ったじゃないですか。結局、これって、何なんですかね?」
「読んで字の如くですが」
………いや、そうなんですけどね? そういうことではなくて。
「基本的にはギルドに加盟しているっていう証明。……他には裏のをやってるっていうのもあるし、身分証にもなる。それがあれば、大抵のことは許されるぞ? 入れないようなところに侵入したりとか、極秘資料を見られたりとか」
これ、そんなに凄いんですね……
私は首にかけてあるペンダントのような証明証を掴んだ。同時にお守り代わりのペンダントが揺れる。二つもつけているのは邪魔かな、とも思うのだが、外すことはしたくはない。
これは両親と唯一繋がっていられるものだから。
「…………サファ?」
「ふぁいっ!? なんですか?」
「何か暗いというか辛そうというか……そんな顔してるから。……大丈夫か?」
「大丈夫ですよ! ちょっと思い出に浸ってただけなんで……というか、先輩、心配してくれたんですか?」
「お前に何かあったら、紅珠さんとメイズさん……ついでに紅火に殺されるのは俺だ」
あぁ……そうかもしれない。
そういえば、おじさん、先輩と面識あるってことを言っていたような……いなかったような。でも、先輩からおじさんの名前が出てくるってことは、会ったことあるってことだろうか。
「メイズさんとは面識あるよ。……というか、俺の先輩だし……メイズさん」
「……………えっ?」
「今は引退してるけど、メイズさんもバリバリのやり手だったからな。いや~……強かった強かった。ランク試験は面倒だからって最後のやつは受けなかったけど」
最後のやつ、ということは、始末屋ランクに上がるかどうかの試験……ってことか。というか、試験なんかあるんだ。
試験受けなかった理由があれだけど。
「他に先輩って……?」
「俺が加入したときは、紅珠さんとメイズさん。あとはノイズさんにノルンさん。あと……師匠。その五人が入ってた」
ノルンさんと師匠って初耳です。
ノイズさんは先輩が敬語を使っている時点で何となく予想はしていた。それとおばさんもそうだろうな、と漠然と考えていた。そして、おじさんのことは今ここで聞いた。
残りの二人は初登場なんですけど……
「ノルンさんは今はいない。師匠…ロストさんは長期任務中で留守にしている」
そのノルンさんって人も引退したのかな。
つまり、今現役なのは……
「師匠と紅珠さんの二人。ノイズさんは実質上引退みたいなもんだしな。……あ、でも、紅珠さんも今は活動停止中みたいなもんだから、師匠だけかも」
うわあぁぁぁ……世代交代ってやつですか。
「いや、知らないけど。結局のところ、今ギルドにいて、何年もやってるのは俺だけになるのかな」
ふっと先輩の表情に影が落ちた気がした。私はそれを見て、今まで私と先輩とで生きてきた世界が違うことに、改めて気がついた。
先輩は色んな人の終わりを見てきたのだろうか。同じ仕事をしている人達はもちろん、殺した相手の終わりも数え切れないくらい見てきているんだろう。
そう思うと、切ないというか悲しくなってくる。
きっと、これからもこの先も。
「…………先輩、私、頑張りますね!!」
私が強くなって、先輩のそばにいてあげられたら。きっと、少しでも悲しい気持ちを分けられる。一人で悲しくなるより、二人の方がきっといい。
「? 急にどうしたんだよ。つか、何を頑張るわけ」
「色々ですよ♪」
何があっても大丈夫。
私は先輩のパートナーなんだからっ!



~あとがき~
次回も続きます~♪
まだケーキ買ってないですもんね!

次回、ラグさんの話が続きますよ。

新しい名前が出てきましたね。ノルンさんというらしい。種族とか性別とか、他の部分は不明ですがね。今はギルドにいないようです。
ま、これからの登場に期待だよ☆
ちなみに、ラグが入った頃のブラックの構成も公開されましたが、あれは幼馴染み組ですね。
紅珠、メイズ、ノイズ、ロスト、ノルンの五人組!
そこにラグが入ってくるんですね~

証明証の説明も簡単に入れさせていただきました。
他の使い方は大してないと思いますが、証明証がなければ、ギルド地下の部屋に入れません。あとパスワード。
まだサファは知りませんがね(笑)

ではでは!

last soul 第9話

《この物語には死ネタ、暴力表現等の描写があります。閲覧の際はご注意ください》





~名前決めってこんなに大変なんですか~


私がギルドに入って早一週間がたちました。
わからないことだらけですが、何とか毎日頑張っていまーす……
「頑張るのはいいから、名前決めろ、ボケ」
「思いつかないんですもん。先輩、呑気にプリン食べてないで助けてくださいよー」
先輩は私の助けに耳を貸す気もなく、プリンを口に運ぶ。私はそれを見て、机に突っ伏した。
先輩と初めて会った次の日、先輩は仕事でおらず、数日間ギルドにいなかった。そんな先輩は、昨日の夜帰ってきたらしく、私と顔を合わせたのは一週間振りとなる。
私は先輩と別行動していたことになるのだが、その期間、何をしていたか。
その答えは、先輩不在中(一日目)の時にさかのぼる必要がある。
私はおばさん…マスターに呼び出され、部屋へと入った。何を言われるのかと内心おどおどしていたのだが、マスターの口から放たれた言葉は、私の緊張を吹っ飛ばすものだった。
「シュラちゃん、仕事で使う名前を決めてくれる?」
「…………はえ?」
あのときは正直、間抜けな返事が飛び出した。今考えると、滅茶苦茶恥ずかしい。が、同時に気が抜けた。
ってことで、私は自分の名前を考えている………のだが、私はこういうものが苦手なのか、はたまた想像力がないのか、全くもって思いつかないのだった。
「そんなこんなで今日で六日目……」
「こんなんに約一週間かけるやつは初めて見たぞ。色んな意味で尊敬するよ」
それ、絶対嫌な方向で尊敬されてる……嫌だ。そんなの嫌だ。どうにかして払拭したい……
「だったら、さっさと決めろよ。こんなの適当でいいだろ。悩む要素はどこだ?」
「だって、ここで決めたやつは今後、それで呼ばれるんでしょう? その場のノリで変なのつけて、それで一生呼ばれるなんて……考えたくありません!」
「…………あ、そう」
私の熱のこもった思いをさらりと、無表情で一刀両断された。興味がないのか、疲れているのか一つ一つの発言にも感情がこもっていないような気もする。
「なあ、俺、帰っていい? 眠いんだけど」
「駄目ですー! 私と一緒に考えてください! 先輩は私のパートナーなんでしょう? こういうときこそ、助け合いですっ!」
「パートナーをいいように利用すんな、馬鹿。つか、これに助けるも何もないだろ」
うぐっ……それもそうなんですけど……はい。
「せっかくの休みをお前のためになんて使いたくねぇんだよ……勝手に呼び出しておいて、名前決めって……見返りもないしよ」
「み…見返りは考えますって!」
「期待出来なさそう」
「私のことを何だと思っているんですか? 私だっていいの考えられますよ。それとも、何かご希望でも?」
なぜだか、私の名前決めではなく、先輩への見返り品の話になっているが、気にしないでおこう。
「んー………じゃあ、ケーキ買ってこいよ」
「そこら辺のでいいんですか」
「馬鹿か。そんなんで満足するかっての」
「えー……他にありましたっけ? まさか、街のあそことか言いませんよね」
「わかってんじゃん」
街のあそこ、とは。この話で察してくれただろうが、街で人気の洋菓子店のことだ。開店近くなると行列が出来ることもあり、特にそこはロールケーキが美味しいとかなんとか……
「って! 並べってことですか!?」
「頑張ってね~♪ あそこ、美味しいじゃん」
「並んだことあるんですか?」
「あるよ。普通に」
「先輩一人で?」
「一人で」
……勇気あるな。この人。 
ケーキ屋さんに並ぶ先輩の姿を思い浮かべると、なくなないかな、とは思うが、異様な光景ではある。それとも、他人の目にはもっと違う感じで写っているのだろうか。
例えば、彼女のために買いにいく的な……
「彼女いそうだもんな……この人」
「あ? 何言ってんの」
「いえ、何でもないです……じゃあ、それで飲むんで、助けてくださいよ」
「どう助けろと」
そう言われると、思いつかない。どうしたものか。
「なんか思いつくもんないわけ? 別に生まれた子供に名前をつけろって言ってんじゃないんだからよ。意味とかどーでもいいんだよ」
「そりゃそうかもですけど……」
自分の仕事用を考えるのにここまでかかると、将来、子供を持ったときが恐ろしい。……なんやかんやで、タマゴが孵るまで悩み続けそう。
今、関係ないけれども。
「………他の人達には聞かなかったのか?」
「聞きましたよ。コウくんは今まで通り『姉ちゃん』呼びを変える気ないって言われたし」
「そら、そうなるな」
「シリアちゃんは思いつかないって言われて、リアルくんには会えてないし……」
「………ほう」
「ノイズさんは嬢ちゃんでいいとか、冗談言うし。おじさんはシュシュって呼んでるから、新しいの無理って言うし!」
「ノイズさんとメイズさん、考えるの面倒なんだろうな、多分」
「うわあぁぁぁぁん!! 私、どうしたらいいんですかぁぁ!! 先輩! もう私には先輩しかいません……助けてくださいよぉ」
私は身を乗りだし、涙目で訴えた。しかし、先輩は顔色一つ変えず、プリンを食べ続ける。
「私よりプリンなんですか……プリンの方が大切なんですか!?」
「少なくとも、お前の名前決めより大切」
先輩、酷いです。彼女とか出来ないタイプですよ。そんなにそっけないと、女の子に嫌われちゃいますよ。
「…………? 別に構わんが」
「うぅ……先輩のいけず」
目一杯皮肉を込めたつもりなのだが、先輩は気にすることなく、呑気なものだ。
私は実を再び机に突っ伏す。これじゃあ、振り出しに戻っただけ。
単純な名前でもいい、というのはわかっている。しかし、それが難しい。私が最初に思いついたのは、あお、だったが、それは嫌だった。理由として、この色で、体で、いい思いをしたことがないから。
いつだったか、昔、同い年くらいの子供にいじめられたことがある。結果的にコウくん(四、五歳だったと思う)がマジで切れて、その子達をフルボッコにして解決した。……根本的な解決ではなかったが、コウくんが怖かったからかいじられることはなくなったんだったかな。
「なんか…………泣きたくなってきた」
もう、誰か、こんな馬鹿で間抜けで出来損ないの私をお助けください………
顔を伏せて、ブルーな気分になっていると、頭上から小さなため息が聞こえた。先輩だって、こんな私には呆れているんだろうか。そりゃそうですよね、無理矢理付き合ってるんですもんね。私より、プリンですもんね。
「サファ」
「……………え?」
私は思わず顔を上げ、腰を上げた。先輩は頬杖をつきながら、私を見上げる。相変わらず、冷めた目をしているが、今、先輩は名前を考えて、言ってくれた……ように聞こえた。私の記憶と耳がおかしくなければ。
「俺は考えたからな。文句言うなよ」
そう言うと、私から目をそらし、加えていたスプーンでプリンをすくう。
サファ、と先輩は言った。確かにそう言っていた。
f:id:nyanco-sensei:20140620212727j:plain
「………サファ」
「嫌なら自分で考えろ。俺はこれ以上考えない」
「嫌じゃないです! けど、サファってどういうこと……?」
「お前の目」
私の……目?
私の目でサファって一体どういうことだろう? そもそも、サファってどこからとったんだろう。
「サファはサファイアから。………綺麗じゃん。お前の目の色」
そんな風に言われたことがなかったため、顔が一気に赤くなるのを感じる。家族以外で素直にほめられたのは初めてかもしれない。そもそも、容姿で綺麗、なんて初めてだ。いつも、気持ち悪いだの、気味悪いだのと言われてきたのに。
ふるふると体が震え、涙が溢れてきた。
「せ…先輩………」
「…………な…!?」
「ありがとうございます! 先輩が考えてくれた名前、凄く気に入りました」
「………そんくらいで泣くな。馬鹿」
「嬉し泣きですっ!」
「ふうん」
ごしごしと涙を拭き、先輩に向かって笑って見せる。それにつられてか、先輩も薄く笑ってくれた。
これから、サファ、でやっていくのか。うん、いいかもしれない。先輩が考えてくれた名前だもん、大切にしなくちゃね♪



~あとがき~
やっと名前がシュラン、からサファになりました~
おめでとう、サファ!

次回、ケーキ買いに行ってきます。そこで色々お話してもらおう。

サファ、何かと苦労してきたようです。いじめとか。ま、紅火が何とかしてきたようですが。
ていうか、四、五歳で年上をフルボッコだからね。紅火、侮っちゃ駄目ですよ。
アホだけど、侮っちゃ駄目ですよ。

ラグ、一人でケーキ屋に並べるみたいですね。何か対策でもしているのやら。バイキングは一人で行ったことないけれど、それは多分、忙しいからだと思います。
行こうと思えば、この子は行くと思う。
ちなみに、甘いものなら基本、常備しているようですわ。特に飴ね。ただ、甘いものを一切とらないときもあるようなので、その時は持ってないらしい。
あと仕事中に食べることはあんまりない。楽なやつは余裕こいて、飴舐めてますがね((

ではでは!

last soul 第8話

《この物語には死ネタ、暴力表現等の描写があります。閲覧の際はご注意ください》





~師匠と弟子、兄と弟~


森の中を少し入ったところにある、大きな木の上で暇そうにふわりと欠伸をした。そして手元の電子機器をいじり始める。
そのすぐ下では、作戦会議なのか二人の人物が何やら話をしていた。木の上にいる人物も一応参加はしているだろうが、大して意見する気もないようだ。
「……だから……っおい! 聞いているのか、ロスト!」
「ん~? 聞いてる聞いてる~」
ロスト、と呼ばれたグラエナは適当に返事を返し、手元の電子機器を見つめていた。
彼の首には灰色のスカーフが巻かれ、同じ色のブーツと手袋をしていた。そして左手首には、リングをつけており、左耳にピアスをしている。
ロストの答えを聞いて呆れた表情を見せるザングース…ゼーレは頭を抱えた。彼は紺色のスカーフとブーツ、手袋を身に付け、ロストと同様に手首にリングをしている。
ロストに話しかけているゼーレは、このあともいい返事が返ってこないと思いつつも、とりあえず話しかけた。
「ぜってぇ聞いてなかったろ。ゲームしてんじゃん」
「だって限定クエストが始まったんだよ? やらなきゃ損だべ」
「知るかっ! ったく、ウェザー家頭首が聞いて呆れるな。そんなんなら、いっそ弟に任せちまえ」
「えー? 無理だよ。俺が生きてる以上、回ってこないね。それにお堅いおじ様たちは任せたくないだろうしな。それに俺も重荷は背負わせたくないし~」
「ブラコンか、お前は」
「ゼーレはわかってないな。可愛いじゃん、あいつ」
「いや、格好いいの部類だろ。ラグは」
「えぇ?……そうかなぁ?」
「無駄話している暇あるなら、作戦立てろ。ゼーレ、ロスト」
二人が話しているところに話って入ってきたのは、ジュプトルのグラスだ。赤いスカーフをつけ、濃い緑色のブーツと手袋を身に付けていた。彼もまた、二人と同じリングをしていた。
ゼーレは納得のいかないような表情を向ける。ロストは大して気にしていないようで、楽しそうにゲームをしていた。
「なんで俺もなんすか! ロストだけだったでしょ、サボってたの!」
「やいやーい♪ ゼーレも同罪だー♪」
「もう、ロスト黙れ! グラスさん、すいません。で、どうするんですか?」
ゼーレがグラスの方を向くと、木の上からピョン、と飛び降りてきたロストが近づいてきた。そして、ゼーレの横を通りすぎ、広げてあった地図を覗きこんだ。
「ふーん。こんな作戦でいくんだ。上の人たちもお馬鹿だね~……これじゃあ、また失敗だな。半分の部隊が死ぬよ、この陣形」
ロストはそれだけ言い残すと、そのまま森の少し奥へと歩き出す。ゼーレは慌ててロストを制止するが、止まるはずもなく、森の中へと消えていった。
「なんなんすか。………あんなんでいいんですか?」
「いいんじゃないか? 自由にしとけ。縛って実力発揮できる様な奴でもない。それに、あれでも実力者だからな。その証拠にこの陣形の穴を指摘したしな」
トントン、と地図を指差しながら、上の部隊から指示された場所をいくつか示した。ゼーレはそれを見て、首をかしげる
「何かおかしいんすか?」
「あぁ……このまま行くと、ここに死角が出来て狙われるんだ。確かにこちらの攻撃力は上がるだろうが、結果的に俺たちを含む部隊の半分が死ぬだろうよ」
「…………ロストはこれを一度見ただけで判断できたんすか。それなのにゲームしてましたよ……腹立つ。しかもあいつ、今、ラグに電話してますよ。絶対」
「いいんじゃないか? 別に」
「………グラスさんも意外と呑気ですよね。いや、いいんすけどね」
「…………?」
ゼーレはバレないようにため息をつくと、地図を再度確認した。言われてみれば、そうだと気づくことが出来るが、瞬時に判断することは難しい。それをやってのけた男はやる気なしのロストだ。
しかし、このままの陣形だと死人が多数出て、今回も失敗に終わるだろう。いつになったら終わるのだ、と不満に感じる一方、半分は死ぬという可能性がぐるぐると渦巻く。
「…………俺ら、死ぬかもしれない」
「そうかもしれんな」
無表情、無感情で返され、ゼーレの気力はここで途切れた。なるようになれ、と、諦めにも似た感情が浮かび上がる。
そのあとは、特に会話もなく、ロストの帰りをぼんやりと待った。明日、欠陥だらけの作戦を遂行しなければならないと思うと、気が重くなる。
「もお~……帰りてぇぇ…」

ベッドの上で今日のことを思い出していた。右手を天井に伸ばし、自分の手を眺める。
「………どこで間違えたんだろ。俺」
ラグは首にかけていたゴーグルを握ると、右手をベッドの上に下ろした。今、彼の目に映るのは、何の変哲もない天井だけだ。
「はあ……もう寝よっかな。明日、早いし。仕事だし……内容何だっけ、忘れた。んもういいや、疲れた。おやす…」
今から就寝しようと思った矢先、机の上に置いてあった携帯がリズムよくバイブし始めた。メールか何かかと思い、無視していたが、一向に収まる気配もなく、それが電話だと知る。このまま無視してもよかったのだが、渋々携帯を取り、画面を見た。
「…………………あ、師匠だ」
ぽつりと呟くと、通話ボタンを押し、耳に当てる。電話越しからお気楽な声が飛んできた。
『やほやっほー♪ んもう、出るの遅いぞ、弟よ』
「師匠、今、何時だと思ってるんですか。深夜ですよ。よい子は寝る時間なんですけど」
f:id:nyanco-sensei:20140620213102j:plain
『とか言って、嬉しいんだろ~♪ 可愛いな、ラグ』
このままペースを持っていかれるのも癪だと思い、棒読みながら、とりあえず、喜ぶであろう台詞を言ってみる。
「………お兄ちゃん、僕のお話聞いてほしいなー」
『うはあぁぁぁぁ!! ラグ、可愛い! やっば! 抱き締めたい!』
「落ち着け。そして話を聞け、兄貴」
『おう。そうだった♪ つか、俺も最近の話を聞きたくて連絡したんだったわ』
「最近の話? 何かあったっけ」
『うん。あの子、ギルドに来たんでしょ? どうよ、可愛い?』
あの子、というのがシュランを指しているのは容易に想像できる。ラグは、シュランの顔を浮かべ、ぶっきらぼうに答えた。
「…………知らない。女に興味ない」
『そんなこと言ってー♪ 年頃の女の子は可愛いもんだよ。いや、同じくらいの年齢だった時の紅珠は別に可愛くなかったけど。勇ましかったけど』
「その言葉、しっかりと紅珠さんに言っとくよ。帰ってきたときが楽しみだね」
『ごめん、言わないで。殺される』
「どーしよ」
『お願いだよ、紅珠だけはやめて。ついでにメイズにも言わないで? 半殺しされるかもだから。お願いします』
「メイズさんに半殺しか。その姿は滑稽だね、兄貴」
『ラグさん、ごめんなさい……ていうか、俺、兄貴だぞ。師匠だぞ』
「……じゃあ、今、師匠と兄貴どっちがいい?」
ラグの提案に悩んでいるようで、唸り声が聞こえてくる。ロストにとっては究極の二択のようだ。
『ラグの好きな方……は?』
「じゃあ、師匠で」
『即答だな。いいんだけどね? あれ、ラグ、もしかして兄貴呼び恥ずかしい?』
「…………で、他に用はないんですか。ずっと連絡してこなかったでしょう? 一ヶ月二ヶ月くらい連絡なしでした」
『悪い悪い、ずっと忙しくてな。寂しかったのか』
「そうじゃないです。でも……何て言うか…」
『あぁ……心配してくれたのか。優しいやつめ♪ 心配しなくても、今んところ大丈夫だ。まあ、まだ帰れそうにないけどね』
「………そうですか」
『ごめんな。ま、心配すんなって♪ ちゃーんと帰ってくっからよ♪』
ロストのその言葉に反応することなく、ラグはベッドの上で枕を抱え、顔を埋める。
『ん? ラグ? おーい?』
「師匠、俺、役目果たせますか? あいつのこと、護るって言ったんです。でも、俺なんかが出来ますか。本来ならこういうの俺じゃなくて…」
『あははっ♪ あのラグが弱音をねぇ……おっかしぃ……』
「師匠、俺は真面目に自信喪失中なんですけど」
『真面目に自信喪失って何さ? くふふ……』
「…………もういいです。師匠に言ってもどうにもなりませんよね。ごめんなさい。つか、明日仕事あるんで、そろそろ切ります」
『あぁぁぁぁ!! ごめん! 機嫌悪くするなよ? ラグー!? ラグさーん!』
「久しぶりに師匠の声が聞けて、嬉しかったです。任務、頑張ってくださいね。お休みなさい」
『ちょ、ちょっと待って! ラグ、一言だけ! 一言言うから、切らないで!』
電話を切ろうとしていたラグの手が止まり、再度、ロストの言葉に耳を傾ける。
『お前は一人じゃない。いつでも相談しろよ? 頼れる人達がいるんだからさ』
「…………はい」
『なるべく早く帰る。それまでよろしくな、ラグ』
「わかってます。それでは」
『おう。お休み。お前も仕事、頑張れよ』
今度こそ電話を切り、元々あった場所に置いた。そして、ベッドに横になると、自然とまぶたが落ちた。
「明日も頑張ろ……うん…」



~あとがき~
ラグの師匠ことロストさん登場できて満足満足。
実は最初はアブソルにしよっかなーって思ってたんですが、微妙だー……と思いまして、グラエナになりました。

次回、シュランのお名前考えます。

シュランのお仕事用のお名前が決まったら、皆のプロフを出したいと思います。キャラデザとかそこで紹介できればと思ってる。

ロストはラグの師匠であり、義理の兄でもあります。
現在、長期任務中なのでギルドにいません。なので、シュランはもちろん、知らない人も多いです。
ロストがなぜラグの兄貴なのかとか、そういう事情はどこかで話せたらと思っています。

ロストはラグを溺愛してます。ラグのこと、大好き過ぎる人です。ラグもそんなロストが嫌じゃないようですが、大人たちがたちやってんだかって感じですよね(笑)
溺愛ってより、甘いのかな? 多分……
ま、二人色々ありましたからね。
ロストはラグが唯一弱音を吐ける人物であり、また甘えられる人物でもあります。
ある意味、そういうラグさんが見られるのは珍しいことなのですがね。

あ、ラグがなぜ弱音を吐いたのか……というか、自信喪失したのかも話の中でわかってくるかと思います。
ようは、シュランに対する不安って感じなんですが、多分、その理由は話の中でわかると思います。

ではでは!

last soul 第7話

《この物語には死ネタ、暴力表現等の描写があります。閲覧の際はご注意ください》





~やっぱりお家は落ち着くものです~


先輩と別れ、家路につく私。コウくんは先に帰ったのか、ギルドにいなかった。
ってことで、一人で帰ってきました。家の扉を開け、中に入る。
「ふあぁ……ただいまぁ」
「姉ちゃん、お帰りー!」
「ただいま、コウくん♪ 先に帰ってたんだね」
「うん。ノイズさんに摘まみ出された後、特にやることもなかったから、帰ってきちゃってた~♪」
ということは、かなり早く帰ってきてたんだ。
「父さんも帰ってきてるよ。姉ちゃんが三番目っ!」
おじさんもはやっ! 今日に限って皆、早いな……あ、おばさんはまだか。
「母さんはギルドの仕事があるからね。ほら、早くご飯食べよー!」
コウくんは無邪気に笑って私の腕を引っ張った。
先輩の話を聞いた後だと、コウくんのギャップに戸惑う。これでも次期頭首、次期マスターなんだよな……コウくんは。
大丈夫なのか……この先。
「? 姉ちゃん、どうかした?」
「ううん。何でもないの!」
いや、コウくんが強いのは誰よりも知っているつもりだ。……いつも私を守ってくれていたのは、コウくんなんだから。
私はコウくんに引っ張られるまま、リビングへと向かった。
リビングに入ると、キッチンで夕飯を運んでいたおじさんと目があった。おじさんはにこっと笑い、出迎えてくれた。
「お帰り、シュシュ」
「ただいま、おじさんっ! あ、手伝うよ。そういえば、今日は早いね。お仕事ないの?」
「お、ありがとう。……なんか、恐ろしい発言するなぁ。早帰りなだけだよ」
「父さん、ついにリストラか!」
「違うって言ってるるだろ? そんなへまはしませーん」
おじさんこと、メイズさんはサンダースで紅珠さんの夫。で、コウくんのお父さん。私にとっては父親代わりだ。普段はコンピュータ関係のお仕事をしている……はず。
いや~……お父さんのお仕事とかよく知らないもんだよね! てへっ!
「シュシュ、おばさんのギルドはどうだった?」
「えっとね……まあ、色々あってちょっと大変そうなところで仕事することになっちゃった」
「あぁ……ブラックに飛んじゃったのか。でもあそこには、紅火もいるし、ラグ君もいるから何とかなるんじゃない?」
「いえーい♪ 何とかなるなる~♪」
「紅火、邪魔。つか、お前も運べ」
「へーい」
あれ、おじさん、知ってたの? コウくんのことはともかく、先輩のことまで。
私が首をかしげながら、質問するとおじさんは料理を運びながら、答えてくれた。
「当たり前だろ~? 俺は紅珠の夫だぞ。事情は知ってるよ。ラグ君とも他の人とも面識あるし。それに、家のことを承知で結婚したんだし」
「………今の今まで知らなかったの私だけ!?」
「まあ、そうだな。……大したことなくない?」
「大したことだよ!? だってコウくんが次のマスターとか頭首とか……あわないじゃん!」
今日知ったことで、一番驚いたことをおじさんにぶつけた。すると、それを聞いていたコウくんがムッとした表情になる。
「そこなの~? 姉ちゃん」
「うん。シュシュの気持ち、わからんでもない」
「父さんまでひどーい。偏見だー!」
「現役学生、勉強はどうした。宿題やったか」
「…………ご、ご飯のあと」
「紅火……ただでさえ、登校日数がまばらなんだから、せめて勉強くらいは真面目にやらないと、留年…」
「ほら! 二人ともご飯食べよ!! お腹すいた!」
「話題変えるの下手だな、我が息子よ」
「ですね。我が弟ながら恥ずかしいですよ」
「むぅ~……先に全部食べちゃうよ?」
これ以上何か言うと、機嫌悪くなって大変なことになるだろう。ここら辺が止め時だな。
「駄目だよ! 私の分がなくなるっ!!」
コウくんの隣に座り、それに続くようにおじさんも向かいに座った。
いつもなら、おばさんが作ってくれるが、帰りが遅いときはおじさんが作ってくれる。こう言ってはなんだが、どちらかというと、おじさんの方が料理は上手。
多分、経験値が違うんだろうな……
そんなことを考えながら、私は手を合わせた。そして、三人で声をあわせる。
「いっただきまーすっ!」
各々、好きなものに手を伸ばし、口に運ぶ。
「ん~……おじさん、これ美味しいよ♪」
「よかった」
「んぐ……姉ちゃん、このあと、勉強手伝って……」
さっきの言葉が刺さっているのか、珍しく勉強をするらしい。私は嬉しくなり、笑みが溢れる。
「もちろんっ♪ 難しいのはあれだけど、簡単のなら!」
「シュシュも学び直し?」
「そんなことしないもーん……」
おじさんの意地悪な笑顔をスルーしつつ、食事の続きに移るとしよう。
………正直、私も勉強はあまり好きではない。
おじさんは頭がよく、昔、色々教えてくれた。ついでに言うと、教え方も上手かった。そう考えると、私よりおじさんの方が向いている気もするが……
「コウくん、このあと頑張ろうね?」
「うんっ!」
コウくんの元気な返事を聞き、このあとの勉強会を頑張ろうと感じた。そのためには、きちんとご飯食べないとね♪

メイズが片付けを終わらせ、椅子に座って休憩をしていると、玄関の開く音がした。誰かを確かめることなく、入ってきた人物に話しかける。
「あぁ、おかえり。紅珠」
「ただいま、メイズ。遅くなっちゃった……もう二人とも寝てるよね?」
「もう日付変わってるから。今日もお疲れ様」
「いつもありがとうございます」
メイズの向かいの席に座り、ふぅ、と息を吐いた。メイズは先程までの二人の様子を楽しそうに話始めた。
「ご飯食べたあと、シュシュが紅火の勉強見てたよ。仲良しでありがたいことだね」
「あら、珍しい。紅火が勉強をね」
「俺が口出したからかも」
「あなたのおかげだったのね。うふっ♪ それなら、これからもよろしくね?」
「えぇ~……毎回言うのは疲れんな。反抗期きたら、言うこと聞かなくない?」
「あの紅火に反抗期? 本当にあると思う?」
「…………ないか。あ、なんか飲む?」
「ありがとう。貰おうかしら」
メイズが席を立ち、キッチンへと向かった。その様子を眺め、ふと、二人が寝ているであろう部屋へと目をやった。
「あれでよかったと思う? 選択、間違ってない?」
「シュシュを組織に入れたこと? んー……ラグ君がずっと反対してたのは知ってるよ」
「私があなたに愚痴ったもの」
カチャと小さく音をたて、紅珠の前にカップが置かれた。ハーブの落ち着いた香りが漂い、そのカップを手に取った。メイズが席につき、ハーブティーを飲みながら、にこっと笑う。
「でもまあ、どちらも正解だと思うけど。ラグ君の巻き込みたくないって意見と、紅珠の知らなきゃいけないって意見も、どちらもありだし」
「中立の立場を取るのね」
「まあね。どちらかといえば、ラグ君の味方かな? シュシュに危険なことはさせたくないからな。けど……シュシュはいつか、自分のルーツを知らなきゃならない。それは二人とも同意見だろう?」
紅珠は少し不満気な表情になりつつも、メイズの意見を肯定した。
「大丈夫。紅珠が心配するようなことには、きっとならない。シュシュなら乗り越えるって」
「そこは私だって心配してないわよ。けど……」
「不安になってるじゃん。かわいいね」
「メイズ、からかわないで。私は真剣なのよ?」
「んじゃあ、一人で悩まないことだね。ノイズもロスもラグ君だっているだろ。あ、引退したけど、俺もね?」
「ノイズは裏方業に勤しんでるし、ロスは長期任務中でいないのよ。あてはラグだけど、対立してて平行線だし、あなたは完全に足洗ってるし……戻る気はないんでしょ」
「主夫業を片手に普通の仕事するのも悪くないから。それに俺が戻ってもブランクキッツいな~♪」
「お気楽なんだから……全く」
「俺のいいところでしょ?」
「…………そうね」
にこっと掴み所のない笑顔を見せられ、苦笑ぎみに返事をした。メイズは大丈夫だ、と、もう一度紅珠を安心させるかのように呟く。
そして二人はしばらくの間、他愛ない話を続けるのだった。



~あとがき~
あ、ラグの師匠出せんかった……
予告を飛ばすのは私の十八番ですからね!((殴

次回、ラグに視点を置き、師匠との会話をしてもらいます。

紅珠、メイズ、ノイズは幼馴染みです。
あと、名前しか出てませんが、ロスもその仲間に入ります。その四人は二十年以上の付き合いになるかと思います。
実はそこにラグも入ってきますが……彼はその四人とは半分の十年以上の付き合いってなります。
ラグの幼い頃を知っている四人ですな。
………もう一人いますが、また後で出てきますよ♪
メイズとノイズ、名前が似てますが、兄弟とかそういうことではない。が、親戚同士ではある。

メイズは現在、普通の社会人として社会に貢献していますが、昔は紅珠たちと仕事をしていた仲のようです。
引退した理由は別に、シリアスなものでもなんでもありません。
ただ単に紅珠の代わりに子育てを請け負っただけなのです(笑)
今では紅火も大きくなり、落ち着いてきたので、戻れるちゃあ戻れますが、ブランクキッツいとか言って、戻る気ゼロです。なんやかんやで、今の仕事が好きなんだと思います。

ではでは!

last soul 第6話

《この物語には死ネタ、暴力表現等の描写があります。閲覧の際はご注意ください》





~今日はとりあえずここまでっ!~


そもそも、政府ってこの国をまとめる人達の組織でしょう? それとこれとどう関係が? というか、そんなことを言うと、やりたい放題なのでは?
「馬鹿か。政府公認だからって、なんでもしていい訳じゃねぇよ」
「そりゃそうですよね」
「当たり前だ。やれることには限界がある」
そうですよね。
しかし、証拠を残してもいい、というのはここにあるのだろう。裏に大きな権力があるからこそ、成せる技ということか……?
まあ、残さない方がもちろんいいのだろうが。私がもし、一人で仕事をした日には、どれだけの証拠が残るのだろうか。恐ろしくて考えたくもない。
「あとは名家の話をしときゃいいのか」
「めーか……?」
「マスターも紅火もそこの出身だ。名家っつーのは、この世界の有名人みたいな感じだな。マスターと紅火は紅の一族の末裔だ」
マスター達ってそんな凄い人だったんですか!?
「お…おお……つか、知らなかったのかよ」
全く知りませんでした。今、先輩から初めて聞きましたよ……私って世間知らずですかね?
「さあな。……名家は本家と分家の二つに分かれる。基本的に一族と呼ばれるのは、本家の人達だけだ。分家は分家で独自の技術とネットワークがあるけどな」
本家と分家? 一族ってなんですか? というか、コウくんとマスターって本名じゃないですか。いいんですか?
私が色々質問をぶつけていると、先輩がジト目で睨んできた。一度に質問をぶつけたから、面倒になってきたのだろう。しかし、教えてくれると言ったのだから、しっかりと果たしてもらわねば。
「順を追って話す。まず、一族のことだが、その道のエキスパートって言えばいいか? 裏の世界を支えるための大きな存在。一族の奴らは一つの能力を持ち、表と裏の均衡を守り続けている」
f:id:nyanco-sensei:20140529222407j:plain
能力……?
「その能力を受け継いだやつが次期頭首となる。現在、紅の一族の頭首は紅珠さん。紅火は能力を継いでるから、次期頭首だな」
………コウくんがリーダーってことですか? それ、大丈夫なのかな。
「知らん。が、あいつはアホの申し子みたいな奴だが、実力はある。アホだけど」
コウくんが実力者……か。
いつも家での雰囲気を見るに、そうとは思えないのだが、先輩が言うのならば、そうなのだろう。
「他の一族は、大して関わることはないだろうがな。一族は各々の分野で根を張っている。紅珠さんがギルドを営んでいるのも、一族の頭首だから」
つまり、マスター…おばさんたちの一族は、ギルドを代々営んでいるってことですか? そして、おばさんの持つ能力を受け継いだコウくんがその後を継ぐ……と。
「そうだ。ギルド以外にも金融業界、政府関係、警察関係、芸能関係とかもある。……ま、分野は違えど、一族は殺しの腕は相当ある」
表は表で違う方法で守って、裏ではおんなじことする……ってことですね。
「ま、そういうこと。で、本名なのは、一族である証明になるからだ。ぶっちゃけ、あれも本名である保証はないんだけど……とりあえず、一族の話は終わり」
な…長かったけれど、要は凄い人たち……ってことですね!
私がそう言うと、先輩は納得がいかないような表情を見せたが、そうだな、と小さく返事をしてくれた。
そして軽く咳払いすると、話を続けた。
「次に分家と本家だな。本家は一族たちのこと。分家はそこに派生して出来た血筋の人達のことだ。ノイズさんが分家の出身だな」
そうなんですか? ノイズさんって……あのピカチュウさんですよね?
「そう。あの人はメカニックなんだ。一応、暗殺者ではあるが、今はそっち方面では動いてないな」
「え、なんで……?」
「……以前、仕事で大怪我したんだ。んで、仕事に影響が出るほどだから、仕方なく裏方に回ってる」
「う……嫌なこと聞いてごめんなさい……」
「俺は構わん。本人に聞く方が気まずいだろ?」
それは、そうかもですけど……
先輩は気にすることなく、淡々と話していく。先輩の言う通り、ノイズさん本人に聞くのも悪いかなって思うけれど、先輩に聞いてしまっていいのだろうか。
「まあ、そんなことがあって、ノイズさんの右目と左耳は駄目になってしまってる。あの人のしている眼帯と包帯はそういうことだ」
つまり、片方ずつ見えていないし、聴こえていない?
私がそう言うと、先輩は無言でうなずいた。
何度も思うけれど、何があっても不思議じゃないんだな……この世界は。
「皆、ここにいる理由とか言えないような事情がある。……俺も人のことは言えないけど」
「………先輩?」
一瞬、先輩の表情に影が落ちた気がしたが、気づいたら先程と変わらない無表情に戻っていた。
私の気のせい……?
「ま、俺の話はどうでもいいけど。あとは……そうだな…証明証の話とかしたいんだが……」
「? 何かあるんですか?」
「明日から数日間、仕事だから早めに寝たいだけだ」
……個人的すぎる。
でもまあ、そういうことなら、今日はここまででも構いませんよ。別に今すぐじゃなくたって、いいですし。
「……そうか。ま、気になるなら俺以外の人から聞いてくれ。俺がいない間、ここに入るときは紅火に入れてもらえ」
先輩は立ち上がると、そのままこの部屋を出ていくのか後ろを向いた。私は慌てて先輩を呼び止めた。
「あの……先輩!」
「…………なに」
「これから、よろしくお願いします! 私その…初めてのことばっかりで迷惑だと思うんですけど……あの………えっと…」
「…………あぁ、よろしく」
ふっと笑った先輩の顔はとても柔らかく、その笑顔をどこかで見たような気がする。もちろん、先輩とは初対面だから、会ったのはこれが初めてのはずだ。私は誰かと重ねているのかもしれない。
「じゃ、また」
「はいっ! お疲れ様でした!!」



~あとがき~
説明ばっかだと疲れるので、一旦切ります。
あと話の流れがわからなくなるので……ごめんなさいです。

次回、ラグの師匠とか、紅火とシュランのお父さんとか出したい。シュランの場合、お父さん代わりの人ってことになりますがね。

一族とか深く考えてませんが、殺しつーか、暗殺のエキスパートってことだと思います。
始末屋という、最高ランクに位置するラグですが、彼は一族でも何でもないですよ。
彼は彼でちょっと特殊ではありますが、一族とは全く無関係なのだ。
シュランはそうね~……関係なくはないですよ。
だって、紅火のお姉ちゃんやってるしな(笑)
知らなかっただけで、関係はあったってことですね。はい。

ノイズさんのことを少し出しました。
昔は普通だったんです。
なんで大怪我負うことになったのか、やめなきゃいけなかったのか、とかは大して深く考えてないけどねっ☆

いつか、ラグがこの世界にいる理由とか言えたらと思っています。過去編ってやつやな。
今ここで簡単に言えるのは、紅火くらいでしょうか。
あいつは紅の一族の次期頭首なので、強制的にです。
大して気にしてないですよ、紅火くんは。

ではでは!